エピローグ:青空の下で
久しぶりに目が覚めた。
消耗していたから、もっと目覚めは悪いものかと思っていたけれど、なんていうかスッキリしている。
青空の下を歩いても、前みたいに痛くない。
完全に回復しているのだろうか?でも、実体化はやめたほうがいいかなあ、
なんて事を思いながら、元レッド寮にふらりと足を運んだ。
「…しまったなあ、今っていつぐらいなんだろう」
アカデミアのほうに顔を出したら大徳寺先生はいるだろうし、
誰かしら捕まえてヨハン達に連絡することも出来たのに、誰もいないレッド寮では確認も出来ない。
しくじったなあ、そう思いながら一人、屋根の上でぼやく。
ばかだねえ、本当。
うるせーよ、ユベル。
独り言をぶつぶつと呟きながらぼんやりと流れる雲を見ていると、
緑の髪の少年と少女が歩いてきて、レッド寮のところまでやってきた。
…なんだか、女の子のほうと目があった。
もしかしなくても俺が見えてるのか、あの子。
…屋根から飛び降りて、その子たちの前に立ってみると、にっこりと女の子に微笑まれた。
「こんにちは、いい天気ですね…えっと、貴方がアキさんと遊星が言っていた十代さん?」
「…へ?」
マヌケな声を出してしまう。
男の子のほうは俺の姿は見えないらしく、え、どこ!どこにいるんだよ!!龍可〜〜!! と叫んでいる。
…目の前にいるんだけどな。
だけど、突っ込むどころじゃなくて、
どうしたらいいんだ、どういうことなんだと疑問符で頭がぐるぐるしている間に、
女の子が端末をぴっと叩いて誰かに連絡している。
電話が終わった様子のその子におずおずと話しかける。
「…もしかして、電話の相手って…遊星か、アキ?」
「うん」
「…ここに、来ているのか?」
「そうだよ?」
ああ、なんで俺が起きる日がわかっているんだよ、わけわかんねえと頭を抱えていると
「精霊達が教えてくれたからだよ、そろそろ十代さんが起きるって」
と、答えてくれた。
「そっかあ…そうなんだー」
そうとしか返事するしかなかった。
なんだろう、精霊内で連絡網でもいつの間にか出来ていたのだろうか。
「なあなあ龍可―!!どこにあの伝説のデュエリスト遊城十代がいるんだよおお!!
俺、デュエルしたいー!!したいー!!」
「龍亞、目の前にいるってば…それに、残念だけど十代さんは先約があるから、龍亞は後」
あ、実体化するの忘れてた。
ということを思い出して、ようやく実体化すると…やたらと男の子…龍亞という子に喜ばれた。
それを龍可という子が困ったお兄ちゃんだなあ、と笑っていたけれど…不意に、後ろを振り返って嬉しそうな声をあげた。
「アキさん、遊星!!」
その声を聞いて…森を抜ける道を見ると、懐かしい…酷い別れ方をしてしまった友達が走ってくるのが見えた。
遊星は相変わらずっぽくて、あまり変わっていないように見えたけど、
アキは…最後に見たときよりも、少しだけ大きくなって、綺麗になっていた。
びっくりだな、本当。なんて考えていたけれど…
次の瞬間…大事なことを思い出す。
最初に何を言えばいいだろう?
こういうとき、どう言えばいいのだろう?
ひさしぶり?ごめんなさい?あいたかった?デュエルしよーぜ?
そんなことに頭を悩ませながら、アキと遊星に笑いかける。
これで雨の日に現れる一人ぼっちだと思い込んでいた寂しい悪魔と、魔女と呼ばれた女の子の話は終わりだ。
…魔女も悪魔も、もうどこにもいない。
おしまい
あとがき
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