「四月馬鹿に馬鹿を見る」










最初は、今日はエイプリルフールだから、ちょっとからかってやろうと思っただけだった。





「ねえ、いつか言おうと思っていたけれど、こんな風に来るのやめてもらえる?
私、初めて出会った時からアンタの事なんか大嫌いだったのよ」
びょううと春の嵐というのは少々冬の気配を残しすぎた冷たい風が屋上を吹きぬけていく。

「…………」
「…………」
二人ともそれきり無言で、
真っ赤な制服がバタバタと激しい音を立てて風に揺れる。
…このデュエルアカデミアで落ちこぼれの証でもあるのだけど、
確かに筆記などの課目ではいつだって落第寸前らしいけど、
こいつのデュエルの腕だけは一年生のクセにこの学園でTOP10に入るだろう。
実際、戦ってみたから…舐めてかかれば痛い目にあうことは重々承知だ。

そう、痛い目にあった。
それも2回も。
だけど、こいつとのデュエルの後…
のんきに「楽しいデュエルだったぜ」なんて言うこの後輩の楽しそうな顔を見ていたら…
むかつくけど、不思議と悪い気持ちではなかった。

思わず思い出して微笑んでしまいそうになったけれど、冷徹な表情を作って十代を睨みつける。

「俺、なんか小日向先輩に嫌われるようなこと…してたっけ?」
縋るような目で年下の赤い制服の少年…遊城十代が私を見る。
「そうよ。アンタはいつだって私のプライドをずったずったにしてくれたわ?」
忘れたわけじゃないでしょう?
そう言って3年連続のクイーンの座をあの天上院明日香に奪われた日の事や、
その後の大会での一回戦…学生達が注目するフィールドで完膚なきまでに叩きのめされた時の事をほのめかす。

「…俺は、」
「アンタはデュエル楽しかったでしょうよ」
でもね
「私はアンタとは違うの、負けて楽しいわけないでしょう?」
「それは、わかるよ…デュエルは楽しいものばっかりじゃないっての…それぐらいは。
悔しいとか、楽しくないとか、俺だってそういうことがあるから…でも!!」

冷たく突き放す。けれど、十代は引き下がらない。
それよりも…正直ちょっと予想外だった。
…十代でもデュエルが辛いとか思うこともあったのね。ちょっと意外だった。

「じゃあ、じゃあ!!なんで…なんで今まで俺とこうやって…」
「あら決まっているじゃない。こうやってからかってやれば勘違いするかしらって思ったから…暇つぶしよ」
「………!!」

実際、いい暇つぶし…それ以上に楽しませてもらった。

貰ったわけなんだけど、ええっと、ここまでショック受けちゃうと思わなかった。
真っ青になって唇をかみ締めて、泣くのをガマンしているって顔だ。

まずい。
これはやりすぎてしまったようだ。
元々そういう雰囲気にはノリやすい性格ではあると自覚はあったけれど、
ちょっとやりすぎた。

「…ごめん、なさい」
そう言って私の傍を通り過ぎて走り抜けて行こうとする。
ちょっと!ちょっとちょっと!!
っていうか、そこは「騙していたのかよ!!」とか「遊ばれていたのかよ!!」とか
返ってくるって思ったのに!!

で、適当なところで、
「やーい、ひっかかったー今日はエイプリルフールでしたー」とかやってやろうとか思っただけだったのに!!

「ちょ、十代!!」
慌てて追いかけるけれど、体力馬鹿な十代は捕まえるのが結構大変だった。
っていうか、私が追いかけているの気がついてスピード上げたわよ!?



「じゅうううううだああああああいい!! ちょっと!! 止まりなさい!!止まりなさいって言っているでしょう!!」
屋上から階段を駆け下りて、廊下を駆け抜けていく。

廊下は走らないの!!だのノーネだの聞こえたり、
あははー小日向どうしたのーすっごいスピードだけど、誰を追っているのかナ?
とかなんかむかつく声とかも聞こえたけれど無視する。

あの体力無限大馬鹿!!振り返りもしない。距離は一定を保っているけれどその距離が縮まらない。

ああもう正門を通り過ぎてレッド寮に続く道に出てきてしまった。
こうなったら仕方無い。
人気も無くなったことを確認して、立ち止まって履いていた靴を片方脱ぐ。

「この馬鹿十代!!こっちの話を聞きなさいよぉおお!!」
「ぐえっ!!」
ドローで鍛えた豪腕は伊達じゃない。ゴっとかなんか凄い音を立てて十代の頭に靴が突き刺さる。
頭を抱えて立ち止まった十代に素早く近寄って足払いをかけてやった。

