「触らぬ恋人達に祟りなし」
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拝啓、天上院吹雪様
今日も世界中のどこかで『君の瞳に何が見える?』なんてバカな事を言っているのかと思うと頭が痛いです。
俺はといえば、デュエルアカデミアに復帰して(鮫島校長の計らいで剣山君達と同じ学年だ)
行方不明中の単位を埋めるためのレポートの山に埋もれてる日々です。
まあ、なんだかんだで元気です。

…知っているよな、毎日電話してくるし。


まあ、俺の事はどうでもいいんだ。どうでも。
吹雪、俺はどうしたらいいかな…なんてことを思いながら、
病院の屋上に続くドアの前で、バレないようにハア、と小さく溜息をついた。





事の始まり、というよりも、ソレに気がついたのはほんとう些細なことだった。

丸藤亮は卒業後のなんだかんだのおかげで心臓を患い、一度は死んだ…らしい。
随分と良くなったらしいのだけど、まだまだ安静にしてなければならない、
ということで今もアカデミアにある入院施設で入院中だ。
しかもプロリーグで派手な活躍をしていたという事もあって立派な個室だ。
小さなキッチンまでついている。

「いつも思うけど、本当立派だよなこの部屋」
「俺はもう少し小さい部屋でも良かったんだがな」
めったに行けないけれどレポートと授業の宿題をこなす合間に
亮の部屋に遊びにいくのがちょっとした楽しみになっている。
その日も他愛も無い授業の話とか、俺のいなかった間の話とかしたりしてすごしていた。
「そうだ、喉は渇いていないか」
「あ、俺がやるよ」
何も出さないですまない、といいながら丸藤がベッドから起き上がろうとするのを制して、
そこの戸棚にコーヒーと紅茶が入っている、と言われ、その通りに戸棚をあける。

「………?」
亮はどちらかといえばシンプルなモノを好む性質だし、
入院中だし、インスタントモノしか無いと思ったのに、随分と沢山の種類のコーヒー豆や紅茶がある。
勿論必要な道具もすべて入っている。

「…どうかしたか、藤原」
「いや、んー…インスタントしか無いと思ったからちょっと吃驚した」
亮もこういうの飲むんだね、なんて笑うと
「ああ、それならエドが…な」
…何かを思い出して柔らかな笑みを浮かべる。





「……亮、これは?」
「砂糖だぞ?」
「…いや、わかるけど…どうして僕のコーヒーにだけついているんだ」
「いつも、飲み干したあとに苦いって顔をしているだろう?」
それが何か?という顔をすると、エドがじとっとした目でこちらを見てくる。
いや、すこし顔が赤い?とか思った瞬間に、
「ち、ちがうぞ!!決してインスタントだからマズイとか思っていただけで苦くて飲みにくいというわけじゃない!!」
エドが力いっぱいサイドボードをばしばしと叩く。
「そうか」
じゃあ、これはいらないなと思って砂糖をしまおうとすると、すいっと砂糖を取られる。
「…まずくて飲めたものじゃないから砂糖は必要だ」
「すまないな、次からは…まあ、どうにかしよう」
素直に謝ると、
エドも…わかればいいんだ、と言いながら
「それなら、僕が用意する。…お前が用意するとロクなモノ用意しない予感しかしない」
フンと未だに少し機嫌悪そうにコーヒーを啜りながらエドがそう提案する。
「ああ、頼んだ。お前が選ぶものに間違いは無い」
「ふん、当たり前だ」
ふたたび顔が赤くなっていたが、何故だろう?と首をかしげると、
なんでもない!!とまた怒られたのは別の話だ。





「ということがあってな」
あっという間にミニキッチンの戸棚にはエド君が持ち込んだ茶器や茶葉などで埋まったらしい。
「へえー仲いいんだね、…授業でよく見かけるし、2、3度喋った事があるけれど、
凄く大人びたイメージがあったからちょっと意外だな。
あ…亮、こっちの紅茶淹れていいかなあ」
「ああ、かまわない、エドも好きに飲んでいいと言っていたからな」
イギリスの高級メーカーの茶葉を発見したのでウキウキと紅茶を淹れる。
うん、すごくいい香りだ。

