「すれ違いジグザク電波」




ピピピっ
という電子音を立てて体温計が測定を終えたことを知らせる。

「…37、6度、医者に行くほどでも無いかもしれないが、今日は仕事を休め」
「あうううう…で、でも…」
「こんな状態で外に出られんだろうが、出ないといけない理由でもあるのか」
ジャックがたまたま遊星がもらい物の果物をジャムにしたということで、
おすそわけにきてくれて良かったかもしれない。
…外に出かけられないほどでもない、
でもやっぱりしんどい、そんな体調だった。
多少乱暴だけど、ジャックが休め!!と言ってベッドに強引に押し込められて、
それでようやく、じゃあ、休もうかな?なんて思ったのだった。

「今日、取材の打ち合わせで編集部に行く予定だったけど
…電話しておけば、大丈夫だと思うデス。
原稿もネットで送信しますーって言っておきます…」
「うむ、ならば電話して今日は一日ゆっくりしろ」
そう言って、買い置きの冷えピタシートをベシンと乱暴に貼って、ジャックが台所に消えていった。

…派手な料理の好きなジャックの事だから、冷蔵庫の中身が今日中に無くなるかもしれないけれど、
まあ、ジャックの手料理を食べられるのなら、まあいいか、
なんて思いながら携帯で仕事先に電話をかけたのだった。





「ええええええええ!!うそおおおおお!!」

それは、カーリーの素っ頓狂な叫び声がベッドルームから聞こえてきた。
「どうした!!カーリー!!データでも飛んだかっ!!」
慌てておたまを握ったまま部屋に飛び込めば、
膝の上にノートパソコンと片手に電話を握って真っ青な顔をしている。

「ふえええ、ジャック〜ネットが繋がらなくてデータが送れないよう〜」
「…壊したのか?」
「ううん、今サポートセンターに電話したら、どうも原因不明だって…」
今日中にこのデータ送らないと駄目なのにいいい!!
とか頭を抱えてうわーんと泣き崩れるカーリー。

まあ、この辺りがネット不通だろうが、
俺がデータを持ってガレージにでも戻って転送してもらえばいいのではないだろうか。
冷静に考えればどうにでもなるだろうに、
熱のせいで脳が回っていないカーリーは思いつかないようだ。

そのあたりを指摘してやろうか、とか思っていると、
服の裾をきゅうっと掴んでくる感触がある。
視線を向けてみれば、うるうると目を潤ませたカーリー。

「えううう、どうしよう、ジャックー…」
「……っ!!」

そんな顔をするな!!
頼むからそんな顔をして俺を見るな!!
…お前の泣き顔など見たくないというのに!!

「…仕方無いな、今回だけだぞ。データをよこせ。
遊星のところからデータを編集部に送ってやる」
「ジャック!!大好きー!!」



というやり取りの後、連絡先を聞いた上にデータを受け取り
ガレージに戻ろうとDホイールに跨ったところで、
ふと、もっと早くデータを送る方法を思いついてしまった。


「む、編集部に直接このデータを持っていったほうがいいのでは無いだろうか」
距離的にはガレージに行くのとそう変わりは無い。
それに、直接データを持っていったほうが確実にデータが届くだろう。

「ふ…我ながら悪くない考えだな」

別に、カーリーの仕事場が見たいとかそういうわけではない。
絶対違う!!違うからなっ!!
クロウ辺りが聞いていれば、「誰に言い聞かせているんだよ、」
とかぼやきそうなことを言いながらDホイールに跨って目的地に走り出した。





「データ送ってきたぞ。ついでに胃に優しそうなものを買ってきたのだが…」
「わー!!ジャックありがとうなんだからー!!
あ、そうだ棚にもらい物なんだけどお菓子があったはずだから出すね」
「病人は寝ていろ」
ベッドから起き上がり、台所に向かおうとするカーリーをむんずと捕まえてベッドに押し込みなおす。
…まったく、油断できないヤツだ。

「大分調子よくなったよ?」
「…明日には仕事に出ないといけないだろう?
確実に今日中に治しきるぐらいの勢いでおとなしくしていろ」
「…ハーイ…って」
ベッドにすごすごと戻りかけたカーリーなのだが、ぷろろろろと電話が鳴る。
「仕事場から…う、記事に何か問題があったのかな…」

