「不確定で不安定な俺と僕と」










オリハルコンの眼のおかげで俺は十代の体の主導権を失った。
だけど、まだこうして存在している。

暗闇の世界が自分の世界。
暗闇の世界には何も無い、何かがあるとしてもわからない。
ぼんやりと、その世界を漂い続ける。
何も出来ないのは暇だ、ただ考えることしか出来ないから、
ぐるぐると同じことをずっと考え続けている。
ただ、考え続けていても答えは出ないから、
「俺は誰だ」
問いを発したところで誰も答えるものはいない。

覇王という名前はこの世界を統べる者として相応しいと思ったから名乗っただけで、
本来ならば、俺も十代ではあるはずなのだが、何か違う気がする。

答えを持つべき肉体の主人格であり、
自分を生み出した十代は俺を否定して、俺を死んだと思い込もうとして、徹底して俺の事を見ようともしない。

せっかく手に入れた力も振るおうともせず、また十代の仲間の一人が死んだ。

「愚かな男だ」

デュエルに負ければ死ぬ弱肉強食の世界で、ただ一人仲間を守り戦い続けていたのに、
その苦しみは誰にも理解されなくて、
狂王ブロンが言った「ヨハンという少年は死んだ」という言葉と、
目の前で次々に十代を恨み、罵り、死んでいった仲間達にとうとう十代の精神が限界をむかえた。
残された仲間では壊れる十代の精神を支えきれない。

十代は自分を責め続けて、壊れそうな精神が一つの結論に達する。
力があれば、力があれば皆を、ヨハンを、助けることができるかもしれなかった。
自分が弱いのが悪い。
力があれば、
だけど、どうしたらいいのかわからない。
もう動けない。

そんな十代の願いを叶えるために自分は生まれた。
俺は十代と違って十代が縛られる常識なんてもの知らない、理解しようとも思わない。
力を手にするためならば容赦も慈悲も無い。そのためだけに行動が出来る。
十代には他人を屠り、その力を啜り、束ねて強大な力を手にすることなんて出来ない。
だから、十代の代わりに俺が全ての事を進めて、十代の望むものを作り上げた。

そうして、強大な力を十代は手に入れたのに
それを使おうともせず、十代は苦しんでいる。
何故だろう。
わからない。

「君は可愛いねぇ」
ゆるりと視界の端の闇が蠢いて十代の良く知る男の、十代がこの異世界に来てまで捜し求めた男の姿になる。
十代の心はこの男に関してはとても弱くなる。
その事を良く知っている…心の闇を見つけて、それを糧にするそいつは、
そんな十代の弱点を利用して心の隙間からこの世界にまで侵入してきたのだろう。

けらけらと笑うその瞳には狂気の色しか浮かばない。
その狂気を良く知っている。十代を、十代だけを愛して、愛して、愛しすぎて狂った精霊。

「お前は誰だ」
「俺はヨハンだよぉ、君が…いや、十代が必死に探していたヨハン・アンデルセンさ!!」
くすくすとヨハンの顔で、ヨハンには出来ないような狂った顔で、ヨハンの声で笑う。

愚かな精霊だ。
どういう状況でヨハンの体に入り込んで、その魂をどこかに封じることができたのかはわからないが、
ヨハンになれば、ヨハンの体があれば、十代が振り向いてくれる、愛してくれるなんて思い込んで、

「嫌だなあ、君にだけは言われたくないよ、覇王」
心を読む精霊は哀れに思っているような表情を作って俺を嘲る。
「君は十代のために生まれて、十代を守って、十代の代わりに罪を背負ったのに、
十代は君を殺そうとして、君を否定して、君の罪を自分の罪だと言って苦しんでいる。一生苦しむだろうねぇ?
せっかく超融合を作り上げたのにさぁ、十代は使おうともしないし
…君のしたことは全部無駄で、無意味に十代を苦しめるだけだったのさ!!
愚かって言うならば君も愚かだ!!」
芝居がかった動作でばっと両手を広げる。
「でも俺は違う!!俺は十代に望まれている!!
十代は俺を探すためにこんなに苦しんで傷ついてもやってきてくれた!!
十代は俺の事を愛している!!ねえそうでしょう!?」
興奮して色素の薄い白い顔を赤く染めて、必死に俺に詰め寄って叫ぶ。
それに対して、そうか。としか言いようが無くて、そう答えて瞑目する。

