「覇王様のぎゃくしゅう」
久しぶりに十代から電話があった。
『よう!!オブライエンひさしぶりぃ!!なあ、もう卒業デュエルの相手決まっちまった?』
世界中を飛び回っているらしい十代が、ジムのところに寄ったときにそろそろ卒業デュエルの季節だと聞いたらしい。
「いや、決まってはいない」
『じゃあ、じゃあさ!!』
どう考えても十代の意図は決まっている。…俺とデュエルがしたいのだ。
相変わらずわかりやすい。
そうして、俺と十代は卒業デュエルをすることになった。
*
それから、予定している期日が来た。
ウエスト校のデュエル場はあの本校エース遊城十代が来るということもあって野次馬まみれになっている。
「…遅いな、十代とジムは…」
…ジムの卒業デュエルの相手をしてからという事だしサウス校からの距離もあるから仕方ないとは思うが
流石に到着予定から2時間すぎている。そろそろ俺の卒業デュエルの時間だ。
仕方ないので相手が到着していないから順番を最後にしてもらったところで、
ようやく十代から到着したというメールが入った。
「やれやれ、仕方がないな」
悪態をつきつつも、
十代とデュエルをするのはいつぶりだろう?考えたらアイツには一度も勝っていない。
…今度こそ勝ちたいところだ。
それ以上に十代に会えることが楽しみだった。
…俺らしくない、大分アイツに感化されたな。そう思って思わず苦笑してしまった。
そうして、俺の出番がやってきた。
だけど、十代は来ない。
何を手間取っているのだろうか?
携帯で連絡しようにも残念なことに置いてきた。
…そういえば、ジムもまだ来ていないな。
特に用意することもないジムならすぐにこちらに来ると思ったのに。
「妙だな」
…考えてみれば、ついたという連絡もメールだった。
十代は一応メールも使えるみたいだが、どちらかといえば電話で話すほうを好む。
じわりと嫌な予感がした。
ここは異世界ではない、ダークネスも倒された。何も異常があるはずがない。
…考えすぎだと思っても、傭兵として鍛えた感覚が警告を送っていた。
酷く身に覚えのある悪寒がする。
そう思っていたら、ざわざわとした野次馬の話し声が突然止まった。
異様な気配を鈍い連中でも感じたのだろう。
静かになったデュエル場にコツリ、コツリと靴の音だけが響く。
酷く冷たい風を感じる。嫌な汗が止まらない。
そして、そいつは俺の前に再び現れた。
「…待たせたな、オブライエン」
感情をまったく感じない冷たい口調。金色の無慈悲な瞳
ばさりと真っ赤なマントを翻し、漆黒の闇の王が現れる。
ようやく十代が来た。だけど、十代は十代でも…覇王十代だった。
「………っ!!」
思わず銃型のデュエルディスクを構える。
だけど、体が勝手に距離を取ろうとする、逃げ出そうとしている。
…逃げ出さなかっただけ、まだマシだが。
「……十代はどうしたっ覇王!!」
「ああ、そのことか」
なあに、たいしたことはしていない。
「俺はお前に一度敗北している。もう一度戦いたかった。
今回の件を聞いたときに十代に『頼んだ』ら『快く』デュエルする権利を譲ってもらえたぞ」
「…お前から頼みごとだの…ありえないだろうがっ!!十代を解放しろ!!
あと、ジムはどうした!!」
「ああ、ジム・クロコダイル・クックか……途中までは一緒だったが…な」
ふっと思わせぶりに覇王が薄く笑う。
その表情で全てを察してしまう。
…ああ、親友よ…既にお前はやられてしまったんだな…
涙が溢れそうになる。だが、泣くわけにいかない。
俺は、アイツを倒さなければならない。
十代のためにも、ジムのためにも…
「ほう?戦う気になったか」
「あたりまえだ…構えろ覇王」
未だ震える手を押さえ、銃型のデュエルディスクを構えると、
覇王も円形のデュエルディスクを展開して、構える。
そうして、デュエルが始まった。
「…俺のターン。手札から魔法カード「ダークフュージョン」を発動。
フェザーマンとバーストレディを融合、…こい、Eヒーロー・インフェルノウイング!!」
…さっそく来たか、流石覇王だ。
「俺のターン!!ドロー…!!手札からヴォルカニック・ウォールを発動!!」
一度戦った相手だから、多少は相手の出方を予測できる。
だが、相手は覇王だ。
どれだけこちらがダメージを与えようとも冷静に状況を判断し、的確に対処してくる。
そうして
「絶対無敵!!究極の力を解き放て!!解放せよ…超融合!!」
ごうっとフィールドに覇王の最強Eヒーローが現れる。
「見せてやろう、心の闇が作り出した最強の力の象徴…現れろ!!マリシャスデビル!!
