「なきむしのこども」



闇の世界から帰ってきたけれど、長い間闇の世界にいた俺の体は酷く弱っていて
青い空を久しぶりに見たと思ったのに、すぐに医務室送りになった。
酷く疲れているから、俺はよく眠っている。
夢を特に見ることも無く、深い海の中を漂っているみたいにふわふわと気持ちがよかったけれど
隣で誰かが喋っている。凄く聞き覚えのある声だが聞こえた。
その声で目が覚める。
最初に見えたのは金色と大きな羽で…オネストだ。
ゆらゆらと夢の中にいるような感覚のまま視線を横にずらすと、
白地に青の制服…吹雪がオネストの隣に座っている。
二人は仲良く喋っている。
…あれ?吹雪には精霊見えないはずじゃなかったっけ。

「…ふぶき…?」
疑問を口にしようとしたけれど、うまく喋れない。
「ん、起きたかい?」
オネストのほうを見ると、オネストはにっこりと微笑んで光の粒子になる。
…再び吹雪のほうを見ると
「何か食べるかい?といっても、スポーツドリンクとリンゴぐらいしかないけれど」
そういいながら、ベッドの隣にあるサイドボードに乗った果物を指差す。
「ふぶき、今…」
誰かと喋っていたの?と聞こうとして、まあいいやと思い直す。
深い眠りの淵で目が覚めたときにオネストや吹雪がいたらいいな、なんて思っていたし
本当に二人が傍にいてくれていたから
…夢と現実がごちゃごちゃになっているだけだろう。
ベッドから起き上がり、吹雪から良く冷えたスポーツドリンクを受け取りゆっくりと飲む。
その様子をにこにこと吹雪が見守っている。

「そうだ、これ…十代君から藤原に返しておいてくれって」
飲み終わった後、吹雪がカラになったボトルをゴミ箱に棄てながら
ポケットから一枚のカードを取り出して僕に渡してくれた。
…オネストだった。
受け取ったカードを大事にぎゅっと抱きしめる。
「…ありがとう吹雪。…十代君にも後でお礼言わなきゃ」
「そうだね、もうすぐ僕達は卒業だからね…早めに元気にならなきゃお礼は言えないよ?」
「うん」

吹雪にそういわれて。卒業、そっか…そんな時期だったのか。と気がつく。
医務室の窓が少しだけ開いていて、そちらに目をやるとやわらかい風がカーテンを揺らしている。


…もうすぐ、春だった。


「さみしい?」
「…うん」
素直にそう思う。
…自業自得とはいえ、亮や吹雪と一緒に卒業できなかったのを残念に思う。

「大丈夫だよ」

慰めるように優しく微笑みながら吹雪が言う。

「剣山君はちょっと口調は変わっているけれど、人懐っこい子だからすぐに慣れて仲良くなれるし
レイ君はまだ小さいのにしっかりした子だから、
そんな顔していると藤原の事が気になって世話を焼かれちゃうよ?」
ほかにもたくさんの名前が挙がっていく。

そうして、最後に

「…寂しくなったらいつでも呼んでくれればいいよ、
…流石にアカデミアにはなかなか来ることはできないけれど
電話ぐらいだったらいつだって大歓迎さ」

アカデミアには君がいないよと俺が言いそうなのを見越してなのか、先に言われてしまった。
「休みの時には僕のところにおいで?一緒に遊びにいこう。
…亮のところにも遊びに行こう、きっと凄く喜んでくれるよ」


本当は一緒に過ごすはずだった3年間はもう取り戻せないけれど
これから沢山一緒に過ごしていこう。


そんなことを言われるとますます吹雪が卒業のとき寂しいじゃないか。
ずるいよ吹雪。
「…まあ、それは今まで勝手をしていたツケという事で」
「…う、本当は巻き込んだこと…怒ってる?」
うらんでる?とは怖くて聞けなかった。
「勿論、怒っているよ…そこまで藤原が追い詰められていたのに気がつかなかった自分も含めて」
でも…
子供をあやすようにぎゅっと抱きしめられる。
「でも、よかったよ。…こうやってもう一度藤原に会えた。だから許すよ」
「うん」
鼻の奥がツーンとして、瞳から涙が溢れてくる。
「ほらほら、泣かないで」


ごめんなさい、ごめんなさい、ありがとう。
だいすきだよ、吹雪。誰よりも大好きだよ


「僕も大好きだよ、藤原。大事な、大事な僕の親友だ」

子供のように泣きじゃくりながら「大好き」と「ありがとう」と「ごめんなさい」を繰り返す俺の涙を拭って、
吹雪は頬に優しくキスをしてくれた。

…それは逆効果だよ、ますます涙が零れてとまらないじゃない。





おわり


09/06/11up

遊戯王関係でお世話になっている晴波さんお誕生日に贈ったSS。
4期はもうちょっと老後の楽しみにとっておこうと思ったのですが
藤原かわいいよ藤原という声に負けて藤原戦みちゃったよ!!
なにあの可愛い子!!

両親との写真とか、正気に戻ったときの泣き出しそうな顔とか
勝手に泣き虫のイメージがついてます。
帰還後こんなかんじで吹雪さんに謝ればいいよとか思って書いてみたSSでした。


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