「星に願いを」



ぐるりぐるりと地球を回るカプセルの中で
きらきらと瞬く織姫と彦星を見る。
確か、今日は七夕のはずだった。
…どうか、どうかおねがいです。僕を十代の元に返してください。
何度も何度も願う。
必死になって願うけれど、星は瞬くだけで何もしてくれない。
何もしてくれないのだから、自分でどうにかするしかないじゃないか。






「もーいーくつねーるーとーたーーなーばーたー」
調子ハズレどころか、歌詞も全体的に間違えている。
もういくつ寝ると来ればお正月でしょう?っていうか今日が七夕だよ十代。
本当に日本人なのかな君。
そう思いながらも突っ込みはいれないで呆れた視線を十代に送るが
十代はそれを嬉しそうに受け止めて、にっと笑う。
「よっしゃー書けた!!」
七夕だからという理由でデュエルアカデミアの正門に大きな笹が置いてある。
ご丁寧に短冊まで用意してあって、物好きな連中がその短冊に願い事を書いて吊るすらしい。
ちなみに、十代が書いた願い事は…
『エビフライがたらふく食べたい…って、どれだけ小さな願いなの…
小さいときも同じこと書いたよね?エビフライが食べたいって…』
「おー、よく覚えてるなあ」
小さな頃の十代とまったく変わってない。
脳みそがまったく進化してない。

『もうちょっとスケールの大きな願い事は無いの?』
「えーだって、あまりスゲエ願い事だったら織姫も彦星も迷惑だろ?」
それにしても、残念だなー今日は見事な曇り空でさ。
なんて十代がのんびりした声で窓から空を見上げる。
つられて僕も空を見上げる。
酷い空模様で、下手すれば雨が降りそうだ。
…まるで僕の憂鬱な気持ちのようだ。


「なあ、ユベルは何か願いごと無いのか?」
空気を読めない十代がそんなことを聞いてくる。
『…無いよ、願い事なんか』
「…何か一つぐらいはあるだろ?」
『…無いってば』
思わず強い口調で言い返してしまったけれど、とまらない。
『……願い事なんかしたって、叶うわけ無いんだよ』


しまったと思ったけれど、言ってしまったことはもう取り消せない。
気まずくてそれっきり黙ってしまう。


しばらくして、
「まあ、そうだよな。俺だって…本当に叶えられた願い事なんかほんの少ししかない」
少しだけ自嘲気味に十代がそんなことを言う。

「俺もさ、昔…『お母さんが作ったエビフライがたくさん食べたい』って願い事したけど
結局出てきたのは惣菜のエビフライでさ
…今になれば忙しくてそれどころじゃなかったんだってわかるけど。子供心に結構ショックだったなあ」

…確かに、そんなことがあったね。
一人ぼっちの食卓でレンジで温められたエビフライをぐすぐすと泣きながら食べていた。

『…なんだ、十代も一緒なのか』
「一緒じゃないだろ、お前の願った俺の元に戻りたいって願い事は叶ったじゃないか」
…こういうとき、超融合したことが困ったものだなあとか思う。
『…それは、僕が努力したからでしょう?』
「間違った努力だったけどな」
恥ずかしい、すごく恥ずかしい。
照れている間に十代が僕を抱き寄せてしまって逃げられない。
「そうだな、織姫と彦星に願うのがイヤなら
…なあ、ユベル…何か願い事無いか?俺にできる範囲なら叶えてやるから」
甘く囁かれる。
ずるい、ずるいよ、っていうか、どこでそんなこと覚えてきたの?
もうこうなったらとことんワガママ言ってやる。


『…キスして』
「うん」
唇に軽く十代の唇が触れて離れる。
…それだけ?
『…もっと深いキスがいい』
「……ヘタだけど文句言うなよ?」
不満げに口を尖らせると十代が一瞬困ったような顔をした。
できるのだからやってもらわなきゃ。


あと、これは絶対叶えてもらわなきゃいけない願い事を口にする。

『…それから…もう離さないで、もう離れたくない』
「ばあか、離すかよ。お前が離れたいって言っても離さないからな」



本当ずるいんだから。
そんなことを言われたら嬉しくて死んでしまいそう。
そう思いながら、もう一度十代と唇を重ね合わせた。






おわり


09/07/07up

七夕だから!!というわけで十ユベです。
イチャイチャしてるだけともいいますが!!
十代は短冊にすげえウキウキしながらアホな願い書きそうだとか思って書いたら
いつもどおりいちゃいちゃしてました。

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