「おつかれさまと君に囁いて」










真のダークネスとの戦いも終わり、帰ってきた皆にもみくちゃにされて、
事情の説明とか、藤原にオネストのカードを返したり、
色々ありすぎて、自分の部屋に戻れたのは随分と夜も更けた頃だった。
ガチャリと古びたドアを開けて、部屋に倒れこむ。
酷く疲れたのだけど、こんなところで寝るわけにもいかないから、ずるずると部屋の中央に移動する。
…疲れているから、移動したあと、本当に床に寝そべってしまった。
デュエルディスクに嵌っていたままのカード達をそっと引き抜いて、デュエルディスクの隣に置く。
そしてズボンのベルトにあるデッキケースから、デュエル中に除外したカードを出し、
一枚のカードを引き抜いて名前を呼ぶ。

「ユベル」

…あのデュエルの途中、ネオスワイズマンの効果を使い、ネオスだけを場に残すためにユベルを除外した。
それはユベルが自分で望んだことだし、必要だったとわかっている。
わかっているけれど、

あのデュエルの後、ユベルは姿を見せてくれなかった。
…まあ、ユベルの性格からして出てこないのはわかっていたけれど、不安になる。

『何、泣きそうな顔しているの十代』
くすくすと笑いながらユベルがふわりと姿を見せた。
「ユベル…」
『僕が傍にいなくて寂しくて仕方なかったの?まったく、情けないね?
…僕が君と繋がっていることぐらい、落ち着けば感じるだろう?』
そっと俺の頬に触れる。
実体化はしていないから何も感じないはずなのに、
冷たいような、暖かいような、ユベルの手が触れる感覚がする。
ああ、そうやって触れられると、ようやくユベルの言った言葉が実感できる。
いつもならどこで覚えたんだ、その減らず口、とか文句を言うところなのだけど、
今はその暴言すら聞いていても嫌じゃない。

「ユベル」
『えっ…ちょっと!!』
強引に干渉して実体化させたら、バランスを崩したらしい…宙に浮いていたユベルがどさっと落ちてくる。
『……十代?』
そんなことをしておいて、名前を呼んだだけで様子がおかしいと首を傾げたけれど、
すぐに俺の気持ちが伝わったのだろう。
『…泣き虫のいくじなしのヘタレの根性なしのくせに一人でよくがんばったよ
……十代、おつかれさま』
綺麗な笑みを浮かべて、頬にキスを落とす。

そうされても、沈んだままの気持ちは浮上してこない。
『僕をアイツから取り戻してくれたじゃないか』
「その後にお前を犠牲にしてしまうところだったじゃないか」
『でも、君は勝利して、僕は犠牲にならなかった。
…僕はここにいるよ?それじゃダメなのかな』
優しく優しく髪を撫でる。まるで子供扱いだ。

「…わかってる、あの時はああするしかなかったことぐらい…でも…」
どれだけ辛かったか
…それすらも、あの時ユベルには伝わっていたのだろうけれど。
『…そんな風に思ってもらえるようになるなんて、ちょっと前じゃ考えられなかったよ』
だから、
『嬉しかったから今日はサービス』
「ん」
唇と唇が重なり合う。
ユベルはいつも以上に積極的に俺に触れる。
何度目かのキスの後、すぐにもう一度キスをしようとするユベルを制止する。

『…なあに?』
「いや、嬉しいんだけどさ…これ以上やると、俺も抑えられないのだけど…?」
『言っただろう?今日はサービスだって…だから』
もっと僕に触れてよと耳元でそう囁いて、軽く耳を噛まれた。

そんなことされたら我慢できるわけないじゃないか。

『ア、十代…っ』
強引に押し倒されたのに酷く嬉しそうな声だ。
ユベルの上に乗った状態のまま、上着とインナーを脱ぎ捨てる。
嬉しげに伸ばされた腕を取って、満足するまで唇を重ねあう。
『…あっ』
服のようなものに包まれたユベルの女性側の胸に触れると、可愛らしい声と共に体もぴくんと震える。
「……かわいい声だな」
『ん、もう…ばか…アッ!!…や…吸っちゃだめ…』

そんな風に可愛らしい声と反応を聞いていると、ますます止まらなくなってくる。
もっと触れたくなる。
「…ユベル、いいか…?」
『…だか、ら…今日は…、ばか…早く…』
「…ん」
かちゃかちゃとベルトを外して、ズボンを脱ごうとした時…

「アニキーゴメン!!凄く疲れているところ悪いんだけど!!」
「…クロノス教諭からレポートを明日は無理だろうから、明後日でも…」

バターンと扉が激しく開く。


酷く嫌な沈黙が落ちる。


「…ん?どうしたのかな翔君、万丈目君、固まっちゃって…」
ひょこっと吹雪さんが顔を出して…あちゃーという顔をする。

「え?十代がどうかしたの?」
やばい、すごくやばい。
明日香もここに来ているのかよ!!
「だ、ダメだ天上院君!!来てはいけない!!あんな汚らわしいもの見ちゃだめだっ!!」
いち早く正気に戻った万丈目が明日香を止めるけど

