「ランニング アフター」
ランナウェイ フロム…の続きです





ずっしりとした感触が布団の上にある。
違和感を感じて眠い眼をこすりながら布団の上を見てみると…
ぐっすぐっすと十代十代十代と呟きながら丸くなっている精霊がいた。


びっくりして変な声をあげちまったけど、仕方ないよな。


『急に煩いじゃないか!!バカフリル!!』
「いやだって、ビックリしたからさあ…なんでユベルがいるんだよ…」
『随分前からいたけど、…凄く気持ちよさそうに寝ていたところ起こして悪かったね?
…いい夢みれたかい?』
えらそうにユベルがふふんと笑う。
そんなユベルとベッドの上に座り込んで話をすることにする。

…ちなみに叫び声に驚いて俺の家族達が現在俺の周りをがっちりガードしている。
気持ちは嬉しいのだけど、狭い。

『…ほら、これ…このデッキの中に僕のカードはいってるの』
ごそごそと勝手にクローゼットをあさり、
ユベルが俺の体を乗っ取ったときに使っていた服についていたデッキケースの中からデッキを取り出す。
(あれってああやって開くモノだったんだ!!とか思ったのは秘密だ)
『で、これを媒介にしてここに来たの』
ぴっとユベルのカードをふりふりと振りながら、
わかった?と言うユベルの説明に、うーんと唸る。
『…何か言いたそうだね』
「うん、ユベルがここに来た理屈はわかったけど、どういう理由で来たのかなあとか…
十代と何かあったのかなあって思った」
そういうと、それまでちょっと余裕そうだったユベルがずーんと落ち込む。
…あっちゃあ…なんかマズイこと言ったのかなあ?


再びベッドの隅で丸くなってしまったユベルに何度か声をかけるが、反応がない。
仕方ないのでデッキケースから出てきたデッキを検分することにする。


「…うわ、ちょっとまてよ…これ、三幻魔じゃねーの…?」
赤いのと、黄色いのと、青いの、勿論アーミタイルもある。
まあ、考えてみたらマルタンに取り付いていたユベルがこのデッキを使っていたのだから、
その後自分が乗っ取られた後もこのデッキを使っていてもおかしくはない。
「んーハモンは俺のデッキに入れても使いこなせそうだよなー」
『…そ、それはやめなさい、ヨハン』
「えー?だめ?」
相変わらず警戒していた家族の中からアメジストがちょいちょいと大きな肉球でツッコミをいれる。
『十代が来た時にデュエルアカデミア本校に持っていってもらいなさい。
…どうせ、ユベルを迎えに来るでしょうし』
「…そうだなあ、俺には必要ないし、持って帰ってもらうか」
そうして、広げていたデッキをまとめていると

『…なんで、十代が迎えに来るってわかるのさ』
十代の名前が出たことでユベルが俺に話しかけてきた。
「なんでって、当たり前じゃないか」
『…だから、その根拠』
ふざけたことをいったらまた酷い目にあわせてやる。
そう呟きながら…こいつが本気になったらそれぐらいカンタンだろう。
じりじりとベッドの端から寄ってきた。

「だって、十代はユベルの事大好きだからさ」
真剣な目をしているユベルにこちらも真剣に…はっきりとそう言ってやった。

『…そ、そんなこと』
無い、とはいえないよなあ。本当はコイツだってわかってる。
苦笑を浮かべながら窓を指差す。

「…ユベルならわかるんだろ?十代が今何しているかぐらい」






ぶええええっくしょおおおおい!!
と、盛大にくしゃみをする。
「ううう、さみぃいい…上着だけじゃ辛かったなあ…」
南海の孤島であるデュエルアカデミアと違って、
アークティック校近郊はさすが日本よりも北国なだけあって、雪が積もっている。
とどめに猛吹雪だ。

万丈目と別れた後…ユベルの気配を辿っていると、ヨハンのところに転がり込んでいることがわかった。
…まあ、異世界とかに引っ込まれるよりはいいけどさ。

万丈目の兄ちゃんがちょうどこちらの方面にビジネスの話があって出かけるということで
万丈目のツテでなんとかここまでアークティック校のある国まで強引に入国したまではよかった。
問題はそこからで、教えてもらった電車に乗ったまではよかったのだけど
あと2駅ほどで到着というところで、あいにくの吹雪で電車が止まった。
外国の言葉で色々止められた気がしたけれど、大丈夫と日本語で答えながら吹雪の中を進んだ。

アークティック校はどこにあるかわからない。
でも、ユベルの場所ならわかる。
…都合が良くて便利な能力だなとか思いつつも、今はありがたい。
「しかしこりゃ…ちょっとしんどくなってきたかなあ…」
どこまでも広がる白い世界にぽつりと自分の赤いジャケットだけが浮いて見えていたけれど随分白くなってきた。


はあ、と自分が吐く息も真っ白だ。
あーあーなんだか眠くなってきた。
そりゃ、休まずここまで来たもんなあ。疲れても仕方ないことだ。
これがやわらかい白い布団ならよかったのになあ。

そう思いながら冷たい雪の上にばふんと倒れた。





『…ちょ、ちょっとまってよ十代そこで寝ちゃだめええええ!!』
「うえっ!!えええええ!!」
フリル野郎に言われて…確かに、十代の気配が近くまで近寄ってきていたから
意識を集中させて十代の居場所を探ってみたら…
なんか凄く大変なことになっている。
ベッドから飛び降りて窓から飛び出す。
後ろでフリルが何か叫んでいたかもしれないけれど、今はそれどころじゃない。

