「One more kiss」
―誰だ?
――貴方を愛する女よ。
長く囚われていて目が見えなくなっている男を助け出し、情熱的に女がキスをする。
キスの感触と声で誰なのかわかったのだろう、男も情熱的に女にキスをする。
…そんな情景がテレビ画面に映る。
ベタベタなSFアクション映画なのだけど、思った以上に恋愛要素もある映画なんだね、
と思いながらテレビ画面を見ながら、ちらりと十代を見ると、
まだ10にも満たない小さな子供には刺激が強かったのだろう、顔を真っ赤にしている。
その後は迫力のあるバトルシーンになって違う意味で顔を真っ赤にさせていたけれど、
エンドロールで再び恋人同士のキスシーンがあって、また恥ずかしそうに真っ赤になっている。
…かわいい。
笑みを浮かべながらそんな十代を見ていると
「ユベル、ユベル、ちょっとこっち!」
と十代が呼んでいるのでなんだろうと思って十代の傍にいく。
『なんだい十代』
「えっと、えっと…」
『僕にキスでもしてくれるのかい?』
何がしたいのだろう、わからないけれど…ちょっとだけ意地悪がしたくてそんなことを言うと、
十代の顔がぼんっと茹で上がったように真っ赤になる。
『じゅ、十代大丈夫?』
「うう〜ううう〜なんでわかっちゃうんだろう…」
『え?』
今度は僕が驚く番だ、本当にキスしてくれるつもりだったなんて。
「だって、キスって大好きな人とするものなんでしょう?」
『…人間はそうみたいだね』
恋人で、友達で、親子で…色々な場面で、人はキスをする。
口で言うのと同じぐらい好きという気持ちが伝わるのだろうか、あまりにも遠い昔過ぎて想像しか出来ないけれど。
「精霊はしないの?しちゃだめなの?」
『そんなことは無いよ十代、十代がしてくれることなら僕はなんでも歓迎さ』
そう言いながらやわらかい髪の毛を撫でながら十代の頬にちゅっと軽く唇を落とす。
僕にキスをされた十代ははわはわと慌てていて、本当にかわいい。かわいくてたまらない。
『で、十代は僕にキスをしてくれないのかい?』
「……うん、ほっぺになら僕にでもできそう、がんばる」
ふふふ、と笑いながら十代を見ると、十代が小さな手を僕の顔に伸ばす。
十代からの初めてのキスは頬に軽く触れるだけの可愛らしいキスだった。
それはそれで、物凄く幸せな時間で、キスだったのだけど。
*
『…ン』
最初は触れるだけの軽いキスが次第に深くなっていく。
暖かい十代の舌がぬるりと僕の口に進入して僕の舌を絡め取る。
気持ちよくてされるがままになる。
それにしてもお互いに随分とキスをするのが上手になったものだ。
一番最初なんて唇ではなくて頬だし、本当触れるだけだったし。
何処でそういう知識を仕入れたのか初めて舌を入れられた時にはビックリしてうっかり噛んでしまった。
…あれはあれで…零れて勿体ないと思って舐めた十代の血はとても美味しくてよかったけれど。
しばらく噛み癖がついてしまって十代を噛みまくったのは秘密だ。
「…考えごとか?」
はぁ、と熱い吐息を零しながら十代が離れる。
『……ん、十代のキスが随分と上手になったって思っていたの、小さい頃はほっぺにするだけで精一杯だったのにね〜』
「誰のせいだよ、誰の」
くすくす笑いながら十代の唇が再び僕の唇と触れて離れる。
『僕のせい?』
それは心外だ。
…触れ合うと気持ち良いけれど、別に触れ合わなくても心は繋がっているから
いつだって満たされている、幸せだ。
それに二人の魂が一つになってからもこういう風に触れ合うことを最初に望んだのは十代だ。
「…そうだな、俺のせいだな」
あっさりと十代が認める。
「俺は人間だから、好きな人に触れて気持ちいいとか幸せだとか…こういう感覚大事にしたいんだよ」
『…多少は理解できるよ、僕も人間だったからね』
昔過ぎておぼろげにしかわからないけれど、多分他の精霊連中よりは理解できることだ。
『まあ、精霊達から見れば僕達は一つの存在だから自分で自分の事愛してるナルシストだと思われているかもね』
「…うわあ、それはちょっとイヤだなあ」
『良かったね、僕で』
意地悪く微笑んでから今度は僕から十代に軽くキスをする。
とかなんとか言いつつも僕も十代に触れられるととても幸せだ。
「ああ、よかったよお前で」
なあ、もっとしていいかと首をかしげて十代が僕の返事を律儀に待つ。
どうぞと笑うと、十代も嬉しそうに笑い…触れられて、僕は再び満たされる。
十二次元を僕の愛で満たすよりも簡単で、きっと幸せで、
幸せは案外近くにあって昔の自分は随分と遠回りをしたものだと、思いながら
この幸せな時間を堪能することにした。
fin
09/10/23up
漫画版ばかり続いていたので普通の十ユベ分を補給。
冒頭の部分の映画が何の映画のシーンかわかったら友達になろう!!
いや、我ながら微妙にわかりにくいシーン選んだからわかんないだろうけど!!
あとセリフがウロオボエです。まあ、ああいうカンジのシーンではあった。
つか、この映画のシーン使うなら
「I love you!」「I know」のシーンのほうが好きだったんですが、キスしてなかったんだよ…ッ!!
とか逆ギレしながら、キスばっかしてる十ユベでした、そのままキス以上もしてそうですね。
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