「逢魔が時の恋人」
注意:漫画版とアニメ版のクロスオーバーモノです。







ケンカをした。
原因はといえば、まあ、くだらない事でさ
正直そんなことで優介が怒るってのは…まあ、僕も煽ったケドネ?
本当に凄く酷いケンカになった。
「もう吹雪の事なんか知らないッ!!」
「あーはいはい、僕も君の事なんか知らないよ」
「…吹雪っ!!」
薄紫の瞳が真っ赤に充血してふるふると震えている。
泣き出す寸前の顔のまま、キッと睨みつけてくる藤原にフンと鼻で笑って立ち去る。

…それから、僕達は冷戦状態。
お互いに顔を見ても無視している。
…意外に強情だなぁ、こういう時に先に折れるのはいつも優介なのに。

今日も昼間、同じ授業に出ていたというのに話し合うことは無い。
席もわざわざ僕から離れた席に座っている。

むかむかと、そう…この僕が男の事でムカムカとしている…吃驚だね。
こんな気持ちにしてくれた…優介の事をどうしてやろうか、なんてことを考えながら夕暮れのアカデミアを歩く。

あーそういえば、今へんな噂が流れていたっけ?
夕暮れの森を抜けると誰かの未来を見れるとか…
ばかばかしい、オカルトとかファンタジーとかは僕は信じない。
そんな事を思いながら森を抜ける。
この先には落ち零れ連中のレッド寮に灯台だ。
…なんでこんなところに来たんだっけ?
とか思っていると見覚えのある白い制服の誰かが歩いてくる。

「…吹雪っ」
にこっと笑う藤原優介。
…おいおい、今日も無視してきたのに…もう終わりなワケ?
どういう心境の変化なのかわからないけれど、むかついて思わずこう言ってしまった。
「…失礼だけど、君…誰だっけ?」
「……ふぶ、き?」
酷く困った顔でオロオロとしている。

泣き出しそうな顔で、困っている顔を存分に堪能したから、
なーんてネ?冗談だよ。とか言ってやろうとしたら、先に優介のほうが口を開いた。

「…そうだよ、ね…あんなことをした俺を…俺を、吹雪が許してくれるわけが無い」
その後も優介は一人で何かぶつぶつと呟いている。顔色がどんどん青くなっていく。
「……やっぱり辛いなあ…忘れられたくないとか、思っちゃうけど…仕方無い、よね
これが俺に対する罰なんだね…」
ぽろりと薄紫の瞳から大きな涙の粒が零れる。
…ちょ、ちょっと待ってよ、僕…そんなに酷い事言ったわけ?

「ご、ごめん!!じゃあ…もう吹雪の前に出てこないからっ!!」
「ちょ、ちょっとまって優介っ!!」
踵を返してどこかに去ろうとする優介の腕を強引に掴んで引き寄せる。
「なんでだよ!!離せよ!!…俺の事、許せないんだろ!?」
「うん、許せないよ?」
「だったら離せよ!!」
ぽろぽろと大粒の涙を零しながら優介が掴まれた腕を引き剥がそうとする。
「嫌だね」
ぎゅうっと抱きしめる。
あーもう、どうして優介は女の子じゃないんだろう?
髪の毛は柔らかくて顔立ちとかも女の子っぽいけれど、
こうやって抱きしめるとよくわかる、立派な男の体だ。硬くて抱いてもちっとも面白くない。
…ハズなのに、優介だと思うと、とても愛しくてたまらないのだけど。

「あーもう、降参だって、僕が悪かったよ…ちょっと意地悪したくなっただけ」
君が僕の気持ちなんか知らないで…勝手に怒って、勝手に微笑んで、
ずるいよ、優介。本当に許さないんだから。

「…本当?」
ダメだよ、やめてよ、そんな雨の日に濡れた棄てられた子猫のような瞳で僕を見ないで
「本当だよ」
「よかったあ…」
にこりと笑いながら頬を撫でると凄く嬉しそうに目を細める。
そんなに無防備な顔を見せないでくれよ。
顎に手を添えてくいっと持ち上げる。

「…吹雪?」
きょとんとした顔。
可愛いなぁ、本当、…食べてしまいたい。


「…〜〜〜〜〜〜っ!!」
「…いたっ」
思わずキスをしたら噛み付かれた。
唇が切れた、血が零れちゃったじゃないか。
文句を言う前にどんっと突き飛ばされる。
「…………っ!!」
真っ赤になった優介が森に向かって走って去ってしまう。

…追いかけるべきか一瞬だけ悩んで、やめることにした。
ばかばかしい、この僕が、
キングである僕が…誰かを追いかけるなんてありえない。

追いかけてくるのは、君のほうだ。
それが、当たり前の事だろう?


だけど、優介は戻ってこない。
まあ、考えたら戻ってくるわけがない。

一度は止めた足なのだけど、森に向かって、優介が消えた方向に歩き始める。

「…あぁぁぁーもぉ、仕方無いんだからサ」
本当、このキングである僕を追いかけさせるとか、
謝らせるとか、さ?

ここまでサービスするの、君だけなんだけど…
本当、気がついているのかなあ?





