「おなじそらのした」
本編148話〜ゾーンVS遊星戦真っ最中のネオ童実野シティに十代がいたら、そんな妄想話





ごおんごおんと音を立てて空から廃墟の街が降ってくる。


いや、それだけではないのだけど。
キラリキラリと閃く爆発と、銀色の機体を追い赤い光の尾を靡かせて走る見覚えのあるDホイール。
空に浮かぶモニタに映る映像に合わせてデュエル大会でおなじみのMCがテンションの高い声でどこからか実況までしている。


…これが、街が落ちてくるなんていう状況じゃなきゃ楽しいモンだったのになあ。
なんてことを思いながら街中を走り回って逃げ遅れていた人を誘導していた足を止めて、
ビルとビルの隙間から空を見上げて唇をかみ締める。


『…そんなに心配だったら行ってやればいいじゃない』
「どっちの遊星が心配で?」
『…それは、君が決めることだろう』

珍しくユベルも歯切れが悪い。
本当、こんなことわからなければよかった。
ゾーンと名乗っていた機械のような男が自分のことを『不動遊星』と言わなければ、
あの『不動遊星』が遠い未来で世界を救おうと自分の存在を捨てて遊星になったなんて告白聞かなければ、
俺は俺の知っている不動遊星に力になろうとしたかもしれない。
実際、遊星の助けに少しでもならないかと思ってここまで来たのに、俺は動けない。
動くことが出来ない。


デュエルモンスターズによる破滅の未来。
それが訪れるということを俺は遊星のように否定が出来ない。
それはいつかダークネスによって見せられた破滅の未来そのもので
いや、させないとは思っているけれど、
それも無駄なのだというダークネスの笑い声が聞こえるような気がして胸糞が悪い。

…その破滅の未来から来たというパラドックスやアポリア、そしてゾーン達の主張は確かに同情するところはある、
俺だって、変えてしまいたい過去のひとつやふたつがあるし、
それは遊星自身にだってあるだろう。
確かに破滅の未来を回避するために街をひとつ滅ぼすなんてあまりにも強引過ぎるが
そこに至るまでの出来事や、悲痛すぎる決意を思うと胸が苦しくなる。
御伽噺じゃあるまいし、何かの犠牲無しに皆がハッピーエンドに終わる物語など無いのだ。
ましてや未来を変えるなんて奇跡、どれほどの代償がいるというのだ。

たとえこのデュエル、遊星が勝ったとしても何が犠牲になる?
誰の願いが壊される?
そんな現実は痛いほどに知っている、わかっている。

「…いっそ、アイツがダークネスとか破滅の光みたいにわかりやすいぐらい単純にただ世界を滅ぼそうとしてくれているなら」
そんな風にわかりやすいなら、
世界を滅ぼそうとする悪の親玉を倒すヒーロー、そういう構図なら、と思わずにはいられない。

だけどゾーンと名乗ったあの『不動遊星』は、違う。
あいつはあいつで死んでいった皆の期待を背負ってあそこにいて。
…きっと世界を救ったってあいつの仲間はもう誰もいなくて一人ぼっちのままで、
住んでいる街をめちゃくちゃにされたこの街の住民は、今までの犠牲者は彼を許さない。

…誰が、あいつが世界を救ったところで褒めてくれるんだ?
誰もいないじゃないか。

絶望しか残っていなかった世界で、期待を、希望を背負わなければならなくて、
『不動遊星』であるがために絶望することすら許されなかったあいつは壊れることも出来ないであそこにいる。

みんなの期待を背負うことがどれだけ重いことなのか、
それがたった一人になっても背負い続けることがどれだけつらいのかは
イヤになるほど自分で味わった。
そして、自分は覇王に全てを押し付けて逃げたというのに。

