「Repeat oneself」
目が覚めたら見知らぬ天井がまず目に入った。
…病院かなと思ったけれど、病院というよりは古ぼけた家というカンジ。
どうやらどこかの家のベッドの中で寝ていたみたい。
その前に、どうしてここにいるんだろう?
確か、ディヴァインとデュエルすることになって…ビルから落ちたはずなのに。
夜のビルからまっさかさまに落ちる感覚が蘇る。
思わず怖くなってベッドの中から手を出してにぎにぎしてみる。
「…いたくない…」
どこも怪我はしていないみたい、ただ凄くだるい。ぼんやりする。
…あんな場所から落ちて無事ですんでいるわけがない。
天国なのかな?なんだか地味な天国だけど。
ぼんやりとそんなことを考えていると、ドアが開いた。
「…カーリー!!目が覚めたのか!!」
「あ、ジャ…」
「カーリー!!」
ジャックが酷く慌てた様子で、ぎゅうっと抱きしめてくる。
私の名前を何度も何度も確認するように呼んで、良かったと呟いた。
…やっぱりこれって夢なのかな。
だって、ジャックが私の事をこんな風に心配して、名前を呼んで、
だ、だ、だきしめてくれるなんてあるわけないのだから…!!
だから、きっと夢なのよ、死ぬ前に見てる都合のいい夢なのよ
激しい動悸を深呼吸して落ち着こうとしているけど、見事に混乱してわけがわからない。
それにしてもジャック凄く力が入りすぎ、ちょっと痛い。
痛いって言おうかなと思ったときに
…その手が震えていることに気がついた。
「…ジャック」
名前を呼ぶとびくっとジャックの体が大きく震えた。
そっと手を伸ばして頭を撫でてあげると少しだけ安心したように力が抜けたあと、
ジャックの腕がそろそろと離れた。
…ちょっとだけ残念だったけど、このままじゃ会話もできないし仕方ない。
「カーリーなんともないか?体の調子は…」
「うん、ちょっとだるいけど…」
あと、視界がぼんやりする。
サイドボードあたりに眼鏡が無いかなとぺたぺたと探していると
ジャックがコートの中から私の眼鏡を出してくれて、かけてくれた。
ようやく見えた久しぶりのジャックは
…まるで派手にバイクから落ちたかのように服はボロボロで、顔に擦り傷があって
…目が、少しだけ赤く腫れていた。
わかるのは、物凄く心配をかけたってことだ。
「…ごめんなさい…、私…」
「あやまるな!!…俺のほうこそ…何もしていない…
お前が助けてくれたからここにこうやって立っている」
私、何かしたっけ?と思いながら、そこではっと思い出す。
「そうだ!!ダークシグナーとの戦いはどうなったの!?
…それに私ビルから落ちたはずなのに…ここはドコなの?」
「カーリー…覚えて、いないのか?」
恐る恐る聞いてきたというカンジのジャックの声に嫌な予感がする。
聞くのが怖い。怖いけれど聞かないといけない事だろう。
覚悟を決めてジャックに聞くことにした。
「ジャック、教えて…私には聞く権利あるはずでしょ?」
「……」
後悔するかもしれないぞ、と言いつつも
…ジャックと私があのヘリポートで別れた後の話をぼつぼつと話し始めた。
話を聞き終わって。
「…そっか、やっぱりあの時、私…」
死んだ、という言葉はいえなかった。ぶるりと身体を震わせる。
ビルからおちた後、私はダークシグナーになってジャックと戦ったらしい。
そして、実はダークシグナーだったゴドウィン長官との最後の戦いに不動遊星が勝って、
冥界の王は赤き龍によって封印されて
そのおかげなのか、よくわからないけれど…
消えてしまった、死んだと思っていた人々は戻ってきて…
私や、他のダークシグナーになっていた人までも戻ってきたそうだ。
「あの戦いの後…お前がもう一度現れるとすれば俺と戦ったあの場所だろうと思ったから
サテライトに残した子供達が心配だというクロウと共にこちらに来た。
…そして倒れていたお前を見つけてマーサの家に連れてきた。
他の連中はもう目を覚ましているが、なかなかお前だけは目が覚めなくて…」
「うん、だいたいわかったのだけど…」
「なんだ?」
怪訝そうな顔をする。
「…ねえ、一部凄く内容省いたわよね」
「…何の事だ?」
じとーっとした目線を向けると、ぷいっとジャックがあさっての方向を向く。
…怪しい。凄く怪しい。
「…この戦いが終わったら全部教えてくれるって約束したのに」
「ぜ、全部言っただろうが!!」
「怪しい、凄く怪しい、私の勘がこれが全てではないと言っているのだから!!
