「二人の王様」
漫画版とアニメ版クロスオーバーです
「十代」
霧の濃い森の中、
赤いジャケットの少年が金色の瞳を何もない空を見上げながら誰かを呼ぶが返事はない。
「十代、起きろ十代、っち。完全に意識を失っている」
『困ったね、さっきの奴はどうやら撒いたみたいだけど』
ふわりと隣にユベルが現れてため息をこぼす。
「ユベル、お前も消耗しているだろう引っ込んでいろ」
『おや、冷酷で無慈悲な覇王たる君に心配されるなんて、明日は嵐にでもなるんじゃない?』
優しくなったねえ、とか言う精霊に
「違う。消耗した今の貴様では逆に十代の足手まといだからだ」
『うそつき、君は本当は優しい子だよ』
くすくすと笑っているユベルをにらみつけ
「それに、逃げている間におかしなところに迷い込んだようだ、さっきとは違うまた妙な気配がする」
『ああ、それはわかっていたよ』
その言葉にユベルがまじめな顔をする。
じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらおう。
そう言ってユベルが消える。
覇王、
「なんだ、まだ言いたいことでもあるのか」
気をつけてね?
「余計な世話だ」
再び赤いジャケットの少年だけが深い森の奥に取り残される。
しばらく周りを見回した後、あてもないはずなのに、どこかに向かい歩き始めた。
*
サクサクという音を立てて、舗装されていない道を二人の男女が歩く。
「ねえ、ちょっとまってよマック。そっちは森の奥だよ?」
「え?あ、ごめんなさい」
白い制服の少女が立ち止まって、はあ。とため息をこぼす。
「ねえ、ここからならアカデミアに戻った方がいいんじゃないカナ?」
その言葉にふるふると力無く首を横に振るレジー・マッケンジーに、
うーん、これはなんか重傷だナア、と内心思う天上院吹雪。
アカデミア以外となると、この先に遺跡があったなあ。
石がごろごろしているだけなんだけど、ちょっとした広場になっていて、雰囲気も悪くない。
「そうだ。この先に素敵な場所があるんだよ。
そこなら少し腰掛けて休める場所もあるだろうし、行こうマック」
そう言いながら手を彼女に差し出す。
「ええ。本当ごめんなさい。貴方に迷惑ばかりかけて」
「気にしないで、ボクはいつだって可愛いレディの味方サ」
ウインクすると、ようやくマックが小さく笑みを浮かべ、吹雪の手を取る。
よし、つかみはOKだったみたいだな。
なんて思いながら機嫌良く遺跡に向かったのだが、
いい気分はあっさりと終わりを告げた。
*
「ここはアカデミア、か?」
十代の記憶にもある遺跡の形から、おそらくそうだろう。
まったく別の場所にいたのにな。
そう思いながら遺跡の大きな石にもたれ掛かる。
無造作に置いてあるように見えるが、わかるものにはわかる規則正しい法則があって、
元の効果はすでに機能していないようだが、魔除けの結界ぐらいの役割は果たす。
ここならば少しは十代の体を休めてやることもできるだろう。
そう判断してもたれ掛かっていると、ガサガサと草をかき分けてそいつらは現れた。
*
「げ」
見覚えのある赤い制服と茶色の髪の毛。
あれは確かあの廃寮で響教諭とマックと一緒にいた、
えーと、なんだっけ。男の名前なんかわかんないよ!
「ジュウダイ?」
マックが前にでておそるおそる、声をかける。
「あの、ちょっと貴方に聞きたいことがあるノ。ワタシの、」
マックが、たぶんあの廃寮の時のことだろう、
それのことを言おうとすると、十代と呼ばれた一年生がマックの言葉を遮った。
「悪いが、俺は十代ではない」
「エ?」
「はい?」
思わずボクも首を傾げてしまう。
名前は覚えていないけど、顔はしっかり覚えている。
なんだか明日香も仲良くしているみたいだしネ!
「ちょっと、お前。何をバカなことを言っているのサ。
どうかんがえたって、えーと、遊城十代だっけ。
そういう名前の一年生じゃないか、
マックがまじめに君に何かを聞こうとしているのに失礼じゃないか」
ずずいと前に出てそいつの前に立つ。
すると、天上院吹雪か?とボクの名前をつぶやく。
「そう言えば、お前の前に出るのは初めてだったか?我が名は覇王だ」
「はい?」
え、何。あの一年生双子か何かだったわけ?
あ、なんとなくだけど背の高さが違う気がするし、
わざわざ嘘をつく理由もわからない。
「そ、それは悪かったね」
うわーマックに恥ずかしいところ見せちゃったナア。
そう思っていると、ボクを見ていた金色の瞳がマックの方を向く。
びくっとマックが怯えたように震える。
あの十代って子と違ってこの覇王ってやつはすごく雰囲気が不気味だ。
「お前は誰だ」
「え、レジー・マッケンジーよ?デュエルアカデミア・アメリカ校からの留学生」
「そうか」
どうしてそんな今更なことを聞くのだろう?
