「邪魔でなんとかとアイツと俺」
映画版後日談GXサイドその2、ちょっとだけ「秘密で迷惑な俺達のヒーロー」の続き









日本の空港から飛行機に乗って、途中アムステルダム空港でまた飛行機に乗り換えて、
ローマ郊外のフィウミチーノ空港に降り立つ。
なんだかんだで10時間以上飛行機に乗ったことになる。
流れる異国の言語のアナウンス、一応これでも世界中の大会に出るプロの卵だ。
エドの付き人もやっていた時期もあったから言葉はわかるが、やはり慣れた日本語とは違う。違和感がある。

ざわざわと人の流れる空港…その出国口でぽつんと立ち、はあと溜息をついて独り言を一つ。

「…来てしまった」

遠くから聞き覚えのある「万丈目君〜こっちっすー」という声が聞こえてきた。
どうやら出迎えに来てくれたらしいのだが、背の高い外人達の中に埋もれているらしい。
ぼーっとしているわけにもいかないので、がらごろと重いスーツケースを引っ張りそちらに向かうことにした。



「…ヴェネツィアにいると聞いていたが、いつのまにローマに…」
オシャレなオープンカフェ…でモグモグとパンを齧りながらぶつぶつ文句を言うと、
「え、万丈目がなんかユベルに吹き込んだんだろ?って聞いたけど」
「全然心当たりが無い、確かにあの事件が終わった後…電話したら何故か十代ではなくユベルが出たが」
「まあ、とりあえず…ユベルのリクエストで…
あの事件の時色々手伝ってもらったみたいだから、それのお礼にアイツのワガママ聞いてやったんだってさ」
まあ、ヴェネツィアからナポリとか南部地方とかに行きたいとか言われるよりはマシだろう。
手首に包帯、顔にも怪我をしたらしい顔にも大きな絆創膏をつけたヨハンがジュースをちゅーっとストローで飲みながらそう言い、

「…で、アニキは現在ユベルとデート中っすか」
ってどうやって精霊のユベルとデートするんすかね?と翔が首をかしげる。
「あははー凄かったぜ!!もうちょっとしたら十代が戻ってくるはずだから、
翔と万丈目も実際にみたらいいさ!!」

「な、何をしたんだ?」
「さ、さあ?」

その後は、ヨハンやカイザー達…あの事件に巻き込まれて怪我をしたデュエリスト達の具合を聞いたり、
事件のその後の話…特に、ヨハンとカイザーと翔のレインボードラゴンとサイバーエンドは
この事件を引き起こしたというパラドックスという男が奪っていたこともあって、
色々と大変だったらしい。
そこらへんはペガサス会長がいろいろと事後処理や、カードに異常が無いか調べてもらっているところらしいが。
「よくわからないけど、ペガサス会長は事情よくわかっていてくれてさ、
色々便宜図ってもらったから、むしろ俺達は何もしてないぜ」
「…十代のアニキは何かそこらへん心当たりあるみたいっすけどね、まだ聞いてないけど」
なんてヨハンと翔が言っているのを聞いたりして、

食後のコーヒーを飲んで、一息をつく。
今日の天気は凄く良くて、カフェのマスターがかけているラジオからは異国のどうでもいいようなのんきなニュースが流れている。
日本にいたときでも…そんな状況だったのだけど、
まさか一番の被害があったこの国でもそんな状況で、なんだか胸がもやもやする。

…もっとも、このもやもやは学生時代の頃から感じている気もするが。


「本当、アニキってすごいっすよねえ…一人でこの問題解決しちゃったんっすよね?」


…その言葉で学生時代の事を思い出す。
色々な事件を一人で解決してまわって…そのツケが最後に回ってきて、
酷い目にあって地獄のような世界に落ちて…人をやめてしまったかもしれないヤツの事を。
…そういう風に追い詰めてしまったのは、自分にも一端があるわけだけど。


『十代の馬鹿野郎!!』
あの暗黒に閉ざされた世界で殺される寸前、十代を酷く罵ったことが不意に思い出される。


…なんでこんなことを今更、

もやもやと嫌な気分を断ち切るように、ヨハンが翔の言葉を否定する。

「そんなこと無いらしいぜ?」
何故か、俺の顔を見てにんまりと笑う。

「…未来の世界から来た遊星ってやつと、あの遊戯さんと一緒にこの事件解決したみたいだからな、
…それに大徳寺って先生とか、ユベルとか」
「だが、この時代からは…俺達の中からは誰もあいつの力になってやれんかっただろうが」
自分の無力さにむかついて、むすっとしてそう言うと、
「…むしろ俺なんかはレインボードラゴン取られちまって十代に迷惑かけちまったけどな」
いやーすっげえ参ったわーアレはーとヨハンが笑う。

「でもまあ、誰もアイツの助けになれなかった〜なんてのは違うと思うぜ」
「そうかなあ…?」
「そうだって!!」
慰めはよしてくださいっす、と翔がむすーっとしてテーブルに顔をべちょりとくっつけて呻く。

そうだ、慰めなんかいらない。
…事件に直接絡んでいたヨハンや翔と違って、俺なんか完全に蚊帳の外だった。

…少しぐらいは頼ってくれたらいいのに、
十代の馬鹿野郎。そうぼやいて
なんとなく自分もどんよりと落ち込んだような気持ちになっていたら、


能天気に自分達を呼ぶ声が道路の向こうから聞こえてきた。


「ヨハアーーーン!!翔―――!!…って万丈目ぇ!?なんでお前ここにいるんだよ!!」
ぱたぱたと走ってくる十代は…いつもの格好では無かった。
いやまあ、そこはいい。そこは、
どうしてずぶぬれなんだ??

