「おとぎばなしのかけら」
注意:前世捏造話及びオリキャラ視点です






とある国のとある街、古い古い…伝説が残るその街を見下ろす小高い丘、いや…どちらかといえば山で私は発掘をしている。
私の職業は考古学者で、何の発掘をしているかといえばその昔あったという古い国の遺跡調査だ。
前にも一度近くの祠の地下から立派な彫刻が施された石版が見つかったという話だし、
実際、この場所には堀や塀の跡みたいなものが前々から存在していたので、また新しい発見があるかもしれない。
そんな期待を胸に今日も仕事に励む。


「よう学者先生、発掘進んでる?」
「あ、十代君」
弁当を持ってきたぜーとやってくるのは…発掘調査が始まる前からこの街に住み着いている日本人の遊城十代君だ。
あまりこちらの国の言葉に詳しくない自分には、
ここの言葉に詳しい十代君は現地のアルバイトの学生達との橋渡しをしてもらえるので大変助かる存在だ。

アルバイトの人達も呼んで休憩にする。
十代君は当たり前のように私の隣に座って自分の昼食を食べ始めて、私に尋ねる。
「なあなあ、なんか出た?石版とか、像とか!!」
「いや、流石にね…出てくるのは土器の破片とか…建物の柱の跡とか、そういうものだよ」
「えー、前の時にはユベ…おっと、ここらへんの伝説に出てくる龍を刻んだ石版が出てきたって」
「あれ、言わなかったっけ、アレが出たのはこの先の森の中にある祠の地下だよ」

実際に見たわけじゃないけれどね、と説明しながら
森の奥にある祠の話をすると、

あー、あれかあ…と十代君がうーんと唸る。
どうも十代君はあそこに行った事があるらしい。
『おい、ジュウダイ…あそこの祠に行ったのかよー!!ずりーぞ、いつのまに!!
あそこって村の老人達が認めたヤツじゃないと行けないんだぜ?
前の発掘隊も随分と苦労してようやく調査を許されたのに』
森のほうを指差していたからだろう、地元の少年達は何の話をしていたのかわかったらしい、十代に詰め寄る。

『ん?テオドーラばあちゃんに連れてってもらったけど、お前等も呼べばよかった?』
『…本当、オマエってすげえヘンなヤツ。
じいちゃんやばあちゃんはお前通ると拝むしさあ』
『ああ、あれ…勘違いだろうからやめてほしいんだけどさー』

現地の子供達と十代が早口に慌てたように何かを言い合っているが半分もわからないが、
十代は随分とこの街の大人達に気に入られているらしい。
…そういえば、この場所の発掘も前回の例があるから交渉が難航するかと思いきや、
たまたま知り合った十代君が仲裁に入ってくれて随分と楽に発掘調査を行えることになったし、
…この青年はいったい何者なのか。
デュエリストという事と、日本人という事しかわからない。
まあ、あまり遺跡発掘には関係ないことだし、十代君はいい人だから気にしないことにしよう、と思いながら昼食を食べきる。
「そろそろ続きの作業をしようか」
『そろそろ昼食終わりだってよー!!』
『げえっ!! マジかよー!!』
わあわあきゃあきゃあと騒ぎながら発掘作業が再開する。


そして、夕暮れ…日も落ちる前に街に戻りながら、ふと昼間の話を思い出す。
石版の見つかったという祠の話だ。
あの祠にもしかすると…この場所にあったという城の場所ももっと絞れるようなモノがあるかもしれない。

「…十代君に頼んだら、あの祠ももう一度調査させてもらえるかなあ…」
ぼそりと言った言葉に十代君が苦笑しながら「そりゃムリだな」と言う。
「…ここの伝説を知っているだろ?」
「伝説上の話だけど…むかしこの辺りにあった国に、


ドラゴンに愛された王子がいたけれど、最後に狂ったドラゴンと戦って王子は死んでしまって…
で、あの祠はその王子の偉業とその魂を慰めるための祠とか」
…その話を聞いて苦笑を浮かべる十代君。


「本当は、違うんだぜ。ソレは表向き…観光用の伝説だな。
あいつらも大人になる頃には聞かされる事だから知らないし、地元の連中も本当の伝説は絶対喋らないけどな…」


本当は、あまりにも優秀で立派なドラゴンまで従えた王子様だったから、
王様や国民は怖くなっちまったのさ、そして王子は殺されて、
ドラゴンは王子の死に悲しくて悲しくて暴れたけれど封じられた。