仕事関係ならばまあ、仕方あるまい。
そう思い寝室から出ようとした瞬間。
電話を取って何かを喋っていたカーリーが電話を切った後、素っ頓狂な悲鳴をあげた。

「…どうした?」
「じゃじゃじゃ、じゃっくう!あな、あな、あなな…」
バクバクと口をさせるだけで言葉になってない。
少々イラついて「はっきり言え」と低い声で言うと、

「…はいすみません…じゃなくってえ!!
なんでジャックが編集部にデータを届けに行っているのよううう!!
遊星に頼むはずじゃなかったのおおおお!?」
どかーんと背景で火山が噴火する勢いでカーリーが叫ぶ。

「…問題でもあるのか?」
「あ、あるに決まっているでしょううう!!
ジャックの特集記事だったのに、ジャック本人がその記事のデータを持っていくとかどういうことよー!!
どんな状況よおううう!!」
「…ああ、『どういうことナンデスカ?』とか聞かれたような…」
「ドウコタエタンデスカ!?」

顔を真っ赤にしてカーリーがずずいと身を乗り出してくる。
ええい、暑苦しい。とか言いながらベッドに再び押しもどしつつ。
編集部でのやりとりを思い出す。

「…荷物を届けに行ったときに色々カーリーにトラブルが発生して、
データを送って欲しいと頼まれたから、持ってきた。
とありのままを伝えたぞ?」
「………うん、まあ、事実そのままなんだけど…ね…期待した私がバカだったのだから…」
ずるずるとカーリーが布団に潜っていく。
「…あうう、明日仕事に行きたくない…絶対問い詰められるぅ…!!編集長怖いー!!」
「別に素直に関係を言えばいいだろうが。隠すようなものでもあるまいし」
少しだけむっとしながらそう言うと、

カーリーがひょっこり顔を布団から覗かせる。

「じゃあ、ジャックと私の関係ってどういうものなのか、ジャック教えてよ」
「…それは…」

今度は俺がうめく番だった。
どう説明すればいい?

「…ねえ、ジャック」

熱っぽい視線が俺をまっすぐに見ている。
…こういう時、遊星ならばうまく答えられるのだろうが、

俺にはうまく答えられない。
…思いつかない。


「……あー、…なんだ…腐れ縁も違うな…だが…絆、というには何か違うような、いやこれも一種の絆なのだろうが」
「はい残念時間切れなんだから」
うーうー、と唸っていると、くすっとカーリーが困ったように笑いながらそんなことを言ってきた。

「…なんだ、お前が考えろと言ったのだろうが」
「うーん、でもどうも明日までには答え出そうにないし、
待っていたら私の風邪悪化しそうだから、また今度までに考えてきてね」

じゃあ、私疲れたから寝るね。といわれてしまうと、俺は出て行くしかない。






一人になった部屋のベッドの中で私は悶々としていた。
自分が聞かれても確かにどういう関係なのか答えるのが難しい、と思う。
ダークシグナーの件があってから…
どこか、素直になれていないって自覚もある。

でも、
「……答えてくれてもバチあたらないと思うのだけど…ジャックのばか」





…なんだか釈然としない。
どうしてこんなにモヤモヤした気持ちを抱いているのだろう。

「…走れば少しはすっきりする、か?」
どうなのだろう。
走ったところで答えは出ない気がする。

たぶんきっと、素直な気持ちをあの時のように伝えることが無い限りは。

「…あの部分だけでも忘れるお前が悪い」
我ながら八つ当たりだと思うが、そんなことをぶつくさ呟きながらDホイールをとめてある駐車場に向かった。








fin





10/10/07up

もやもやーんとしておりますが。
本編からして色々寸止めだったり会話がなかったりとかするわけで!
というか、たまにはこういうモヤモヤするお話がかきたかったのです!
需要と供給は考えないのだ。

ネット不通とかのあたりはたまにリアルでもあるので怖いですよね。
というか、先日の5DSでデータ吹っ飛ぶお話でいやな意味でタイムリー!!(笑)
あの後カーリーの記事ができたのか心配です。
でもあの記事電波過ぎで雑誌に載せれない。ムーとかにいけとか言われる!!
そんなカーリーとジャックの明日はどっちだーとかいいつつ終了。

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