「一つのベッドに二つの枕」
「今までのジャックは死んだんです、これから新しいジャック・アトラスを生きればいいじゃないですか」
夕暮れのタワー…隣に立つ女はそんなことを言って俺に微笑む。
そんなことをいう奴はカーリーがはじめてだった。
たぶん、その時初めてカーリーを一人の女として意識しはじめていたのかもしれない。
遊園地から戻ってくるともう暗くなっていた。
夕食を食べて、風呂に入れば…後は寝るだけだった。
カーリーも特に急ぎの仕事も無いし寝ようかななんて言うのを聞いたとき…
ふと、カーリーが何処で寝ていたのか気になった。
…自分が彼女のベッドを占領しているのだから、ソファーだろう。
視線をソファーのほうに向けると毛布が引っかかっている。
「…カーリー、今日はベッドのほうで寝ろ」
「へ?なんで?」
…なんでじゃないだろう。
家主はお前で、俺は勝手にお前の家に転がり込んできただけなのに
…初対面でいきなり一緒にデュエルをした上に、病院を破壊して、逃亡まで手助けさせたのだ。
…お人好しが、俺の事など嫌いだっただろうに。
「…いいから寝ろ、俺はあっちで寝る」
「だ、だめだって!!ジャックまだケガ治ってないでしょ…って!わわわっ」
ぼふんとベッドに放り投げる。
多少怪我をしていた腕が痛みを訴えたが気にしないことにした。
…が、少しだけ顔をしかめていたのをカーリーはしっかり見ていた。
ジャックが逃げないように腰にしがみついてきた。
「ジャック、そんな状態でソファーで寝たら余計に痛めるわよ、ベッドで寝なきゃダメなんだから!!」
「…お前こそ椅子に座ったまま寝たり、ソファーで寝たり…あんな寝方でいいわけないだろうが!!」
「じゃあわかりました!!これなら文句無いわよね!?」
何を言うかと思えば
「一緒に寝ちゃいましょう!! コレなら文句無いでしょう!?」
…馬鹿だろう、本当。
一人用のベッドに二人が寝れば必然と密着することになる。
…向かい合うのは恥ずかしいから背中をくっつけて眠ることにする。
だけど、眠れるわけが無い。
…それはあちらも一緒のようだ。
寝たフリをしているみたいだけど、気配でわかる。緊張でガチガチだ。
そんな時間が恐らく1時間ほど…もしかすると、緊張の所為でそれぐらいだと勘違いしたのかもしれないが…
これ以上はお互いに良くない、そう思って起き上がる。
「…ジャ、ジャック!!」
慌ててカーリーも起き上がる、酷く困った顔をしていた。
…ほんのり頬を赤く染めてそれ以上は何もいわず俺を見つめる。
「カーリー」
名前を呼ぶと飛び上がるようにびくんっと反応する。
おびえたように見えるその反応に思わず視線を逸らしながらなんとかいうべきことを言う。
「…俺も男だ…その、なんだ…一緒に寝るのは…まずいだろうが!!」
だから、と立ち上がろうとする。
それなのに。
「…ジャックなら、いいよ」
タンクトップの裾をカーリーがぎゅっと握る。
思わず振り返ると、真っ赤になって、目も潤んで、泣き出す寸前の笑顔で、
ムリをしているのは目に見えている。
だけど…
「…きゃっ」
気がつけば、勢いでベッドにカーリーを押し倒していた。
馬鹿が、馬鹿だ、馬鹿だろう!!
そのカーリーの言葉が酷く嬉しく思って、それから勢いに流された自分に心の中で罵倒する。
「…お前は…俺の事が嫌いだったのだろうに、止めるならこれが最後だぞ」
嫌がられる女を抱くのは趣味じゃない、とかなんとか格好をつける。
「そうね、昔のキングだったジャック・アトラスは好きじゃなかったわ」
…改めていわれると、酷く傷つく言葉だが、ぐっと耐える。
「…でも、今までのジャックは死んだのでしょう?」
まだ数日しか過ごしていないけれど、
貴方がどういう人なのか知って…もっと早く知っていればよかったのにと思ったんだから。
ふわりとカーリーの両手が伸びて絡みついて、抱きしめられる。
俺はお前を利用していたのだぞ。
「…んーそれは、お互い様じゃない。私も貴方の記事を書くために近づいたもの」
俺はお前が思っているほど善人でもないぞ
「うん、わかっているよ、でも人間ってそういうものじゃない?」
…俺は、お前の事は嫌いじゃない…好きでなければこんなことしない。
だけど…
「…ジャック、だいすき」
そういって唇を重ねて、俺がそれ以上を言うのを強引に止めてしまった。
そうなってしまえば後はもう止められない。勢いのまま突き進むしか出来ない。
*
…目が覚めると自分の腕の中に裸のカーリーがいる。
昨日の出来事を思い出すが、思い出すのは酷く甘いカーリーの声ばかり。
自分は勢いに任せてばかりで
後悔をしているわけではないが、いいのだろうか。
「…んん〜〜…」
身じろぎをするカーリーに思わず焦って反応してしまう。
…情けないだろうこれは。
だけど、まあ、悪くない気持ちだった。
そう思いながら苦笑を浮かべ、眠るカーリーの頬を撫でる。
むにゃージャック…と嬉しそうな声がカーリーから漏れる。
すっかりお前のペースに乗せられている気がする。
…まったく、お前はとんでもない女だ。
こんな気持ちを抱く日が来るなんて、思いもしなかった。
いつか、素直にお前の事を好きだといえる日がくるだろうか
…まあ、しばらくは恥ずかしいから言わないが。
もう少しして、カーリーが目が覚めればきっと昨日の事を思い出して恥ずかしさのあまり悲鳴をあげるだろう、
その姿を思い浮かべて、笑みを浮かべながら
…それぐらいでこの俺を手玉に取ったことを許してやるかと思う。
そう思いながらカーリーをもう一度抱き寄せて、二度目の眠りに落ちた。
おわる
09/06/21up
暗転→朝というコンボは日本の伝統芸能ですよね!!
とか、とりあえずジャックは若いのでこういうこともありえそうだよね!!
とか大変失礼なことを考えながら書いたSSです。
ジャッカリほのぼのでラブラブなのが見たかったはずなのですがねえ(笑)
目次へ