「I pray for you」
「…ジャック、アキさんは…?」
「意識不明の重体だ…今、遊星が様子を見に行っているが…」
チームカタストロフ戦の情報を調べている時、アキさんが事故にあったという連絡が入った。
もしかしたら危ないかもしれない、そういう話をしていた直後だったこともあって、皆凄く慌ててアキさんの元に行った。
…私は、皆がいなくなるのはまずいだろうからと、留守番をしていたのだけど。
待っている間、正直落ち着いてなんかいられなかった。
そして、ジャックが戻ってきたのだけど…その口から聞いた話は、
顔から血がサーッと引いていくのを感じるぐらいショックだった。
「ごめんなさいっ…!!もっと早く私がこのデータをもってきていたら…!!」
うっかり忘れている場合じゃなかった。
もっと早く気が付いて、ううん、試合の終わった後にすぐここに持ってくればよかった。
「バカ!!お前のせいじゃないだろう!!」
「で、でも…!!」
ジャックはそう言って否定してくれるけれど…
もっと早く連中が危ないことに気が付いていれば、アキさんは怪我をしなかったかもしれないと思うと、涙が零れてくる。
「…泣くな、バカ」
「う、うん、ごめんなさい…」
「だから、謝るな…」
不器用にジャックが私のメガネを取って、置いてあったタオルを渡してくる。
すこしオイルの匂いがするけれど、顔を拭いて、
ジャックが慰めてくれたこともあって、溢れてきた涙も止まってきたのだけど、
落ち着いてきたら、今度は違う問題を思い出してしまった。
「あ、あああっ!!試合とか…どうするの?大変なんじゃ…」
ルールで一応2人でも出れる、出れるけれどLPにハンデがついてしまう。
「そこは、…クロウを一応は止めたんだが、アイツが出るらしい」
「だ、大丈夫なの!?クロウ大怪我して、たしかまだまだ安静にしなきゃって…!!」
「…仕方無いだろう、チームユニコーンやアキの仇を取ると息巻いていて止められん」
ジャックがそう言って苦虫を潰すような顔をする。
「とととと、止めなきゃだめでしょうがーーー!!」
「だから、止めたと言っているだろうがああ!!」
…がーっとお互いに怒り気味でそう叫んだ後…
それどころじゃなかった、という事を思い出して同時に溜息を零す。
「…ごめんなさい…」
「だから、何度も謝るなと言っているだろうが…
試合のほうも…クロウに何かあればすぐに交代させる…なんとか、なるだろう」
「…うん」
「それに、アイツは肋骨が折れてもデュエルをしていたこともあったらしいからな
あれぐらいの怪我ならば大丈夫だ」
「…ええええ!?」
そんな状態でもデュエルしちゃうわけなの!?デュエリストって!!
…なんだか、想像がつかない。
ジャックもDホイールがクラッシュして怪我をしても、抜け出して応援に出てきたりしていたし、
デュエリストって…痛覚とか鈍いのかな…なんて思っていたわけなのだけど、
そこで、不意に思い出す。
「ジャック、ジャックの腕はもう大丈夫なの!?」
「腕か?ああ…まだ少し痛むがクロウほどでは…」
「ジャック!!ちゃんと治療しているの!?っていうか病院にいったのならお医者さんに見てもらってくればいいのに!!」
そう言ってからジャックの腕に触れると、
ジャックが痛そうに顔をしかめた。
怪我をしたところは流石に直接は触っていないけれど、まだ痛いんだ。
「ジャック、服の袖をめくるか、上着を脱いで!!」
「あ、ああ。」
私の勢いに流されてジャックが大人しく上着を脱いでソファーで大人しく座っている。
立ち上がってガレージにいつも置いてある救急箱を引っ張り出して、隣に座る。
まだ少し青いあざが残った腕に、お医者さんからジャックに出されていた薬を塗り、包帯を巻いていく。
誰も気をつけていなかったのか、薬は放置してあった。
どたばたしていたとはいえ、ちょっとこれはいただけない。
「…もう、ちゃんと治療しないと…大会中なんだから悪化したら大変なんだから」
「…あまり痛くは無いんだが」
「うそつき〜〜」
さっき触ったら少し痛そうだったの、見ていたんだから!!
