「Sweet Spicy teatime Rondo」
覇王様がメイドでジムが時計職人というそりさんのチクタクパロの設定に萌えて書いたSS第2弾です。









「……っくしゅ」
「…覇王?」
Are you ok?と訊ねながら手紙を書く手を止めて後ろを振り向くが、
「大丈夫だ、気にしないでくれ」
「…でも、覇王…少し顔が赤いよ?もう台所の火は落としたのだよね?
少し早いけど、もう休んでいいよ」
覇王は俺の顔を見て少し考えた後、
「…そうだな、少し体調が悪い。ジムの言葉に甘えて先に休ませてもらう」
「goodnight、覇王」
「…ジムも早く寝ろ、明日はアモンが来る予定だろう?…おやすみ」
そう言って、ぺこりとお辞儀をして屋根裏部屋に戻っていった。

そこでおかしいとか思うべきだったのだ。
いつもなら、「平気だ、気にするな」とか言いながら仕事を中断しないで夜遅くまで仕事をしているのに、
…はあ、と吐息を零して、赤い顔で部屋を出て行ったのをみていたのに、

次の日になるまで、そこまで酷い体調だなんて気が付かなかった。





まずい、これは完全にまずい。
ゆっくり寝たら治るだろうとか思ったけれどダメだった。
フラフラする、だけど仕事をしなければならない。
なんとかオーブンや台所を掃除して使えるようにして、玄関の掃除に向かう。
玄関を出ると春というには随分冷たい風が吹いている。

…さむい。

そんなことを思いながら掃除をしていると、隣の住人が出てきた。
「…アラ、覇王ちゃん…顔が赤いけれど大丈夫かい?」
「…おはようございます、大丈夫、です。少し風邪を引いたみたいで…」
「ムリはしちゃ駄目よ?…あ、そうだわ!!昨日パイを作ったのよ!!
あまりもので悪いけれど食べて頂戴!!」
一応遠慮をしたのだけど、料理するのもしんどいでしょう?と言われてトメさんからアップルパイを持たされる。
「ジムちゃんと一緒に食べなさいね」
「…ありがとう」
トメさんの言うとおり料理をするのも少し辛いぐらいだったので本当に助かった。
今日の朝ごはんはトメさんのアップルパイにしよう。


「んーさすがトメさんだね、delicious!!」
「…よかった」
朝食を用意できなかったけれど、ジムが喜んでくれて。
…今度トメさんにお礼をしなくては…何を用意したらいいだろう、
クッキーとか作ったら喜んで……もら、え…


「…覇王?」
「……え、あ。すまない」
意識が遠くなりかけていた。
ああ、いけない。ジムが食事中なのに…、だけど、体がいう事を聞いてくれない。
カタン、と言う音が遠くから聞こえる。大変だ、何かを倒してしまった。
「覇王!!」
ジムが心配そうな顔をしているじゃないか、早く片付けなきゃ、
…だけど、何が倒れたのだろう?





「…風邪ですな、今日一日はゆっくり休ませてあげればいいでしょう。
お薬出しますから、彼女が目を覚ましたら飲ませてください」
「…thanks、doctor」
「お大事に、お嬢さん」
にこりと微笑みながら初老の男性が出て行くのをぼんやりと見送る。
ゆるゆると意識が覚醒していくと、
…あれ、見覚えがあるような、無いような天井が見える。
少なくとも俺の部屋の天井ではない。

「…覇王、よかった…気が付いてくれて…心配したよ」
「…ジム?」
心配そうなジムの顔を見ていると次第に自分がどこにいるのか理解した。
…ここはジムの寝室だ。
「…ごめん、ここが一番近いベッドで…!! 俺が寝てたからちょっとぐしゃぐしゃだけど…!!
それに、屋根裏に続くあの急な階段を君を抱えて登るのは大変で、我慢してくれるかい!!
あ、そうだ!!勝手にだけど着替え持ってきたよ…!!これでよかったかな!!」
「あ、ああ…」
凄い勢いでまくし立てられて、とりあえず「ああ」としか言えなくて、そんな返事をしたのだけど、
それを聞いてジムがようやく安堵した表情になる。
「じゃあ下で何か作ってくるから、その間に着替えておいてくれるかい覇王」
一方的にそう言ってジムが出て行ってしまった。

