「コスプレ★パニック!」





「ねえ、ジャック…明日暇だったら一緒に取材に行かない?」
それは夕飯の終わった後、食器を片付け終わったカーリーがチケットを2枚をひらひらさせながらそう言った。
「…デュエルアカデミア・ネオ童実野シティ校の文化祭?」
「色々デュエルがらみのイベントがあるみたいだけど
…私まだまだデュエルの事勉強不足だし、ジャックがいればいい記事かける気がするの!!」
…まあ、それは建前でジャックと一緒に…で、でかけたいというかっ!!
もごもごと真っ赤に照れながらカーリーがそういうのを見て、
…それならそうといえば付き合うというのに、まったく仕方ないヤツめ。
「そうだな、明日は特に用事は無いから付き合ってやろう」
「やったー!!」


*次の日


「…あれ?ジャックそれって、前に変装用に買った服?」
「当たり前だろう。…デュエルアカデミアに俺が行ってみろ、大騒ぎになるぞ」
帽子にサングラスとはたから見ればジャックと気がつく人はあまりいないかもしれない。
「…それに、今日はお前の取材の手伝いだからな…騒ぎを起こして邪魔するわけにいかんだろうが」
そう言ってぷいっと視線を逸らす。照れているらしい。
…あ、ちょっと嬉しいかも。
「じゃ、行こうか!!」
今日は一日凄く楽しい日になりそう!!


…そう思ったのだったけれど。


「うおおおお!!ジャック・アトラスだーー!!」
「デュエルしてくださああああああいいいいい!!キングーー!!」
「ばっか、元キングだろ!?いやでもファンです!!デュエルしてくださあああい」
「ジャックーー!!デュエルしてーー!!」


…変装しているのにあっさりバレて大騒ぎになっていた。
「さ、さすが未来のプロデュエリストの卵たち…ジャックの顔良く知ってるわね…」
「…しかし、まずいなこのままでは」
なんとか追っ手を撒いて建物の影に隠れたが、見つかるのは時間の問題だろう。
ジャックがちらちらと周りを見回して、一軒の出し物を指差す。
「よし、あそこに行って変装道具でも探すか…」
…デュエルアカデミア本校名物コスプレデュエル参加者募集中、という看板が置いてある。
物凄く嫌な予感がする。


デュエルモンスターズの女性モンスターって結構露出が高い。
露出の少ないモノは真っ先に無くなるわけで…仕方がないので比較的マシなものを選ぶ。
…ハーピィ・レディは全然マシじゃない気がするけれど!!

「……ううう、恥ずかしいよぅ…この年になってコスプレするなんて」
「ダークシグナーの時にも似たような格好をしていただろう」
「覚えてないこと言わないでええええ…!!」
ぽかぽかジャックを叩く。
「まあ、あきらめろ…それから、メガネは外しておけ。似合わない」
そういってメガネを回収してしまった。

ちなみに、ジャックはオネストだ。何故だかわからないが酷く似合っている。
…はずなのだが、メガネを取られたのでよく見えない。ぼんやりしている。

「…む、こら!!カーリー…離さないか!!衣装が伸びる!!」
「だ、だってみえないんだもん!!このままじゃ歩けないよ…
メガネを取ったのはジャックなのだから私をサポートしてよ!!このままじゃ取材もできないよ!!」
そう言うと、…うぐぐと言葉を詰まらせながら、私の腕を自分の腕に添えさせる。
…そのままじゃ歩きにくいだろうが!!とか悪態をつきながらだけど。
「さっさと終わらせて帰るぞ!!」


仮装をしてからはジャックの事もばれず取材は順調に終わった。
「よしっこれでオッケー!!あとは家に帰ってからまとめて編集部に送ればおわりっ!!」
「そうか」
…インタビューや写真を撮るときには流石に見えないと困るのでメガネを返してもらっていたのだけど。
窓ガラスに薄く映る自分の姿を見て…ジャックの言うとおりこれは似合わないわね。と思う。
こんなことになるって分かっていたら使い捨てのコンタクトレンズでも買ったのに
なんて思いながらうーんと唸っていると

