「奥様(予定)は吸血鬼」





それは…世界中を旅していてちょうど日本に戻ってきた時だった。
今は童実野町にいて、
爆破されて炎上した海馬コーポレーション建て替えだとか
(その件は自分も関わっていたのでバレたらどうしようと思うと胃がキリキリする)
ついでに区画整理だとかで工事とかで街がどんどん変わっていく様を、
遊戯さんの実家にたまに遊びにいきつつ、アルバイトなんかしながら毎日眺めて過ごしていた。

まあ、そんな風に過ごしていたら、真夜中…唯一の連絡手段である携帯が激しく鳴る。
「うあーい、遊城十代です〜…」
『アアアアアアアニイイイイイイイイイキイイイイイイイイイ!!』
「あれ…翔?どうしたんだ〜〜…」
『大変なんだよ!! お兄さんが!! お兄さんがああああああ!!』
「?」

カイザーこと、翔の兄貴である丸藤亮は去年退院して、プロリーグに復帰した。
…将来、翔と二人でプロリーグを設立するためのスポンサー集めもかねているという話だ。
でもカイザーは心臓を患った経歴があるから、
無理はしないように見張るッスと翔が言っていたのに、まさか、また…?
頭から冷や水でも被ったかのように目が冴える。

「…どうした翔、まさかカイザーの心臓が」
『あ、そっちは大丈夫だよアニキ…大丈夫なんだけどっ!!
お兄さんが悪い女に騙されて『おい、翔…あいつはそんな…』お兄さんは黙ってくださいっ!!』
ぎゃーわーとしばらく兄弟で騒ぐ声が聞こえる。まあ、主に翔の声だけど。
なかなか話が進まなくてどうしようかなーと思っていると、しばらくして
『やあ十代君元気にしてるかな?』
吹雪さんの声が聞こえてくる。どうやら翔から奪い取ったらしい。

そして
『えっとね、亮が結婚することになったから結婚前に一度こっちに顔だしてくれるかな?ってさ。
亮から伝言』
いやーめでたいよねー!!とのんきな声が聞こえる。


「へ?」
思わずそんなマヌケな声が出てしまったのも仕方無いよな。





「「なんでお前がここにいるんだ」いるのよっ!!」
教えられた住所に向かい、チャイムを鳴らす。
そして出てきたヤツの顔を見て思わずそう言うと、向こうも同じ気持ちだったらしい、
ほぼ同時に同じセリフを言った。
むすーっとした顔をして玄関に立ちはだかるセブンスターズの一人、
赤いドレスの吸血鬼カミューラとにらみ合っていると、
カミューラの後ろからひょっこりとカイザーが顔を出してくる。
「十代、久しぶりだな」
「ちょっと亮!!聞いて無いわよこの子が来るって!!」
「…ああ、翔が呼んだそうだ」
ちぃっと舌打ちする女吸血鬼。

…というか、まさか。

「…まさか、カイザーが結婚する相手って…コイツ?」
「ああ、そうだが?」

思わず思考が停止してしまった。
昔の話なので事情がわからないユベルに飛んだ意識を強引に戻されなかったら、
そのまま停止していたままだろう。





「すまないな、ちょうど翔と吹雪で買出しに行っている…コーヒーと紅茶どちらがいい?」
「あ、コーヒーで」
わかったといってカイザーが微笑んで台所に消える。
消えるのを見送った後、首を正面に向けると不機嫌そうなカミューラが睨みつけてくる。


「………」
「………何よ、何見ているのよ」
「それは俺の台詞だ、お前…幻魔の扉に吸い込まれて灰になっただろう、何でここにいる。
だいたい吸血鬼だろ、なんで昼間も元気に動いているんだよ…」
ギロリと睨み返すと…カミューラが、ひいっと小さく声を漏らしながらだけど、
恥ずかしそうに説明をしはじめる。

「…まず言っておくけど、私…吸血鬼じゃないわよ」
「…はい?」
「まあ、祖先に吸血鬼だった〜って伝承の人はいるけどね?
闇のデュエルが出来たのも
…やっぱりご先祖様にそういう人がいると一族に伝わるアイテムとか…色々あるのよ」
そう言われて、単独でダークネスを呼び込んだ藤原や、
今もファラオの腹の中で寝ていると思われる元教師の幽霊を思い出して、納得する。
「だいたい、本当に吸血鬼だったら…デュエルに負けたあの教師とか亮を私の血族にしているわよ!!」
「…あの時はそれどころじゃなかったけれど、まあ考えたらそうだよな」
ん?じゃあまさか
「一族の再興とか…一人だけの生き残りとか…」
「そっちのほうがデュエルが燃えるじゃない?演出よ!!デュエルのための演出!!
我ながら恥ずかしい設定だったと思っているわよ!!
本当は別に天涯孤独ってわけじゃないわよ!!」
恥ずかしそうにそっぽを向く自称・吸血鬼を見ているとなんだか俺も恥ずかしくなってくる。

「ああでも、幻魔の扉に魂が吸い込まれたのは本当よ。
アムナエルにもしもの時の事を頼んでおいて良かったわ…本当に死ぬところだったわよ。
あんな目はもうコリゴリだから、あのカードはもう使わないし、
闇のデュエルなんかしないわよ!!人形作りもやめたわよ…!!
もー、アムナエルの話なんか乗るんじゃなかったわ…」
ふーと溜息を一つついているカミューラに、ふーん?と相槌を打ちながら、
ファラオをカバンから引きずり出す。
眠っていたところを起こされたファラオが不満げにうにゃーん?と鳴く。
その口から出てきて、ふわふわ〜〜と逃げようとした光の玉をがしりと掴む。

