「失われたモノを埋めるモノ」
注意:タッグフォース5プラシドルートと本編134話なネタ満載の話





「ねえープラシド〜プラシドいないのー?なんだよ、ここにいると思ったのに…うわっ!!」

脱衣所に置いてある洗濯機に連日プラシドに連れまわされ、
デュエルで明け暮れていて溜まっていた洗濯物を放り込んでスイッチを押して、
次は部屋の掃除でもするか、なんて思っていたら、聞き覚えのある甲高い声が聞こえた。

「………」
「なんだよもうこんなところに雑誌とか置くなよな!!なあ、聞いているのかよ!!」
雑誌でも踏んだのだろう、床にいつも見慣れている白い服とデザインの似ている服を着た少年がしりもちをついていた。
…痛かったのだろう、目じりに涙が浮かんでいる。

「プラシドなら今日は来ていないぞ、たぶん…工場で調整、とか言っていた」
「そんなの見ればわかるよ!!ってか、見てないで助けるとかしないわけ?このポンコツ!!」
「……立てないほど強く打ったのか?」
首をかしげてそう言うと、ハアア?何バカな事言っているのさ、とか心底人を馬鹿にした顔で少年が立ち上がる。
ぶつぶつ文句を言いながら、プラシドにあったら文句を言ってやるとかなんとかいいつつ、
出て行こうとした少年…名前を思い出そうとして数秒考えたら、なんとか思い出せた。

そう。確か名前は

「…ルチアーノ、せっかくだからゆっくりしていかないか?」
「ハア!?なんでこの僕が!!プラシドじゃあるまいし!!お前みたいなポンコツと一緒にいなきゃいけないのさ?」
「……いや、近所で美味しいぶどうが販売していて、試食したら美味しくて。
多く買いすぎたから…食べないかなと思って」
そんな暇もないなら仕方ない。と続けようとしたら

「……ぶどうかあ、僕の好物じゃないか…そういえばしばらく食べてない…
プラシドのやつ自分の好みのモノばっかり買ってくるし…自分で買うのもアレだし…」
とかなんだか独り言を呟きながら目線が泳いでいる。

「食べるんだな、そこの椅子に座って待っていろ、ちょうど良く冷えているから」
…その姿がすごく年頃の子供らしくて、可愛かったから思わず、子供にするみたいに頭をぽふぽふと軽く叩いたら、
なんだか顔を赤らめながら「お前がどうしてもって言うから仕方なくなんだから!!」とかひねくれた言葉が聞こえてくる。

…ここで、プラシドになんだか似ているとか言ったら怒るんだろうな。
そういうところもプラシドに似ているとか思うと、なんだか面白いとか思いながら台所に向かう。





…何しているんだろう、僕は。
少し背の高い椅子に足をぶらつかせ、冷たくて甘いぶどうの粒を食べながら、
ベランダで大量の洗濯物を干している男をぼんやりと見ている。

デュエルしか出来ないとか思っていたけれど、案外普通の生活も出来るようにプログラムされているんだな。
…しかも、ぶどうが美味しいからついつい買いすぎたとか、無意味すぎるプログラムだろ?
誰だよあんなプログラムしたの、プラシドかな。
あー壊れたときにでもバグ混じったのかも?
まあ、どっちにしろあんなのが親代わりだったプラシドには同情してしまう。
プラシドに指摘したときの心底いやそうな顔を想像してキヒヒと、笑いながら視線を再びベランダに向ける。



あいつはプラシドの育ての親みたいなもんで、
まあ、僕もプラシドも同一人物みたいなものだけど、
僕の記憶にはあのポンコツの記憶はない。
僕の両親は、あの日、あの時、ずいぶん先の未来でいなくなってしまったあの人達だけだ。


だけど、
…だけど、単純な作業なのにどこか楽しげに洗濯物を干しているその姿が少しだけママに似ていた。



「……っ!!〜〜〜い、いたいしっ!!」
そんなわけあるか!!と思って思わず立ち上がろうとして、背の高い椅子だったことを忘れていた。
ゴツっと机の角に足をぶつける。
「…大丈夫か?」
洗濯物はいつの間にか終わっていたのか、空の籠を置いたポンコツが心配そうな顔をして覗き込んでいる。

「痛いよ〜ああもうこれ骨折したかも〜」
「なんだ、大丈夫そうだな。まあ…冷やしておくか」
「面白くない〜!!お前ぜんぜん面白くない〜〜!!」
「はいはい」

何が面白いのさ、楽しそうに笑っちゃってさあ?
僕はぜんぜん面白くなんかないって言っているのにさ!!


こうなったら無理難題を吹っかけて困った顔見てやる。
どういうのがいいかなぁ〜?と思いながらキヒヒと笑った。





とか、考えたのだけど。
ジュースが飲みたいといえば、ジュースが出てくるし、
美味しいもの食べたい、と言えば「ここにあるもので適当になるが」とかいいながらも
すっごい美味しい僕好みの料理を作るし、
映画見たいとか言ったらちょうどいい具合にホラー映画まである!!

