「君は僕のもの」
「うおー疲れた…」
ずるずると部屋の中央でべっしょりと倒れこむ。
ダークネスの件が終わって、後は卒業するだけだと思っていたらまさかこんなことになるなんて、
単位が足りなくて卒業式まで補習地獄だ。
『ちょっと十代!!そんなところで寝ないでよ!!』
とかユベルが怒っているけれど、返事するのもだるくて声が出ない。
無理、の二単語すら出てこないまま、俺は眠りの淵に落ちていった。
*
『ちょ!ちょっと冗談じゃないよ!!十代起きてよ十代!!』
何度呼んでも返事が無い、完全に寝てしまったようだ。
ああもう!なにこの状況!!せっかく事件が解決して十代は自由になったはずなのに、
毎日毎日補習とかやらで十代と二人きりの時間なんか無い。最悪だ。
こんなことだったらダークネスの件が始まる前のほうがよほど一緒にいられたのに。
ぶつくさと文句を言いながら実体化して十代の靴下を脱がしてやる。
『十代、ばんざい!』
「うー」
条件反射なのか、そう言うと万歳のポーズを取る十代から赤いジャケットを引っぺがす。
本当だったらジャージに着替えさせたほうがいいのだろうけれど、面倒だ。
朝にお風呂はいるかもしれないし、
もういいや。とか思いながら十代を抱き上げてベッドに寝かせる。
ああもう、僕ばっかりが十代を抱っこしたりして、たまには十代が僕を抱っこしてくれたらいいのに!!
「んー」
柔らかい布団の上にころりと転がされて幸せそうな寝顔だ。
むかつく。
『十代、十代ってば』
つんつん突いても返事は無い。ますますむかつく。
ちょっとだけ悪戯してやろうなんて思って、ぎしりとベッドを軋ませながら十代の上に馬乗りになる。
『十代、起きないと悪戯するよ?』
普段は髪の毛で隠れている耳にふーふー息を吹きかけてみたり、
耳元で囁いてみるけれど起きる気配は無い。
『ふぅん?起きないんだ、じゃあ…』
インナーから覗く首筋に軽くキスをしてみる。
「んぅ…」
とか可愛らしい声が漏れるけれど、
それでも起きない。起きないんだから仕方無いじゃないか。
『十代が悪いんだからね』
ああ、意識の無い十代に悪戯するってなんだか癖になりそうだ。
そんなことを思いながら、ちろりと自分の唇を舐めた。
*
朝だ。ちゅんちゅんと鳥の鳴く声が聞こえる。サワヤカな朝だった。
だったら体も気持ちよく起きてくれたらいいのに、なんかだるい。凄くだるい。
「なんでだ、ろおおおおおってえええええええ!?」
時計を見てみれば補習の始まる時間が刻一刻と迫っていた。
うああああ!と叫びながら赤いジャケットを羽織って部屋を飛び出す。
風呂に入る時間も、朝ごはんを食べる暇すらない。
だから気がつかなかった、
いつもだったら『バカだねえ』とかユベルが何か言ったりするのに、
それが無かったことに。
「あれ?十代君、なにかつけているのかい?」
ぜーはーと呻きながら本日の補習場所、デュエル場にたどり着いて観客席に座っていると、
デュエル補習が終わった後にやる予定の課題を持ってきてくれた吹雪さんがそんなことを言う。
「え、匂う?昨日お風呂はいってないからかなあ」
「そういう匂いじゃないよ、どっちかといえば花の香りっぽい気が」
「そうね、何かコロンでもつけた…はずないわよね?」
それを聞いて、同じく補習組である藤原と明日香がとことこやってきて、そんなことを言うけれど心当たりが無い。
っていうか、花の香りなんかしてるのか?
とか思いながらジャケットとか匂ってみるけれどわからない。
それより、腹減ったなあ。なんて思っていると、
「朝ごはん食べれなかったみたいだね…何か買ってくるよ、ドローパンでいい?アニキ」
「うおー翔ありがとう!!牛乳も頼むぜー!!」
「うん、わかったよ!!すぐ行ってくるね」
とか優しい翔がそんなことを言ってくれた。
「おーい十代こっち準備できたぜー!!」
そうこうしている間に、デュエル実習の補習の相手であるヨハンと審判役のオブライエンが呼んでくるので、
そちらに行くことにする。
「なあ、なんか十代つけてる?すっげーいい香り」
「珍しいな」
「ええ?ヨハン、オブライエンも!?全然心当たりないんだけどなあ」
案の定デュエル場に向かうとヨハンとオブライエンからもそんな風に言われる。
ヨハンはデュエルディスクも装着しないで、すんすんと匂いのモトを探り始めてしまった。
うーん、ジャケットじゃねえなあ。とか言いながらジャケットをぽいっと脱がされて飛ばされたり、
腹が減っているから、なんかもう抵抗する気力も無くて好きにさせている、
「あれ?なんか首筋のとこ虫刺されみたいなのあるぜ?大丈夫か?」
「本当だな」
オブライエンまで頷いているから、あるのだろう。
「っていうか、すっげえ一杯あるな、マジで大丈夫かよ十代」
「別にかゆくもないけどなあ」
ほんとう、なんでそんなことに、とか思っていると
「十代、ばんざーい」
とか言われたから思わず条件反射で万歳のポーズを取ると、インナーまで脱がされてしまった。
「ちょ!!ヨハン!!」
「きゃああ!!」
「見ちゃ駄目だ天上院君――!!」
って万丈目!!すげえ失礼な事言いやがって。
確かにまあ、上半身裸ってあんまりいいものじゃないけどさあ。とか思っていると
「十代君!!服!!服を早く着て!!」
「ジャケットでもいいから早く!!」
とか真っ赤になった吹雪さんと藤原が大慌てでそう言うから、自分の体を見てみると、
首筋だけではなく、あらゆるところに鬱血したような痕があって、
それだけではなく、噛み付いたような痕やら、引っかいたような痕、
トドメに腕にはなんだかきつく締め上げたような手形まで残っている。
どうみてもSMプレイでもしたような後にしか見えない。
なんだこれ、とか思っていると不意に脳裏に昨日の出来事が浮かんでくる。
『十代、十代、いつ気がついてくれるのかなあ?