覇王はそのまま考え込むような仕草を、というか何か考え込んでいる。
あーもう、せっかくマックと二人きりだと思っていたのに、場所でも変えようかな。
「マック、ここじゃなくて別の場所に行こうか」
「フブキング、別にここでもワタシはいいわよ?」
結構景色も綺麗だし、ファンタスティックな遺跡だもの。
そういいながら、
「なんだか少しだけ気持ちも軽くなった気がするし」
ふわりと笑うマック。
可愛いなあ、とか思っていると
「気分が軽くか。まあそうだろうな」
ボクらの会話に割り込んでくる一年生。
「気休め程度だが、ここの遺跡は魔除けの結界になっている。
この島を覆う怨念、闇の気配から目をそらす程度だが、お前にはそれで十分だろう」
「エ?」
「無自覚なのか。
お前にはこの島を覆う闇の気配の匂いがするのだがな?」
すいっと覇王の指がマックの背後を指さす。
「お前の身内に何か遺跡や墓を荒らしたものでもいないか?
黴臭い匂いのする古い古い闇がお前を探している。
今はまだ見つかっていないし、逃げ回っているようだが、時間の問題だな」
これが怪談とかならぞっとする展開で、最高に恐怖も盛り上がるんだろうけどサ?
別に怪談をしているわけじゃない。
っていうか、何をボクの愛しのマックに悲しい顔をさせるのさ!この一年生!
「ちょっと!待ちなヨ!さっきから聞いていたらオカルトな事ばかり言ってさ!
そういうのを話したいなら後で優介でも紹介してあげるよ!
っていうか、ボクのマックを怖がらせないでよ!」
「本当の話なんだがな」
ぼそりとまだ言うよこの男。
だから思わず叫んでしまった。
「だーかーらーオカルトは結構だよ!
それに、マックはこのボクが守る!」
「フブキ、えっと、その」
恥ずかしそうなマックの声ではっとして後ろを振り向けば、やっぱり恥ずかしそうなマックの顔がある。
自分でもすごい恥ずかしいことを今叫んだよなあ、とか自覚はあったけどサ?
よけいに恥ずかしくなってきたヨ!
「で、でも、アリガトウ。気持ちはすごく嬉しい」
顔を真っ赤にしながら上目遣いでボクをみるマック。
ああ、その顔を見れただけ良かったとしよう。
それに、絶対君を守ってみせるよ!
「まあ、あの闇に抵抗する力もなさそうだが、せいぜい足掻け」
ああもう本当にこの一年生はいちいちカチンとする物言いするナア!
「あの、貴方もアリガトウ。
最初は怖い人かと思ったケド、イイ人ネ」
マック!そんな奴にアリガトウなんていらないよ!
「別に事実を言ったまでだ。それに何も解決はしていない」
「そうなのかもしれないワネ、でもいいの。
貴方の言葉がきっかけで、こんなワタシでも守ってくれるって言ってくれた人がいるし」
足掻けるだけ、足掻いてみせるわ。
何と戦っているのかは思い出せないし、わからないけど。
そう言って微笑むマックに
「そうか」
相変わらずこの覇王という男は無表情だ。
「あ、結構日も落ちてきたワネ。ワタシ、寮に戻るわ」
照れ隠しをするように慌ててマックが来た道を戻ろうとする。
「待ってよ!マック!
ああそこの一年生!お前のせいで今日はもうめちゃくちゃだよ!
今度会ったら容赦しないから覚悟しなよ!
それが嫌だったらもうボクらの前に出てこないでヨ!」
びしり、と指を指してそう宣言してマックを追う。
それに対して
「安心しろ、二度と会うことは無い」
とか聞こえた気がしたけど、
野郎の言うことなんかどうでもいいや。
*
騒がしい奴だった。
途中から、あのマッケンジーとかいう女の会話や十代の記憶に残る吹雪との印象との違いから、
ここは別の世界だと気がついていたし、
あのマッケンジーに絡む闇を刺激するわけにもいかないから、この場所から動く羽目にならなくて良かった
はあ、とため息をついていると。
笑いをこらえるような声が聞こえてくる。
「十代、気がついたのか。
だったらどうしてもっと早く出てきてくれなかったんだ」
いやだって、すげえおもしろいことになってたから
途中で俺と交代なんて悪いなあとか思ったし。
「さっさと交代してくれ。俺は疲れた」
いやもうちょっとこのままでいてくれよ。
元の世界に戻る為にもうちょい回復したいし。
「回復には夜半ぐらいかかるか」
それまでこの場所にいつづけるのか。
もう戻ってこないと思いたいが、あの二人が戻ってきたら面倒だな。
イイじゃん、そのときはデュエルすれば。
俺はこっちの吹雪さんがどんなデッキ使うのかすっげえ気になる。
そう笑う魂の片割れに黙れと言いながら、遺跡の柱にもたれ掛かる。
こんな状況はもうこりごりだ。
俺にとっても今日はもうめちゃくちゃだ。
そう思いながら偉そうにこの俺に喧嘩を売っていたフブキングとかやらがもしも戻ってきたら、
己の無力さを思い知らせてやる。
なんてことを思いながら、瞳を閉じた。
おわる
10/03/17up
突然、本当に突然なんですが、
そうだ、フブキングと覇王様で二人の王様の会話が見て見たい!!
とかわけのわからない組み合わせを考えたのですが。
書きおわってから、なんだこのカオスはとか思ったのは秘密です。
まだ二十代とフブキングのほうがマシだよ!!
ほぼ会話になってないというか、フブキングが一方的に突っ掛かってるというか、
なんかこう、マック含め年齢が下がってるカンジが…。
まあでも可愛い記憶喪失マックは書いてて楽しかったです。
漫画版ジェームズに遭遇してショックを受ける覇王様も書いてみたいなとか思ったりしたので
そのうちかいてみたいなあ、わくてか。
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