「君は抱き枕」







十代が広いお風呂に行ってしまった。
どうもその温泉は精霊界にも繋がっているらしいので、ユベルも来るかと言われたけれど
他の連中もいるみたいだから辞退した。

…のんびりと広いお風呂を堪能しているのか十代はなかなか帰ってこない。
『……さみしい』
ほんの少し離れているだけなのに寂しくてたまらない。
狭い部屋をぐるりと見回すと、置いていかれた十代の真っ赤な制服の上着が目に入った。

そっとそれを破かないように手に取る。
ぎゅっと抱きしめた制服の上着からは十代のにおいがする。
思い切り吸い込むとまるで十代に抱きしめられているみたい。

実際はそうじゃないけれど。
…まあ、お風呂から十代から戻るまでの代わりぐらいにはなるだろう、なんてことを思いながら瞳を閉じた。





「ただいまー…ってアレ?」
いつもなら、おかえり十代遅いよ!!とか文句の一つぐらい飛んでくるハズなのに返事が無い。
きょろきょろと狭い部屋を見渡すと、三段ベッドの一番下の段に器用に折りたたまれた翼が見える。
「…おーい、ユベ…」


…寝てる。珍しい。


精霊だから寝る必要は無いとかなんとか言って俺が寝るときも天井に腰掛けて
…たまにベッドの傍で俺の寝顔を一晩中見ているようなユベルがすやすやと寝ている。
翼を傷めないようにうつ伏せに、でも息が出来るように何かを抱きしめてクッションにして寝ている。
…って、俺の上着じゃねえかよ、ぐしゃぐしゃになってるし。
それに、無理やり引き剥がそうにも物凄くぎゅうっと抱きしめているから取れそうにない。

…仕方ないか、と思いながらベッドの隅に腰掛けてユベルの寝顔を堪能することにする。
『…じゅうだいぃ〜…』
「はいはい、俺はここにいるぜ?」
寝言だろう…別に起きたわけじゃないけれど、返事をしてやって髪を梳く。
それでもユベルは起きない。

あーあー、本当すごい幸せそうな寝顔。
なんていうか普段の皮肉満載の意地悪な顔も嫌いじゃないけど、
素直そうな、少女のような顔をしているのも悪くないな。
…起きていたらこんな顔絶対見せてくれないんだろうけど。

俺もこんな風に普段顔に出さないような表情をして寝ているのだろうか。
…いや、それよりも今の俺ならユベルが俺の寝顔を堪能してしまう気持ちがわかるかもしれない。


なんていうか飽きない。
ずっとこのまま見ていたい。
可愛い、凄く、可愛い。愛しくてたまらない。


小さく笑みを浮かべながら髪の毛を梳いてやっていると
『…………』
真っ赤になって固まってしまった状態になったユベルと目があった。
あ、起きたのか。

「おはよう」
『…もう夜だよ』
「っていうか、まだ夜だな」
意地悪く笑うとますますユベルの顔が真っ赤になる。


『…い、いつからいたの?っていうかどれぐらい寝ていたの?僕』
「今さっき風呂から戻ってきたばかりだからそんなに時間はたってないと思うけど…っと!」
ひょいっとユベルの腕から上着を引っ張り出し、ベッドの外に放り投げる。
「ほらほら、もう少し奥に寄って」
『わ、わわ、ちょっと!!十代』
よほど慌てているのだろう俺になすがままにされながらユベルがベッドの奥に下がる。
それでスペースが出来たのでもぞりとベッドに潜り込む。
まあ、狭いけれど問題は無いだろう。

「これでよし」
『何が!!』
「…え、あんな上着よりも俺のほうがいいだろ?」

しれっと言うとユベルがううう〜とか呻いている。
恥ずかしさとか自分の欲望とか天秤にかけているのだろう。
…いやもう、あんなところ見られたらいっそ開き直ったほうが楽だろうに、
なんかヘンなところでユベルは素直じゃない。
いやもう、そこが可愛らしいが、なんとももどかしい、仕方ないヤツだなあ。
ユベルのほうが身長高いし抱きしめられる事はあっても抱きしめてやるのはあまりないから、
そっと頭を包む込むように抱きしめてみる。
まあ、これぐらいの角度なら翼も傷めなさそうだろうと確認して瞳を閉じる。

『十代!!じゅうだいっ〜〜っ!!』
「眠いんだよ、いいだろ〜?」
離して!!とは言うけれど、その割には抵抗が少ない。
『う〜〜十代のばかぁ…!!』
そのうち諦めたのだろう、大人しくされるがままにしている。
多分、すごい顔を真っ赤にして困った顔をしているんだろうなあ。

でもまあ、今日は凄く可愛い寝顔を見れた事だし、そちらのほうは我慢しておくことにする。
あー凄くいい気持ちで眠れそうだ、なんて思っている間に俺はあっさりと眠りに落ちた。

勿論、朝は物凄く爽快な目覚めだった。
ユベルは眠る前と同じ体勢で俺に抱きしめられたままで固まっていて、
目の下に器用に隈まで作ってぐったりしていたけれど…気にしないことにする。





fin



09/09/23up

実はコレ、18禁なSSだったのですが、
18禁はこのサバではアップできません、残念でした!!
とかいうわけで、18禁じゃないバージョン書いてみるぜーとか思って書いたもの
…書き終わってみたらぜんぜん別の話になっていたのはよくあることです。

ああ、いつか露天風呂できゃっきゃうふふとか膝枕とか
そういうネタも書きたいなあ。
こういうネタ書くと書きたくてたまらんです。

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