「君にエビフライ!!」
事件はレイの作った手料理から始まった。
「うわあ、美味いよコレ!!」
「えへへ、十代様のために頑張ったんだよー!!」
「いやあ、レイはイイお嫁さんになるよ本当」
もきゅもきゅと十代が美味しそうに下級生で…十代に惚れているレイの料理を食べている。
なんだかむかむかしてくる。
理由は簡単で、嫉妬の一言で説明が終わる。
そういう事考えると十代が後で呆れたようにため息をついて嫉妬するなよユベルなんて言うけれど仕方ないじゃないか。
僕だって、十代に喜んでもらいたい。
*
「というわけで料理を教えろよ」
「ひ、ひいっ!!ヨハン君どうしたんだい!?ボンテージにフリルエプロンとか怖いよー!!」
いやああっ!!フリル怖いフリル怖いフリル怖い!!助けてオネストー!!とブルブルと震える藤原優介。
…ダークネスの時にヨハンと十代にボコボコにされたのが随分と堪えているようだ。
…情けない男だけどコイツしか頼れないのだから錯乱されたままでは困るので正気に戻ってもらうことにする。
「…僕だよ、ユベルだって」
「へあ?」
「ヨハンにカラダ借りたの、実体化するのは十代に負担かかっちゃうし、
ちょうどいいのがヨハンぐらいしかなくて」
『マスター、本当にユベルですよ…この人』
おずおずと現れたオネストがそう言った事でどうやら信じてくれたらしい。
「え、え、カラダってそういう風に貸し借りするものだっけ」
「んーこの格好はヤダとか言っていたけどフリルエプロン装備するって言ったら
『貸してやってもいいぜ!!』とかって言って貸してくれたけど…
…フリルすっげえ似合うぜ!!俺!!とか言ってる」
正直コイツのセンスはどうなっているのだろうとか思うけれど
…まあ、フリルエプロン一つで体を貸してくれるのだからいいだろう。
「で、どうなの?料理教えてくれるの?」
「…えっと、確かに自炊したりできるけど…俺よりも上手な人いると思うけど…いいのかなあ」
相変わらずなんだかオドオドした人間だけど、
僕相手に普通に接してくれそうで、
料理できそうなのがお前しか思いつかなかったとか言うとなんだか嬉しそうだった。
…単純なヤツ。
というわけで、藤原と学校の調理室を借りて久しぶりの料理に挑戦することになった。
「…ところで、料理の経験はある…わけないよね…」
「あるよ?人間だった頃だけど」
そう言うと、えっという顔をして僕を見る。
…あ、そうか、僕が人間だったということ知らないのか、こいつは。
「…経験者なら大丈夫かなあ、エビフライだっけ…」
料理本とか持ってこなくても良かったかなあとか藤原が言うけれど
「……まあ、料理したって言っても数百年前の事なんか僕が覚えていると思うわけ?」
「………わかった、一から教えるから」
まあ、まったくもって自信なかった挑戦だったので…結果は案の定であった。
エビフライを揚げるどころじゃない。
エビフライをまっすぐに揚げるために包丁を少しだけ入れるのだけど、加減が難しい。
…その前に殻を取るだけでエビを破壊した。
どうにかして殻が剥けてもワタを取るだけでやっぱりエビが潰れた。
勿論その後の包丁を入れる時点でエビが裂けた。
潰れたエビが山盛りだ。
「………ふ、ふふ、ふふふふ、エビフライのクセに生意気じゃないか…
こんなにこの僕を梃子摺らせるなんて…苦しませるなんて…!!
いいよ君がそうくるなら僕も手加減は無しだ!!ここからはお互い本気でやろうじゃないか!!」
正直自分でも何を言っているかわからない。
そんな僕を見て藤原がぼそりと呟く。
「…なんかもうエビフライはムリじゃない?」
「…エビフライがいいの!!エビフライ!!」
だって十代が好きなのはエビフライだからエビフライを作りたいのだ。
じたばたと暴れだそうとする僕を見て慌てて藤原が止める。
「と、とりあえずもうエビが無いから俺の剥いたエビをエビフライにしようか
ここからはカンタンだし」
「ううう〜」
コイツが剥いたというのが気に食わないけれど仕方ない。
あまり納得はいかないけれど無事だった3匹のエビに小麦粉をつけて、溶き卵にくぐらせてパン粉をまぶす。
慎重に、丁寧に、十代に綺麗で美味しいエビフライを食べてもらいたいから。
「……よし、完璧!!」
「あ、これにも衣つけてもらえるかな…?」
いつの間にか潰れたエビを調理して生のしいたけにエビのすり身が乗ったモノを藤原が作っている。
「勿体ないだろう?」
「…マメだね、お前」
そうかも、吹雪にもよく言われると藤原が苦笑いを浮かべながら油の入った鍋に火をかける。
カラカラと気持ちのいい音を立ててエビラフイが揚がる。
きつね色の綺麗なエビラフイが油の中泳ぐのを捕まえて、油を切って、盛り付けて
3本だけでちょっと寂しいから拝借した藤原の作ったエビダンゴやキャベツの千切りを添えれば完成だ。
おお、それっぽいじゃねーか、すっげえ!!とかフリルバカが笑う。
「タルタルソースも作ろうか、材料あるし」
「……本当にマメだね、お前」
生まれる性別間違えているんじゃないの?と言うと
…それもよく言われると藤原がハハハと乾いた笑いを浮かべる。
「でもまあ、せっかく作るなら手間隙かけても美味しいもの食べてもらいたいだろ」
「…まあね、そこは僕も同意してやるよ」
ふん、とか呟きながら渡されたボウルの中身をぐるぐるかき混ぜる。
美味しいぜユベル!!と十代が笑う顔を想像するだけで笑みが浮かぶ。
勿論だけど、それは現実のものになった。
ノドを詰まらせる勢いでエビフライを食べる十代に
『…そんなに急いで食べないでもエビフライぐらいいつでも作ってあげるよ』
とか見栄を張ったら、傍で見ていたヨハンと藤原が苦笑いを浮かべていたけれど
君がそんなに嬉しそうな顔をするなら、何度でも作ってあげるのは当然の事じゃない。
fin
09/11/05up
リアルで魚をさばくのが苦手な管理人です。
いやまあ、一応捌けるんですがね、裁縫よりはマシというか
…というわけでラブラブバカップル定番ともいえる料理ネタやってみました。
エビフライで失敗なんぞするわけないだろうとか思いつつも
ユベルだからエビを握りつぶしそう。
とか酷い妄想してしまいました。
藤原が料理できるのは…弧高の天才だからです!!自炊が上手そう。
エビのすり身をしいたけに盛ったフライはまじであるレシピ、美味かったです。
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