「ぷ、ぷふふふふ!!ちょっとカーリーなんて格好をしているのよ!!」
「ア、アンジェラ!!」
一番会いたくないヤツがそこにいた。

はっとしてジャックを見ると…前に遊園地で罵詈雑言を言っていたのを聞いていたので眉をしかめている。
おねがい!今は耐えてねジャック!!とジェスチャーを送るとしかたなさそうに頷く。

「って、なんでアンジェラがここにいるのよ!!」
「タレコミで元キングがここに来ているって情報があったのよ、アンタもそれ聞いたからきたのでしょ?」
「え、ええーそうなんだーー私は…仕事でここの取材に来ていたのーよー!!……後ろの人と一緒に」
ぼそりと言うとアンジェラがキランと目を輝かせながら食いついてくる。…く、食いつかないで!!
「…あ、つまりデート?っていうかカーリーが?…それはまた今度聞かせなさいよ!!
で、…ジャックだけど、聞いたところによると連れの女性がいたっていうのよ…!!これってスクープじゃない?」
ジャックに女性の影!!いい記事になるわよ!!
というのを聞いた瞬間にジャックがげほがほぶほっと咳き込むっていうか、咽ている。
アンジェラがジャックのほうを怪訝そうに見るのをずずいっと割り込む。

「ああっそういえばさっき…あっちのほうの出し物のほうですごい歓声が上がっていたと思うわ!!」
「え、そうなの!?」
「本当つい最近!! ついさっき!!ああもう早くしないとジャックはいなくなっているかもしれないわね!!」
「…そ、そうね?」
ばっさばっさと作り物の羽をはためかせて追い出す。
一応「ありがとう、カーリー!!デート邪魔して悪かったわね!!」といいながらアンジェラは去っていった。


…つかれた。
ものすごくつかれた。


「…そろそろ帰りましょうか、アンジェラがいつ気がついて戻ってくるかわからないし」
「…仕方ないが、そうするか」
お互いに深いため息をついて服を置いてあるコスプレデュエル会場に向かう。
取材も終わっているし、更衣室まで向かうまでもまだ色々出し物があるからそれを楽しんで帰ろう。
…ちらりと視線をまわりにやると、美味しそうなパンの屋台があった。
「あ、ドローパンの屋台…かってくるねジャック!!」





そういって、カーリーは走り出して屋台に向かった。
…ドローパンというのはデュエルアカデミア名物らしい、お互いに食べたことは無いが
先ほどの取材で話を聞いている間、カーリーがやたらと食べたそうにしていたので覚えていた。
「…納豆パンやらめざしパンとか出たらどうする気だ…」
いやー!!納豆!!ジャックたべてよぅ!!と嘆くカーリーの姿を想像して笑みを浮かべていると、服の裾を引かれる感触が
「…ん?」





「うわー凄く待たされちゃったよー!!…ジャックどこいったのかな…って、あれ?」
ジャックがまっていたはずの場所にはジャックはいなかったので周りを見渡すと
植えられた木々の下で子供と一緒にいる。どうもカードを広げて何かをしているみたいだ。
買ったばかりのドローパンを持って、人ごみを掻き分けてジャックの下に向かう。

「…このカードを生かすならば、そうだな…お前の手持ちならばこのカードを入れておけばいい。
余裕があれば…そうだな…」

ジャックの隣でデッキを見ている子供はジャックの説明をきらきらした瞳で見て、
時折これはどうなの?それはどこでつかうの?と聞いている。
全然会話はわからないけれど、楽しそうだ。
本当、ジャックってデュエルが大好きなんだなあって改めて思った。
…今日は私の取材だからってデッキを置いてきているけれど、持ってきていればあの子とデュエルできたのに。
きっと、あの子もジャックも楽しいデュエルができたと思う。
そうこう思っている間に子供が「バイバイ!!オネストのにーちゃん」と手を振って去っていった。