「…ちきしょう…こいつの家、いや、こいつといるとすっごく居心地いい…」
「ん?」


綺麗なシーツのベッドの上でかもめのぬいぐるみを抱きしめて、
ぎこぎことスプリングを揺らして遊んでいると、案の定ちゃんと聞いていたのか、返事が返ってくる。
「なーんーでーもーなーいー!!僕あそこのデュエルマガジンがみーたーいー!!
サイバー流特集のやつー棚の一番上のやつ」
そう言うと、ずいぶん古いヤツ見たいんだな?とか言いながら雑誌を取って持ってくる。
渡そうとして部屋の片付けをしているポンコツにぽんぽんと自分の隣のスペースをたたく。

「…?」
今度はどんな難題をふっかけてくるんだ?
とか若干困ったような、微笑のような表情を浮かべてあいつが隣に座る。

あーあー、いいのかなー無防備なんだから。

にまーっと笑いながらぬいぐるみを置いて、よいしょっと、とか言いながら隣のひざの上に乗る。
「僕にデュエルマガジン読んでよーなーんちゃってー!!」
「わっ!!ぷっ!!ひざに乗るならそのマントとか一式外っ」
「えーー?何〜?聞こえないしー!!ほらほらー早く読めよー!!」
わざとマントをわしゃわしゃと動かしてジャマをしてやると
「見えるかー!!」とか「うごくなー!!」とか慌てた声が聞こえる。

そのうろたえた声に満足していると、
「あーもう、こら、いい加減にしろよ?ルチアーノ…うりゃっ」
「…へ…?ひゃっっ!!」
マント越しだけど腰のほうに手を伸ばされて脇を思いっきりくすぐり始めるポンコツ。
…本当不意打ちだったものだから、びっくりしてデュエルマガジン読みたかったのに届かないところに落ちるし、
布が多いから感覚としては本当ささやかなモノしか感じないけどくすぐったいし、
抵抗しようにも体格差もあってなすがままだし、

…まるで、休日でも仕事を持ってかえってきて遊んでくれなくて拗ねて悪戯をした時に
仕事をする手を止めて遊んでくれたパパみたいに大きな手で優しく抱かれていたら、

懐かしくて、戻らない過去を思い出して鼻の奥がツーンとする。

「…ルチアーノ?」
いつの間にかお互いに向かい合って抱きしめあうような格好になっていて、
僕はぎゅうっとしがみついていた。

だけど、こいつは何も言わないで、

「…ルチアーノは可愛いな」
「煩い、バカ」
なんてバカな事を言って、優しく頭を撫でてくれる。


どうしよう、

最初はプラシドのモノだし、本当に嫌いだったのだけど。
…嫌いじゃなくなってる。



そんな自分の気持ちの変化に気がついて、
コレは、この気持ちは、
このポンコツに執着しつづけるプラシドと同じなのだと気がついて、
自分自身に反吐が出る。


たった一日、いや、半日にも満たない時間しか過ごしていないのに、
こいつの事、嫌いになんかもうなれないよ。





「おいー起きろよなーこの僕が迎えに来たんだから起きろー
起きないとプラシドの鼻にオイルを入れて耳から流す」
「…なんだ、そりゃ」
「きひひ、だってさーお前に入れたって面白くないだろー?
…っと、おはよー」

朝、起きるとずっしりした重みを感じるとか思ったらなんか見覚えのある少年が馬乗りになっていた。
「…おはよう、ルチアーノ」
少年の名前を呼んでやると嬉しそうな顔をして、子供のように笑う。

「ほーら、早く起きて朝ごはん作ってよねー!!僕、ハムエッグ食べたい」
まあ、実際子供なのだろうし、可愛いのだが…、

俺は正直その後ろでゴゴゴとかギギギとかなんか凄い殺気を出してルチアーノをにらんでいるプラシドが怖い。

「…おはよう、プラシド」
「この俺よりも先にルチアーノに挨拶するようなバグで頭が死んでいるヤツなど知らんな」
朝の挨拶をしなければ、と声をかけるとギシっと凄い歯軋りの音を響かせながら、
本気でしょうもないことで嫉妬…と思っていいのだろうか?…しているプラシドに笑いかける。
「それでも俺が挨拶したいんだ、おはよう」
「…ふん。早く身支度をするがいい」
今日も忙しいぞ、なんていうプラシドはどうやら機嫌が直ったらしい?

…どうして直ったかはわからない。

が、今度はルチアーノがぷうーっと膨れて俺の腕にしがみつく。
「えーえー!!今日は僕にお弁当作ってくれるって!!」
「約束などしてないだろうがッ!!」
「プラシドには関係ないでしょー?っていうか何でお前が突っ込むのさ?
まあ、確かに約束はしてないけど、今日はこいつは僕にお弁当を作ってシグナーの連中をからかいにいくって決めたの」
ねー!そうだよねー!と笑うルチアーノはまさに天使のようだが、悪魔そのものだ。

「おい貴様どっちなんだ!!」
「そうだよーどっち選ぶってか、決まってるじゃないかー」
プラシドは爆発寸前で選ばなければ後が怖いが、
ルチアーノも機嫌を損ねると凄く大変だし、


どうしろというのだ。


「……とりあえず、朝ごはんにする」
問題は棚上げすることにする。
うむ、我ながら見事な答えだ。


そんなのんびりした暖かい空気の中、今日も一日が始まる。

他愛もないそんな日常が無性にすごく幸せだなあ、なんて事を思いながら。













おわり

10/11/14up

コナミ君とプラシドの関係がトンデモ展開だけど何それ美味しい!!
とかいう衝撃のTF5のプラシドルートがすべて悪いノデス!!
あと、萌え供給をしてくださるしんらさんが素敵に鬼畜だから仕方ないのです!!
ありがとう神よ!!なんか新しいものに目覚めました!!

でも、プラシドほとんど出てこないですけどね!!このSS!!
そっちは134話のルチアーノの「パパ?ママ?」があんまりにも可愛かったから仕方ないのです。
あれはもうダメージ一番でかかったです。
コナミ君のこと最初は毛嫌いしてたのにパパとママの面影を見てしまってなつくとか萌える。
あ、ちなみに同一人物の記憶を抽出した人工生命体?なのかな?とか思って書いてます。
アポリアさんの設定詳しく教えてくれ誰かー誰かー!!

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