「悪い子にサンタはこない」








「うおおおお!!メリーークリスマスウウウウウウ!!」
きゃっほーーいと十代が叫んでいる。
「…煩いぞ十代っ!!少しは大人しくしろ!!」
っていうか、飛び跳ねている。
「あははは…アニキはしゃぎすぎ…」
「まあ、でもそこがアニキらしいドン」
弟分の翔もなんだか呆れ気味で十代の行動を見ている。

12月25日、デュエルアカデミアは短い冬休みに入っている。
ほとんどのものは帰郷して新年を過ごしてから戻ってくる。
それでも残っている連中のために、今日は寮の垣根を越えてパーティーがイエロー寮で開かれている。
もっとも、本当にささやかなモノだから、
わざわざこんな時期にこの島に居残っているのは、何かしらの理由があるもの以外はよほどの物好きだ。
…俺もその中の一人に入るのが癪なのだが、
1年生の時にあった二人の兄との間の事やら、
十代に勝つまでは実家に戻らん!!という事もあるので、戻るに戻れない。
翔も似たような理由らしい。
「お兄さんに胸を張って誇れる立派なデュエリストになるまでは戻らないッス!!」などと言っていたな。
剣山は…十代が残っているから残っているのだろう。

…十代はどうして残っているのかは聞いていなかったが、まあどうせくだらない理由だろう。

毎年実家で繰り広げられていた万丈目グループのクリスマスの堅苦しい雰囲気ではない、
ゆるい雰囲気で騒がしい一般人のクリスマスというのも悪くない。
悪くないものだからうっかり今年も参加してしまった。

のだが、

悔しいのは天上院君(と師匠)がいないということだ!!
ここに天上院君がいれば…むさ苦しい男ばかりの空間が華やいだだろうに。
去年は師匠が戻れる状態ではなかったので、
今年は家族全員で揃ってという気持ちは痛いほどにわかるのだが、残念だ。
非常に残念だ。
「あれー万丈目君〜なんだかニヤニヤしちゃって…
明日香さんのミニスカサンタ姿でも想像したの?」
「……す、するかーッ!!」
「今の間、怪しいザウルス」

ええい煩い煩い!!と翔や剣山を散らしていると、騒ぎを聞きつけて十代が
「何してるんだー?俺も混ぜろよー!!」
とか叫びながらチキンの足を咥えながら飛んでくる。
…いらん!!お前は来なくていい!!

「サンタ?サンタの格好をした明日香なんか見て何か面白いのか?」
ああ、こいつには天上院君の素晴らしい脚線美のサンタ姿がどれだけすばらしいかわからんのか!!
「だってさー、サンタのコスプレなんかしてたら本物のサンタさんが来たとき区別つかないかもしれないじゃん」

…ってそういうことじゃなくて、そっちなのか!?

「…ま、まさかだけどアニキー…サンタさん、信じてる…とか?」
「え?だって、いるんだろ?サンタクロース。
テレビとかでも言ってるじゃん、なんだっけヨーロッパの北のほうにサンタさんいるんだろ?」
いいよなーかっこいいよなーサンタさん!!トナカイで空飛んでヒーローみたいで!!
俺も一度見てみたーーい!!

…などと十代が言うので、
一瞬ムキムキのアメコミ調のサンタクロースがマントをはためかせて飛んでいる姿を想像してしまった。
…ちがう、それはもうサンタじゃない。

「十代が言っているのはフィンランドのサンタクロース村だな」
「うわあっ!!」
「…三沢先輩いたザウルスか!?」
「………俺は最初からいた!!」
「へえー!!サンタさんってフィンランドにいるんだー!!どこかわかんねーけど!!」
突然現れた三沢に面食らう翔と剣山を横目に十代が目をキラキラと輝かせて、
もっと聞かせてくれよー!!と三沢にねだる。

「サンタクロース郵便局ってのがあってな」
「サンタさんからの手紙が貰えるの!?すげーーすげーーーー!!」
「今年はムリだが、来年に向けて出してみたらどうだ?」
三沢も悪い気持ちはしないのか、詳しい話を十代に楽しげに話している。