「カーリー…見ていたのか?」
「うん、凄く楽しそうだから邪魔したら悪いと思って」
「………そうか」
苦虫を潰したような顔になっているけれど…照れているだけだ。
その顔が面白くて笑いつつ、ドローパンを一つ渡す。
「ジャックってデュエルアカデミアの教師になっても良さそうよねー
デュエリスト引退したらそっちの道に進むの悪くないかも」
「俺は生涯現役デュエリストだ」
「えー、だって、ジャック子供受け凄くいいし、ジャックも子供大好きでしょ?」
ジャックが黙ってしまう。
否定しないってことは、まあ、そういうことなのだ。
…そういうところが、凄く可愛い。


お互い同時にぱかっとドローパンを割る。
もわっとして、それでいてねばっとしたにおいが…
どう見ても……納豆パン……がくりと項垂れる。

「…ん?卵パン?」
ジャックが以外に普通の具だな。とか言っているけど、それって!!
「お、お、お、黄金の卵パンー!!すごい!すごーーい!!
それって一日一個しか作られない超レアパンなのよー!!さすがジャック…すごい引きね…」
「ふん、当たり前だ」
レアモノを引いたと聞いて不敵に笑う。
…はたから見たら卵パンを掴んで偉そうにふんぞり返るオネストなので間抜けなのだけど言わないでおこう。
でも、いいなあ…美味しそう。
とか思っていると、ひょいっと割られた納豆パンの半分をジャックが奪って食べてしまった。
え?とか思っている間に今度は黄金の卵パンの半分がジャックから渡された。
「…お前が買ってきたモノだからな、お前にも食べる権利がある」
意外に納豆もいけるとか言いながら納豆パンを食べるジャックの顔は少し赤かった。
「えへへ、ありがとう」
ジャックと二人で食べた黄金の卵パンの味は、最高に美味しかった。


こうして、ドタバタした学園祭体験は終わり、また日常に戻る。





次の日

『こーーらーーー!!カーリー!!貴様同じ場所に取材にいっていたんだろうがああ!!
なんでこのスクープを他社にとられるんだああああ!!』
編集長の怒鳴り声が電話からキーンと響く。
立体映像の編集長がバシバシ叩く新聞記事を見てビックリする。
…それはアンジェラが書いた記事で
「…デュエルキング不動遊星と十六夜アキがラブラブお忍びデート!?」
え、え、えええ?とか思いながらソファーでくつろいでいるジャックに視線をやると
「ああ、遊星と十六夜アキは一緒に居たな…なんでもたまたま会っただけらしいが
…まあ、そんなことは無いだろうな」
「な、なんで教えてくれないのよぉおおううううう!!ばかーーー!!ジャックのばかー!!」
「遊星たちにせっかくの二人きりの……を……邪魔されたくなかったからな」
ぼそりと呟かれた言葉に一瞬固まるけれど、次の瞬間には顔がぶわっと真っ赤になる。

「ばばばばかきんぐーー!!」
「俺はもうキングではないわ!!」

『…カーリー痴話げんかなら電話切ってからにしてくれ』
編集長がぼやく声が聞こえたような気がしたけど、もう二人はそれどころではなかった。






fin

09/10/27up

一度はやっておきたかったオネストなキング様(声ネタ)
夏に出そうかなーとか考えてボツにしたジャッカリ本に収録したかったSSお蔵だしでございます。
いやもう文化祭=コスプレデュエルとか、納豆パン(がくり)なカーリーが本当やりたかっただけです!!
遊アキのデートのターンもあったのですが、長くなりすぎたのでカットしました。
文化祭シーズンということで今更ですがアップしたSSでしたー!!寝かせすぎだ。

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