「回転木馬を追いかけて」
2万HITゆる募集リクエスト:ジャックの焼餅やいてる話





「…ど、どういうことだああああ!!どうしてそうなるのだああ!!」
「ジャックうるせーぞー」


鬼柳がなにやら仕事でこの街になってきた。
そして会話の成り行きから明日もこの街に用事があるという鬼柳はこのガレージに泊まることになった。
ヤツの元気な顔を見ると遊星も嬉しそうだし、
俺やクロウにとっても鬼柳は大事な仲間だ。
お互いの近況やデュエルの話、積もる話はいくらでもある。
土産にと鬼柳が持ってきた酒が旨かったのもあって、一晩中に近い時間皆で懐かしい話をして笑いあった。


まあ、そこまではいい。
そこまではよかった。

次の日の朝、
『鬼柳、今日はどこに行くんだ?』
『ああ、これからデートなんだよ、デート!!』
『ほう、お前が女とだと…そんな浮ついた話が出るとはな』
雨にでもなるんじゃないのか、なんて笑ったのもつかの間


『ははは、今日の天気は晴れだぜ、じゃあカーリーとのデート行って来るぜー』


その言葉にびしりと固まった。

『気をつけてな』
『おうー夕飯いらねえなら電話しろよー』
『な!!なななあ!!』

そして、冒頭の叫びにつながるのである。





あまりにも煩かったのだろう、クロウが『そんなに気になるならこっそり後つけりゃいいだろー』と言うし、
ガレージで悶々するのもらしくない、
…後をつけるのはさておき、気分転換にいつもの店にコーヒーでも飲みに、と思って外へ出たのだが。


「…な、なぜここで二人が…っ!!」
いつも自分の座っている特等席にはニコニコと笑顔の鬼柳とカーリー。
何か地図を広げてああでもない、こうでもない、と何か楽しげにしゃべっている。

…だから、思わず路地に隠れてしまったのは仕方ないのだ。

「いやまて、なぜ俺が隠れなければならないのだ!!」
俺はコーヒーを飲みにいくのだ!!
決して二人が何をするのか気にしているわけではないッ!!
そう自分で自分の行動に突っ込みをいれ、路地を出ると…店からカーリー達はいなくなっていた。
「何ッ!!」
すでに見失っているだと!!
慌てて店に向かうと、馴染みのウェイトレスであるステファニーが注文を取りに走りよってくるが、今日はそれどころではない。

「いらっしゃいませジャ…

「…ここにぐりぐりメガネと胡散臭いどんよりした疫病神みたいな銀髪の男がいたがどこに行ったッ!!」

…ひいんっ!!
カ、カーリーさんとお連れの人なら…あっちの商店街に行くってー…」
「邪魔をしたなッ!!またコーヒーを飲みに来るッ!!」

ああんジャックぅー!!とかウェイトレスの声が聞こえた気がしたが、今日は忘れておくことにする。


商店街に自分にしてはずいぶんと急いでいけば銀髪の満足疫病神と横にいるカーリーをあっさり見つける。
…今回ばかりはあの鬼柳の目立つ外見に感謝しよう。
とか思いつつ柱の影に隠れて様子を伺うと、ずいぶんと可愛らしい店に入っていく。
遠くからだとよく見えないが、なにやら小物をカーリーが鬼柳に見せたりしている。
「…ああいうのが趣味なのか?」
少し違ったような。
と首をかしげていると
「何がッスか?」
「…いや、カーリーの趣味はあれほどわかりやすいほど少女趣味ではなかった気が…って!!
何故貴様がここにいるッ!!」
ヒイイイイイと泣きそうな顔をする居候先であるゾラのドラ息子
「おっかあから買い物を頼まれてっ!!…で、ジャックサンがなんだか深刻な顔してるんで!!
スミマセンゴメンナサイオジャマしてスミマセンデシターー!!」
…まあ、どうでもいいことなので脳みそからドラ息子Aを追い出し視線を店に戻せばすでにいない鬼柳とカーリー。