それにしても、うおー!!とテンションの高い十代に軽く引く。

「…まったく、今時サンタ信じているだののんきな奴だ」
「…まあ、アニキらしいッスけどね。僕も結構長いこと信じてたッス」
「…俺も中学に上がるまでは…二人の兄が随分と凝ってくれてな…」
「僕の家もお兄さんがサンタだったっス」
…カイザーのサンタクロース…だと…!?…想像できん…!!
などと想像不能の物体を想像しようとしていると、

「アニキーアニキはサンタさんに毎年何を貰っていたザウルス?」
「アニキの好みからすると、カードとかヒーロー関連グッズっぽい気がするけど」
十代の夢を壊さないようにしようと思ったのだろう、剣山と翔がそんなことを十代に聞いていた。

俺も、十代は毎年…本当にくだらないもの貰って喜んでサンタさんありがとうなんて喜んでいる姿を想像したのだが、
答えはまったく想像と違っていた。

「え?サンタさんがプレゼントくれるのっていい子だけなんだろ?
俺ってお世辞にもいい子っていう感じじゃないから何も貰ったこと無いぜ?」


思わず絶句してしまった。

「え、ええ?まさか…翔達は貰ったことあるのか!?
うわーー羨ましいーーっていうか万丈目まで貰ったことあるのか!?」
「…俺は違う、二人の兄や両親からだ。
それに毎年万丈目グループで盛大なクリスマスパーティーをしているからな、
プレゼントなんぞ腐るほど貰うぞ」
「うおおおお、さすがお金持ちすげーーー!!」
思わず正直に答えてしまうと、羨ましいとゆさゆさと十代に揺さぶられる。

「えーと、一つアニキに聞きたいんだけど…アカデミアに入る前はクリスマスって…」
おずおずと翔が尋ねると、

「中学の時は友達の家のクリスマスパーティーに呼ばれたりしてたかなー
俺の両親、共働きだからさ、お正月ぐらいしかまともに家にいたこと無いからさー
小学校の時も…小学校…あれ?んー思い出せねーけど…
でも、多分誰か友達と一緒だったと思うぜ、うん。
一人じゃなかったってことは覚えているから」

「ああ、そうなんだ…」
ちょっとだけほっとしたように翔が表情を緩ませる。
俺も同じ気持ちだった。

…というか、凄く一瞬ヒヤっとしたぞ!!

「今もアニキの両親は共働きなんっすか?」
「そうそう…そうなんだよなーだから、アカデミアに休みでも残れてよかったぜー」
ああ、なるほど。
それでこいつはここに残っているのか、などと納得していると、
追加の料理を持ってトメさんがやってきた。

「はいはいー料理の追加が出来たわよ〜」
「うおおおおすげええええ鳥の丸焼きだーー!!」
「こらあああああじゅうだああああいい!!切り分けるのを待たんかあああああ!!」
「ふぁ?」
「あっーーーーー!!アニキ直接噛んじゃだめッスゥゥゥウウウ!!」


そうして、今年もぐだぐだで緩い雰囲気のクリスマスパーティーはつつがなく進行していく。
…ちょっとだけ、脳の片隅に…覚えていたらの話だが、
来年はプレゼントを貰ったことが無いという十代のためにプレゼント交換なんて企画を考えたりしながら、
十代からようやく取り戻した鳥の丸焼きの一部を齧る。


もっとも、まさか次の年の…アカデミアで過ごす最後のクリスマスがとんでもないことになってしまって、
クリスマスパーティーどころじゃなくなってしまうのは別の話だ。






テレビからは暢気なクリスマスを過ごす家族や友人が過ごしている姿を映していた。
ぽちぽちとリモコンでチャンネルを変えていると、遠い外国のサンタクロースの話をやっていた。

「…ユベル、ユベルはサンタさんに会ったことある?」
『いいや、あったこと無いね』
だいたい、僕は悪魔族だしねえ…聖者なんて連中とは敵だからね、と苦笑する。
「そうなの?」
よくわからないけれど、ユベルとサンタさんは仲悪いらしい。
ちょっとだけ残念だけど仕方無い。