…なんか、凄くむかつく言われ方した気がする。

「えーと、明日香。十代君着替え中だったみたい」
だよね?と吹雪さんが俺の顔を見ながら言うので、
慌てて起き上がりずり下がったズボンを引き上げて、俺も姿は見えない明日香に声をかける。
「…ご、ごめん着替え中だから用事があったら…あと10分…5分後にでも…」
と、言おうとしたら、ギリギリギリと足を抓られる。

痛い、痛いって、凄く痛いって!!
邪魔されたの凄く悔しかったのはわかるから!!
その怖い顔やめてくれよユベル!!

その様子を見て、ようやく正気に戻ってきたらしい、翔が顔を真っ赤にしてブンブンと首を振る。
「い、いいよアニキ!!伝言それだけだったから!!アニキも疲れてるところなのに皆で押しかけてゴメン!!」
じゃあ、ごゆっくり!!
とか言いながら翔が慌てて部屋を飛び出てしまう。

その後を「待って翔…十代もごめんなさいね!!また明日」とかいう明日香の声が聞こえて、足音が追っていく。
そうなれば万丈目もついていって…最後に吹雪さんだけが残る。

「じゃあ、僕もこれで…
十代君、そういうことするときには鍵閉めたほうがいいよ?」
また明日、と苦笑しながら吹雪さんがドアを閉める。

ふたたびレッド寮の小さな部屋に二人きりになる。

「…拗ねるなよ、ユベル」
『だって』
前にも同じようなことがあった気がするけど、あの時とは逆だな。
なんてことを思いながら、三段ベッドの下段に腰掛けて膨れるユベルに軽くキスをした後、
ドアに鍵をかける。

『あーもうヤダヤダ!!せっかく十代と二人きりになれたし、いい雰囲気だったのに!!』
このまま雰囲気に流してあんなことやそんなことを!!とかぶつくさユベルが愚痴る。
どんどん愚痴はエスカレートしていって、あんなことやそんなことがとんでもない方向に向かっていく。
…まて、まてまて、それはちょっと俺に何する気なんだよユベル!!

「…悪かったって…機嫌直せよ…でも、今のリクエストはダメだからな」
『ぶー!!ケチー!!』
「…子供かよオマエは」
ぷうっと膨れて文句を言うユベルの顔がおかしくて思わず笑う。

『…やっと笑ってくれた』
「え?」
そっとユベルの手が俺の頬に触れる。
『君が異世界から戻ってきてから随分と悩んでいたときもどうしたらいいかわからなくて、
結局、僕は何もできず…君はあいつらのおかげで立ち直れていただろう?
…今回もだ。やっぱり悔しいけど…君にはあいつらが必要なんだね。
僕じゃ悲しい顔ばかりさせてしまう』
別に、こうなったことを後悔しているわけじゃないよ?とは一応弁明する。

「馬鹿、そんなこと無いぜ?」
頬に添えられた手に自分の手を重ねる。

「ほら、俺は今…お前に触れられて嬉しいから笑っている」
『…そうだね』
重なった指を絡めあっていると、ねえ、十代。とユベルが声をかけてきた。

『…僕は今、どんな顔をしている?』
「笑っているぜ」
『当たり前だろう?』

意地悪く微笑む俺の愛しい精霊に、何処で覚えたんだその減らず口とか、
当たり前なら聞くなよとか文句を言いながら、そのままベッドに押し倒した。

「ユベル」
『なあに十代』

「愛している」
『……ふふ、僕もだよ』

なんだか、ダークネスと戦っている時よりも慌しかった。
だけど、皆やユベルとの他愛もないやり取りをしていて…
ようやく激しい戦いが終わったんだな、なんて実感した。

まあ、また新しい出来事が色々あるだろうけれど、今は何も考えないで休みたい。









おつかれさま!



10/03/20up

とうとうGXのSSが50本越えましたどんどんぱふぱふー!!
50本目は4期ラスト書いたこれにしようと思ってずーっとアップしないでいたのですが
いや、本当に50本も書けるとは思いませんでした(笑)
次なる目標は108本です、がんばれ折り返し地点はもうちょいだ!!

まあ、なんだかんだで現在再放送で見ていない2期を見たり、
映画版という超絶十ユベ燃料が投下されたり、
漫画版という新しい燃料は常に補充されたりと、
色々とネタがホイホイ来ているので、書けるだけ書いて、いつか本当に108本書けるといいですね!!
好き勝手に書きまくるぜ!!

ユベルー十代ー好きだー!!おまえらさっさと結婚してれーー!!
ああ、すみませんもう既に結婚済みですね!!超融合的な意味で!!

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