「だから、ドラゴンの名前が日本語で言うと悲哀の龍なんだぜ。そのまんま過ぎるよな。
あそこは愚かな人々が許しを請う為の、殺された王子達の魂を慰める為の祠なんだよ。
…恐れていたんだろうな、王子とドラゴンが復讐の為に蘇ってくるのを。
王子とドラゴンはさ、もうそんなこと考えてもいないのになー」
「…なぜ、そう思うんだい?」
「さあな、ただ…祠が調査とはいえ荒らされたのに何も起こって無いからなー、俺はそう思っただけかな?
…ドラゴンは悲しんでもいないし、もう泣いていないんだよ、そのほうがいいじゃないか」


ごまかされた、と思ったけれど…これ以上はどうせ聞いても話をしてくれそうにない。


「まあ、王子達はそう思っているかもしれないけどな、
あそこはここの人達にとってすげえ重要で神聖な場所なんだ、
…知識の探求もいいけれどさ…そういう事、忘れないでくれよ」

「そうだね、忘れてはいけないことだったね、こういうところは学者というイキモノはダメだね」
窘められて、今度は私のほうがはははと苦笑をする番だった。
しかし、残念だ。
せめてその石版とかは一度見てみたかったものだ。
調査の後、元の場所に戻されたという話だから、見ることはできない。
当時の資料があることはあるから、取り寄せようかなんて思っていると
「どんなドラゴンが描かれているか気になったのか?」
「うーん、そっちよりも他の箇所が気になるけれどね、まあ、気にならないといったらウソになるね。
十代君は見たことあるのかな、その口調だと」

ああ、と十代君が頷く。
「すっげえ、美人。綺麗だぜ」
何も無い中空を見上げ、愛しい人に囁きかけるように一言そう言った。

たまにこの青年はとても不思議なことをしている。
まるで見えない誰かと喋っているようだ。
…まあ、慣れると彼にとってはそれが普通なのだと納得してしまうので気にならないのだが。

「今度学者先生に見せてやろーかな?もっとも石版じゃなくてこれだけど。
…まあ、問題があるとしたら相手がアイツを出すまで持つかな、ということなんだけど」
ズボンのベルトに釣り下がったデッキケースをぽんぽんと叩く。
…ああ、そういえば最初の発掘の時のスポンサーに有名なカードゲームの会社が参加していて、
見つかったその石版に掘られた龍を元にカードを作ったって話だった事を思い出す。
で、十代君はその龍のカードを所有しているということなのだろう。

「なるほど、そのドラゴンを操る十代君はさしずめ現代に蘇った王子様か」
「そうそう、そういうことらしいぜ?」
…よく見れば十代君に気品が…あるようには見えない、地元の住民というほうが似合う。
そのカードを所有をしているというだけで、地元の老人達から伝説の王子扱いはちょっと本人も恥ずかしいのだろう。
照れくさそうに笑っている。

「それじゃ今度是非とも見せてもらおうかな…?今度のお昼休みにでも、
子供達にもデュエルやる子いるのだろう?楽しみだな、私もデュエルは見るの初めてだ」
「おう、楽しみにしてくれよ」
『ジュウダイー先生―!!何の話してるんだー!!』
前を歩いていた少年の一人が戻ってきて会話に参加してくる。
『今度先生にデュエルするところ見せるって約束したのさ、誰かいい相手いるかな』
『ジュウダイめちゃくちゃ強いからなあ…』
『俺!俺やる!』
デュエルと聞いて他の子供達も集まってくる、

そんな会話をして、他愛の無い約束をしながら夕日で真っ赤に染まる町並みを眺めながら
私はどんなドラゴンが見れるのだろう、と楽しみにしていた。





fin



09/11/20up

一瞬の前世シーンと、ユベルの第2形態以降がドイツ語名前なので、前世十代達が暮らしていた国はヨーロッパなのかなとか
妄想もわわわーんとしていたら、デュエルモンスターズ自体、石版とか遺跡から発掘されてたわけだし、
ユベルの石版とかあってもおかしくないだろうなあとかもわもわ妄想広がって、
広がった末になんだかこんな話になっていた。遺跡発掘はロマンです。
学者先生は多分このあと、人型なユベル見て…ドラゴン?とかなったりしたあと、第2形態あたりで納得するといい。
で、石版見たら人型ユベルそのまんまでさらにドラゴン!?とかなったりするのですが、どうでもいい蛇足でした。

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