ぷちりとテレビの電源を切ると、途端に部屋がシン、と静かになって、
遠くからどこかのおうちの笑い声が聞こえてくる。
あれは角のおうちのところかな、夕食を買いに行ったとき、
あそこのおうちの子がお母さんと一緒にケーキの箱を持って僕の前を歩いているのを見た。

僕のおうちは今日もお父さんとお母さんは帰ってこない。
誰も僕とデュエルをしてくれない。
僕には友達が一人もいない。

僕はユベルとお留守番。

きっとサンタさんは今年も来ない。


「サンタさんのプレゼント、一回ぐらい貰いたいけど…僕、悪い子だもんなー…」
『そんなことないよ!!十代は凄くいい子だよ!!悪いのは十代をいじめるあいつらだよ!!』
ユベルが泣きそうな顔をしてぶんぶんと顔を横に振る。
だけど、僕はどう答えたらいいのかわからなくて、おろおろとしてしまう。

ユベルはぐるぐるといろいろなことを考えていたみたいで、ぶつぶつと独り言を呟いていた。
考え事が終わって僕の顔を見て、小さく溜息を零す。
『せめて…僕から何か十代にプレゼント贈れたらいいのに』
「プレゼントなんかいらないよ!!ユベルが傍にいてくれるだけでいい!!」
半透明の透き通った体を見て本当に悲しそうにユベルが呟いてしまうのを聞いて、思わず叫んでしまう。
だって、そんなことを言うなら、僕はユベルに何をしてあげられるのだろう。
何もしてあげられないよ。

『…十代……ありがとう。僕も十代と一緒にこうやって過ごせるのが凄く幸せだよ』
僕の手に重ねるようにユベルがきゅうっと手を重ねてくれる。
触ってる感覚も、あったかいのも何もわからないけど、それでもいい。
「もうこの話やめよ?せっかくのクリスマスだもん、楽しいことしようよ」
『ふふ、そうだね…じゃあ、歌でも歌おうか?それなら十代と一緒に出来ることだしね』
ようやく、ふわりとユベルが笑ってくれたから、ほっとする。

…最初に僕が「サンタさんも来ないような悪い子」とか自分の事を言ったのはよくなかった。
僕も反省して、クリスマスを楽しもう。


でも、悪い子なのは本当だから。
クリスマスも、お正月も、誕生日も、大好きなお父さんとお母さんがいなくても、
ユベルが勝手に僕の友達を悪いヤツだって言ってやっつけちゃったりしても、
それを止めることもしないで、ユベルが傍にいてくるだけでいいや。とか思っちゃう僕は凄く悪い子だ。


こんな僕にサンタクロースはプレゼントなんかくれるわけがない。





夢は、そこで終わった。


緩やかに意識が覚醒する。
酷く昔の夢を見ていたようだ。

『十代?』
ユベルが首をかしげて俺の顔を覗き込むのを、なんでもないよと笑って寝転んだまま視線を窓のほうに向ける。
「…ああ、そっか、クリスマスだったっけ」
ぼんやりとそんなことを思い出す。
だから、あんな夢を。

子供のころの俺は悪い子だと思っていたけれど、大人になった俺はもっと凄く悪いやつだ。
子供のころよりも沢山沢山罪を重ねて、この手は真っ赤に血塗られている。
だからほら、今年も俺のところにサンタクロースがくるわけが無い。
3年目のクリスマスの夜…薄暗い三段ベッドの一番下で、一人自嘲気味に笑う。







fin



09/12/24up

最初は前半みたいなのんびりした雰囲気でクリスマス!!
という予定だったのに書き終わったら、なんかこんなことに
これじゃクリスマスじゃなくてクルシミマスだよなとか自分に言い聞かせつつ
相方になんか黒くなったとか愚痴ったら
生暖かい目で「れーかさん、自分の胸に手を当ててよく考えてごらん?」
とか言われてしまいました。


オーケー、全力で趣味でした。
私が悪かった、素直に不幸な二十代様萌えとか言っておくです。
暗黒だけど他の2本は普通だよ!!メリークリスマース!!

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