「うわ、どうしたんだよ十代…ユベルは?」
「いやあ、なんかさー変なヤツに追っかけられてさあ…ユベルは暴れるし、河には落ちるし、大変だったぜ」
どうも今は完全に機嫌を損ねて引っ込んでいるらしい。

「で、なんで万丈目がここに?」
ひょこんと首を十代が傾げる。
「…たまたまだ、たまたま!!こっちに用事があったから!!」

…ウソだが。
本当は…十代がどうなったのか、あの事件で何があったのか、気になったとか、
心配だったから実際に十代を見るまで安心できなかったからだなんて言えない。

『…万丈目のアニキってばほんとう素直じゃないわよねぇ〜』
『まあ、そこがアニキのいいところなんだけどなー』
『こんな風に俺達のことも大事にしてほしいよなあ〜』
「ええい!!そこのおジャマども煩いっ!!」
がーっと3匹のおジャマを蹴散らすのを見て、ヨハンはアハハハと笑い、
翔は精霊が見えないが、まあなんとなく俺と同じ気持ちだろうから、苦笑を浮かべている。

「ま、よくわかんねえんだけど…」
相変わらず鈍い十代はただ首を傾げるだけだが、
何かを思い出したようにぽん、と手を叩く。

「そうだ!!万丈目!!…俺、万丈目にお礼言わなきゃいけないんだった!!万丈目ありがとうな!!
お前のおかげですっげー遊星も俺も助かったぜ!!」
「…何が?」
両手で俺の手を取り、ぶんぶんと振られて、ありがとうと言われるが…さっぱり心当たりがない。
お礼を言われるようなことをした覚えがない。

あと、遊星とは誰だ?

「何の話だ」
「いや、ほら、お前からさー、万丈目財閥のデータベースのIDとパスワード貰っていただろ?
今回の件で調べモノがあったとき、使わせてもらって…重要な情報をそこで見つけることができたんだよ。
万丈目、本当にありがとう」

それは、学生の頃からずっと、いつか、こいつから聞きたいと思っていた言葉だった。
だったのだけど、


「ふん、ぜんぜん感謝が足りないぞ、もっと感謝するがいい」
口から出てくるのは素直になれない言葉ばかりで

「…おう、何度でも言うぜ?万丈目ありがとう、大好きだぜーーー!!」
「な、な、何をいっているんだあああ!!」
「あーーー!!万丈目君ずるい!! ずるいっすーーー!!」
翔がずるいずるいと連呼するけれど、俺はそれどころじゃない。
なんか俺、変なこと言った?とか十代が首をかしげている。

無自覚か!!本当に酷い男だ!!

「いやあ、仲いいなーいいなー俺も十代大好きだぜー?」
「おう、ヨハンも翔も大好きだぜ?」
「アニキーーーーー!!」

「…馬鹿らしい」
はあ、と溜息をついていると…十代が、どこかを見て「あ」と漏らす。
「どうした?」
「いや、うわ、やべ、あいつらまだ追ってきやがった」
視線の先をちらりと見れば、怪しげな黒いスーツの連中、どうみてもかたぎには見えない。


「…僕らもやばいんじゃないっすか?この状況」
「…かもな」
「かもなじゃないだろうううう!!」
「うひゃー何をしたんだよ十代!!」
「さあな、わからねえけど逃げるぜ」
けらけらとヨハンが笑っていると、
十代もニヤリと笑って、俺達のいたテーブルから飛び出して走る。

そうなればあの黒いスーツの連中も追うわけで、
ただでさえやばそうな連中だ。捕まればどうなるかわからない。
つまり、俺達も逃げるしかない。

「じゅううううだああああいいふざけるなああああ!!この馬鹿やろうううう!!」
「あはははは、ごめん、ごめんってばー」

ローマの街に俺の悲鳴と十代の暢気な声が響き渡る。
…ああ、なんでこんなハメに、なんて思いながらも
十代と絡めばこうなることぐらいわかっていたから、こうやって肩を並べていられることに少し嬉しく感じながら、
全速力で皆で走りつづけた。















おわり

10/5/10up

タイトルが思いつかなかったのでTF3万丈目パックとパートナーデッキをもじってみた。
…苦肉の策ゥゥゥ!!ウギギーとかしていたら、
ちょっと空港調べてみたらローマにも国際空港あったりとかしてグギギーとかしたり、
いや、昔なんですがイタリア旅行したときはミラノで降りたので、(ヴェネツィアにはそこが一番近いハズ)
まあ、ちょっとおかしいとこがあっても気にしないんですよ!!

映画に万丈目財閥のデータベースというお話とか出たついでなので、
たまには万丈目いい目にあわせてあげたいキュンキュンという万丈目への愛がダダ漏れSSでした。
もう映画関係ない。

ちなみに十代が何していたかというと…ローマといえばアレですよアレ!!アレアレ!!
多分そのうちもう映画関係まったくナイナイという十ユベなSSがあがったら
答えがわかると思いますさあ!!

あーイタリアまた行きたいーヴェネツィア行ってここで十代がッとかハアハアしたいです。

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