いっそ、あいつ壊れてしまっていればよかったのに、
なんて思って…言葉にしそうになってしまって、唇を強くかみ締めて言葉を飲み込んだ。


…そんな俺にあの『不動遊星』のために、
そしてそんな事実を知ってしまった今の遊星にどうしてやれるって言うんだ。


『十代』
ないているのかい?とユベルが視線は空に向けたまま話しかけてきた。

「…泣いてねえよ」
あいつらが泣いて無いのに、泣くわけにはいかない。

『なら、ここでぼーっとしてないで動いたらどうだい』
「ユベル?」
『…確かにどっちの遊星が正しいなんてわからない。
もしかしたら、あの未来から来たっていうアイツのほうが正しい可能性だってある。
…良かれと思ってやったことが後で酷い結果になったなんて経験、君にはたくさんあるだろう?
でも、そのことはあっちの遊星達が決める事で君じゃない。

…君は何をしにここに来たんだい?十代』

自分に向けられた鋭い視線が立ちすくんだままの俺に突き刺さる。

それは確かに正論なのだけど、
立ち止まるのは許さないなんて言われているみたいでなんともキツイ言葉だった。

「…本当、おまえって年々意地悪になっていくよなあ。
…まあ、そうだな。ここでぼーっとしてるわけにいかないよな。
街を落とすとは言ってるけど…落とすつもりの『不動遊星』も一気に落とさなかったわけだし、
犠牲はなるべく出さないようにとか考えてるかもしれないし、
まあ、どちらにしろ住民の避難とかそこらへんは地上にいる俺らの役目だよな」

あれだけ本音をぶつけ合ってるデュエルだ、
壮絶な力と意思のぶつかり合いの末にどんな答えが出るのかはわからない。
だけどどちらの遊星が勝つとしても未来は変わるだろう。

…変わればいいと思う。
それが、やさしい未来であればいい。


「もしも遊星達が出した答えが間違えたのなら正せばいいわけだしな」
にまっと笑ってユベルを見ると
『そこらへんの面倒を背負うのはやめてほしいけれど、仕方ないね』
「ま、大丈夫だって俺は思うけどな?」
『…さっきまでずいぶんと辛そうな顔をしてたのはどこの誰かな…』
「う、うるさい」
ユベルがあきれたような顔をしているけれど、困ったような顔をしてる俺の顔を見てくすりと笑う。
ああもう、本当なんでこんなに性格が悪いんだこいつ。

「よし、まだ逃げ遅れた人がいないかもうひとっ走り行くか。
まあ、落ちてくると決まったわけじゃないけど俺らも適当に逃げないとやばいしなあ」
『うんうん、十代にしては上出来な考えだ。じゃあ行こう。
…あの派手な実況はどこにいたって聞けるのだから、今度は止まらないでね』
相変わらずのへらず口を叩きつつも甘やかしてくれる魂の片割れに少しの文句をこぼしたりして、
そんなやり取りをして再び俺達は走り出す。


絶望はしない。
…きっと希望は見えてくるはずだから。
それが二人の遊星にもきっと見えるはずだから

「頑張れよ、遊星」

だから笑って前を駆け抜けた。








fin





10/03/02up

「ゾーン様、皆が期待とか希望とか託して死んじゃってるから絶望したくても絶望できないんじゃ?」
とかいう話を148話後に相方がぽろっともらして
うおおーとか勢いで書いた話なんですが、
149話で遊星本人ですらないというさらにキツイ展開というか設定で
なんだかもう、本当いっそただの悪人だったらとか思わずにはいられないというか
この切なさがどうにかこう形にしたいとか思ったら、
150話でやっぱり来たか遊星の説得というか、遊星が見せてくれる希望の光というか、
そこらへんで私の気持ちも遊星の熱さたまらないとか
まあ、そんなこんなで、展開に合わせてちょこっと書き直したりとか
二転三転しまくったりしたのはご愛嬌。リアルタイムで進んでいるから大変デス。

で、なんで十代なんだとかいうのは、遊星よりも十代のほうが多分ゾーンの気持ち理解できそうだなと
期待を背負って頑張ったのに手のひらからどんどん希望が零れ落ちていくところが
3期の覇王になるまでズタボロにされた十代だったらわかるんじゃないかなと。
まあ、それだけなんですが…あとは趣味です!!

十代とユベルがキャッキャウフフ成分が足りないのだよ!!
ドシリアスだから仕方ない!!

あ、タイトルは挿入歌予定なYAKUSOKU NO MELODYのワンフレーズから、
あの曲は未来組テーマなのかなあとかちょっと思ったり、すごくいい曲で好きデス。


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