「Understand」





皆を元の世界に送り届けた後も俺とユベルの戦いは続いた。
長い長いデュエル、あまりにも長すぎてとうとう俺は力尽きてしまいそうになった。
家族達もボロボロだ。
それなのに、ユベルはまだ余裕がありそうだった。
『…まったく、よくもやってくれたよ』
ユベルが近づく。来るな、と言おうとしても声も枯れて出ない。
逃げることも出来ずユベルに強引に立たされる。
『とりあえず、失った力の分も含めて力をお前からもらおうかな…』
ぎしりと頭蓋骨をきしませる勢いでユベルが俺の顔を覗き込む。
『さあ、お前の心の闇を見せてごらん?』
視界いっぱいに怪しく光るオレンジと緑の瞳が映ったかと思った次の瞬間、
奴が俺の中に入ってくる気持ち悪い感覚が走る。

ユベルがくすくす笑う声が不気味に反響して俺の頭に響く。
気持ち悪い、気持ち悪い、見るな、やめろよ、気持ち悪い、気持ち悪い。
「あ。ああ、ああああ」
『ほら、心を開いて』

オレンジと緑の瞳の奥に何かが見える。
どんどんと奥に引き込まれてそれが大きくなる。

あ、

ちらりと星が瞬く、青い星が見える。
地球?ぐるぐると回りながら地球を見下ろすイメージが頭の中に浮かぶ。

『………貴様っ!』
ユベルが焦ったように翼をばさりと広げて俺から離れる。
ユベルが離れたことで頭の痛み消えたけれど、中に誰か入ってきた気持ち悪い感覚は残ったままだ。
でも、それよりも
いまのは、ユベルの

いたいよ、あついよ、くるしいよ。
十代、十代、十代、十代。
どうして僕を苦しめるの。

泣いていたユベル。泣いても、泣いても十代の声は聞こえない。
苦しくて、辛くて、狂いそうな痛みの末に一つの結論に達する。

痛めつけるのが、苦しませるのが、十代の愛なんだ。
だって、こうやって痛くてたまらない時間の間、僕は十代の事を忘れないのだから。

「バカだな、お前」
ぜえぜえと息を吐き出しながらユベルをまっすぐに見る。

ただ悪い奴なんだとだけ思ってた。
それだけじゃなかった。

本当にこいつは十代が好きなんだ。

『なんだよ、その目!!』
気持ち悪いものを見るようにユベルが俺を見る。
『僕の心を勝手に見て!!』
「・・・お前が勝手に見せたんだろう」
苦笑いを浮かべる。

ああ、本当にこいつは、ばかだな。
棄てられたと、嫌われたと思いたくなくて必死に自分をごまかして

『みるな!みるな!みるな!!そんな目で僕をみるな!!』
いやいやと駄々をこねるようにユベルが顔をゆがめて首を振る。

あんなに強大な力を操って強大な敵にしか見えなかったのに、今は小さな子供のように見える。
実際子供なのかもしれない。
小さな子供が悪いことだという自覚がなくてとんでもないことをしでかしたように、

『だって、だって愛してるって!! 僕のことずっと愛してくれるって約束したんだもん!
だから思い出してもらおうって思って…!!』
「だからってなにをしてもいいのかよ」
よくないだろ、あんな目に皆を、十代を巻き込んで
『だってそれが愛だろう?』
「違うだろ、お前だって本当はわかってるんだろ?ただそれを認めたくないだけだ」
静かに諭す。

『うそだうそだうそだうそだ!!十代が僕のこと嫌いなんて!!うそだあ!!
お前のいう事なんか信じるもんか!!』
とうとう泣き出しながらユベルが俺の首をつかみあげ締めていく。

苦しいけれど、もうこいつのことは怖くなくなっていた。
「ばか、だな」
ただ一言。謝ればよかったのに。
ごめんなさいと謝れば、きっと十代は許してくれたのに

意識が遠くなっていく。ああ、しまったなあ。
俺も謝りそびれちゃった。
俺一人が犠牲になんてこと、十代は怒るだろうああ。

帰りたくないかといわれれば、帰りたいに決まってる。
だけど、もうだめだろうなあ。

そうして、意識が完全に闇に落ちる。



殺してしまえばよかったのに、殺してしまってはだめだから殺さない。
この次元から逃げ出して再び十代の元に戻るにはこいつの、
正確にはこいつのもつレインボードラゴンの力を使っても足りるかどうか
ぎりぎりと歯を食いしばる。
お前の処分は十代にもう一度会えてからだ。
それまでは生かしておいてやる。


…お前は、ばかだな。
ただ一言謝ればよかったんだよ。
そうすれば、十代はゆるしてくれたのに。

脳裏にこの男が言った、一瞬繋がった心から伝わった言葉が浮かぶ。

『うるさい』
僕の十代のなにがわかるんだ。
僕の方が十代のことをよおく、よおくしってるんだ。
ほんの半年にも満たない時間を過ごしただけのお前になにがわかるんだ。
僕と十代の愛の何がわかるというんだ。

ああ、そうか。
簡単なことだ、わからせてやればいいんだ。

にいっと楽しいおもちゃを見つけた時のように笑う。
意識の無いヨハンに手を伸ばし、そのままずぶずぶとヨハンの体に沈んでいく。

宝玉獣達の悲鳴が聞こえるけれど、ヤツラには何も出来ない。
ヨハンが気がついても全てが遅い。この体は僕のものになる。
どうもコイツの精神は僕に合わないから、あのドラゴンの中にでも封印してやろうか
自由に動く体を失って、十代を傷つける自分を見たらどうなるだろうか
泣き叫ぶだろうか、怒り狂うだろうか、絶望するだろうか。
それを想像するだけでゾクゾクする。

『…一番の特等席で僕と十代の愛の深さを見せてあげるよ、ヨハン』

狂ったように泣きながら笑う。
きっと凡人には僕が狂っているようにしか見えないだろう。
でも、僕が狂っているならそれもこれも全部全部十代のせいなのだから、

これが十代の愛なのだから仕方ない。

ほんとう、お前はバカだよ。
という声が聞こえた気がしたけれど、きっと気のせいだ。

ホントウの事なんか、わかりたくない。
耳を塞いで、聞かないことにした。






fin


09/09/01up

ヤンデレなユベルさんを書こうキャンペーン2号のはずだったのですが
なんだか間にマンガ版が挟まってしまってヘンなカンジに、しくじったもっと先にアップすればよかった
とか後悔しても仕方無いのでさくさくアップ。こっちのが先にできてたんですがねえ
フブキング祭とか素敵なお祭りがあるのが悪いのです!!
とかいうお話は置いといて、

155話あたりの「思い込んではいけなかったのかい」あたりから妄想して書いたSSでした。
ユベルは前向きじゃなくて前向きなフリしてただけだと思うのですよね…

とりあえずヨハンはメンタル最強だと思うとかいいつつ終了。


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