吹雪とケンカをした、原因はまあ、いつもの事といえばいつもの事なのだけど、
…今はちょっとこの島はぴりぴりとした雰囲気…
あの留学生が来てからずっと感じてるあの嫌な空気が消えてくれなくて、
いつもだったら折れている場面で妥協できなかった。

そんな日々が数日続いてくると、なんかもう、こっちも意地になってきた。
がっさがっさと森を歩く。
お目当てのハーブがいつもある場所にまだ生えてなくて、収穫もあんまりで、
なんかもー踏んだり蹴ったり。
夕暮れだし…もう帰ろう、そう思って森を抜けてアカデミアのほうに出る。

あーそういえば、夕暮れの森を抜けると誰かの未来が見えるとかいう話があったな。
…まあ、タチの悪いイタズラだとか言われているけれど、随分と被害者が出ているっぽい。
タチの悪い精霊あたりがやっているのだろうか?
詳しく調べる気も起きないからほっといているけど。

でも、未来が見えるなら…本当に見えるなら、俺と吹雪…ちゃんと仲直りできるのかな。
…仲直りしている未来なら、見たいのだけど、
吹雪が謝ってくるなんてありえない。

ため息を一つついて、とぼとぼとアカデミアの正面近くに出る。
「…どうしたんだい?藤原。凄くつらそうな顔をしているけど」
「…あ、れ?…吹雪?」
「ん?僕の顔に何かついているかい?」
ふんわりと笑う吹雪。

あれ?怒ってない。
吹雪、怒ってないの?と思わず呟いたのだろう。
しばらく吹雪がうーん、と考え込んでから
「…まだ気に病んでいたんだ?僕はもう気にしないって言っただろう?」
「…そ、そう、なんだ…許してくれるんだ…」
ほっと息を吐くと、嬉しそうに吹雪が俺の頭をなでなでとしてくれる。
「こっちこそ、謝らないと…謝りたいって、思っていたんだ」
「…え?」
思いもよらなかった言葉が吹雪から出てくる。
「…藤原が、様子おかしいってずっと思っていたのに、気がつかなくて…
ずっと傍にいたのになんで気がつかなかったのだろうって、
…思い返したら、あれが藤原からのサインだったんだって後から気がついて…本当に、バカだよ僕は」
「…そんなことない!!」
思わず叫んでいた。

「そう言って貰えて嬉しいよ、でも…ごめんね…ずっと、謝りたかったんだ」
「吹雪、吹雪…っ」
じわあっと涙が溢れそうになる。
嬉しい、どうしよう。
俺がここしばらくおかしかったことまで察してくれていたなんて、
鼻がツーンとして…あ、どうしよう、鼻水でそう。
…ハンカチを取り出そうとするけれど、見つからない。
あれ?落としたかな。
「ああもう、仕方無いなあ、藤原は…って僕も!?
むう、カバンの中かなあ…うっかりしていたよ」
ごそこそと吹雪もポケットを漁るけれど見つからないらしい、
ちょっとまってね!!そう言って吹雪が走り出す。
カバンを取りに行ったのだろう。
…気にしなくていいのにな、どこか水道でも探して顔を洗えばいいかなんて思ったのに。

正門前の道にあるレリーフに体をもたれさせて吹雪を待つ。

待つ、
待つ、
待つ、

…遅いな、吹雪。
カバン、どこまで取りに行ったんだろう。


そこで気がつく、あ。とマヌケな声を上げてしまう。
…やられた。
逢魔が時の噂をすっかり失念していた。

「…そうだよね、吹雪が…あんなに、やさしいはずが無い」
スン、と小さく鼻を啜る。
じわりと涙が零れてぽたぽた落ちる。

まだ、吹雪怒ってるだろうなあ。
謝ればよかったのかな。

「あーもぅ、やっぱり泣いていたし」
聞き覚えのある偉そうな声が森のほうから聞こえる。
「…吹雪」
「…悪かったよ、僕が全面的に悪かった。…だからさ、もう機嫌直してよ?」
ごめん!本当にごめんって、許してよ優介…だめ?と首をかしげて聞いてきた後、
ああもう、ぐちゃぐちゃ。とか言いながら
ポケットからハンカチを取り出してそっと涙を拭いてくれる。
なんだかもう、そんなに焦っている吹雪が凄くおかしくて
…さっきの変に優しい吹雪が幻だったことで酷く落ち込んでいたこともばかばかしくなってきて。

「……俺も…悪かったよ…ちょっとさ、イライラしちゃって…
考えたら、凄くくだらないことであんなに怒って…ごめんなさい」
あっさりと、素直に謝れた。
「じゃあ、仲直りということで」
にっこりと吹雪が笑う。
「うん」



…あの迷惑な幻も…こうなってみれば、案外悪くなかったな。
おかげで、結構あっさりと吹雪と仲直りが出来た。
…っていうか、吹雪がこんなにあっさり俺に謝ってくれるなんて、明日は雨かな、嵐かな。

「あーそれにしてもよかったあ…キスしただけであれだけ怒るんだもんなぁ、優介怖い、本当怖い子だよ」
「……き、きす?何を変な事言っているんだよ吹雪!!」
そんなことされてない、と慌てて言うと、アレ?と吹雪が首をかしげる。

…ああ、なんだかこう、続きの話を聞くのが怖い。

やっぱり、あの逢魔が時の幻は凄く迷惑だ。
もう絶対夕暮れ時にここらへんうろつかないようにしよう。

「ねえ、僕達キスした、よねえ?」
「してない!してないったらしてないよ!!」
「じゃあさ…」
「しーまーせーんー!!」

なんてバカな話をしながらブルー寮に戻った。







fin



09/10/17up

ちょびっとややこしいので、フブキングは「優介」呼びで、吹雪さんは「藤原」呼びにしてみた。
そっちのほうがなんだか馴染んできた…捏造設定だというのに!!
とりあえずどっちの吹雪と藤原もいちゃいちゃラブラブである。
そんなSSでした。

…アニメ版のほうは吹雪さんは紳士だと勝手に思っているので
怒りまくった藤原を宥めるの大変だろうなあとか勝手に妄想してニヤニヤしてます。
自家生産萌えで自転車操業始めちゃうよ!!

以上、クロス2本立てでした、全力で趣味ですともぉ!!


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