「年の数は無理だから。」










「いやーすっげえおもしろかったなあ。
最初はちゃんとした豆まきだったはずなのに、
結局デュエルになっちまうんだから」
笑いながら十代がベッドに寝ころんでそんなことを言う。

旅先でたまたまエドとカイザーや翔に再会して、
その街にある孤児院でのボランティアを手伝う事になった。
日系の人も多く、今日は節分ということだったので、
子供たちと手巻き寿司を作ったところまでは普通だった。
だが、夕暮れになって豆まきをする時にカイザーが鬼に立候補したあたりで止めておけば良かった。

ふははははと現れるカイザー、もといヘルカイザー。
御丁寧に衝撃増幅装置付きで、
っていうか、鬼ですらない。

翔は頭を抱え、エドはぽかーんとしていたが、
「バカか貴様は!節分を何だと思っているんだ!」
エドが切れて豆を投げつけるが効くわけがない。
「ははは!まったく痛くもかゆくもないぞ!この俺を止めたくば豆では不十分!」
俺たちにはこれだろう?とにやりと笑いながらヘルカイザーがデュエルディスクを構えてみせる。
「この僕にまた負けたいんですか?先輩!」
小馬鹿にしたようなエドの笑みに、不敵に笑うヘルカイザー。
「おい。翔!審判をしろ」
「は、はい!お兄さん!」
あわわわと翔があわてて「デュエル開始!」と叫び、
突発節分豆まきデュエル大会は開催されることとなった。

突然のプロデュエリスト同士の生の戦いに子供たちも、大人も大感激だった。

結果はエドの勝ちだったが、
エドは不満足そうだった。
後で聞いたところによると、カイザーはギャラリーにはわからない程度にこっそりとだけど、
わざと負けていたらしい。
「俺は鬼だから負けて追い出されなければならんだろう?だとさ。ふざけている」
とか言いながら、ホテルに先に戻ったヘルカイザーからカイザーに戻った亮を追って行った。
もう一度、今度は真面目に勝負をするらしい。

そんな事があった後、ようやく自分が泊まっているホテルに戻ってきた。

『十代、ベッドがよごれるから靴脱いで、靴下脱いで、服脱いで風呂に入ってからベッドに入ったら?』
「なんだか、おまえドラマにでてくる小姑みたいだな」
はあ、とため息をつきながらとりあえず靴と靴下だけは脱いだ。
『それを言うならかわいい奥さんだと思うけど』
「いや、それは違う」
失礼だね、十代。

むっすーとしていると、
そうだそうだと言いながら鞄からタッパーを取り出して黒い棒状のものを僕の前に差し出して、握らせる。
『何これ』
「手巻き寿司、えーと方向はどっちだっけな、南西南?まあいいや、適当に南あたりで」
ぐるりと南の方向を向いて手巻き寿司を食べようとする十代に首を傾げていると、
「あーおまえは興味ないからって引っ込んでたよな。
恵方って縁起のいい方向を向いて、黙ったまま食べたら願い事が叶うんだってさ。
後は年の数だけ豆食べたらいいけど、それをしたらユベルはとんでもない数になるから」
『僕に願い事なんか無いのだけど』

だって、願い事はもう叶ってる。
十代は僕を受け入れてくれて、一緒にいることができて、
ずっとずっと永遠に君と一緒。

「ユベルは無欲だなあ」
俺は結構いろいろ欲望あるぜー。なんて十代が笑う。
強い奴とデュエルをもっともっとしたいし、
色々なところを旅していたい、
たまにはのんびり過ごすのもいいだろう。
『美味しいものもいっぱい食べたいとか?』
「おう、エビフライみたいに美味しいものはこの世にまだまだあるぜ!」

それに、と言いながら、ぎしりとベッドを軋ませて僕の側に寄る。
「寂しい思いをたくさんさせた分、お前に楽しい思いさせてやりたいし」
『贖罪のつもりかい?』
「かもな」
苦笑する十代の額をびしりと叩いてやる。

本当、何をバカなことを言っているんだか。
贖罪なんかいらないんだよ。
僕には君の愛だけでいい。


む、これってある意味願い事かな?

ふん、とつぶやいてから手巻き寿司を食べやすいように握り直す。

「ユベル?」
『何してるの、食べないの?』
「ああ、食べようか」
うれしげに微笑んで十代が手巻き寿司にかぶりつく。

むかつくよ、本当に、
むかついて、でも大好きで、どうしたらいいのさ?

もごもごと手巻き寿司にかぶりつきながらそんな事を考える。

とりあえず、食べ終わったら、十代の年の数だけ豆を「あーん」しながら食べさせてやる。
少しは恥ずかしくて「やめてくれよユベル」とか僕に懇願すればいいんだ。

その姿を想像して笑っていると、
何も知らない十代が首を傾げて、
でも僕が笑っているからいつまでもうれしそうに笑って、もがもがと手巻き寿司を食べていた。










おわり



10/02/02up

節分というわけで、豆撒きだー豆食べるー!手巻き寿司だーー!!
二人であーんとかやってるとかそういう妄想を詰め込みました!!

やー実際ユベルに豆食わせようとしたらいくついるだろう!!
1000個で足りるでしょうか!!
とか妄想しつつ、書いたSSでした。


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