「その痛みは悪夢のように」
つらかった、苦しかった、憎かった。
どうしてどうして俺がこんな目に、
皆が俺のことを自分勝手だと罵る。
わかっていないと言って俺の目の前で死んだ教師、もう名前も覚えてないそいつらが嘲り笑う。
ちがう、俺は皆の為に、
馬鹿野郎。
うそつき。
酷いよ。
三年間ずっと一緒に過ごしてきて、いつも楽しい事ばかり共有してきて、
たまにはそりゃつらいことあったりしたけど、一緒に乗り越えてきたはずの友達が俺を罵る。
痛い、怖い、拒絶されるのは嫌だ。
なんで、何で皆は俺を置いていくんだ。
なんで、なんで、なんで、だれかおれはわるくないっていってくれよぉ!
そう叫びながら水の中もがく様に手を伸ばすと、その手が握られる。
十代、十代、大丈夫?とオレンジと緑色の瞳が心配げに俺を見つめる。
そいつはすべての元凶で、
いや、元をただせば俺が元凶なのだけど、そのときの俺はそこまでわからなくて、
そいつを罵る。
うるさい、お前の、お前のせいだろう!
俺が苦しいのは、皆が離れていくのは、お前の!
すべてはお前がそういう風に仕組んだのだろう!
そう言うと、そうだねと淡々と返される。
カッとなって、抵抗もろくにしないそいつの上に馬乗りになって首を絞める。
十代、十代、だめだよ。
そんなことをしたってだめだ。
うるさいうるさいうるさい!
駄々をこねるようにさらに首を絞める力を強めていくと、
どうしてだか俺の首が絞まって、苦しくなってくる。
じゅうだい。
だから言ったのに、
首を絞められているはずのユベルが、まったく苦しそうに無い顔をして、俺の名前を呼ぶ。呼び続ける。
うるさいともう一度言おうとしても、首が痛くて苦しくてかひゅかひゅと、わけのわからない音しか漏れない。
顔なんか涙と涎とかぐっちゃぐちゃだ。
もっと絞めたらいいんだ。
頭に酸素が回ってなくて、苦しさから逃れる為には絞めるしかないんだとか思いこんで、
渾身の力を込めてユベルの首を絞めると、
俺の首からごきゅと、骨が折れる音がした。
「あ」
我ながら呆気ない終わりの言葉だった。
だけど苦しい、首が折れたぐらいじゃすぐに死ねない。
いや、死ねたのかもしれないけど、
意識が完全に落ちるまで永遠みたいな時間だった。
十代、十代、十代、十代、十代。
愛してる、
ごめんね、
それでも、愛してる。
十代、十代、十代、じゅうだい、じゅうだい、じゅうだい。
ただ、ユベルが俺の名前を呼び続けるのがとてもうるさくて、
止めてほしいのに、やめてくれとも言えないのがつらかった。
*
「以上で俺の怪談は終わり。いやーあの時はマジで苦しかった。
ユベルのナイトメアペインの効果すっかり忘れててさ。
なんかあの異世界での件まだ引きずってたみたいでさあ、たまにわけがわからなくなるんだよな。
ユベルには悪いことしたよ」
ガッチャ!とか、ポーズを決めてからろうそくを吹き消す。
しーんとしている。
「あれ?そこはいやーん怖いとかじゃねえの?」
「あ、俺は十代も同じ事経験したんだーとかちょっとうれしかったけど」
俺の場合は首じゃなくて手首だったけど、
とか藤原がうふふと笑うと吹雪さんが「いや、藤原のともまた違うとおもうから」
っていうか、もうやっちゃだめだから!とか真っ青な顔をして藤原に言っている。
「一ついいか、さっきの話が実話だとして
どうしてお前は生きているんだ」
万丈目が頭痛でも起こしたのか頭を押さえながら言う
「え、あー。ユベルがだめえそっちいっちゃだめええええ!とか叫びながら死者蘇生のカードを、
って違う?俺が勝手に再生したの?マジで?」
どうやら当事者の一人であるユベルがつっこみを入れたらしい。
「これぐらいじゃ死なないのか、俺
っていうか、そうなると俺、どうやったら死ねるの?
死ぬ気はまだねえけどさ。」
とか無邪気に十代が笑う。
いやいや、それ、笑い事じゃないから。
あはははーとか笑う十代にどうつっこめばいいのかわからない。
「ごめんなさいいいいいいいい!!!!!」
「うおおおおアニキ悪かったドンーー!!」
「もうやめて十代それ以上はやめてええええ!!!」
「いやあ、うん、俺も謝った方がいいのかな?オブライエン」
「そうしたほうがいいと思うぞヨハン」
「うわーーんじゅうだいさまああああ!!」
怪談に参加していたほぼ全員、つまりはあの異世界に行っていた面々は、
とりあえず、土下座をして、一部の人間は泣きながら十代に謝り倒した。
「え、え、なんで謝るのさ?結局のところ俺が全部悪かったのにさ」
なあ、ユベル。なんでだろう?
とか、十代だけはわからないやと首をいつまでも傾げていた。
おわる
10/02/11up
相方と首絞めって萌えですよね。とか映画を見に行った時にそんな話をしていて
(映画を見てする話じゃありません)
後日、首絞め絵描いたよ!とかすてきにナイスな絵をいただきまして、
これは文章にするしかあああああ!
とか思ったのまでは良かったのですが、書き終わったらふつうにギャグになってた。
おかしいなあ、シリアスにするつもりだったんですが。
まあ、たまにはこんな話も、というSSでした。
むしろ、こういう方向性のほうがユベルと十代だと思うのですけど、どうなんだろうなあ。
うちの連中はいちゃつきすぎである。
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