「ベッドのうえで」



異世界から帰還してしばらくたった頃、万丈目がレッド寮からブルー寮に移動することになったらしい。
「…聞いているのか十代」
「…あーごめん、半分ぐらい聞いてなかったー…」
昼間だというのにカーテンを締め切り薄暗い部屋の3段ベッドの下のほうからぼそぼそと聞こえる返事に
万丈目が沸きあがる怒りをどうしてくれようかと思ったが、
怒りが爆発する前に十代がえーととか呟きながら
「…ブルー寮に行くことになったがこっちで使っていたベッドは置いていくことになったから好きに使えって事と
たまに授業に顔出せ、だっけ?万丈目」
「…ああ、そういうことだ。あと、万丈目さん、だ!!」
俺はブルー寮で荷解きがあるから帰る!! とか文句を言いながら万丈目が帰っていった。

「あー…あれを聞くとこっち戻ってきたって実感が沸くなあ…」
ほんの少し前までは当たり前のやりとりだったはずなのに、酷く懐かしい。
…異世界であの後どうなったのか本当は聞きたいだろうに皆は優しい。
引き篭もった自分を心配しているけれども、強引に聞き出そうとはしないし、
なるべく十代の好きにさせてくれる。
…なるべく、以前のように接してくれる。
「…とりあえず、万丈目の部屋でも行くか…」
少しだけ切ない気分になってしまったが、気分転換にちょうどいいだろう。
とか考えて久しぶりに自室から出ることにした。

「…あーーすっげーふっかふかーー!! お日様のいい香りがするーーーー!!」
自分の使っているベッドよりも大きくふかふかの布団の上でごろごろと転がる。
ああ、やばい、これは凄く自堕落になりそうだ。
ちょっとでも外に出そうと万丈目は考えたのだろうけどこれは逆効果だ。
『……随分気に入ったんだね』
万丈目がいたときには完全に気配どころか存在まで消していたユベルの声がぼそりと聞こえた。
「いやー前に部屋に入れてもらったときからすげえ居心地がいいベッドだと思っていたけど。
まさかここまでとは思わなかった」
初めて万丈目の部屋に上がりこんだ時とか、
セブンスターズの連中が七星門の鍵を盗んだときに集まったりとかしたことを思い出す。
…あの時はかなりの人数でこのベッドの上に乗っていたけど
『……ふぅん』
ユベルは自分の知らない出来事を思い出しているものだからヘソを曲げている。
「ユベル、ちょっと出てこいよ」
『…何の用なの……って!! ちょっと十代!!』
俺に呼ばれてしぶしぶと、でも呼ばれたことに少し喜びながら出てきたユベルの腕を掴んで強引に引き寄せる。
ユベルにちょっと干渉して実体化させたので、ばふんっと大きくベッドが軋む音を立てて揺れる。
「……な、気持ちいいだろ?」
『…あのねえ…十代…』
隣に倒れこんだユベルが呆れた声を出す。
「…なんだよ、このベッドだったら二人で気持ちよく寝れるとか思ったのに」
『…いや、僕はそもそも精霊だから別に眠りは必要ないのだけど』
そういうことじゃなくて、とか言葉を濁すユベルが言いたいことは
…まあ、なんとなくわかっている。

…君をこんなに心配している人がたくさんいるのに、君はこれでいいのかい?
優しげに髪を撫でるユベルの瞳がそんなことを言っている。
…ばか、そんな悲しそうな顔するなよ。
お前のせいじゃない、俺がまだ心の整理がつかなくて皆の前に出れないだけだ。

とか言っても自分を責めたりするんだろうなコイツ。
…本当、難しいやつだ。
でも、そこが可愛いとかちょっと思ってしまう。

「…これからこっちで寝るとしたら、このままユベルと一緒に寝ようかな」
『や、それはいやだよ!!』
物凄い勢いで嫌がられる…残念だけど、それは逆効果だ。
そういわれると余計に一緒に寝たくなるじゃないか。
起き上がろうとするユベルの上に圧し掛かり動きを封じる。
手を封じられてもばたばたと身を捩って抜け出そうとするので、
体全体の体重をかけて押さえつけると、必然的にユベルの顔が物凄く近くに接近した。
『…あっ…』
「………!!」

真っ赤に染まった頬とか、潤んだ瞳とか、青いルージュを引いたような濡れる唇が凄く近い。
何か言おうとするけれど、言葉にならなくて…瞬きも忘れてお互いに見つめあう。
どきどきと鼓動が聞こえる。凄く早い。
…どっちの鼓動だろう、わからない。
きっと俺の顔もユベルみたいに真っ赤なんだろうな。
そんなことを思いながら吸い寄せられるように顔がさらに近くなる。
…唇と唇が触れ合う寸前に
「…なんだ十代さっそくこっちの部屋に来た…」
バターンと激しい音を立ててドアが開いた。

…万丈目が固まっている。
そりゃそうだろう。
元自分のベッドで級友が誰かを押し倒している。
どうみても言い訳が出来ない状況です。

「何をしているんだああああああああああ貴様はああああああああああ!!」
一瞬の空白の後、真っ赤になって烈火のごとく怒る。
…まあ、そうだよなあ。
言い訳をしようにもユベルは一瞬の隙を突いてさっさと逃げた。
…俺を置いて逃げたくなるよなあ、俺も逃げたい。

…そうして、3時間に及ぶ説教の後、万丈目によってふかふかの大きなベッドは撤去されることになった。
ユベルはやたらと嬉しそうだった…
押し倒される心配が無くなったからだろう。
ああ見えて意外に俺からのアプローチに弱いから安心したようだ。
くやしいから引き篭もり期間をもう少し延ばすことにした。

今日も3段ベッドの一番下で俺は引き篭もっている。


おわっとけ!


09/06/02up

サンダーのベッドはふかふかでエロいことするのによさそう(おい)
というわけで書いてみたんですがエロくはならなかった。
…大変残念でしょう。

とりあえずいちゃいちゃしたモノが書きたかったのでした!!


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