「貴方がいるから」
体育館にあるデュエル場でのハイトマン教頭と遊星のデュエルが遊星の勝ちで終わった。
龍可と龍亞達の退学処分も無くなったみたいだし、これで一安心かしら。
「はーい、皆さん教室に戻りますよ〜!!」
「はーい!!じゃあね遊星!!」
「授業が終わったらまた遊びに行くね!!」
「ああ」
担任のマリア先生に連れられて子供達が教室に戻っていく。
「おつかれさま、遊星」
はい、と預かっていた工具箱を遊星に渡す。
「ありがとう、アキ…ところで今思ったんだが…」
「何かしら」
「アキ、授業はどうしたんだ?授業中…だろう?」
「…あ」
そういわれればそうだった。…でも、自習で授業が無かったのだ。
…まあ、それでも教室内にいなくてはいけなかったのだけど。
「…今からでも遅くない、授業に戻らないと駄目だ。」
「ちょ、ちょっと遊星!!」
工具箱を持っているほうとは逆の手で私の手を掴むと、
高等部はたしか…とか言いながら体育館を出て高等部のほうに向かう。
…どうして高等部の場所ちゃんと把握してるのかしら。
他の修理の仕事で前に来たことでもあるのかしら、なんてことを思いながら
授業中なので誰もいない静かな廊下を少し早歩きで歩く。
…あっという間に高等部の敷地に入った。
別にこのまま教室についてもいいのだけど、
…私が授業をサボっていると思われているままなのは困る。
「ちょっとまって、遊星」
「アキ、授業が終わってしまうのでは…」
くいくいと遊星の上着を引っ張って遊星を止める。
…遊星の顔はなんだか悪い子を怒るお兄さんのようだ。
確かに、私は遊星よりも年下だけど。
「遊星、この時間の私の授業は休みだったの」
「……そ、そうなのか?」
「だから、別にあそこにいても問題は無かったのよ?」
それは流石にウソだけど…ちょっと私を年下の子供扱いしたのが悪いのだ。
少しだけ意地悪を言ってみる。
「…すまない、学校というものに俺は行った事が無いから…知らなかった」
素直に遊星が謝る。
そこで、遊星が学校に行った事が無いことを不意に思い出す。
…遊星が普通にシティに暮らしていれば…年齢からいってまだ学校に通っている年なのに
…きっと、遊星だって学校に通いたいと思ったことだってあるだろう。
なんだか、悪いことしちゃったかしら。
「ううん、私も…説明しなかったから…ごめんなさい」
「いや、アキは悪くない」
しゅんとした顔でもしていたのかもしれない、遊星が優しく微笑みながらぽんぽんと頭を撫でてくれる。
それをくすぐったく思いながら、窓から見える大きな時計を見ると…まだ次の授業まで時間がある。
「そうだ、遊星…せっかくだから、デュエルアカデミアを見ていかない?次の授業までだけど、案内するわ」
「…いいのか?」
「いいのよ!!私や龍可や龍亞がどんなところに通っているか教えたいし」
「ありがとう、アキ」
ふわりと遊星が笑う。…その遊星の顔が嬉しくて私も自然と笑みが零れる。
「じゃあ、行きましょう…他のクラスは授業中だから、静かにね?」
「ああ」
そうして、また二人で歩き出す。
*
時間的に高等部の敷地全部回れそうに無いので、通ったところを簡単に説明する。
図書室とか、資料室とか、モニタールームとか、
学校だから殺風景で何も面白みも無い教室を興味深そうに遊星がみている。
本当に楽しそうに見ているから、思わず
「…遊星が一緒の学校に通っていたら…きっと楽しかったでしょうね」
かつんかつんと屋上に続く階段を上りながらそんなことを呟いてしまった。
「そうだろうか」
「きっと…ううん、絶対楽しいに違いないわ、それに遊星はデュエルも強いし、
頭がいいもの…すぐに高等部のトップになれるわ」
「…いや、流石に今まで勉強らしいことをしたことが無いからな…」
まあ、それでも今は…
何かを言おうとした遊星だったが、屋上にたどり着いてしまった。
「…すごいな、思ったよりも広いな…」
ライディングデュエル用のコースもあるのか、と遊星が嬉しそうに目を細めながら眺める。
今は、なんだろう。
学校よりもジャックやクロウ達と出る大会の事があるから?
何を言おうとしていたのか考えながら、遊星の隣に立つ。
「アキ…学校は楽しいか?」
「…ええ、龍可や龍亞もいるし」
「同級生の友達はできたか?」
まるでパパみたいなことを言うのね、とか思いながら
「…残念ながら、まだ。…この学校、中等部から高等部にそのまま上がる子も多いから…
それに、フォーチュンカップの事もあるし…仕方ないわ、自業自得だもの」
「…そうか」
「でも大丈夫よ」
がしゃりとフェンスに背を預けながら遊星を見る。
「だって、そうやって心配してくれる遊星がいるもの」
「俺が?」
「ええ、遊星がいるから大丈夫なの」
今はこの学校に友達と呼べる人はいないけれど…
私は遊星のおかげで変わることができた、大事な友達がたくさんできた。
…その事実があるから、私を支えてくれるから大丈夫。
実際、少しずつだけど同級生達と話をすることもあるのよ?
だから、大丈夫と強がりじゃない笑顔を遊星に見せる。
「…俺の存在がアキの支えになっているのか、それは…嬉しいと言っていいのだろうか」
そう言いながら少しだけ頬を赤らめて遊星が笑う。
そっと、遊星の手を握ると…遊星も優しく握り返してくれる。
あたたかくてきもちいい。
それでいて、凄く嬉しい。
…遊星の傍にいると凄く落ち着いて、安心する。
このまま一日中過ごしてもいいかもしれないと思っていたけれど、
無常にも授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「…授業が終わったみたいだな」
「…そうね、そろそろ教室に戻らなきゃ」
少しだけ名残惜しいけれど遊星の手を離して校舎に向かおうとすると、
遊星がきゅっと私の手を握り返して、一緒に階段へ続くドアに歩き出す。
「…教室まで送る、アキがどんな教室で授業をしているか見たい」
嬉しいけれど、仕事とか、作業とか大丈夫なのだろうか、と思うが
今日の仕事はもう終わっているし、作業もクロウ達がやっているので少しぐらい休んでも大丈夫だと言われた。
「…そのまま、一緒に授業受ける?」
「それもいいかもしれない」
冗談のつもりだったけれど、遊星は結構乗り気の様子だった。
「俺も…一度学校に通ってみたかったからな」
このまま教室で、一つの机に二つの椅子を並べて、同じ教科書を読んで。
…本当になれば、それはこの学校に復帰してから一番楽しい一日になりそう。
そんなことを思いながら、二人手を繋いだまま…教室に向かった。
fin
09/07/28up
67話その後話を捏造してみたっていうか、アキさんは何故あそこにいたんだ。
自習だ!!とか脳内補完してみたけどやっぱりおかしい。
赤き竜のあざの力だよ!!とか補完してみたけど以下略。
まあ、とりあえずせっかく遊星が学校に来たので絡ませてみた。
…アキさんにはまだ小学生ズしかお友達いないだろうねとかチャット中の会話で出て、悲しくなったので
教室にフォーチュンカップ優勝者遊星と手を繋いで登場して同級生の度肝を抜いて欲しいです!!
それがきっかけで友達とかでき・・・・・・ねえー!(笑)
まあ、そんなこんなで遊アキ燃料な67話素晴らしいというSSでした。
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