「満月の夜に」
ざあああと気持ちのいい海風が吹く。
まんまるのお月様とキラキラの星。
吸い込まれそうな高い高い空。
なんていうか、今にも飛べそうだ。
いや、飛べるのだ。
だって、俺の背中には翼がある。
ばさりと翼をはためかせて最終確認。
「アアアアイイイイイキャアアアン!!フラアアアアアアアアアイイ!! 」
そう叫んでレッド寮の屋根を全速力で駆け抜けて飛び出す。
イヤアアアッホオオオオオウ!!とか叫んじゃおうかななんて思っていたら
『ああああっ十代!!十代だめえええ!!』
とか、ユベルが叫ぶ声が聞こえる、すげー焦ってる?
何故だろう、とか思ったのも一瞬。
理由はよくわかった。
落ちてる、落ちてる、すげえ勢いで落ちてる。
やばい、頭からは流石の俺も死ぬ?
器用にくるりと空中で回って両足で着地する。
一瞬後にズウウウウンというすごい地響き。
そして、酷い痛み。
「ぐっぐはあああっ!!」
『ば、ばか!!だから言ったのに!!飛べるわけ無いって言ったのにーっ!!
お願いー十代しっかりしてええええ!!』
地面にうずくまった俺を必死に助け起こそうとするけれど、逆効果だ。
いたたた、触り方がいたい。すごく痛いんだって。
*
それはあの異世界から、ユベルと超融合してから、この世界に戻ってきて一週間後にその異変は起きた。
戻ってきた時から体が凄く違和感があって、気持ち悪くてたまらなかったのだけど、
特に背中が気持ち悪くて、部屋に篭ってうんうんと唸っていた夜に、めりめりと背中を裂いて翼が生えた。
変化はそれからも続いてユベルと同種族ですと言ってもおかしくない立派な悪魔に変わってしまった。
ユベル曰く、魂が一つになった事と、満月だからねぇ
超融合で不安定になっている体が満月のおかげで強くなった僕の力でこんな変化を起こしたのだろう。
そのうち力も安定して元の体に戻れるさ。
それにしても、翼が生えたときの十代の顔良かったよ、凄く可愛い声上げていたし、ちょっと興奮したかも。
とか言いながら涙の後が残る頬を舐められたり、
もういっそのこと、このままの姿でいない?なんて恐ろしいことを言われた。
それに関しては丁重にお断りしつつ、
で、せっかくなので、飛んでみようと挑戦して…結果がコレだ。
「うー、飛べると思ったのになあ、せっかくの立派な翼なのに」
『そりゃムリだよ、僕らみたいな精霊ならまだしも…君は半分ぐらいまだ人間だからね?
この世界の物理法則を無視するなら、もうちょっと色々工夫しないと厳しいと思う』
ベッドにうつぶせになって倒れる俺の髪をユベルが優しく、慰めるように撫でる。
『それに、僕も精霊になった頃は上手く飛べなくて随分苦労したもの、
初めて飛ぶ十代が失敗しても仕方無いと思うけど』
「ふーん、お前も飛べなくて墜落したりとかしたんだ」
『…そうそう、本当慣れるまで大変だった…って、何を言わせるの、バカ』
「自分で言ったんだろ?って、いたっ」
びしっと額に弾かれる。
あーそれにしても、飛べない翼じゃなあ。
痛む額をさすりながらため息をつくと鋭い牙は覗くし、
額をさする手は見事に鱗が生えている。
それぐらいで変化がすんでよかったとか正直思う。
額が裂けて3つ目になったり、片方だけユベルのように女の子になったりとかしたら
流石の俺も空を飛ぶぜとか暢気なことは言えなかった。
そう、俺はこれぐらいですんだけれど、
ユベルはそれどころじゃなかったよな。
自分の体が化け物になって、どれだけ辛かっただろう。
一人ぼっちの悪魔は泣き叫んで縋ることもできなくて、ただ我慢して
前世の俺を守るからとか理由とどれだけ並べたって、耐えられるようなモノなのか、これは。
『…さあ、もう昔の事だから忘れたよ』
困った風にユベルが微笑む。
…言われても、困るよな、もうどうしようもないことなのに。
「…ごめん」
はあ、とため息をつく。
だめだ、この体勢だとユベルを抱きしめたいとか思っても抱きしめられない。
『僕も後ろから十代を抱きしめてあげることも出来ないし、うーん、やっぱりちょっと不便かな』
「…服も着れないしなぁ…」
『それはそのままでいいと思うけど?』
「…いや、流石にズボンだけなのは、ちょっとなあ」
くすくすとユベルが困る俺を見て笑う。
そうやってしばらく雑談をしていたら、随分楽になったのでむくりと起き上がってベッドに腰掛ける。
変な体勢で寝転んでいたから体がバキバキだ。ぐるぐると肩を回す。
『…もう一度飛んでみる?今度は僕も実体化して補助するから』
「…頼んだ」
次はもう少しマシに飛べるだろう。
あの月まで、というのは少々厳しいだろうけど、
二人で夜空のデートなんて出来る機会はなかなか無いだろうから、存分に楽しもう。
『はい、十代…手を伸ばして?』
「おう」
Are you ready?
と微笑んで窓を開けて、手を俺のほうに伸ばすユベルに
うん、と頷いて
にかっと笑いながら、その手を取って窓枠を蹴って、
気持ちいい風と暖かいユベルの手のひらを感じながら、今度こそ俺は空を飛んだ。
fin
09/10/03up
10月といえば中秋の名月です。まんまるお月様。
というわけで!!満月ネタを先に上げてみた!!
あと!2年前の今日はユベルと十代が超融合した日でもありますので!!
超融合記念日というわけでいちゃいちゃSSあげてみた。
というわけで、十代とユベル超融合おめでとうございます。
ユベル祭にももう一枚イラストアップしたかったのですが残念無念である。
せめてSSだけでもあげるんだあああ!!
漫画版のSSはコレの次です、仕方無いデス。
いやもうそれに気がついたのが11時でして、超急いで作業してます、間に合え!!
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