「あら、アムナエル」
『カミューラちゃんの久しぶりニャ…ニャニャニャっ!!
十代君?どうしてそんな怖い顔で睨んでいるんだニャーーー!?』
「なあ、先生…トイレ行きたくないか?」
『そ、そんなびかびかと緑とオレンジに瞳を光らせながら言わないでニャー!!
当時は仕方なかったんだニャ!!影丸理事長に頼まれてッ!!ニャーートイレはやめてニャー!!』
イヤーーーっ!!と泣き叫ぶ元教師の霊を袋詰めにしてトイレに向かうのを見て、
次は自分の番なのかしらとぶるぶる震える女の姿が見えた気がしたが、気にしないことにした。

「ん?十代は」
「あ、カイザー。トイレちょっと借りたぜ」
何事もなかったかのようにソファーに座る。
「そうか。…ん?カミューラどうした、顔色が悪いぞ」
「…なんでもないわ」
カイザーが不思議そうに首をかしげているが、気にしないことにでもしたのだろう。
3人分のコーヒーを机に置いた後、ごく自然な動作でカミューラの隣にすとんと座る。

そうやって二人一緒にいるところを見ても…なんていうか、未だに信じられない。
「信じられないという顔をしているな」
ふっとカイザーが笑う。
「…あー、うん。カミューラと戦ったときのカイザー…凄く怒っていただろ?
まず二人が仲良くなるところからして信じられない。
…どういう状況でこうなったのか聞いていいかな…」
「再会自体はたまたま偶然だったのだがな」
と言ってカイザーがカミューラと再会したところから教えてくれた。

「俺と翔の二人でプロリーグの設立のためスポンサーを集めているという話は知っているだろう?
…いつもなら翔も一緒だったのだが、その時は別件で翔は出ていて、
俺だけ海外での試合の後、スポンサー候補のパーティーに参加した時だ」

カイザーはデュエルだけじゃなくて他の成績も良かった。
海外でも概ねの日常会話ならば問題ないらしいのだが、
流石にビジネスの話になるとなかなか上手くいかなかったらしい。
「…英語ならばエドがいたからな、随分鍛えられたのだが。
流石に他となるとまだまだ勉強中でな…」
多少不便な思いをしているところ、
たまたまそのパーティーに招待されていた影丸理事長とそのお付きとして参加していたカミューラに会ったという事らしい。
他愛も無い会話をしているときに、意思の疎通に苦労をしているという話を聞き、
カミューラを通訳として紹介されたそうだ。
「影丸理事長との仕事もそのパーティーで終わりだったし、ヒマだったし…
それに、カイザーの顔は好みだったし、断る理由もなかったから。
恩を売っておくのも悪く無いわねとか思って。
まあ、流石に再会したときは嫌な顔されたけど」
その時の事を思い出したのだろう、アハハと笑うカミューラ。

「それでも、丁寧に仕事をしてくれた。随分と助かった…。
それで随分と印象が変わった」
と、やわらかい笑みを浮かべるカイザーに、顔を赤くしながら
「当たり前よ、請け負った仕事はちゃんとこなすわよ」
とそっぽを向くカミューラ。
元々そういう性分らしい…だけど、請け負った仕事に手段を選ばないのはどうなのだろう。
まあ、流石に今は普通に事務というか秘書のような仕事だからセブンスターズの時のような事はしていないみたいだが。
この調子だとセブンスターズとの戦いの時の事、絶対カイザーに謝って無い気がする。

そんな俺の内面の葛藤は置いてけぼりにして、二人の話は続く。
「それ以降仕事を何度か手伝ってもらっていて……」
「やだもう亮、それぐらいにしてちょうだい」
「別にかまわないだろう?」
カイザーはその話をしている間ずっと嬉しそうな笑みを浮かべ、
カミューラはたまに慌てながら、たまに意地悪そうにカイザーに突っ込みをいれる。

そんな二人と見ながら…まあ、まだ納得いかないような気がするけれど、
…仲が良さそうだし、問題はなさそうだなと一人安堵の笑みを浮かべる。
問題があるとすれば…

そこで、がちゃりとドアが開く音が聞こえた。

「ただいまー!!あ、アニキーー!!アニキ来てくれたッスねー!!
これで後はエドと明日香さんが来るし、藤原君達にも連絡済…フフフ、完璧ッス!!」
お兄さんを惑わす女吸血鬼にこれで勝った!!悪霊退散―!!と叫びながら、
ガッツポーズを決める翔だろうか。

…どうしたものかなあ、と思っていると…
翔の後ろで苦笑している吹雪さんと目があった。
その顔が、まあなるようになるんじゃない?と言っていたのだけど、

いやもう、これはカイザーが本当に結婚するまで大変な事になりそうだなあと思いながら、
掴み合いのケンカに発展しそうな弟分と元吸血鬼を止めるために立ち上がった。



fin



09/11/03up

GXオンリー打ち合わせチャットにて、亮カミューラで盛り上がりまして
よっしゃー一本書いてやるぜーフォフォー!!と興奮して文章を書き続けていたんですが
ようやく完成、チャットは随分前の話です、一ヶ月以上前です。
しかし、書いてて凄く楽しかったです。
ツンデレっぽいキャラなのでカミューラかなり好きなキャラですよ!!吸血鬼とか萌え設定過ぎる。
声がヨハンと同じだしな!!
…ヨハンとの姉弟ネタもねじりこみたかったのですが、それはまた別にしておくぜ!!

以上!!楽しみながら書いたSSでした、玖りい夢嬢に捧ぐ!!


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