「逢魔が時の魔物」
注意:漫画版とアニメ版のクロスオーバーモノです。







アカデミアに変な噂が流行っている。
曰く、夕方…そろそろ暗くなる、そんな時間帯にアカデミアの森の道を通ると、
誰かの未来の姿が見えるという話だ。



「…本当に見たんだってば!! アニキー!!万丈目君が!!万丈目君が!!」
「…俺が何だ?」
「うひゃあっ!!」
とてつもなく驚いた声で反応されて俺も一瞬驚いてしまう。
…授業だから教室に来て自分の名前が聞こえたら反応するしかないだろうが。
説明を求めるように遊城十代のほうを見ると、吃驚しすぎで咽ている弟分の翔を撫でながら説明してくれた。
「…ほら、今…夕方にアカデミアの森を抜けると誰かの未来が見えるって話があるだろ?
アレを試してみたら…なんか真っ黒い万丈目が出たんだってさ」
「…なんだそれは」

俺の制服はオベリスクブルーのもので、青い。
…それが黒いとはどういうことだ。

「それよりも何よりも、随分とお前…くだけた性格になるみたいだぜ、よかったな
1!10!100!1000!万丈目サンダー!!って叫んだんだってさ、カッコイー!!」
「……一つ言っていいか」
なんだ?と首をかしげる十代と翔に頭痛を覚えながら言っておくことにする。
「…そんな与太話を信じているのか、そんなことあるわけないだろう
俺の名前をかたった誰かのイタズラだろう?」

俺の未来?がちょっと森を通るだけで誰かの未来が見えるなんてありえない話、信じるなんて。

「…それがね、万丈目君…あながちウソじゃないっぽいのよ…たまたま通る用事があって森を出たら私も見たの」
天上院明日香がはあああと深いため息をつきながら、自分が見たものの説明をしてくれる。
「兄さんを見たの…アロハ着て
『明日香!!アイドルになろう!!もうすぐ卒業じゃないか!!卒業したら二人でアイドルになろう!!』
って迫ってくる兄さんを…」

…アロハを着てウクレレをかき鳴らす天上院吹雪…想像がつかない。
『僕はそういうキャラじゃないんだけどナァ』なんて本人が不機嫌になる姿は想像しやすいが。

「…実は、俺も見た…」
ぐすぐすとなぜか涙目になりながら三沢が告白する。
「卒業したのか真っ黒いコートのカイザー亮とブルーに昇格したらしい翔に会ったのだが…
『いたんだ、三沢君』だぞ…」
俺はいた!!ちゃんといる!!と呻いている三沢を見ながら…もう一度十代のほうを見る。

「いや、俺も試してみたけど別に何もなかったぜ?明日香に会ったぐらいで…おととい試してみたんだけどさ」
なー明日香と話しかけるが、おとといの夕暮れに十代と会ったかしら、なんて明日香が首をかしげているが
…まあ、いつも会ってるもんなー!!とか他愛の無い会話を二人で始める。

「…それにしても、こんなに体験したものが多いと本当に何かあるのだろうか」
「あるかもな、夕暮れと言えば黄昏時、逢魔が時なんていうからな…不思議なこともあるだろう」
「黄昏は夕暮れの事だろ…逢魔が時ってなんだ?」
首を傾げる十代に流石妖怪デッキ使い、日本の古い伝承に詳しい三沢だ。
逢魔が時の説明を説明をしてくれる。

「簡単に言えば「妖怪や幽霊とか怪しいモノに会うかもしれない時間帯」だな。
それに森というのも…森を抜けるとアカデミアや、海のほうに出るだろう?
ああいう「がらりと風景が変わる場所」というのもそういう不思議な所に
…神域とか、そういう場所に繋がるって言うからな…
ああいう不思議な事があってもおかしくないって事だ」
まあでも、と三沢が付け加える。
「…タチの悪い悪戯という事も考えられるからなあ、本当に怪奇現象が起こっているかどうかはわからん」
もう一度ぐらい確かめるべきだろうか、なんて三沢が言っている間に始業ベルの音が響く。

そうして、その話は終わりになって、俺の頭からそれきり忘れ去られていた。





今日の授業も終わったが、少しだけ調べたいことがあってそのまま教室にいて調べ物をしていた。
夕日が差し込み、そろそろ出ようと思い…誰もいなくなった教室から俺も出ようとした時に、
ふと、十代の席に生徒手帳が落ちていることに気がついた。
「……こんな大事なモノ忘れるか、普通」
いっそ置いていってやろうか、なんて思ったが
…レッド寮にどうせいるだろう、
調べ物で座りっぱなしで固まった体をほぐすにちょうどいいかとか思ったから届けることにした。

