「Good-bye friend」
注:死にネタです。
雨の中、傘を差してお墓がたくさんある墓地を皆で歩く。
今日はおじいちゃんのお葬式だった。
とかいってもすごい長生きをして…ある日の朝、家族が起きた時に様子を見に行くと眠るように死んでいた。
ということなので、とてもいい死に方だったのだろう。
遠方から来た…おじいちゃん同士が友達で、
家族ぐるみで付き合いをしていて、来年から同じ学校に通う日本人の友達が
おまえの家の爺ちゃんはダイオウジョーだとか言っていた。
…なんだか、日本のアニメにでてくるロボットみたいだなあーとか言ったら、
オマエにはまだ早いようだったなとか言われた。
…ニホンゴ難しいぜ。
たまにわけのわからない単語が出てくる。
なー、ルビー。と話しかけようとして
ルビー達…おじいちゃんの大事な大事なもう一つの家族達、
精霊達はまだおじいちゃんのお墓にいることを思い出した。
明日には戻るわ、とアメジストも言っていたし
今日はそっとしておいてあげよう、と思っていたら。
その人とすれ違った。
黒いスーツに一輪の白い薔薇を持った男の人、傘も差さないでいるから茶色の髪が顔に張り付いている。
別にどこも変わったところが無いはずなのに、何故か見てしまった。
「…どうした?」
隣にいた友達が黒い髪をひょこんと揺らしながら聞いてくる。
「…いやさ、今通った人…お前と同じ日本人だったなーって」
「別にそれぐらい…珍しいとは思うけれど、普通じゃないか?」
「んーそうなんだけどさー」
もごもごとしていると、なんだ、言いたいことがあるなら、はっきりしろ!!と怒られる。
「…今の人、精霊連れてたんだよなあ」
「…それは凄く珍しいな」
この日本人の友達も精霊が見える…けど、それ以外の人なんておじいちゃん以外見たことなかった。
「だから、じいちゃんの知り合いだったのかなーって」
他にも色々…おじいちゃんにいわれたことがあった気がするけれど、思い出せない。
思い出そうと思って、もう一度友達と二人で振り返るけれど、その男の人はもう見えなかった。
*
沢山の花に埋もれたヨハン・アンデルセンと掘り込まれた墓石の前にやってきた。
お目当てはここだ。
濡れた髪を軽く拭って、墓の前に立つ。
「…ヨハン、来たぜ」
真新しい墓石をさすさすと撫でながらそう言うけれど、返事は無い。
当たり前の事なのだけど、小さくため息をつく。
『よく来てくれたな、十代』
『ありがとう、きっとヨハンも喜んでいるわ』
ヨハンの家族達である宝玉獣達が悲しげに微笑みながらそう言って迎えてくれた。
「お前らも元気にしてたか?今一緒にいるヨハンの孫って子はどうだ?いいデュエリストになりそうかー?」
『まあ、そこらへんはどうなるかしら…でも、大丈夫よきっと』
『るびー!!』
「そうか、それを聞いたら安心した」
まあ、生前のヨハンからも聞いていたから、大丈夫だろうと思ったけれど。
『貴方はどうなの?』
アメジストが首をかしげながら問う。
「相変わらずなカンジだな、この通り…元気にしているぜ」
『そう、ヨハンは…ずっと貴方の事気にかけていたから』
「…心配性だなぁ」
心配されても仕方無いだろう。
…20を過ぎた頃からまったく年を取らなくなって…このままの姿で、
孫までいたヨハンと同い年だとか言われても、冗談としか思えないだろう。
「まあ、うん、心配しているかもしれないけど…なんとかやっていくさ、
風の吹くまま、気の向くままに…だからさ、心配しないでゆっくり休めよヨハン」
そう言いながらそっと白い薔薇をそっと置く。
ふわりと隣にユベルが出てくる。どこから出したのか真っ赤な薔薇を一輪持っている。
『…オマエのことなんか、今でも大嫌いだよ
だけど、オマエは一度も僕の事を嫌いだなんて言わなかったな。むかつく、やっぱり大嫌いだ』
ふん、とか言いながら薔薇を放り投げる。
その顔がちょっとだけ拗ねたような顔をしていた。
…本当は寂しいとか、言えばいいのに。
本当になー、ユベルは美人なのに性格可愛くないよなー、十代ぐらい素直だったらいいのに。
そう思うだろ?十代。
じいさんになったヨハンじゃなくて、出会った頃の、若いままのヨハンが苦笑する姿が不意に脳裏に浮かぶ。
「…見送るのは慣れたと思ったけれど…」
思い出すのは、本当そんなくだらないことばかりで。
苦しい記憶もあったけれど、最後には、まあ、良かったんじゃないかなんて締めくくられて。
あんなことあったなあとか思うたびに、
だけど、もう新しい出来事は無いのだと思うと…
それが、少しだけ苦しい。
「何度経験しても…キツイなあ…」
ははは、と思わず笑うとぽろりと涙が零れた。
『泣いたらいいよ、沢山』
黙って俺のいう事を聞いていた精霊たちだけど、ユベルだけはぼそりと小さくそう言った。
『その後…アイツの話をしよう、くだらない思い出話とかさ。
ここにいる連中なら沢山君の知らない話を知っているからネタには困らないよ?』
フン、仕方無いからつきあってやる。とかユベルがそっぽを向く。
「…ユベルがすげえ優しい、明日は嵐になるな…」
『…本当だな、ビックリした』
涙をぼろぼろと零しながらおかしくて宝玉獣達と笑う。
『失礼だな、お前等…また闇の中に落としてやろうか?』
『おっと、失言だった』
「あー、雨がやんだ…虹出るかな」
『出るんじゃない?ヨハンといえば虹だし
っていうか、虹が見たいならレインボードラゴンを呼べばいいだろう?』
「あ、それはいいな」
くすりと笑いながら生前のヨハンから預かったそのカードをデッキから引き抜く。
空を舞う虹の龍は彼の人の魂を乗せてその向こうの向こう側へ、虹の彼方へ
そこはとても美しいところだという。
…そんな話を昔聞いた覚えがある、あれは誰が言っていたのだろう。
思い出せないけれど、いい話だな、なんてことを思って覚えていた。
「…いつか、俺達も行けるかな、虹の向こう側」
『いけるだろ、明日か、それともまだまだ先かはわからないけれどさ』
相変わらずの減らず口を叩く魂の片割れに苦笑しながら、空を見上げて、虹を待つ。
その瞬間を見逃さないように、
あのひとの魂が安らかでありますようにと、祈りながら。
fin
09/12/19up
9月末に飼い猫が亡くなってずどごーんと落ち込んでるときに書いたSSなので
ちょい暗めです。孫は趣味です、ヨハンは普通に結婚して子供とか作りそうなイメージ。
虹の橋のたもとで待っててくれるよーという話をなんとなく読みながら
ヨハンとかすげえイメージ合うなあ、とか思ったりしたもんだから
うっかりヨハン死なせてッ…でも大往生とかが似合う男です。
ついでに、うっかり、この後ヨハン孫とか万丈目孫とかに遭遇して
あー、ヨハンがいるよ、万丈目もとか、なんかこう、胸がきゅうっとなる十代とか
妄想したりしてますが、そこまでいくと脳内妄想激しすぎなので自重します。
孫の名前が皆十代だったら笑えるよな、とか話してたのは秘密だ。
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