「……」
ギチギチと手袋が今にも破れそうな音を立てている。
ギギギと音を鳴らしながらぐるりと見回してもすでに八つ当たりできそうだったヤツは消えていた。

「ぬああああああああああ!!」
行き場のない怒りが咆哮となり街にむなしく響き渡った。





「…あれ?今のなんかジャックの声に似ていたような…」
「……あー気のせいじゃないか?」
「そうかな…そうよねー昼間からこんなところでブラブラしてるわけないと、思いたい…」
WRGP本選近いのにサボってたら本当もう許せないんだから!!とか言いながら、
カーリーが色々目当てのお店が書き込んである地図を覗き込むのを見て、こっそりため息をこぼす。

こそこそと後ろから本人は隠れてるつもりなんだろうけれど、
あれだけ図体でかくて白くて黄色くて目立つ外見なんだからわからないほうがおかしい。
柱からはみだした白いコートは何かの冗談としか思えない。

…冗談だったんだけどなあ。アレ、ジャック本気だと思ったのか…?
まさか追いかけてくるなんてなあ…。

ってか、カーリーがジャックのことを好きってのはダークシグナー同士だったときに色々話をしたので知っていたし、
わかりやすいぐらいだったわけなんだが。
ジャックはどうなのだろうと思っていた…が。
これはもしかしなくても、もしかするのだろうか。

「…あのジャックがなあ…」
寄ってくる女は多かった…が、それを全て邪魔そうに追い払いまくる姿ばかりしか見たことがなかったので、
ジャックが女を追いかけるなんてのは想像もつかなかった。

自分もずいぶん変わったとは思うが。
…人は変わるもんだ。

「…鬼柳さんーお店着いたよー?」
どうしたの?なんだか楽しそうとカーリーが首をかしげて聞いてくるのを見て
なんでもないぜーと笑いながらごまかして、買い物を続けることにした。






そこまで遠くは行っていないはずだと走り回るが二人は見つからない。
「…っく、見失った時間からしてそう遠くには行っていないはずだが」
どこに行ったんだ。と考えたところで、ふと我に返る。

「………」
何故俺がこんなに必死になって二人を探さなければならないのだ。

別にカーリーとは(今は)何も無いし、あいつがどこの誰と何をしようがカーリーの自由だ。
まあ、その相手が鬼柳なのは気に食わないが。
たとえば、なんだかんだでクロウと楽しそうに俺の悪口を言って楽しんでいたのを見てイラついたり、
あいつが遊星に取材をしているとき、二人して真面目な顔をして仕事をしているのを見て嫉妬だの、


「…し、しているわけが無い、無い、無い無い…」
考えたことを必死に頭から振り払う。
他人から見ればどうしたんだと心配される光景ではあるのだが、
そんなことはかけらも思いつかないほど俺は動揺していて、至った結論を頭から追い出そうと必死になっていた。
「何が?」
「のあああああああああああっ!!」
ぴょこっと視界に入ってきたぐるぐるメガネに悲鳴をあげる。
「ひっひえええええええっ!!」
なぜかカーリーも悲鳴をあげる。
「…何故おまえが悲鳴をあげるんだああああああ!!」
「え、え、だってジャックがスゴイ悲鳴あげるんだものっ!!
と、とりあえずジャックこっち!!すごいなんか見られてるよ!!」
もう、ジャックは超有名人なんだからーー!!人集まったら大変でしょうー?とか言いながら近くの喫茶店に詰め込まれる。

いつも出入りしているラ・ジーンよりも落ち着いた雰囲気で悪くない。
こんな店があったのか、と感心しながら4人が座れるほどのテーブルに連れて行かれ、座らされていた。
「あ、ジャックはコーヒーにする?紅茶にする?」
「コーヒー」
「はいはい。すみませんーこっちの人にブレンドコーヒーひとつお願いします」
しばらくすればコーヒーが届いて、その香りを楽しみながら一口飲む。
…うむ、ブルーアイズマウンテンにはかなわないだろうがなかなかのブレンドだ。
「あ、よかった。ここの飲み物リーズナブルで美味しいのよね。
いつかジャック連れてきてあげようって思ってたんだから」
「そうか」
「もうそれにしても吃驚したんだからー!!
鬼柳さんがちょっと電話かかってきたからーって外に出ちゃって待っていたら
店の外でジャックがいたんだもの」
くすくす笑うカーリーに…今更恥ずかしくなってきて目線を逸らす。