朝には気がつくかなあ?
それとも夜かな?
ああでも、十代は酷い男だから全然気がつかないままなんだろうね?』
酷いよ、とか言いながらぎりりとユベルが俺の肌に爪を立てながら笑う。
『でもいいよ、それが君の愛だって知っているからね?』
愛してるよ、愛しているよ十代、そう囁きながらユベルが再び俺に、
以上、回想強制終了。
「ゆ、ゆべるううううううううう!!」
俺が寝た後に何をしているんだああああああ!!
おいこら!と魂の半身に向かって呼びかけるが出てこない。
だけど笑う気配だけは伝わってくる。
「ユベルでてこおいいいいいいい!!」
上半身裸のままだけど、デュエルディスクを装着して、
デッキの中からユベルのカードを引き抜いてディスクにべしりと叩きつける。
『あははははは!!あっはははははははは!!』
大爆笑する悪魔が召還される。っていうか、笑いすぎで床を転がっている。
「こら、ユベルううううううう!!」
笑いすぎでひいひいと言うユベルに詰め寄るが
『いやあ、いつ気がついてくれるかなあとは思っていたけれど、
すごく面白い時に気がついてくれてありがとう十代』
「笑い事じゃないぞ貴様、この有様どうする…ッ!!」
ぎろりとユベルを睨むと、
後ろでオブライエンが「覇王になってるッ!!」とか震えているけれど、
ユベルは笑ったままで、すいっと俺を指差す。
『それよりもさ、服着たらどうだい?
僕としては、君が僕のものだっていう証拠を皆に見てもらって嬉しいけれど、
十代はそのままじゃ困るだろう?』
「…ッ!!」
そう言われて上半身裸で体中にキスマークなどなどがある状態を思い出して慌てて服を着るけれど、
なんかもう遅い気がしてならない。
「ああもう、いやだあああ!!はずかしいいいいい!!」
『恥ずかしがらなくてもいいじゃないの、酷いなあ十代』
うああああんと半泣きになりながら顔を両手で覆うと、
ユベルが俺を慰めるような声を出しながら、そっと顔を覆っていた手を外して、
啄ばむような軽いキスを唇に落とす。
「ん」
思わずそんな甘い声が漏れてしまうのは仕方無いぐらい気持ちがよく…
って気持ち良くなってる場合じゃない!!
可愛いよ十代いいいいいとか言いながらユベルがなんか眼をギラギラさせながら、
ハアハアとか呻きながらにじり寄ってくるのを全力で抑えながら叫ぶ。
「ヨハアンン!!ヨハアアアアアアアアンン!!ユベルを外に追い出せッ!!」
「うえ?っは!オッケーーーー!!」
ヨハンは目の前で繰り広げられる桃色の空間に意識が飛んでいたようだけど、
さすが俺の親友である。正気に戻ってユベルをがしりと掴んで俺から引き剥がす。
『ちょ!ちょっと!!何をするのさこの馬鹿フリル!!』
ユベルはうぎぎぎとヨハンから逃げようとするけれど、ヨハンの筋肉は伊達じゃない。
振りほどけないまま、ずるずるとデュエル場から外に連れ出されていく。
『離せ!!離せよこの野郎!!何この馬鹿力!!』
「あ、十代からしてた匂いってユベルの匂いだったのかあ」
へへあ。いい香りーとか言いながらすんすんと匂いを嗅ぐヨハンにぞわぞわしたのかユベルの顔が引きつる。
『十代!!十代!!じゅううううううだああああああいいいいいい!!』
助けてーーー!! という悲鳴をフェイドアウトさせながらユベルとヨハンがデュエル場から消える。
あーこれでしばらくは平和だ。
そう思いながらぐったりとデュエル場で項垂れていると、
購買からドローパンと牛乳を買ってきてくれた翔が戻ってきた。
「アニキー買って来たよって、どうしたの?
万丈目君や明日香さん達もすごい顔真っ赤だけど、っていうか、さっきヨハンが連れ出したのって…」
「…気にしないでくれ、っていうか、頼む、聞かないでくれ」
ううう、と呻く俺になんとなく察してくれた翔はそれ以上聞かず、
「はい、アニキ朝ごはんだよ」とパンを渡してくれた。
ああ、翔は優しい。
そう思いながらドローパン、本日はめざしパンだったようだ。
それをもぐもぐと食べながらこの後どうしたものだかと考える。
早く課題終わらせないとなあ、あれだけユベルが欲求不満になっているとは思わなかった。
それに、この体中の痕の仕返しはどうしてやろうか。
同じことをユベルにやり返してやろうか。
でも、それって大喜びしそうだよなあ…とか思いながら、憂鬱そうに溜息をついた。
おわり
10/04/13up
パソコン修理中にポメ代でぽちぽち書いていたSSなんですが、
なんかこう、何故か3回もデータが吹っ飛ぶという不幸なSSです。
消えるたびにウロオボエロ内容!!とかそんな感じでSSを打ち直したので
最初と文章変わってしまってます、最初どんなのだったっけなあ、もう思い出せません。
とりあえずエロっぽいものが書きたかったのは確かなのでこれでオッケー!!
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