「やさしい未来」
ダークネスの事件があってからしばらくたったある日のデュエルアカデミア。
海の見える丘で一人と精霊2人がいた。
『君もさ…信じればよかったんだよ。愛するものの言葉を!! 思いを!!
痛み?苦しみ?それこそが愛じゃないか!!その苦しみを受け入れてこその愛だろう!?
そうすれば、その不安や恐怖から解放されていたんだよ!!』
「…まったくもってその通りです…」
『前半はともかく、後半は違うと思うマスター』
しおしおとしおれる藤原にオネストが困ったように微笑みながら藤原の肩を抱く。
そんな二人を見てユベルがあーくだらない。まったくくだらないとぶちぶち愚痴を漏らす。
『君の所為で本当酷い目にあったのだからね!!僕が十代を攻撃するなんて!!』
「…本当にすみませんでした…」
「ユベル、藤原が悪いわけじゃないだろう?それぐらいにしておけよ」
ぺこぺこと藤原が謝っていると、しばらく前に他の人に呼ばれて藤原やユベル達の傍から離れていた十代が戻ってきた。
『十代おかえりっ』
「ああ」
藤原を罵っているときには悪魔のような顔の(実際悪魔族の精霊ではあるが)
ユベルが花がほころぶような綺麗な笑顔で十代を迎える。
それを当たり前のように優しい笑顔で十代も受け止める。
そんな二人を見て藤原が眩しそうに目を細める。
自分にはどんなことがあっても、たとえ離れ離れになっても揺るがない気持ちがなかった。
失うことが怖すぎて、逃げることを選択した。
その結果…起きた結末がこれだ。
「すごいな…うらやましいよ、君達が」
思わず、そんなことを呟く。
「…そんなことないぜ、俺達も最初からこうだったわけじゃないからな」
十代がそう言って苦笑を浮かべる。
お前はダークネスと同化していたから知られていると思うけど、と前置きして
「俺は一度ユベルの事を忘れて、酷い目にあわせてしまったからな
忘れ去られることがどれだけ辛いことかは藤原ならわかるだろ?
…だけどさ」
忘れることが出来なかったユベルが嘆き悲しんで苦しんだ末に起きた出来事。
そして、多分きっと未来永劫、永遠に忘れることが出来ない十代自身が背負うことになった罪。
「忘れられないっていうのも、結構辛いものだぜ」
だから
「…忘れないで過去に縛られるのも、未来を恐れて忘れるのも、そんな両極端なのはダメなんだよな。
過去の事をたまにちょっと忘れることがあっても、未来にいつか
…あんなこともあったなって思い出すぐらいでちょうどいいのじゃないかな」
にっと笑う十代を見て
自分よりも年下のはずのこの人はどれだけ辛いことを乗り越えてきたのだろうなんてことを思った。
「…君にはかなわないよ」
「いや…そんなことないぜ、俺だってユベルや精霊達、翔や万丈目や明日香…皆の支えがあるからここに立っていられるし」
藤原にだって吹雪さんやカイザー、オネストがいるだろ?と目線で語りかける十代に、笑顔で頷く。
「また何か辛いことがあって、一人じゃ立ち向かえないときがあれば
…その時には呼んでくれよ、助けに行くからさ」
「…こっちこそ、俺は十代君に返せないぐらいの借りがあるからね。もしもの時には助けにいくよ」
「…ま、そういう事抜きにしてデュエルもしようぜー!!」
「うん」
そっと手を伸ばして、十代の手を握って握手する。
『ね、すごいでしょう僕の十代は』
誇らしげにユベルが笑う。
「すごいね。…こんなすごい人や君と友達になれて本当に嬉しいよ」
『ば、馬鹿!! 誰が君の友達なのさ!!』
ちがうの?と首をかしげる藤原にユベルが真っ赤になりながら抗議する。
「…ユベルは藤原みたいなヤツ見ると昔の自分思い出すからさ、ほっとけないんだぜー」
『…うう、なんと心優しい精霊!!』
十代とオネストがそんなやりとりをしているのを聞いてユベルがさらに怒って暴れる。
先の見えない未来に今も不安を覚えるけれど、過去の…今のこの輝く思い出がある。
かけがえの無い友達がいる、これからも出会うだろう。
たまには別れもあるかもしれなくて、悲しいかもしれないけど
そうやって、世界は廻っていくのだろう。
…ダークネスの世界にいて、全てを忘れていたのならば…そんな未来はありえなかった。
藤原の顔に本当に穏やかな気持ちで自然と笑みが浮かぶ。
「…ありがとう」
心からの感謝を君達に。
fin
09/07/05up
藤原可愛いよ藤原!!という電波を全力で受信して初めて書いた藤原SS。
吹雪さんと藤原よりも先に書いていたんですがアップするタイミングを逃しまして今更アップ。
藤原とオネスト、十代とユベルって結構にてるようで似てないよね、会話させてみたひ。
とか思って書いてみたSS
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