「その先に映る未来はきっと」
「うー見つかんないよー龍可ー」
「もう、泣き言言わないで次の資料探すの!」
「さすがにアカデミア本校の卒業生というのがわかっていても、いつ卒業かわからないと難しいわね」
いったん休憩しましょう、とアキさんがため息をつきながら立ち上がる。
遊星が過去の世界に行って私たちの現在を救ってくれてから一週間がすぎようとしていた。
遊星によれば、過去を改竄して未来を変えようとしていたパラドックスという男を、
過去のデュエリスト、伝説の武藤遊戯、それから遊城十代という二人の協力で倒したそうで、
元通りになった街を見て、二人にも見せたかった。
とかつぶやくのを見て、
二人のうち一人、遊城十代という人物はデュエルアカデミア本校の卒業生だという話を聞いたので、
さすがに本人を捜すのは無理だけど、
彼がアカデミアに通っていた頃に公式試合でもでていれば映像が残っているはず、とか思いついて
遊星に見せたら喜んでくれるかな、なんて思って探し始めたのだけど
街は何事もなかったかのように元通りになった時、
過去が改竄された痕跡もきれいに消えてしまった。
おかげで龍可と龍亞が見つけた記事もきれいに消えてしまったおかげで、
いつあの事件があったのかあやふやになってしまった。
「10年ぐらい分の資料をみた気がするわ」
「さすがに目がしぱしぱする」
うーとうめいていると、龍亞がぱたぱたと走りながら紙コップを3つ持ってきた。
「ごめん、さすがに図書室だから水しかなかった」
「ううん、ありがとう龍亞」
「喉が乾いていたから助かるわ」
三人同時に水を飲み干して、はあーとため息をついていると、
「あら、龍可ちゃんも龍亞君、アキさんにお勉強でも教えてもらっているの?」
「あ、マリア先生、と?」
知らない先生に双子と私が首を傾げていると、
「アカデミア本校の天上院明日香先生よ」
「「はじめまして天上院先生!」」
「はじめまして」
くすくすと双子の元気のいい挨拶に微笑んだあと、
「貴方は十六夜アキさんね、はじめまして」
「は、はじめまして」
ぺこりとあわてて私もお辞儀をすると、
天上院先生があら?とモニタをのぞきこむ。
「まあ、懐かしい。アカデミア本校の公式試合の記録じゃない。どうしたの?」
「あのね、遊城十代って人のデュエルの記録が無いかなって探してるんだー!」
「十代の?」
アカデミア本校の先生なら何か知っているとかは何も考えていないだろうけど、
龍亞がその事を言うと、天上院先生がびっくりしたような顔をした。
「え、先生のお知り合いですか?」
「ええ、私の同級生だけど、でもどうして?」
「あー」
当たり前の疑問だ。
だけど、どう説明したらいいのかわからなくて龍亞が困った顔をして龍可と私を見る。
「えっと、私達と仲良くしてもらっている遊星がお世話になったそうなんです」
「遊星って、あの不動遊星?」
「はい、それで十代さんはアカデミア本校の卒業生ってことだけはわかっていたので、公式試合にでも出ていたら、
そのときの記録を遊星に見せてあげようと思って」
龍可の説明に私が続いて理由を言うと、
十代相変わらずなのね、と天上院先生が苦笑する。
「あの、天上院先生。遊城十代さんが出ている公式試合とかわかれば教えてほしいんですが」
「ええ、いいわよ。
あ、そうだわ。兄が今ちょうど実家に戻っているはずだから、兄に頼んで実家にあるデータを送ってあげるわ。
公式戦以外にも取っていたデュエルの記録があるはずだし」
「ありがとうございます!」
三人で天上院先生にお礼を言う。
「お礼に遊星さんから今十代がどうしているか様子を聞いてきてもらって、後で教えてくれるかしら。
年に一度連絡があるかないかの風来坊なのよ、あいつ」
元気だとは思うけど。と優しげに笑う天上院先生の顔を見て、
それから、遊星が武藤遊戯、遊城十代の二人のことを話している時の事を思い出して、
私も少し会ってみたかったわね、記録映像なんかじゃなくて、本物に。
なんて思った。
*
そいつらは俺たちが使っているガレージにひょっこり現れた。
「すみません、不動遊星さんいますか?」
「おう、遊星だったら今ちょっと上で作業中だけど、呼んでこようか」
「あ、おねがいします」
俺が言うのもなんだが、変な取り合わせだった。
一人は壮年、たぶん十六夜のとーちゃんぐらいの年の小柄なおっさんで、
もう一人は年は俺たちよりも少し上ぐらいのにーちゃんだ。
そんな二人が友達みたいに「遊星いるってー」「よかったねえ十代君」とかうれしそうにはしゃいでいる。
よくわからない関係だったけど、まあ遊星の知り合いだしなあ。
「俺を訪ねてきた?」
「そう、おっさんとにーちゃんの二人連れ。心当たりある?」