「エドも藤原のように紅茶もコーヒーも淹れるのが上手だぞ、どんな場所でも美味しいお茶を淹れてくれる」
「へえ、そうなんだ」
「ああ、…異世界に飛ばされた時の話だが…」

美味しい紅茶を亮にプレゼントしてくれたエド君に感謝しつつ、
そのあとは亮からエド君の話を沢山聞かせてもらった。





その日はたまたま吹雪が仕事で立ち寄ったという街で購入したからという事で
俺のところに贈られたお菓子を剣山君達にもお裾分けするために持っていた日だった。

「あ、エドが授業に出ているザウルス、ここ最近ずっとドン」
珍しいドンと剣山がそんなことをぼそりと呟く。
「そうなんだ?」
「入学した時なんか酷かったドン、まあ…十代のアニキに負けてからたまに学校に顔を見せていたはずだけど、
今年ほどじゃなかったザウルス」
プロリーグ忙しそうなのに不思議ザウルス〜と呟く剣山君に、
どうにか調整してきているんじゃない?なんて話をしている間にチャイムが鳴る。

授業が終わったらこのお菓子をエド君にもお裾分けしてあげよう。
なんてことを思う。

そして、授業が終わった後、すたすたと教室を出てしまったエド君を慌てて追いかける。
…どうにかして、おいついた。
エド君は背が低めだけど、彼を守護しているDシリーズ達の誰かがいつも傍で見守っているから凄くわかりやすい。


「これを僕に?」
「吹雪からの貰いモノだし…エド君の好みに合うかわからないけれど」
「いや、ここの菓子は僕も好きなメーカーだから嬉しい」
袋詰めされたお菓子を手渡すと、嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
「良かった、喜んでもらえて…
この前、亮の部屋にお見舞いに行ったときエド君が持ってきた紅茶をご馳走になったし…
何かエド君にお礼したいなって思っていたから」
あの紅茶につりあうにはまだまだな気がするけれど。
「あ、そうだ…もうちょっと別の種類もあるから持っていくかい?
この後…亮のところに顔出すだろう?亮もこっちの味のなら好みだから…」
「アイツの好みはよくわからないからな…アイツの好みのモノなら是非とも…って」

て?

「な、なんで僕が亮のところに行くって…」
「え、授業に出るときは授業の後必ず顔を出してくるって…違うの?亮がそう言っていたんだけど…」
「……あいつめ〜〜〜」
かあっとエドの顔が赤くなっているような、気のせいかな、ブルブル肩を震わせている。

…なんだか、亮から聞いちゃいけない事だったのかな、コレ。

「…他にも聞いてないだろうな?」
「あ、あと、エドが淹れる紅茶が凄く美味しいとか〜〜…そ、それぐらいだよ!!」
ギロリと睨まれる。…す、すっごい怖いんですけど。
いつもの温厚で紳士で大人びたエド君はどこにいったのでしょう。
しばらくじーーっと見られていたけれど、他の人の目もあるという事に気がついたのだろう、

「優介先輩に文句を言うべきじゃないな、
アイツが悪いんだから…アイツに抗議するべきだな、どうしてやろうかな…」
まあ、未だに亮に対してぶつぶつ文句を言いつつ、小さく溜息を一つついて少しだけ俺から距離を取った。

「あ、エド君」
そのままエド君が怒りながら行ってしまいそうになるから、慌てて亮の分のお菓子を渡すと、
「…忘れるところだった、優介先輩お菓子ありがとうございます」
ちょっとだけ苦笑した後、ぺこりと礼儀正しくお礼をされる。

気にしないでとこちらが笑うと、にっこり微笑みながらエド君は去っていった。
これから亮のところに行くのだろう。

…怒られるのかな、亮。
想像してみたけれど、なんだか凄く想像が出来ない。
ちょっとだけ興味が沸いたけれど、見に行くものじゃないだろう。
…明日、こっそり聞いてみようかな。なんて思いながらエド君を見送った。





