「赤いマフラーとクリスマス」







12月25日、アカデミアから最後の帰省者を乗せた船が本土の港に着こうとしていた。
船の窓から見える久しぶりに見る日本の風景は酷く寒そうだった。
雲行きも怪しいし、もしかしたら雪が降るかもしれない。
随分と南に位置するアカデミアの暖かそうな風景とはまったく違う。
私服の上からコートを着て、青いマフラーを首に巻いて客室を出る。
デッキに出ると、思ったとおり凄く寒かった。

「うああーーー寒いィィーー!!」
ばたばたと荷物を抱えてそんなことを叫びながら遊城十代がデッキの上を走っている。
…いつもの制服のままだった、コートも何も無い。
あれは確かに寒そうだった。
「あ、小日向先輩だ!!いいなー先輩あったかそうー!!」
「当たり前よ、こっちは寒いのに決まってるでしょう?そんなのもわからなかったの

……って!!ちょっと!!」
がたがた震えてる十代を見て、くすりと笑みを浮かべていると
何を考えたのか十代が私にしがみついてくる。
「あー先輩暖かいー」
「ば、ばか!!何しているのよっ!!他の人が見てるでしょうがっ!!」
「えー、じゃあ、見て無いところだったらやっていいのかー?」
どうしてそうなるのよ!!
ああもう、こいつコレだから嫌いなのよッ!!
無理やりべりりと引き剥がして、カバンを漁り真っ赤なマフラーを引きずり出す。
「ほら、これで我慢しなさいっ!!バカ!!」
先ほど抱きつかれた恨みにと思いっきり首を絞める勢いでギュウっと締め付ける。
「うあー暖かいーそれになんかいい匂いー」
「ばかばか!!嗅がないでちょうだい!!…あーーっ!!そんなもの擦り付けないでよ!!


……もう、それ返さなくていいから」

なんだかもう描写するのも嫌な風景が繰り広げられたので、
真っ赤なマフラーはそのまま進呈することにした。

船もまだ完全には止まっていないし、まだまだかかりそうだし、仕方が無いから
暖かいなんていいながらもまだガタガタと震えている十代に暖かい飲み物を渡すと、
ありがとう先輩!!と大喜びした後、こっちが聞いてもいないのに、実家の話をしだす。

「今日はさー病院に行くんだ、その後に実家帰る予定」
「…え?アンタどっか体悪いの?」
適当に聞き流していたのだけど、病院と聞いて一瞬ぎょっとして聞き返してしまった。

「違うよ、小さい頃遊んでて骨折して入院してさ…色々思い出があるんだよな、あそこ。
で…毎年、病院に入院してる小さい子達と一緒にクリスマスパーティーしたり、デュエルしたりするんだ」
「…ああ、なるほど、デュエルって聞いてなんとなく納得したわ」
小さい子供に混じって「俺のターン!!」だの叫んでいる姿が容易に想像つく。
くすりと笑うと、十代も嬉しそうにエヘヘと笑う。

「なあ、先輩は今日この後どうするんだ?」
「…特に予定も無いし、家に帰ってゆっくりするわ」
「じゃあさ!!ちょっとこっちのクリスマスパーティー寄って行かない?
デュエル強い人は大歓迎なんだぜー!!」
なあ先輩寄っていってよー!!なあなあ小日向先輩〜〜!!」

今年はなんとなくクイーンだのもてはやす男達の誰か適当なのを捕まえて、
クリスマスを過ごすとかそんな気になれなかったから予定はいれていないし、
…そんな風にねだられると断りにくいじゃない。

しょうがないわね、と小さく呆れたように溜息をついて、
「どうせ、帰る方向も一緒だし。いいわよ」

「やったーーー!!じゃあ、みど…響先生に言ってくる!!
今年はすっげえ豪華な面子だー!!すっげえ皆喜ぶぜー!!」
明日香達は駄目だったけど、翔にカイザーに、三沢に、万丈目も来るって言っていたしーとか大喜びしながら、
デッキから客室のほうに戻ろうとしたのを思わず真っ赤なマフラーをギュウウと掴んで止める。

「…待ちなさい、デュエルするなんて言ってないでしょう!!」
「えー?」
「あくまでもクリスマスパーティに参加する、しか言って無いわよ!!」
「えええー」
「っていうか、そんなに面子がいるなら私いらないでしょうが!!
家も結構遠いんだから、参加しないで帰るわよ!?」
…そんな面子だったらそれこそ本気でデュエルしないといけないし、
何が悲しくてそんなデュエルを病院の子供達の前でやらなければならないのよ。

…まあ、十代相手だけだったら別にやっても良かったのだけど。

「なんで?俺先輩とデュエルしたい。先輩とのデュエル楽しいし…
それに、せっかくのクリスマスだし、先輩と一緒に過ごせたらすっげえ良かったのになあー、とか思ってたのに」

かあっと顔が赤くなる。
…勘違いしてはいけない、こいつは何も考えないでそんなことを言っているのだ。

「でも仕方無いよなあ…帰っちゃうのかー…」
「バカ!!デュエルしないでいいなら、参加するわよって言ってるじゃない!!」
あまりにも十代がションボリとしてしまうので、慌ててそう言ってしまった。
ああもう、バカバカ、私のバカ!!

…ここに天上院吹雪とかいなくて良かった。
あのフブキングがいて、見ていたら、後でどれほどからかわれただろう。

まあ、参加すると言ってしまった以上、存分に楽しませてもらうんだから。

「参加するけど!!…アンタからそのマフラーの分何かプレゼント貰うからね!!
クリスマスパーティが終わった後買い物に行くわよ!!」
「ええええええ!?」
「つべこべ言わない!!」
「ハーイ…うおー、何買ったらいいかな…」
あんまりお金持ってねー…とわたわたとしている十代を見ていてようやく余裕が戻ってくる。

マフラー自体はありふれたもので、安いモノだからそんなに高いものを請求するつもりはまったく無い。
本当は別にプレゼントなんか貰わなくたっていい、
でも存分に悩めばいいわ。

「…っていうか、これ、先輩からのクリスマスプレゼントって事になるんだ。
大事にしよっと、ありがとう先輩」
嬉しそうにきゅうっと赤いマフラーに顔を埋める。
…ばか、大事にするの当たり前じゃない!!
ほんとう、どうしてこう不意打ちでドキドキするようなことを言うのよこの天然馬鹿は。


病院でのクリスマスパーティの後、電車の時間までの短い間だろうけど、
クリスマス一色の街の中、二人でプレゼントをああでもない、こうでもないと言いながら探す様を想像する。
…去年までとは違う随分と騒がしいクリスマスになりそうだ。

そう思いながら微笑んで、船が港に着くのを待った。









fin



09/12/24up

だだ甘い恋人未満のクリスマスを書こう!!とえらく気合はいっております。
全力でとにかく甘い雰囲気ーとか叫びながら書いたのですが
やきもきする小日向先輩と天然十代とかそんな感じになりました。萌え。

ところでアカデミアって全寮制だけど帰省とかする…よな?
勝手にそういう感じで書いてますが、どうなんだか。謎まみれアカデミア。


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