ヴォルカニック・ロケットを攻撃!!」
「…っち!!」
覇王城で戦った時と同じ展開になってきたな…
ブレイズ・キャノンの効果を使うなりしてマリシャスデビルを破壊するのは相手も読んでるだろう。
俺が覇王のLPを削るよりも先にこちらがLPを削られる可能性もある。
…良くて相打ちか?
もうオリハルコンの眼は無い、奇跡は起きない。
だが、俺も成長した…!!
「…ジムのためにも…十代のためにも…俺は勝つ!!」
ジム…力をかしてく「オーマイゴット!!もうデュエル始まってしまったのか!?」
…久しぶりに聞く能天気な声がデュエル場に響く。
ぎぎぎと後ろを振り向くと、デュエルアカデミア本校に留学していた頃とまったく変わらない、
いつもどおりカレンを背負ってにこやかな笑顔を振りまいているジムの姿があった。
「ジ、ジム…?……生きていたのか?」
「what?どういう事だい?オブライエン」
「…っち、もう来たか」
覇王が舌打ちをしながらサイクロンを発動してブレイズ・キャノンを破壊した。
貴重なモンスター除去方法であるブレイズ・キャノンを破壊されたことよりも、
今は…ジムが生きているその事のほうが重要だった。
カードを一枚伏せターンエンドした覇王にどういうことだと睨みつけると
「何、単純な話だ。…ここはあの異世界ではない。デュエルで負けても人が死ぬわけが無い。
たとえできるとしても十代が許すと思うか?」
オブライエン、お前のターンだと覇王が言っているが
…覇王なのに至極まっとうなことを言っている!! 悪夢だ!!
とか思っているとまともな思考ができない。
「では何故ジムがこんなに遅れて来たんだ!?」
「……カレンが検疫に引っかかったんだよ、まったく困った話さ。
カレンはマイファミリーだと理解してもらえるのには時間がかかったよ」
HAHAHAとジムが笑うが、俺は笑えない。
「…………」
いやむしろ、日本に来るときもよく引っかからないで普通に来れたものだ。
ひどくゆるい能天気な空気が流れる。先ほどまであった緊張感などすべて無くなってしまった。
ばかばかしい話にはあっと深くため息をつく。
混乱はしたけれど、ジムは無事だったので一安心する。
思わせぶりなことを覇王は言っていたがジムの件からすると
覇王は本当に俺とデュエルがしたかっただけなのかもしれない。
十代はデュエルの権利を覇王に譲っただけで無事だろう。
それにしても…俺を煽るためだけに覇王が演技をしたということか?
…落ち着いて考えてみればおかしくなってきて笑みが浮かぶ。
状況は悪い、このままでは負けるだろう。
…分の悪い賭けは嫌いだが、ここはこのドローに賭けるしかないだろう。
覇王のほうをまっすぐ見れば、お前はこれぐらいで終わるわけがないだろう?という顔をしている。
ジムのほうをもう一度見れば力強く頷いてくれた。
「俺のターン!!ドロー!!」
当たり前だ。これで終わるわけにはいかない。
…俺の卒業デュエルなのだから、俺が勝たないと締まらないだろう?
悪いが、このターンで勝つ!!
「手札より魔法発動!!」
勝利を確信し、手札のカードを掲げた。
おわり
09/06/25up
オブライエンが酷い目にあってる絵上げたので、酷い目にあってないSSをあげてみるけど
デュエルの結果ぼかしたけど多分覇王様の勝利で終わったとか思う。外道覇王様。
でもフルボッコするのが覇王様の愛情表現なのでした。
覇王様はいいところまで追い詰めたジムと相打ちとは言え負けたオブの事を十代以上に気に入ってそうです。
双子パロとか書いてもうちょっとこの二人と遊ばせたいなあ、もわもわ妄想だけは出てきます。
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