という出来事が昨日の事で、
授業が終わった後、亮の部屋に向かうと亮がいない。
あれ?と首をかしげていると、通りかかった看護婦さんが
「丸藤さんなら屋上に行きましたよ」
と、教えてくれた。
屋上かあ、今日はいい天気だもんな、なんて事を思いながら屋上に向かう。

かつんかつんと屋上に繋がる階段を登っていくと、屋上のドアの前に陣取る人影が多数。
っていうか、人じゃない。
エド君のDシリーズ達だ。
どうしたのかなと、声をかけようとすると、こちらに気がついたのだろう、
ダメ、喋ったらだめー!!とジェスチャーされる。
あまりの慌てっぷりに、わかったと頷きながら…そーっとドアの隙間から覗く。


気持ちの良さそうな風にシーツが靡いている。
その隙間から見えるベンチにエドと亮がいるのが見えた。

…キスしてた。

エド君はいつもの白いスーツなのだけど、ネクタイが外されて亮の傍にある。
いつもきっちりしてるのに、少しだけ乱れていて、
恥ずかしそうな、怒ったような表情がなんていうか、色っぽい。
亮は亮で凄く意地悪そうな顔をして彼の髪の毛を梳いてるし、
…なんか、本当…すごく見ちゃいけないものを見た気分だ。
………この場合は、ばれないうちに逃げるほうが良さそうです。

顔を真っ赤にしながらずるずると階段に座り込んでしまう。
大丈夫?とDシリーズ達やオネストが心配そうに見守ってくれるけど、
こういう時に役に立ちそうなわけでもないし、

…こういう時、吹雪がいたらなあ。
ハア、と溜息をついて、いないアイツの事を思い出す。

ちらりと小さく開いたドアを見遣る、まあ、キスしているのは見えるわけじゃないけど
…まだ、やってるんだろうな。
まさかだけどそれ以上とかやってないよな。
っていうか、そういう関係だったなんてしらなかった。
仲がいいなあとは思っていたけど…。
ああ、そうか、だからエド君が今年は授業に多く出ていたのか。亮の傍に一番いれる手段だし。

…考えてみたら、そういう風な雰囲気を漂わせていた。
亮はエド君の話をするときいつもより優しい顔をしていたし、
エド君も亮の話をしていた時は凄く年齢通りの顔をしていた。


(ま、男同士だし…エドも亮もプロの世界の人間だし…世間の目とか気にしているんだろうケド)


…でも、ちょっとだけいいなとは思う。
そんな風に心を許しあう存在なんだよな、あの二人。

(もうちょっとしてからもう一度来よう)

…今日はむしろダメかもしれない。
なんてことを思い、立ち上がろうとしてイヤな事に気がついた。

別にこのまま放置してもいいわけなんだけど、
俺のほかの誰かが来たらどうするんだろう?

凄く大変なんじゃ?

だからといってこのままいるのもまずい。
あいつらが戻ってきたらどうしたらいいんだろう?

まずい、どっちもマズイ。
ついでに言うと、こういうとき本当どうしたらいいかわからない。
冷や汗をだらだらとかきながら、俺は屋上に続くドアの前で固まってしまった。

助けて吹雪――!!

なんて言葉は吹雪に届くわけもなく。

ドアの向こうでは恋人同士の睦言だの触れ合いが継続中で、
そのまま1時間以上固まっていたのは精霊たちだけが知っている。


…いやもう、本当。
亮が退院したらエド君と同居でもしたらいいのに。




fin



09/12/06up

6000hit踏みましたと晴波さんから申告があったので、リクエスト承りますヨ!!
というわけで、晴波さんから「亮エドでおまえら結婚しろみたいなもどかしい関係、他人から見た視点」
というお前のリクエスト受け取った!!ということでこんなSSで。藤原は趣味です(カッ)

亮エドは初めて書くカプではあるのですが、書いてて大変楽しかったです。
またネタがあればほのぼのした二人書いてみたいなあ。エド可愛いよエド。

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