びゅうびゅうと風が嫌な音を立てるし、
風の影響受けないはずなのに上手く飛べない気までする。
はやくはやくはやく、
ああもう、なんで、どうして十代はこんな雪の中…どうして、どうして
天気が回復するまで待てばよかったのに、そんなに急ぐのさ
そんなの決まってる、理由なんか一つだけだ。
…僕を迎えになんか来て…
迎えに来たくせに遭難してどうするんだよ。

実体化していないのに、雪が目に当たって痛いような気がして、
じんわりと視界がぼやけて暖かいものがほろほろと零れる。
『じゅうだいの、じゅうだいのばかぁ…!!』





『ばかばかばかあああ!!』
目が覚めると、今度こそやわらかい布団の中だった。
ユベルがバカを連呼しながらぽかぽかと俺の胸をたたきながら飛び込んできた。
その頭をそっと撫でながら周りを見回してみると、見覚えのある顔が視界に入った。
「…あれ?」
「よ、気がついたか?十代…吹雪の中で寝たら死ぬぜー?
ユベルによく感謝しておけよ?ここまで十代を運んできてくれたんだから」
にかっとヨハンが笑いながらそういいながら、暖かいスープとか飲み物とか取ってくるよ。
といいながら出て行く。


後には、相変わらずぐすぐすと泣いているユベルと俺だけが部屋に残される。
ユベルの髪をそっと梳きながらぼそりと呟く。
「…ユベル、俺は謝らないからな」
『…僕も謝らないから』

最初にケンカしたのは本当…くだらない些細なことで、
それがいつのまにか酷く根の深い問題に変わっていた。
『僕なんか存在しなきゃよかったんだ』…勢いとはいえそんなことを言わせてしまうほど、
今も不安にさせていたなんて、しらなかった。
いや、本当は…知らないふりをしていただけだ。


「…でも、ありがとうな…助けてくれて…あと…」
そこで一旦言葉を切る。
万丈目に言ってやれと言われたけどさ?
…なんていうか、今更すぎるけれど、改めて言うのは凄く恥ずかしい気がする。
『なに?』
俺の胸からむくりと起き上がり、潤んだオレンジと緑の瞳が俺を見上げる。
覚悟を決めて、言おう。

「ユベル…大好きだぜ」

ああもう、ちょうどイイ位置にお前の顔があるから悪いんだからな。
何かを言おうとしていたユベルを無視して
髪を梳いていた手を頬に添えて口付ける。
そっと触れたユベルの唇はやわらかくて、あたかかくて、気持ちよかった。



ユベルが枕を抱えてベッドの真ん中でむすっとした表情をしながら座り込んでいる。
『…これぐらいで、僕が許すと思っているの?』
「許してもらえるまで頑張るぜ!!」
ほらほら、こっちに来いよと手招きするが動かない。
むしろ、枕に顔を埋めて顔を見せてくれない。
どうしたものかなと思っていると

『…十代』
「ん?」
『…ほんとうに、僕の事好き?』
枕の陰から不安げな瞳が覗く。
「ああ、好きだ」
まだまだ信じてもらえないかもしれないけど、少しずつその不安が消えますように
そんなことを思いながらもう一度言う。
「大好きだ」
『…僕も、すき…好き!!…大好きだよ、十代…!!』
そうして飛び込んできたユベルを受け入れて、思い切り抱きしめた。




おまけ

たっぷり1時間もかけて持ってきた(俺だって空気を読むことぐらいできる)
暖かい飲み物を十代に渡しつつ、聞きたかったことを聞くことにした。

「で、最初のケンカの原因は何だったんだよ」
「…ユベルをデッキに入れるか入れないかで揉めた」
「あー…十代のデッキじゃ相性悪そうだよなあ、維持コストとか」
『そ、そんなことないよ!!』
覇王十代が使っていたという悪魔族がメインのイービルヒーローならばもうちょっと違うのかもしれないが
ネオスがメインの十代のデッキにユベルを入れるとすると難しい気がする。
まあ、それでもそのデメリットを補うほどユベルの能力は凶悪だ。
入れてやればいいのに。
「いや、そうじゃなくてさ…デッキに入れてもいいんだけどさ」
もごもごと十代が顔を赤らめながらぼそりと呟く。


「あの時は…俺以外のヤツにユベル見せるのが嫌だなんて、言えなかったんだよ」
はずかしくてさ、とぽりぽりと頬をかく十代の言葉を聴いて
ユベルがしばらくその意味を考え…数秒後、ぼかんと顔を真っ赤にさせて爆発した。

『…バカップルね』
『るびー!!』
「…だなあ…」
家族と共に呆れたため息をつきながらコーヒーを飲んだ。
…砂糖を入れていないハズなのに、酷く甘く感じて頭痛がした。




fin



09/09/09up

ユベルの家出〜ヨハンの家におじゃまします編でした。
何は無くとも書きたかったのは十代がいつユベルを好きになったのかとか
前世思い出したから愛も思い出したとかだったら悲しいじゃないですか!!
ああ、こいつ好きだーとか思った瞬間に前世も思い出したのだと思いたいのですよ!!
というのと、4期でなかなかユベル出さない理由も捏造してみたかったのです!!
ヤンデレと超融合して嫉妬深くなりました。(オイ)

アークティックがドコなのか北欧系だと思うのですが、グリーンランド?
十代がどうやって短期間でいけたのかは…ファンタジーだから!!ファンタジー!!
パスポートは持っていたということにしても、ビザとかどうしたんだとかナゾ過ぎる
ユベル目で「問題はない」とか洗脳したのかもしれませんが(笑)

帰りもどうしたのかは考えてない。ネオスで飛んだのかもしれないけど。

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