ちっと舌打ちをしてそいつは俺から離れる。

「…それだけなの?酷いなぁ」
それまで興奮していたのに、一気に冷えた表情になる。
それきり黙ってしまった俺に冷静さを装っている顔をして、そいつも黙ってしまった。
哀れだ、と思う。
十代が思っているのはそんな異物が入り込んだヨハン・アンデルセンではない。
…実際、十代はその存在を否定する。
それを本当はこいつは理解している。
そして、その事実は狂っているこいつにもじわりじわりと効いてくるらしい。

黙っていたのだが、しばらくして沈黙に耐え切れなくてそいつは口を開く。

「……ねえ、俺は十代に愛されるよね…?
…俺は、ぼくは、じゅうだいがただ、すきなだけなのに」
不安げに揺れる橙色の瞳。
「…十代は、俺のことも、僕のことも、許してくれるよな…?」
その言葉はユベルのものなのか、ヨハンのものなのか、わからない。
おそらく本人にもわからないだろう。
ヨハンのフリをしようとしすぎてユベルが壊れたのか、
ユベルの魂を受け入れているヨハンが壊れているのか、
それともまた別のものなのか、わからない、理解しようとは思わない。
「いやだいやだいやだいやだ、この体はいやだ。こんなのは僕の体じゃないっ…!!
だけど、この体じゃないと十代が愛してくれないの?俺は十代の事がこんなに好きなのに!!
そんなにヨハンがいいの!?違う違う違う!!僕はヨハンだ!!
…違う愛されていないなんてのは違う、だって俺たち親友だろう、
なのに十代はどうしてそんな目で俺をみるんだよ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
ガリガリと顔を引っかき始めて嫌だ、違う、と叫び始めた。

…その体に巣食う精霊の名前を初めて呼ぼうとした。けれど、
「ねぇ…僕は、誰だぁれ?十代…教えてよぉ」
引っ掻きすぎで血が滲む顔で、大きな瞳には涙が浮かんでいて、必死に俺に縋る。

お前はユベルなのだろう?とも
お前はヨハンなのだろう?とも言えなかった。

そもそもお前は俺を十代と呼ぶけれど、俺こそ何なのだろう?
答えを持たない俺には答えることは出来ない。

答えてくれない俺に見切りをつけたのか、
混乱しすぎたせいで俺の世界に侵入する力を制御できなくなってしまったのか、
それとも先ほどまで戦っていた男とのデュエルで消耗しすぎたのか、
勝手にそいつがこの暗闇の世界から消えてしまうまで、

ただぼんやりと、
俺は誰なのだろう?
そんなことを考えていた。










fin



10/04/18up

ツイッターで結香さんが覇王様について熱く語られているのを聞いて、こっちも熱く萌えてべらべら喋り捲って
なんかこう、ツイッターの場合リアルタイムで思いついたまま書くので、
そうだ、SSにでも書いてまとめよう、ネタとして面白いじゃないかとか思ったんですが

なぜこうなったし。とりあえず時間軸は覇王VSオブライエンからヘルヨハンVSヘルカイザーあたりの裏妄想。

とりあえず、ツイッターで書いていた事をまとめてみる(オイ)

私的なイメージですが、覇王様は精神崩壊しそうだった十代を守るために生まれた人格で、
敵を排除して、目的を方法を選ばないで達成するという攻撃的な守り方な別人格、という位置づけ。
覇王とは名乗っているけれど、前世シーンで王様とユベルの会話にあった、優しい闇を守る存在=覇王、とはまた別イメージが
つか、絶対優しい闇?なんだそれは美味いのか?とかなりそうです覇王様。
世界が破滅しようが、何しよーが平気そう。
目的(十代の望みでもある力)さえ果たせれば何がどうなろうと気にしない、引かぬ媚びぬ省みぬ。
まあ、十代が後で覇王のしたことで苦しみ悶えるわけですが、それすら理解できないかと
…もしも前世十代が覇王として覚醒?することがあっても覇王様にはならないと思うんですよね、
二十代ともまた違った感じで違うのかなーとかもやもや妄想。

ヘルヨハンこと暗黒使徒はユベルが十代に愛してもらいたいが一心でヨハンになりきろうと必死になった結果
でも、やっぱりヨハンじゃ嫌で嫌で、もしも愛してもらったとしてもその愛はヨハンのものかもしれないとか勝手に妄想して自滅して、
テンションあげてないとやってらんねーーよ!!とかヤケになってる(狂ってる)
とかいう感じなイメージです。

まあ、あくまでも妄想なのですけどね!!いやあ、他の方の話とか聞いてると本当同じキャラなのに全然解釈違って
大変有意義でほっくほくな時間をすごせました。
みんなの妄想をオラにもっと分けてくれ!!とか思いつつなんかとんでもない量のあとがき?終了。





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