そう言いながらくるくると包帯を巻き終える。
「これでよし、早く良くなってくださいね、ジャック」
にこりと微笑みながらそう言うと、
なんだかジャックがぼんやりとした顔で私を見ていた。
「…?」
「…なんだ」
よくわからなくて、首をかしげていると、
はっとしたジャックが慌ててなんでもないというけれど、気になる。
じーっとみつめながら、ジャックに詰め寄ることにする。
「…ジャック、気になるのだけど…」
「…いや、あの時も…お前の家に転がり込んだときも、こんなことがあっただろう!!」
ただ、それを思い出しただけだ!!
そう言うジャックの言葉を聞いて
あ、という言葉を零しながら思い出す。
…そういえば、そんなことがありました。
「…もう一年近くになるんだっけ…」
「そうだな」
あの時は、一年経ってもまだこうやってジャックの傍にいられるなんて思っていなかった。
多分ジャックもそうだろう。
…偶然、転がり込んで、転がり込まれて、
お互い打算ばっかりで、
だけど、私はジャックの事が本当に好きになって…
…こんな風に一緒にもっともっと一杯過ごしたいなんて、思っちゃって。
その願いは叶っているわけなのだけど。
なんだかドタバタしちゃって落ち着いて二人きりになんてめったになれない。
でも、それでもかまわない。
「アルカディアムーブメントに潜入してからの事は相変わらず思い出せないけど…」
「思い出すな!!」
ジャックが真剣に心配した瞳で私を見る。
「…うん、わかっているわ」
手を伸ばして、きゅうっとジャックのシャツを掴んでその胸に倒れこむ。
「こら、カーリー」
包帯を巻いていないほうの手がそっと伸びて私に触れるけれど、別に引き剥がそうともせず、肩に触れるだけだ。
「…だって、この頃こうやってジャックに触れる機会が無かったんだもの。
ジャックが怪我した今のうちなんだから」
「…なんだその理論は、よくわからん」
「えへへ、幸せ」
ほんとう、今はすごく幸せだ。
一年前にはこんな未来を想像すらしていなかった。
…ジャック達がまた大変なことに巻き込まれていることは知っている。
ちゃんとわかっている。
この幸せもいつまで続くかわからない。
チームユニコーンとの戦いが終わった後の祝賀会で、シェリーというDホイーラーが遊星やジャック達に忠告をしていた事や、
チームカタストロフの謎のクラッシュ事故…何も終わっていない。
「…ジャック、私…ジャックなら勝てるって信じているから」
「ああ、任せろ。チームカタストロフなぞこのジャック・アトラスが蹴散らしてくれる」
「うん、頑張って…!!でも、あまり無理しちゃ嫌なんだから」
ぷうっと膨れながら注意すると、わかっているとジャックがげんなりした顔で頷く。
「…イリアステルとかいう連中にも俺達は負けん、信じて待っていろ」
「うん」
そう言いながらきゅうっとジャックの胸にさらに強く抱きつくと、ジャックも抱きしめ返してくれた。
信じて待っているから、だから、絶対…無事に帰って来てね。
おわり
10/05/03up
WRGP始まってから、ってか、まあ、3期シーズン始まってからずっと
カーリーが出るとウェイトレス子とか狭霧さんが一緒なのでなかなか書きにくい(笑)
状態だったのですが、めずらしく104話はピンだったぞ!!
というか、この後試合あるまでどうしたんだろうとか思うとモワモワしますよ!!
このモワモワを形にすればいいじゃないか!!というわけで、
カタチにしてみました。
いやまあ、せっかくジャックが腕怪我してたのに、アッサリ治った?ので
あそこはほらやっぱダグナー編の時のようにカーリー治療したらいいのに!!
とかフガフガ思っちゃったのですよ!!
勝手にやってやったのでスッキリしました。
後は本編は超展開続いてますが、ジャッカリもとい、カーリーの真面目な出番が増えますように!!
それだけが願いだぜ!!
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