ずずいと体を乗り出してジャックに詰め寄る。
「さあジャック全部教えてよ!!教えないと後が怖いんだから!!」
がしっと抱きつきながらジャックの顔を見上げると…
「………」
「………」
ジャックの顔が茹で上がったように真っ赤になっている。
…どうしてだろう?
私が誰かを、ジャックを傷つけたりしたとか聞いたらショックを受けると思って黙っているって思ったのに。
…実際、多分そうだろうから…、でも…知らないフリなんかできないから。
怖いけれど、聞かないといけないと思ったのに。
…どうして、ジャックが顔を真っ赤にさせているのだろう。
「…本当に、聞きたいか」
「…うん、乙女に二言は無いのだからっ…!!」
真っ赤になったジャックにつられて私も真っ赤になりながら頷く。
「そうだな、覚えていないのならばもう一度言ってやろう」
抱きついていた私の手をそっと外して少しだけ距離をとる。
視線を合わせるために背をかがめて私の瞳をまっすぐ見つめて…
「…カーリー、俺は…お前を…」
ガタンゴトン、ば、ばか!!いいところなんだからやめろよ鬼柳!!
うるせークロウ!!ちきしょうこんな展開認めないぜ!!満足できねえよ!!
貴方達やめなさい、カーリー達が気がついちゃうでしょう!?
無言でジャックが立ち上がり、ドアを開ける。
「よう!! カーリーって子起きたんだな!!」
「うううう、ジャック…俺たち、仲間じゃなかったのかよ…この裏切り者ぉぉぉ」
「なあなあジャック…あの子があの戦いのときお前が言っていた子?」
「クロウ!!鬼柳!!おまえらああああああ!!」
出て行け!!出て行かんか!!とジャックが見知らぬ男性二人をげしげしと足蹴にしながら追い出す。
「カーリー…起きたみたいね?良かったわ…ごめんなさいね、邪魔をして」
ひょこっと顔を出したミスティさんがくすりと微笑んで、
後で結果教えてね?といいながら去っていった。
しばらくしてジャックが戻ってきたけれど、不機嫌な顔をしている。
…この調子では、聞くのは無理かもしれないかな。
でも、私からの告白は言っておかなきゃ。
「…ジャック、聞いてくれる?」
「なんだ?」
すっかりツンツンした物言いに戻っている。
…まるで初めて病院で出会った時のようだ。
「ジャック、大好き」
「ああ、知っている」
本当、そっけない返事。
でも、そんなツンツンしたジャックも今は凄く愛しくてたまらないの。
ニコニコとしながらジャックの顔を見つめていたら。
苦虫を潰したような顔のジャックが私を抱き寄せる。
「カーリー、他の事はもう思い出さなくてもいい、聞かなくてもいい。
だが、これだけは絶対にもう二度と忘れるな」
そこで、一旦言葉を切って
カーリー、お前の事を愛している。
囁くようなかすかだけど、確かにそう聞こえた。
かみさまがいるならどうかお願いです。
これが死ぬ前に見る夢なら永遠に覚めませんように。
そう思いながら思わずつねった頬は痛くて…現実であることが信じられなくて
思わずポロポロと泣いてしまった。
「…泣くな、カーリー」
そんなことを言っても、涙が止まらないし
ジャックが私を泣かせたのだから…もうちょっと抱きしめていて。
…これが夢じゃないってまだ信じられないの。
fin
09/06/30up
まさかのダグナー帰還…びっくりしたよ!!64話!!
しかし、カーリーが記憶喪失とは!!でもダグナー時代だけなのでオッケー!!
とりあえず、次からの新展開にカーリーでるか怪しいので
このままフェイドアウトもありそうですし(笑)
いろいろ妄想捏造しておきました、趣味です、満足です。
目次へ