動きの止まった十代の体を挟むように仁王立ちになって立ちはだかる。
よし、この体制ならば立ち上がって逃げようにも私の体が邪魔をして立ち上がれないはず!!
「まったくもう!!…あんな風に逃げなくてもいいじゃない!!」
「だって、先輩…俺の事、嫌いなんだろ…?」
「……だああああ!!嫌いよ!!嫌いなんだけど…
本当に嫌いだったら、放課後とかにアンタとデュエルしたり勉強なんか教えたりしないわよ!!」
こういうこと鈍いんだから!!
っていうか、エイプリルフールだって気がついて無いとかどれだけ世間のイベントにも疎いのよ!!


「…もう、エイプリルフールの冗談のつもりだったのに、本気にする馬鹿…ここにいたわね…」
ハア、と溜息をつく。
…まあ、悪乗りをしてしまったことは否定できないわけなのだけど。
「ふえ?エイプリルフール…!?…嘘だったんだ?」
「そ、そうよ…嘘よ?…悪かったわよ……」
もごもごとそう言うと、
「…よかったあ…先輩に本当に嫌われちゃうこと何かしたのかって…
心当たりがありすぎるからさ…ウソでよかったあ…」
そう言って、べしょりとそのまま大の字になって倒れてしまう。

「…まったくもう、ちょっと考えればわかるでしょう?
私はね、嫌いな奴のためになんか時間割いてあげないんだから」
「うん」
「…そりゃもう、最初の出会いは最悪だったわよ。
まったくもう、アンタがあのミスコンで票を入れないで放置していたのは…今も恨んでいるんだから」
ねえ、へらへら笑ってばっかりだけどちゃんと聞いているの?と十代の顔を覗き込む。

「うん、でも、あれのおかげで先輩と知り合えて
…大会で先輩とデュエルできたわけだしさ…許してもらえない?」
「…イヤよ、許してなんかあげないんだから」
…フン。と顔をそらす。
決して照れ隠しなんかじゃない。


それからしばらくは沈黙とか、十代がへにゃへにゃと笑ったりしているばかりで会話が無かったのだけど、
十代が唐突に照れくさそうに頬を掻きながら私の顔を見上げる。
「…先輩。あのさ…」
「何?」
「あの、そんな風に体の上跨られて、仁王立ちだとさ…俺、立てないし…
あとさ、あの…えっと…」
もごもごとした後、ぼそりと


スカートの中、さっきから見えちまってるんだけど。


とか、とんでもないことを言った。


「…………」
「…………ば、ばかああああああああ!!早く言いなさいよ!!
ばかああああああ!!十代のばかああああああああ!!」
「なんちゃって嘘ってぐああっ!!」
げしんげしんげしんと全力で十代を蹴りまくる。

「せ、せんぱい!! 嘘だってっていうか、ダメ!!その状態で蹴ったら本当にみえちゃ」
「バカバカばかばかばかかああああああああああああああああ!!
十代のばかあああああああああああああ!!」


…その後、泣きはらして顔を真っ赤にしたままブルー寮に戻ったし、
十代はぼっこぼこの状態で同室の丸藤(弟)に発見されたりとかしたものだから、
デュエルアカデミア中に色々な噂や推測が飛び交ったりしてしまった。

…最初にちょっと冗談のつもりで嘘をついた私も悪いのだけど、
大半は十代が悪いんだから!!
やっぱりアンタなんか嫌いよ!!だいっきらいなんだから!!













おわり



10/04/02up

エイプリルフールな作業をし終って、やれやれやっとSS書けるぜ
…っは!!エイプリルフールなSSを書きたい!!
とかビキーンとニュータイプのように閃いて勢いだけで書きました。
先輩3年生なんだから、十代と小日向先輩が4月1日を一緒に過ごすことが無いとかツッコミは不要です。

多分アメリカ式で10月から年度が始まるんだよ!!
というふうにおもいねえ。
ってか、本当のところどうなんだろうねえあの学園。

謎なんですが、まあ、深く考えたら負けです。
ちきしょう…なぜ先輩は三年生なんだ…卒業しちまうじゃないか…!!
1年しか一緒に学校にいないなんて!!ひどい!!
とか悔しいのう!悔しいのう!!


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