「っていうか、ジャックはあんなところで何をしていたの?」
「なんでもない気にするな…!!それよりもおまえは鬼柳と…」
鬼柳と何をしていたんだ?と言おうとして、
そこでぴたっと言葉が止まる。

「鬼柳さんと?」
カーリーが首をかしげて続きを待っている。

何をしているんだ、
普通に、いつも通りに聞けばいい。
今日は一日鬼柳と何を買ったり、話したりしていたんだと言えばいい。

…いやまあ、知っているわけなんだが。
楽しげに二人で話しながら色々な店に寄って、おまえは笑っていた。

そのことを思い出すと胸の奥になんだか錘でも落としたかのように黒い重いものがもやもやする。

「…ジャック、なんだか顔赤いし、ぐぬぬぬとか呻いてるし…大丈夫?」
ぺたりとカーリーの手が額に触れる。
視線を前に向ければ向かいに座ったカーリーが身を乗り出して心配げな顔をして俺の顔を覗いている。

誰のせいだ。
誰のせいでこんな!!

思わず叫びだしそうになったその瞬間。

「いやあ!!カーリーお待たせー!!ニコとウェストが交互に話すもんだから時間かかって…
あ、ちゃんとニコの靴のサイズ聞いてきたぜーー!!」
ぱああっと嬉しそうなオーラを振りまきながら鬼柳が席にやってきた。
「あ、よかったー!!じゃあこれで最後のお店でニコちゃんにあう靴買えますねー!!
よーし張り切って私選んじゃうんだから!!」
「おう、女の子の喜ぶモンなんて男の俺じゃわからないからなあ、頼んだぜカーリー」
「まっかせてください!!ニコちゃんのお誕生日プレゼント選びがんばっちゃうんだから!!」


何が何だか状況がいまいちわからないが、少しずつ理解をしていく。
…冷静になって考えれば鬼柳とカーリーがいくら元ダークシグナー同士だからとはいえデートとかありえないし、
そもそもそんな誘いをカーリーが受けるわけがなかった。
お人よしのカーリーだ。鬼柳が親代わりになって世話をしている姉弟へのお土産選び手伝ってくれないかとか言われたのだろう。

少し考えればわかることだったのに!!

「ってわけだから、もう少しカーリー借りるぜ?
ここの支払いは俺がしておくからジャックはゆっくりしていけよ

なんだか、すげえ疲れてるみたいだし」

ギギギギと首を横に向ければ、ニヤリと腹の立つ笑みを浮かべた疫病神の鬼柳が
俺とカーリーが座っていた場所にあった伝票を手に取り、
大きな荷物…ニコの誕生日プレゼントを抱えて…ついでに

「ジャックは今コーヒー来たばっかりだし、
本当は一緒にお茶したかったけど…荷物を送る手配しなきゃいけないし、私達は行くね!!」

カーリーもつれて出て行ってしまった。


ぽつーんと取り残される俺。


き、貴様は最初からこうなることがわかっていたとでもいうのか!!
ヤーイザマーミローとか笑いながら言っている鬼柳の顔を思い浮かべブルブルと震える。


そして二人が出て行ってから数分後。
本日何度目になるのかわからない叫び声がこのネオ童実野シティに響き渡ったのだった。










おわり





11/01/22up

大変お待たせいたしました。いつのリクエストだよ!!2万ヒット記念だよ!!
なかなか難産だったのはなんか気がついたらずるずるながーくなってきたぞーとか
そういう理由だったりします、あと本編の展開がほのぼのとか書いてる場合じゃない!!
とかそういう感じでシリアスだったというのもあります。
シリアスすぎで胃痛だよ毎週!!
最終回終わった後、こういうほのぼのしたネオ童実野シティが戻ってきますように
なーんて書き終わってしんみりしちゃいつつ、たまにはジャックが嫉妬する話でした。
鬼柳さんは趣味です。イイサティスファクションだったぜ!!



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