「Singin' in the Rain」
晴波さん主催のフブキングフェスタ09参加作品
ザアアアアアと激しいスコールがアカデミア島に降る。
…参ったわね、これじゃ約束の時間に間に合わないじゃない。
ハアと憂鬱なため息を一つ。
まあ、でもどうせ南国特有の通り雨なのだからすぐに止むでしょう
とか思いながらオベリスクの影に背を預けてぼんやりと過ごすことにする。
そうして過ごしていたら、天上院吹雪が雨かあ嫌だなァ、なんてぼやきながらやってくるのが見える。
そのまま素通りして濡れながらブルーの男子寮に戻ってくれればいいのに律儀に挨拶してくる。
「おやおや、これはクイーン小日向じゃないか、君も雨宿りかい?」
「そうよ雨宿り中…ところで私をクイーンと呼ぶなんて…
それは何か私にケンカを売っているということでいいのかしら、キング」
「おやこれは失礼、あと、僕の事はフブキングと呼んでほしいな」
…彼の妹がイヤだ恥ずかしいと嘆いていたのがよくわかる。
天上院吹雪、この学園のキング、自称フブキング。
…ネーミングセンスは最悪ね。
もっとも…デュエルのセンスはとてもいい。
デッキも美しいスフィアシリーズで…美しいだけじゃなくてとても強い。
彼に憧れて王子様だの黄色い声を上げる女性は多数なのだが…
…私は知っている。普段は本性を隠しているけれど実際の性格はかなりの曲者だ。
影でコイツに泣かされた男や女の数は数えるのも面倒なほどだ。
…それは私も似たようなタイプなので人の事は言えないが。
…まあ、そこさえわかっていれば、本気にならなければ、話し上手で楽しく過ごせる相手ではある。
「…んー暇だね、小日向。デュエルでもする?」
「イヤよ、こんな場所でデュエルなんて…濡れるじゃない。
それにアンタが相手だったら本気を出さないといけないじゃない」
諦めなさいとひらひらと手を振ると吹雪は嬉しそうにニコニコと笑っている。
「…何よ」
「いや、本気を出して戦わないといけない相手だと思ってもらえて光栄だなあと思って」
「そういう吹雪は私に本気で戦ってくれるのかしら?」
「それは勿論、レディの相手はいつだって本気サ」
「…ふふふ、ウソツキ」
くすりと私が笑うと、自然な動作で私の手を取ってキスを落とすフリをする。
…本当にキスしていたら平手の2、3発喰らわせるのを知っているからフリをするというあたりが本当にムカツク男ね。
まあ、その距離感の取り方がまた上手で心地いい。
それからは他愛の無いお喋りをして過ごした。
今日の授業の事、デュエルの戦略について、男女の寮での夕食のメニューの違いについて
…これが普通の女の子ならウッカリ本気になってしまうところだ。
「あ、大分雨も止んできたみたいだ」
「そうね、本当に通り雨だったみたいで良かったわ」
そんなに時間はたっていなかった気がしたけれど、時計を見れば意外に時間がたっていた。
しかしまあ、約束の時間に間に合うにはギリギリの時間だし
雨は小降りになってきたし、これぐらいなら大丈夫だろう。
雨の中走ろうかしら、なんて思っていると、
向こうの道から待ち合わせの相手が赤い傘をばさばさと振りながらこちらに向かっているのが見えた。
…どうやら迎えに来たらしい。
「じゃあねフブキング、いい暇つぶしになったわ」
「いえいえ、こちらこそ…小日向とこうやってゆっくり喋るのも久しぶりだからネ。
一緒にお話できて僕も楽しかったよ」
ひらひらと手を軽く振って吹雪と別れて赤い傘の元に向かう。
*
「どうした吹雪、こんなところで…」
傘はちゃんと持っていただろう?と遅れてやってきた丸藤亮が首をかしげながら僕に声をかける。
「ん、レディが一人ここで寂しそうにしていたからネ、話し相手になっていたのだけど」
うーん、さすが元クイーン。そうそう簡単に落ちてくれたりはしない。
むしろ邪魔だっただろうか?これ以上はやめたほうもよさそうだったな。
馬には蹴られたくないしなあなんて呟いていると亮が呆れたようなうめき声を上げる。
「…お前、マッケンジーはどうしたんだ…あちらはいいのか?」
「んー勿論、彼女は彼女でただいま攻略中サ」
「…本当、いつかお前は女性関係で身を滅ぼすぞ…」
「忠告感謝するよ」
やめてくれ、心配で胃に穴が開くのだから。なんて心配してくれる亮に微笑みかけて、
カバンの奥から折りたたみの傘を取り出して二人でブルー寮に向かい、歩き出す。
いやいや、雨というのもナカナカ悪くないなァ。とても楽しい時間だった。
女の子と会話をするのは本当に楽しい、そんなことを思いながら雨の中を歩く。
上機嫌に、ステップを華麗に踏みながら。
雨の中、唄いながら。
09/08/23up
フブキング祭というわけで参戦してみました。
フブキングはなんかこう紳士の皮を被ったドS様だと思うのです。
小日向先輩が絡んでるのは趣味です。ツンデレの時代なのだよ!!(カッ)
頭のイイ女と頭のイイ男の会話が書きたかったのですがうまくいきませんでした残念。
タイトルは某有名な映画の曲より。
いつか使おうと思っていたので使ってみた。
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