「いや、わからないが行こう。ブルーノあとは頼んだ」
「おっけーまかせておいて!」
遊星も首を傾げながら下の階に降りる。
降りた後、遊星がその二人をみた瞬間の顔を俺だけしか見ていなかったのが残念だった。
すげえ、あれだけ嬉しそうに飛び跳ねてて
「お久しぶりです!遊戯さん!十代さん!」
しかも、敬語つかってる遊星とかレアだ。
むしろ、ウルトラレア級だ。
ん?それよりもつい最近聞いた名前を今聞いたような。
はて、何だっけとか首を傾げていると、
「ぬわあああああああああああ」
とか、ジャックの悲鳴がガレージの入り口から聞こえてくる。
「うるせーぞ、遊星のお客さんが来ているんだから」
「何故クロウはそうも平然してしているんだ!」
あれを見ろ!あれ!!と遊星のお客のうちの一人、小柄なおっさんを指さす。
「武藤遊戯だぞ!武藤遊戯!あの伝説の初代デュエルキング!!何故ここにいるんだああああ!!」
「へ?」
そこでようやく俺も事態が飲み込めてきた。
じゃあ、もう一人は、
過去の世界で武藤遊戯と一緒に遊星を助けてくれた。
「遊城十代?遊星が言ってた」
「うん、その十代って俺なんだ」
「若くね?」
それもよく言われるーおまえ等よりも年上だぞー。とかあはははと笑う十代。
「WRGPに向けて忙しい時期に押し掛けてごめんね、クロウ君、ジャック君」
いやいや、気にしないでください!俺たちの仲じゃないですか!とかいう遊星に、
本当にごめんねえ。とか笑う遊戯。
うわあ、これってもしかしなくても。
ものすごい状況じゃね?
ジャックは相変わらずあわわわとかしている。
デュエル申し込むんじゃねえの?
「えーと、お茶何人分いれたらいいかなー」
ブルーノ、お前だけは冷静だなあ。
*
「一週間前、この時代でもパラドックスの歴史改変があっただろう?
で、遊星も無事に戻ってきているだろうし、
そろそろ顔を出してもいいかなって思って遊戯さんに声をかけてみたんだ」
「連絡をもらった時に僕も同じ事考えていたからね」
ちょうどよかった。と遊戯が笑った後、
「もう一人の僕、アテムもいたらよかったんだけどね。
さすがに彼の魂は冥界に戻っちゃったから」
少しだけ寂しそうに何もない胸元を見る。
「いえ、きっとあちらから俺たちの事見守ってくれていますよ」
「遊星の言うとおりですよ!遊戯さん!」
「あ、そうだ。今日はただ会いに来ただけじゃないんだぜー。
おーい、そろそろ入ってこいよ」
入り口の方に十代が声をかけると、もぞもぞと大きな影がうごめく。
「あーもーちゃんと謝らないとだめだろ!こら!!」
入り口まで十代が走りよって強引にそいつを引きずり出す。
「あ、テメエ!」
思わず指さして怒鳴るのも仕方ないだろ。
そいつは、遊星のスターダストドラゴンを盗んで、過去を改変しようとしていたパラドックスだった。
事件の張本人がなんでこんなところに!
「へへーちょっとどうにかして未来からつれてきてみました」
「ど、どうにかできるモノなんですか十代さん」
「でもできちゃってるよねえ」
のほほんと遊戯は紅茶を飲んでいる。
和やかな空気が流れるが、忘れちゃいけない、パラドックスのやろうがいるのだ。
一瞬ぎすぎすした空気(主に俺とジャック付近)が流れるが、
十代が「まあまあ」と言いながらパラドックスを遊星の前にずいっと押し出す。
「ほらー謝れよ、おまえもちょっと謝りたいとかぼやいていただろー」
「いや!あれは!独り言だったのを貴様が勝手、ごあっ!」
十代にごすりと殴られるパラドックス。
「貴様!何、を」
を、の先は言えなかった。
「ごめんなさい、だろう?」
心なしか十代の瞳が金色だかオレンジと緑だかに変わった気がするけど、たぶん気のせいだし
「そうだよ、ちゃんとごめんなさいしようね?」
にこにこ笑いながらも、ごごごごとかすごい迫力の遊戯。
どうしてそんなに気迫こもっているのに、笑顔なんですか。
俺だったら降参します、マジでこえええええ。
「遊星、それからここにいるすべての者に心より謝罪を。
過去を犠牲にすれば未来を救えるなんて思っていたが、
それは間違いだった。
本当に申し訳ないことをした」
最初はびくびくしていたが、謝罪を始めた時は本当に真摯に謝罪をしてきた。
丁寧に頭を下げて深々と謝った後、
「何故かはわからないが、滅びを迎えたはずの未来がほんの少しだが、変わった。
もちろん良い方向に、だ」
「え」
遊星がびっくりした顔をしてパラドックスにどういうことだと問いただして見ると、
「私にも詳しい要因がわからないと言っただろう。
だが、もしも未来が変わる要因があるとすればあの時のデュエルしか無いだろう?」
「そうか」
「だが、まだ未来が滅びの危機にある事には変わりない。
