「君に指輪をあげる」



テレビで日本で皆既日食が見れるというニュースがここしばらくよく流れている。
皆既日食が見れる場所は太平洋側の南の島ばかりで、見れる島々の宿は満杯らしい。


で、どこからともなく皆既日食がここ…デュエルアカデミア本島でも見れると
聞きつけた卒業生達がアカデミアに押しかけてきた。
廃寮になったレッド寮を仮の宿にして今までの卒業生が日夜大暴れして、お祭り騒ぎだ。
そして、とうとう皆既日食の前日の夜…
ある意味伝説の存在である去年の卒業生達がアカデミア島に到着して、そのお祭り騒ぎは頂点に達しようとしていた。

「藤原!!おお、剣山、レイー元気にしてたかーー!!」
「きゃー十代様―!!」
レイが抱きついて、それを十代が受け止めてくるくる回っている。
「うん、なんだか十代…最後に会った卒業パーティーよりも元気そうだね」
「そうだドン!!なんだかこう、昔の先輩のようなカンジだドン!!」

元気そうなのはいいのだけど…レイ、それぐらいにしないとユベルの視線が怖いよ!!
『なんだよ、見てないで止めろよワカメ』
ムリだよ!!とぶんぶんとジェスチャーを送る。
「…ん、藤原誰と会話してるの?」
「…ユベルがあそこに…十代にレイがまとわりついてるからすっごい怖い顔してる…」
「へえーやあユベル〜元気にしてたかい〜」
吹雪が見えないのにユベルに向かってふりふりと手を振る。
…ああ、やめて!!余計にユベルの機嫌が悪くなっていくよ!!

「よーしデュエルしようぜー!!…人数多いし、タッグデュエルやるか?」
「じゃあ俺は十代と組むぜ〜!!」
「ヨハンずるい〜ずるいー!! 私が十代様とタッグ組むの〜!!」
「…天上院君、この万丈目準とタッグを…」
けっこうスペースのあるレッド寮特別室も今は凄く狭く感じるほどに人で溢れかえる。
…こういう騒がしいのもたまには悪くないけれど、ちょっと人に酔った。
そっとレッド寮の外に出る。

レッド寮の2階に上がる階段の途中で座り込んで空を見上げる。
今日はとても風がある、とても涼しい夜だ。
屋根の上を見上げれば色々な精霊達が精霊達だけで宴会をしている。
空には雲も無くて、月も傘がかかってない、多分明日はいい天気。

「…大丈夫?藤原」
「ん、ちょっと人に酔ったかも…こんなに騒がしいのは久しぶりだから」
こっそり抜けたつもりだったけれど、吹雪にはバレていた。
飲み物(お酒だ)を片手に持って俺の横に座る。
「でも…これぐらい騒がしいぐらいでちょうど良かったかも」
「どうしてだい?」
言うべきかどうかで、少しだけ悩む。


…悩んだけれど、吹雪に隠し事をしても仕方ないと思い直して話すことにする。
「…皆既日食って、ダークネスの事件を思い出すから…
…またあの闇に引きずり込まれるんじゃないかなって…ちょっとだけ不安で」


もしも、太陽がそのまま出てこなかったらどうしよう。
そのまま闇に包まれて、誰もいなくなって、また俺はあの闇の世界に。
オネストもいる、同級生でもある剣山やレイもいる…そんなことは無いってわかっているのだけど、
やっぱりまだどこか不安に思っている俺がいる。


「…大丈夫だよ、藤原。ちゃんと明日…日食が起こっても太陽は戻ってくるし、一人にも絶対しないから」
「…うん」
頷きながら、隣に座る吹雪に顔を摺り寄せると吹雪が優しく髪の毛を梳いてくれる。

そのまましばらく吹雪の好きにさせていたけれど、不意に吹雪の手が離れて、何かを取り出す。
「そうだ、日食用の眼鏡は持っているかい?」
「…そんなのが日食を見るのにいるのか?」
「なんでも下敷きとか煤で曇らせたガラスは目を傷めるらしいよ」
「ふうん…」
そうなんだ、それはしらなかった。

「藤原は持ってないと思ったけど思ったとおりだったね。これで一緒に明日の日食見よう」
手に持っていたのは少しだけサイズの大きめなサングラスだった。
「…なんで一つだけ…」
「同じレンズで一緒に日食を見たいと思ったからだけど?」
他に理由があるかい?と吹雪が笑う。

…その小さなレンズで見ようと思ったら凄く接近して、顔をくっつけないとダメじゃない?とか
…そんな光景を他の皆に見られながら日食見るなんて恥ずかしいことできないよとか
そんなこと言ったってわかってくれないんだろうな、吹雪だから。

「明日には君に特別な指輪をあげるよ、空を見ていてくれるかい?」
「……それって、まさか日食が終わったときに見れるってダイヤモンドリング?」
「もう、先に言ったら面白くないよ」


皆既日食が終わる瞬間、太陽の光が幻想的に輝いてまるでリングのように輝く瞬間に
『ほら、みて、あれが僕から君に贈る指輪だよ』
なんて密着しながら、耳元で囁く吹雪。


…想像しているだけで頭が痛くなってきた。
何が恐ろしいって本気で吹雪はやるという事だ。

「やめてくれ、俺は普通に皆既日食を楽しみたい」
「遠慮しなくていいのに、照れ屋だなあ藤原は」
「や、め、て、く、れ!!って言っているんだ!! 酔ってるのか!?吹雪のバカ!!」
がたんと立ち上がって、階段を駆け下りる。

「うわわっ大丈夫かー?藤原〜」
皆のいるレッド寮の特別室に飛び込む前に十代とぶつかりそうになるけれど
完全に頭にきていた俺はそれに気がつくこともなく部屋に飛び込んだ。





「…んーちょっとやりすぎたかな」
「…やりすぎじゃないか?吹雪さん」
お酒のおかわり持ってきたよと十代君がちょこんと僕の隣に座る。
いやだなあ、さっきの会話聞かれていたのかなあ。
「…まあでも…これで藤原も前の事件の事なんか思い出さないで皆既日食楽しめるんじゃないかな?」
…そこまでばれているとは、なんだか本当十代君は大人になったんだなあ。

でも

「皆既日食で指輪をプレゼントは結構本気だったんだけどねえ」
不評とは思わなかった。そこが残念だ。
「え、本気だったんだ吹雪さん」
冗談だと思ってたという十代君に不敵に笑う。


ちなみに、まだ諦めてなかったりする。


「あー明日晴れるといいね十代君!!」


本当、明日が楽しみでならないと僕は思いながら十代君が入れてくれたお酒をぐいっと飲み干した。







おわり


09/07/22up

皆既日食だ!!ダークネスだ!!つまり藤原の日だ!!
とかどこぞでやってるのを見て、これは皆既日食SSかかねば!!とか奮闘してみたら
皆既日食前日なSSができてました。あれー?

皆既日食で指輪は乙女のロマンですというわけで吹雪さんにやってもらいました。
当日もやって藤原にぼこぼこにされるよ!!

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