近道をするために森を通ることにした時、今朝の話を思い出す。
『…夕暮れ時にアカデミアの森の道を通ると誰かの未来が見えるんだって』

「…バカらしい」
頭によぎったそんな話に鼻で笑いながら、森を抜ける。
レッド寮はすぐそこで…十代の部屋にノックをして覗き込むが誰もいない。
…それよりも、レッド寮に人の気配がしない。
困ったな、とか思いつつ二階からぐるりと見回すと…灯台の下で十代が魚釣りをしているのが見えた。
「…なんだ、あそこにいたのか」
少し場所が離れているが、ここまで来たのなら渡してこようと思い、そちらに向かう。





『…今日は全然釣れないみたいだね、そろそろ諦めたら?』
釣りをしている十代に寄りかかっている精霊がくすくす笑う。
あいつのいつも連れているハネクリボーでは無い。知らない精霊だ。
「…うるせー、釣れないと夕飯のおかず何も無いんだよ」
『あの購買部のトメさんとかやらに頼めばいいじゃないか』
「…それは最終手段なの、っと…お?…万丈目」

十代がこちらに気がついたらしい、顔をあげてこちらを見る。

ざわりと悪寒が走る。

「……万丈目?」

いつもの赤い制服、いつもの茶色のツンツン撥ねた髪の毛
だけど、何かが違う。
つれている精霊が違うからじゃない、十代の姿をしているのに十代じゃない。

「お前…誰だ!!十代じゃないだろう!!」
思わず、叫んでいた。

「いや、えっと、万丈目こそ…」
立ち上がりこちらに手を伸ばそうとしてぴたりと止まる。
こちらも何事かと思っていると、目の前に相棒が俺を守るように現れた。
「…光と闇の竜…!!」
ほっとする。
アイツが何者かわからないけれど、こいつがいるなら…相棒が一緒ならば怖くない。

『…ふぅん、何様なの?オマエ』
十代もどきの傍にいた見知らぬ精霊がニイっと笑いながら前に出る。
相棒が威嚇するようにグルルルルと鳴き声を上げながら臨戦態勢になる。
その姿を見て精霊がフンと鼻で笑う。

『何、この僕にケンカを…って何をするの十代っ!!』
離して!!離してってば!!と叫ぶ精霊の腰にぎゅうっとしがみついて十代もどきが精霊を止めている。
「待てって言っただろう!!お前のナイトメアペインは洒落にならないって!!」
『あの失礼な精霊と万丈目モドキの化けの皮剥がしてやるだけだってば!!
っていうか、あの精霊…なんだかむかつくし!!』
「…あーなんか左右非対称でお前に似てるよな」
ちらりと二匹の精霊を見比べてそう言ったのを聞いて精霊のビキリと笑顔が凍る。
『似てないっ!!この僕に失礼だ!!謝って十代!!』
「……えー?」

すっかり置いていかれている。
相棒もどうしたらいいのかわからないらしく、俺の指示を求めて俺を見る。
…俺もどうしたらいいかわからない。
判断を迷っている間になんだか罵倒が激しくなってきた。

『…こうなったらさ、コレでケリつけようじゃない…十代!!』
「…結局こうなるわけか…いいぜ、デュエルしようか…!!」

…止めないとまずいだろうか。
相棒を見ると困った顔をしている。…なんとなく止めたほうがよさそうな気がして
二人がデュエルディスクを構えてデュエルしようとしているところで意を決して話しかけてみることにする。
「…あの…えっと、話しかけていいだろうか?」
「…あ、ごめん万丈目…ほらユベルちょっと待て、デュエルよりもこっちが先!!」
『うー…十代のばかあ!!』
本当ごめんなー…そうやって笑いながら俺を見るソイツの顔は十代によく似ていて…調子が狂う。



「…平行世界?」
『そう、この世界は…三幻魔の件とか破滅の光の件やら、僕の件やら、
この前のダークネスの件があっただろう?まだ次元の境界が不安定になっているのじゃないかな?
だから、別の世界と繋がってもおかしくない。
…で、この万丈目はこの世界の万丈目とはまた違う人生を送っている別の世界の人間って事…
うーん、別の世界から来たっていうよりは、ちょっと世界が重なっているのかな…?
まあ、推測だけど』
「あーだから、なんかこの頃知らないヤツ見るとかいう噂がまた流れてるとか思ったけど…それが原因?」
まだ不機嫌そうにむくれているユベルを十代が優しく宥めていると、
俺達の話を聞いて色々考えてくれたらしく一つの推論を話してくれた。