私の実験を否定したのだから、貴様等にこれからも努力をしてもらわなければならないのだからな!」
すげえ偉そうでむかつくのだけど、
「素直にありがとうとか言えばいいのになあ」
「うるさい!」
とか言いながら、なんか顔が赤い。
なるほど、実はジャックみたいなタイプだったのか。
ジャックが聞いたら怒るだろうから言わないが。
「パラドックス、お前にはスターダストを盗まれたし、悪用もされた。
だが、お前にはお前の事情があって、その為に必死だったのだという事も知っている。
だから」
「許すと?」
遊星が首を横に振る。
「いや、違う。
もしかしたらあのままお前の実験が成功していたら未来は破滅しなかったのかもしれない。
可能性の話になるが、そういう未来もあるかもしれない
だが、それは俺たちが阻止したわけだから。
だから、この先未来が変わらないようであれば、」
「断る」
貴様等とデュエルなんかもう二度と嫌だ。
それに、
続く言葉はそれ以上パラドックスから紡がれなかったが、
何を言おうとしたのかは俺にだってわかった。
「あはは、責任重大だよね、僕ら」
「でもまあ、世界の危機だろうが何だろうが、
未来を守るために今の俺たちががんばらないとな、そうだろ?」
「ああ」
パラドックスとのデュエルを乗り越えた三人がお互いの顔をみて笑いあう。
「お前もがんばれよな、パラドックス」
「ふん、うるさい!」
思わずそう声をかけてしまったのだけど、素直じゃない返事が返ってくる。
「素直に激励されていろ!」
「ジャック、お前に言われるとなんかこうすごく逆らいたくなる」
「なんだとおお!」
そうこうしていると、ガレージの外からいつもの双子とアキの声が聞こえてきた。
「あはは、今日は本当すごいお客さんだらけだね」
「本当だなあ、これだけのメンツいるならデュエル大会開けそうだぜ」
のんきなブルーノの声に、思わずそんな事をつぶやくと
「え、え、デュエルするの?しようぜ!しようぜー!
俺のヒーローデッキと戦おうぜー!」
十代が瞳をきらきらさせながら俺とブルーノの間に入ってくる。
「遊星いるーって!!デュエル大会するのー!?俺もやるやるーー!!」
「おー見知らぬ少年!やる気あるじゃねーか!やろうぜデュエル!!」
「っておじさん誰?まあいっかあ!」
十代と龍亞がデュエル!と叫んでいる。
「今日はお客さんいっぱいだね」
「天上院先生にもらったデータは後で渡しましょうか」
「ごめんね、突然押し掛けちゃって」
「いえ、気にしないでください。むしろ龍亞が、」
龍可とアキに遊戯が話しかけていたりとか、
「未来の技術とか知りたいなあ、ねえ、ねえ、君のDホイールって飛ぶんだよね?」
「な、なんなんだお前は!」
「ふはははは、諦めるのだなパラドックスとかやら!
そいつは機械の事になるとしつこいぞ!!」
「ひどいなあジャックーWRGPに向けてDホイールの改造の参考になると思ったのにさあ」
「パラドックスのDホイール分解しろ」
いえっさー!とジャックの命令に従って、
服の下からスパナとかを取り出してパラドックスのDホイールを分解しそうなブルーノを、
必死でパラドックスが止めている。
いやもうこれ、収集つくのかなあ。
さらにこれにほかの連中まで集まったりして、
そうなったらどうなるんだろう、収集つけるどころじゃない気がする。
なんて思いながら「どうするんだよ」と遊星に話しかけようとして遊星を見れば、遊星は嬉しそうに笑っていた。
一週間前は、悪夢にうなされたりしていたのにな、
それに、その後もパラドックスを止めたのは正しかったのかとかこっそり悩んでいたのを知っていたから、
遊星が笑顔になってくれたから、多少の苦労は許してやるか。なんて事を思いながら俺も笑う。
「すいませんーここに不動遊星さんっていますかー」
そうこう思っている間にまた来客のようだ。
「はーい!ちょっとまってくれよなー!!」
そう返事しながら、新しい客人を迎えに行くのだった。
おわり
10/03/11up
映画版の後日談その2〜5DS勢バージョンでとか思ったのですが、
気がついたらフルメンバー気味なSSになってました。
…長くなったわあ(笑)
パラドックスにフォローいれたかったというのもあるんですが、
フォローになってるんだかなってないんだか!!
ちなみに明日香出してるのは趣味です。明日香先生〜!!
たぶんこの後海馬とかカイザーとかヨハンとかがやってくる。
ガレージっていうか、ポッポタイム噴水広場前デュエル大会とか開かれるとか
もわもわ妄想している私なのでした。
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