「覇王様の憂鬱」



暗闇の中で金の色が揺らめいて僕を貫く。
「…何をしている」
『…寝顔を見ていただけ』
ちっと舌打ちをして不機嫌そうに眉をしかめる十代…ではなくて、これは覇王だ。
『…どうして怒るのさ』
僕はただ十代の寝顔を堪能していただけなのに。
『だいたい、なんで今更覇王が出てくるの…』
「さあな、十代にでも聞け。最もアイツは深い眠りに落ちているが」

ぎしりとベッドを軋ませて覇王が起き上がる。

俺は所詮アイツの影にしか過ぎない。元々意思など無かった闇の力に擬似的な人格が出来ただけだ。
アイツの意識が深く沈むか、アイツの意思で呼び起こされなければ出てこれないぐらいの存在だ。
そんな自嘲めいた言葉が零れる。
はっ…とため息らしきものまで聞こえる。

…信じられない、覇王が。あの覇王が、無慈悲に冷酷に僕を打ちのめした覇王が
『…らしくないんじゃない?』
「……誰の所為だと」
……だんっと激しい音を立てて壁に打ち据えられる。
『…この会話の流れからすると僕…かな?』
「お前が十代の心の闇を刺激して俺を目覚めさせたのだろう?
ちょうど良い…一度、お前とはその件に関してお礼がしたいと思っていたところだ」
実体が無いはずの僕の体を掴んで、首をギリギリと絞めていく。
「…尤も俺が与えられるのは苦痛のみだが…お前は嬉しいだろう?痛いのは好きだろう?」

苦しい、苦しい、凄く苦しい。
覇王はその金の瞳で、冷たい目線で苦しむ僕を見ていたけれど、
不意に金色が揺らぐ。覇王は酷く傷ついた顔をしたように見えた。
傷つけられたのは僕のはずなのに、覇王のほうが苦しそうだ。

『……?』
疑問に思った瞬間、再び勢い良く床に叩きつけられ覇王が圧し掛かってくる。
強引に唇を貪られ、体を弄られる。慣らされている体はびくびくと反応してしまう。

突然、愛撫が中断され…はあっと熱い吐息を零して潤んだ瞳で見上げながらなんとなく察してしまった。
これは…酷く覚えのある感情だ。
十代に存在を思い出してもらえないときに感じた感情。
僕を見て欲しい、僕だけを見て欲しい、そんな辛くてたまらない、そんな気持ち。

「…不毛すぎる話だ、己自身に嫉妬するとは」
酷く辛そうな顔で僕を見る。
…本当に覇王がそんなことを思っているなんて信じられない。
「…馬鹿らしい、やめだ」
離れようとする覇王の手を思わず掴んでしまう。
ダメだ、ここでちゃんと言わないと…覇王がいなくなってしまう!!
『…僕の十代への愛は覇王への愛でもあるんだけど、わかっているのかな
同一人物とかじゃないってわかっているつもりだけど…
でも覇王十代も、遊城十代も大事な僕の一番の愛しい人。
…区別することなんかできないよ』
ずるいってわかってる。
それが凄く覇王を傷付けるってわかっているけれど、無理なものは無理なんだ。
ぼろぼろと涙が零れる。
「…泣くなユベル」
『覇王が泣かせているのでしょう!?』
「…お前が勝手に泣いているのだろう」
まあ今日はそれぐらいで妥協してやろうとか言いながら
どさりと力を抜いて再び僕の上に倒れこんでくる、慌ててその体を抱きしめる。
『…覇王?』
「……寝る」
『ま、まってよ!!…続き、は?』
「しらん、自分で慰めろ」
口元に意地悪げな笑みを浮かべて…金の瞳が伏せられる。
一瞬後には安らかな寝息が聞こえてくる。


…まったく、君は酷い男だよ。
でも、そこが愛しいのだけど。
仕方ないからこのまま寝てあげる。
今日は、覇王…君だけの寝顔を見続けてあげるよ。


おまけ
「……ずるい、覇王だけ…?」
『ま、まってよ十代!!今度は君とかもうやめてよ!!』







09/06/05up

覇ユベって萌えないかというトークの末に出来たシロモノ。
寸止めとか大好きですともよ!!
覇王と十代はドSなのでこの後もユベルが泣かされたり困ったりすると思うだけで
ゴハンが5杯ぐらいいけます。ユベルハーレムバンザイ!!

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