「ケンカするほど」






紙袋を抱えて遊星やクロウ…それからジャックが住み込んでいる倉庫のドアの前で固まる。

…十六夜アキさんがライディングデュエルのライセンスを取るって話だから
アキさんは今日こっちに来るって話だったから、
前に使った参考書とか役に立たないかなとか思って持ってきたけど…
ジャックもいるのよね。

うーー、とドアの前で唸る。
なんだか不機嫌になる。

原因はこのまえのパーティでのことだ。
ジャックは浪費激しいのがなんかもう習性みたいになっていたけど、
チームのお金を使ってパーティに出る服をオーダーメイドしたのだ。
勿論チームの会計係のクロウはカンカン。
遊星もなんだかカリカリしていた…けど、そっちはなんか別の理由だったらしい。
…まあ、それはさておき
その後なんだか色々あったらしくってジャックの浪費がウヤムヤになっているらしい。
俗に言うところのタイミングを逃すとかそういう感じだ。

…私も、その後は取材とかが忙しくてクロウから愚痴の電話があって知ったばかりで
ジャックに会うのはこのまえのパーティぶりだ。

またパーティの件を蒸し返すのはどうかなと思うけど、
一度バシっと言ったほうがいいかな…。
「…よし!!言っちゃおう!! バシっと決めてやるんだから!!」
「何を言うつもりだ?」
「決まっているじゃない!!ジャックの浪費癖の事よ!!
パーティーに出る服をチームのお金で作っちゃうなんてやっちゃいけない事なんだから!!
…ってジャック!!」

何か沢山入っているダンボールを抱えたジャックが後ろに立っていた。





いつもの倉庫は遊星は作りかけのDホイールの部品をジャンク屋に調達に行ってしまい、
クロウはいつもの配達の仕事でいない。
私とジャックの二人きりだ。

「…ねえ、ジャックわかった?」
「ふん!!お前もクロウのような細かいことばかり言う…まったく、何故わからんのだ!!」
「わかってないのはジャックでしょう!!」

会話は平行線を辿っている。

「貴様だって、わージャック素敵―!!とか言っていただろうが!!」
「だって、それは!! 知らなかったんだもん!!
…ジャックが自分のお金を出して服を新調したんだって思ったんだから!!」
「ふん!!俺が金など持っていると思うか!!」
「開き直ってもダメなんだから!!」

ギギギギギと二人でにらみ合う。

「もうウチにお茶を飲みに来ても入れてあげないんだからあああああ!!」
「ふん、別にかまわん!!お前の家でなくともいつもの馴染みの…」
「前にクビになって出入りしずらいんじゃない?あそこ」
フフンと笑う。
「…べ、別に喫茶店ぐらい他にもある!!」
「ぐっ素直じゃないんだから…!!
明日のお夕飯ジャックの好きなハンバーグだったけどやめるわ!!
っていうか、本当に本当に家に入れてあげないんだから!!」
「…なっ!!」
ぐぎぎとジャックが呻くが、フンと鼻で笑う。
「べ、別にお前のヘタクソな料理など食べれなくとも…!!」
「あーーっ!!ヘタクソとか言った!!
忙しいのにジャックが好きだからーっていつも頑張って作っているのにーーッ!!」
「ヘタクソにヘタクソと言って何が悪い!!あんな料理を食えるのは俺ぐらいだ!!」

ひ、ひどい!!
女の子に料理がヘタとか酷すぎる!!

「うう、うううう」
涙がじんわりと浮かんで視界が悪くなる。
「お、おい!!」
「ううううううううう〜〜〜」
涙をぐっと堪えるけれど、悔しい。
ジャックが悪いのになんで私の料理がヘタクソとかそんな話になるのだろう。
悔しいから絶対泣いてなんかやるもんか。

私は涙を堪えるのが必死で喋れないし、
ジャックは流石に言い過ぎたとでも思ったのか、バツの悪そうな顔をしている。
沈黙がしばらく二人の間に流れるけど、先に折れたのはジャックだった。

「…すまん、言い過ぎた」
「ううう〜〜ジャックが悪いんだから…っ!!」
「だから、すまんと言っているだろう?」
「謝るなら私だけじゃなくて遊星達にも謝らなきゃダメなんだから〜〜!!」
ぐすっ、ぐすっと鼻を啜りながら一番言わなきゃいけないことを言う。

だって、だって、ちゃんと謝ってお金返さなきゃ…
こんなことが続くなら…いくら仲間だからって遊星とクロウだって…

「ジャックがこのチームにいられなくなったら、WRGPに出られなかったら…
とか考えるだけで、もう、いつも心配で心配でたまらないんだから〜〜〜
…ジャックの、ジャックのばかああああああ!!」
ぶわっと涙が溢れてしまう。
我慢してたのに…泣いたらジャックだって困るのに。

ほら、だってジャックが困っている。
珍しくオロオロして、私の涙を拭おうとしているのか、頭でも撫でようとしているのか、
どうしようかわからないといった感じで手がうろうろと中空を彷徨っている。
「…泣くな、カーリー」
どうにかそれだけ言って、ジャックが途方にくれている。

結局私が泣きやむまでジャックがそうやって…苦虫をつぶしたような顔をして私の前にいるだけだった。

「…すっきりしたか」
「…うん…」
ほら、とタオルを渡してくる。
…どうやらちょっとジャックのほうも落ち着いたらしい。
いつものジャックに態度が戻ってきた。


「……服に使った金は…また新しい仕事でも探して返す。」
「…まだ見つからないんだ…」
「煩い、俺にあう仕事がないのが悪い」
フンと偉そうに…ちょっと恥ずかしそうにふんぞり返る。
「なんかもういっそ、適当なデュエル大会に出て優勝したほうがお金返せそうな気がする…」
「それが出来たら苦労はしない!!」

はーーと、二人でため息をつく。
世の中は上手くいかないモノだ。

「…キング時代の時…結構色々な大会に出て優勝していたけど
…その時の賞金とかジャックが貯めているわけないかなあ…」
「………そんな前の金が……む?」
「どうしたのジャック?貯めてたとか?」

何かを思い出したようだから心当たりがあったのかと思ったけれど、ジャックが慌てて首を振る。

「…あやしい、心当たりがあるんでしょう…!!」
「し、しらん!!覚えなど無い!!」
「…そうやってごまかすところがあやしい…白状しなさい!!ジャック!!」
「だから知らんと言うのに!!しつこいぞカーリーッ!!」
「あー!!そういう事を言うなら…今度の夕飯…」
「ふん!!お前の作る夕食など…」

再び同じ原因でケンカを始める。
だから、いつの間にか遊星とクロウが帰って来ていたなんて気がつかないままだった。

「…なんていうかさあ…本当仲良いよなあ、あいつら…」
「ああ、ジャックはカーリーが来るとイキイキしている」
「……いや、そこは…嬉しそうにあの二人を見る場面じゃないと思うぜ?遊星」

はやく痴話げんかおわんねえかなーというクロウのぼやきは、
私達のケンカの怒声でむなしく倉庫に消えた。





fin

09/09/17up

さて76話…ジャック様の華麗なる活躍回だったのですが
アクセルシンクロとかスケートデートのおかげでスッカリ忘れ去られてましたね!!
あの素敵な衣装の話!!いやまあ、多分そうだと思っておりましたが!!
とりあえず、話が出たらどうしようと思ってアップを待っていたSSを安心して上げれました。

…本編でフォローがそろそろほしいです(笑)
そんなことを思いながらかいたSSでした。

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