その推論が出たのも…十代もどき…面倒なので十代と呼ぶが、
十代とお互いの話をしていると俺のいた世界とは違っていることに気がついたのが原因だ。

「響紅葉?…あ、知っているぜ!!その人今度エドと対戦するんだよなー!!
あ、エドっていうのは俺の後輩でもうプロリーグで戦ってるヤツなんだけど、
響プロってすっげえヒーロー使いらしいから俺も注目しているんだけど、その人がどうかしたのか?」
あの響紅葉の事を知らないという事が決定打になった。
俺の知っている十代ならば、あの響紅葉の事をそんな風には言わない。
ハネクリボーも…いるらしいのだが
(こちらの十代曰く、知り合いの精霊と遊びにいってしまっているらしい)
多分俺の知っているあの精霊ではないのだろう。
「…というか、精霊がたくさんいるんだな…こちらのアカデミアは…」
ちらりと十代に絡み付いているユベルを見て、そう呟く。
「…そっちの万丈目のところはあんまりいないみたいだな…
っていうか、オジャマ兄弟とか攻撃力0の連中とか、黒蠍盗賊団がいない万丈目ってなんかヘンな感じだなあ…」
こちらの俺は想像がつかないぐらい多くの精霊を傍においているらしい。
…本当に別の世界なんだなと実感して、なんだかヘンな気分だ。

「だが、こちらは平和そうだな…」
響紅葉はプロとして華々しく活躍していて、
あのトーナメントであった闇のデュエル、負けた相手を意識不明の重体に陥らせるようなことは無いみたいで、
…精霊が、俺の相棒や俺の世界の十代が連れているハネクリボーが狙われることもなさそうで、少し羨ましい。
「…まあな」
『………今はね』
何故か十代とユベルが歯切れの悪い返事をするが、その事を疑問に思う前に十代が笑ってごまかされた。
…聞くべき事では無いのだろう。

俺がそれ以上聞こうとしないようなのでその話は終わりという事になったのだろう。
「…それにしても綺麗な竜だな、俺こんなに綺麗な精霊はなかなか見たこと無いぜ?」
十代が相棒を見上げてそんなことを言う。

「あ、ありがと…う…」
そんな風に相棒の事を言ってもらうのは初めてだから、
しかもそれが十代と同じ顔だとやっぱりなんだか変な気分で、照れる。
「……うんうん、素直で可愛いなああっちの万丈目は!!」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
わ、わ、変な声を上げてしまうが、十代はますます嬉しそうに俺の頭を撫でる。

「ちょ、そろそろ…やめ…っ」
やめてほしいと言おうとした瞬間、髪の毛をぐしゃぐしゃにしていた十代の手がぴたりと止まる。
「…十代?」
「ちょっと動くな万丈目…なんだ、これ」
『…十代、それ…』
「ああ、わかっているって」
俺とじゃれているのを不機嫌そうに見ていたユベルまで真面目な顔をして俺に近づく。
すうっと十代の目が鋭く細められる。一瞬その目が緑とオレンジ色のちぐはぐの色の輝いたように見えたが…
あまりにも真剣な顔だったから、大人しく動かないでいると
髪の毛についていたなにか小さなかけらのようなものを十代が引っ張り出してきた。

本当に小さなかけらで、ゴマ粒ほども無いモノでそんなものをよく見つけられたモノだけど、
十代の持っているソレに俺は見覚えがあった。

「…デイビット・ラブやレジー・マッケンジーのつけていたイヤリングの欠片…?」
まさか、あのトーナメントの時に…デイビットと戦った時にヤツがつけていて…
デュエルの終わりと共に砕け散ったアレだろうか。
確認するために相棒を見ると、相棒も頷くような仕草を見せてくれる。
…やはり、アレと同じものだったらしい。

「えい」
十代がプチンとソレを潰すと黒い靄のようなものが一瞬見えた気がしたが、すぐに掻き消える。

『ちょ、ちょっと十代そんなもの不用意に潰さないでよ!!』
「…んー大丈夫だろ、ただの残りカスみたいだったし」
もう大丈夫だぜ、と十代が笑うけれど…なんだか気持ち悪くなる。
「本当に厄介な相手を敵に回しているみたいだな、アッチの万丈目や俺達は」
「ああ…」
苦笑する十代に苦虫を潰したような声をあげながら俺も返事をする。

「だけどさ、大丈夫だと思うぜ、俺は」

少しだけ不安になった気持ちを…
十代が光と闇の竜を見上げながら俺を励ますように言葉を紡ぐ。
「どんな困難もお前が…光と闇の竜…お前の相棒と…お前のカード達を信じているなら、乗り越えられる」
それにきっとあっちの世界の俺だってお前の事を助けてくれるって。
だって、俺だからな!!とにっこりと十代が笑う。

