「花言葉は愛」








たまたま立ち寄った街の公園に結構立派な薔薇園があった。
いい匂いがするから、ふらふらと覗いてみると、
作業着のおじさんが見事に咲いた薔薇をちょきちょきと切っていた。

あんなに綺麗なのに切っちまうんだ。

「おじさん何してんだー?」
「剪定だよ、これはもう終わりかけだからな」
「ふーん、勿体ないな」
植物の世話の事はわからないけど、素直にそういうと、
おじさんが「はっはっは」と笑いながら傍に置いてある箱を指差す。
枯れ枝や草に混じって薔薇が入っている。
「持っていきたいなら持っていってもいいぞ、ここに置いていても棄てるだけだからな」
「おじさんありがとう!!」





『そんなものを貰って…どうするの?』
ユベルが呆れたように溜息をつく。
視線の先にはペットボトルに突き刺さった大輪の赤い薔薇。
実は他にも沢山あったのだが、長く泊まっているホテルの主人に渡すと喜ばれた。
その中から一番気に入ったものだけをこうやって部屋に持ち込んだのだが。

「なんだ、喜ぶと思ったからこれだけ貰ってきたんだけどなあ」
『…なんで?』
「だって、ユベルのデッキ…植物族多いだろ、薔薇がモチーフになったのもあったよな」
『あー、そうだね』
スプリット・D・ローズの事かい?とユベルが首を傾げるのでそれに対して、それそれ、と首を縦に振る。
そして、真っ赤な薔薇とユベルを交互に見て…
「うんうん、やっぱりすげーイメージ合うな」
なんて思わず呟いてしまう。
『…そ、そう?』
「うん、そうだって」
ほら、とペットボトルの花瓶から真っ赤な薔薇を抜いてユベルの髪に挿すように持ってみる。
『そうかなあ…』
ユベルが実体化したのだろう、俺の手を取って髪に挿してみる。
『…本当に似合う?』

少しだけ照れて赤くなった顔を傾げながら聞いてくる。
…その顔は凄く反則だろ。
「うん、凄く似合う…すっげー可愛い」

『…まあ、自分じゃ見えないからわからないけど
…十代がそんな可愛い顔で似合うなんて言ってくれたんだから似合うんだろうね』
クスクスとユベルが笑う。


あ、いつもの調子に戻った。


ああもう、さっきのほうがすげえ大人しい感じで可愛かったのに。
そんなことを思っていると、ふと…前世で見た風景を思い出す。


青い髪を揺らして、儚げな表情を浮かべながら水辺に咲く花を一輪摘んでいた。


「…ユベルと花が似合うってのは…前世からのイメージもあるのかな…」
ぼんやりとそんなことを思い出に残る前世の姿と今のユベルの姿を見て思う。
「ああでも、前のお前はどっちかというと
…ほら、お前の持ってるカードだと…サクリファイス・ロータスが似合う感じ」

『…まあ、王子を起こす時に朝一番に摘んだ花々を花瓶に生けたりしていたからね』
それに、
『……』
何かを言いかけて、考え込んでから…困ったような、複雑そうな顔をして溜息を一つ零す。

『…花の名前よりも先にカードの名前が出ちゃうような十代には
僕の繊細な心なんてわからないだろうからやめておこう』
「なんだよそれ、すっげえ失礼じゃねえか?」
『でも、本当の事だろ?』
ふふんと意地悪く言われると…確かに反論できなくて言葉に詰まってしまう。

『まあでも、あの花よりも…こっちの薔薇のほうが今は似合うってのは凄く嬉しかったよ。
ありがとう、十代』
愛しているよ、そう囁いてユベルが抱きついてきた。

その仕草と、伝わってくる気持ちは本当に嬉しそうだったから
まあ、俺も喜んでくれればそれでいいや、と俺もユベルを抱きしめ返した。





夜も更けた頃。
十代はむにゃむにゃいいながら毛布を蹴飛ばしている。
『…普通の体じゃないから風邪引かないかもしれないけど…風邪引いちゃうよ?十代』
…矛盾しているような気がするけど、まあいいか。
ちょっとだけ実体化して毛布をかけなおしてやる。

ふと視線を上げるとペットボトルに生けてある薔薇が目に入る。
窓から入る月の光を受けて暗闇に浮かぶ赤い薔薇。

『こっちのほうが似合う、か』
本当、どうしてそんな不意打ちのようなことを言って喜ばせてくれるのかな、君って。
『…花言葉とか知らないだろうにねぇ』

前の僕は、確かにロータス、蓮の花を好んでいた。
だって僕の叶わない思いにとても似ていたから。
蓮の花言葉は離れていく愛。
いつか終わる関係なのだからと、王子の心は離れていってしまうのだからと。

でも、十代は僕には蓮よりも薔薇が似合うと言ってくれた。
貴方を愛しています、なんて十代はめったに言ってくれないけど。
髪に挿したままの真っ赤な薔薇を、お前にやるよと言われたとき…
ちょっとだけ、十代から愛してるよなんて言われた時みたいに嬉しく思った。

愛で満たされて、愛されて、愛して、
悲しい思いなんかどこにも無い。
『…うん、確かに僕に似合うかな、この薔薇』
そう呟きながら、赤い花びらにそっと触れて微笑んだ。










fin



10/01/12up

ユベルといえば蓮と薔薇だなあ、でも薔薇のほうがイメージだー
とかそんなことを考えながら書いたSSでした。

薔薇の剪定とかは専門知識ありませんが
公園で実際に綺麗なのにちょきちょき切られてて、
多分、切っちゃうものだろうと思って書いたけど
間違えてたら…まあ、細かいことは気にしてはいけない。

もしも前世ユベルだったら白薔薇だなとか思いながら書いたSSでした。


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