「お前に言われなくてもそのつもりだ。
俺は…相棒と共に戦う覚悟は出来ている。どんな敵が来ようとも…俺は俺のデッキを信じて必ず勝つ」
「頑張れよ、万丈目」
随分と生意気な言い方だったのに、十代は優しく微笑みながらそう言ってくる。
…俺の知っている十代なら「ツンツンするなよー」と拗ねるだろうに、
改めて俺の知っている十代じゃないのだと納得してしまった。

「…それにしても、万丈目…どうやってアッチの世界に戻るんだ?」
「…どうやって戻るのだろう」
忘れていた事を思い出して…首をかしげる。
翔や明日香達はどうやって戻ったと言っていたのだろう。
『大丈夫でしょう?もうすぐ夜だもの。逢魔が時は終わるのだから
…気がついたら元の世界に戻っているとかそんな感じだって、深く考えないほうがいいのさ、こういう事は』
「…そういう事なのか?こういうのって…結構いいか…」
そうこう二人が言っている間に夕日が沈んで…すうっと辺りが暗くなる。

え?と思っている間に目の前にいたはずの二人が見えなくなる。
チカチカ、という電気がつく音がして…傍にある電灯がつく。
再び視界が元に戻るが、もう二人はいなかった。
相棒を見上げると、相棒もビックリしたような顔をして俺を見る。
「…なるほど」

本当にいい加減な話だ。



「あーーっ!!万丈目!!ここにいたー!!」
聞き覚えのある能天気な声が聞こえる。
傍にはくりくりぃ!!と鳴くハネクリボーの姿も見える。
「…なんだ、遊城十代」
「なんだじゃないだろー?…いや、お前が最後まで教室いたみたいだからさー
…俺の生徒手帳しらないかなーって思って探していたのだけど…」

知らない?と首を傾げられて…そうだ、生徒手帳を届けるハズだったのだと思い出す。
「ああ、拾ったが…寮にお前がいなかったからな。
大事なモノだし、そのまま部屋においていくのもどうかと思って…」
ポケットの中から十代の生徒手帳を取り出して渡す。

「…あちゃー入れ違いだったのか、ありがとうな万丈目!!…光と闇の竜もありがとうな!!」
にこにこと十代が笑っていたが、軽く首をかしげる。
「あれ?でもなんで万丈目こんなところに?」
こんなところに俺がいるとか思われたの?と言う十代に
「…さあてな、お前の幻でも見たのかもしれない」

思わずそんな余計なことを言ってしまった。

「え、え、まさか!!万丈目…あの噂のアレを体験したの!?なあなあ!!俺の未来はどうだった?」
「…俺が何を見ようとお前には関係無いだろう?」
「ツンツンするなよー!! 同じ精霊が見える者同士仲良くしたいのに…」

不機嫌そうにそういう十代の隣で
まったく仕方無いヤツだなあ、仲良くしろよ?と幻のようにもう一人の十代が苦笑するのが見えた気がした。

「煩い、俺はお前となんか馴れ合うつもりなんか無かったんだがな…」
まったくどっちの十代もおせっかいというか、なんというか
気がつけば…傍にいるのが悪くないなんて、思ってしまっている。
俺の言葉に首を傾げる十代にフンと鼻で笑ってブルー寮に戻ることにする。
「あー!!待てよ万丈目―!!やっぱりあの噂のアレ見たんだろ!?何を見たのか教えてくれよ!!」
「あーうるさいうるさい…」

あんな体験説明したところで理解されるわけが無いから説明しないつもりだが、
納得するまでコイツは離れないだろう。
やれやれ、しばらくは煩そうだ。






fin



09/10/11up

漫画版万丈目&光と闇の龍とアニメ版二十代&ユベルとかもう、最強に好みの組み合わせすぎるSS。
そうさ!認めるさ!!私は万丈目が好きだーー!!大好きだー!!
(そういう風に突っ込まれた)
何は無くとも、漫画版の万丈目&ライダー、アニメ版二十代&ユベルの組み合わせで会話させたら
どんだけ萌えかしら!!とか思いながら欲望のままに書いたSSです。
重いもの背負い気味の二人なので十代同士よりも気が合いそうだと思ったのだよ!!

ちなみに第2段は藤原&ブリザードプリンスと藤原&フブキングという組み合わせで
こっちもこっちで趣味です!!
次の更新ぐらいに多分出すと思われます。


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