それを見送った後、もそもそと着替えをする。
少し寝たおかげで少し体調も良くなったみたいだ。
ようやくまともな思考が出来るようになってきた。

…凄く心配させてしまったみたいだ。…ジムには悪いことをしてしまった。
今日は…ジムの親しい友人で…なんだか俺にも絡んでくることもあるアモンがこの家に来るのに、
この調子ではお茶やお菓子を用意するのもムリそうだ。
ジムにはさらに迷惑をかけてしまう、だけどそれもジムは笑って許すのだろう。

だから、
ジムが戻ってきたらせめて「ありがとう」と言おう。

そう思っていたのだけど。





「………うう、どうして覇王が怒ったのかわからない…」
「押し倒したとか?やりますねジム」
「No!!そんなことするわけないじゃないか!!」
客間でぐすんぐすんと呻いているジムをアモンはうっとおしそうにしながらもちゃんと話を聞いてくれるらしい、
アモンが溜息をつきながらどうぞ、愚痴ぐらい構いませんよ。とか言ってくるので、
事の次第を説明する。

「…昨日からちょっと彼女、風邪気味だったみたいなんだけど、それが悪化してね…
今日一日休んでくれって言って、朝食を食べた後までは普通だったと思う」
「ふむふむ」
「…それから、doctorからもらったお薬を飲ませたんだ。
あのdoctorの出す薬…結構苦い味なんだけどさ、彼女…顔色も変えないで飲むから、
ちょっと思わず」





「…覇王は凄いなあ、それ、すごく苦いだろ?bad smellだし」
「……そうだろうか、気にしていなかった」
首をかしげて不思議そうな顔をしている彼女に笑いかけながら、
俺としてはほんとう、ただ、思ったことを言っただけだった。
「…彼女はさ、その薬飲むたびに『うええええ〜マズイよ〜〜くさいよぉ〜〜ジム〜〜!!』
なんて泣いて、宥めるの大変だったよ」

ただ、それだけだった。

それまでは…元々無表情だけど、少しは微笑んでくれていたのに、覇王の顔からその微笑みが消える。

そして、
「…ならば、次に薬を飲むときには『彼女』のように嫌がってやろうか?」
皮肉げな笑みを浮かべて覇王が俺の顔を見て呟く。

「…は、覇王?」
そんな風に覇王が言うのは初めてで、思わずビックリして聞き返してみると、
はっとした表情を見せた後、覇王が顔を伏せる。

それから、しばらくして、

「…すまない、少し疲れているみたいだ、休ませてくれないか…」
「……Ok」
強い口調でそういわれて、思わず俺も頷いてしまう。
部屋を出る前にちらりと見えた覇王の顔は、酷く傷ついたような、自己嫌悪をしているような、そんな顔をしていた。





「……それは、ジムが悪いですね」
はあああ、アモンがメガネを押さえて溜息を零す。
「え、ええ?」
「…無自覚ですか、まあ、ジムだったらそうでしょうけど」
そのおかげで僕が付け込む隙があるわけなのだが、とかなんとかアモンが聞き捨てなら無いことを呟きながら、立ち上がる。
っていうか、なんだか口調もいつもの丁寧なものから変わってないか?
「アモン?」
「台所を借ります、喉が渇いたから紅茶でも淹れてきますよ」
「…あ、それなら俺が」
そう言って立ち上がろうとすると、片手で制される。
「いえ、ちょうど土産にと思ってチャイ用のスパイスを持ってきていましてね。
本場のチャイを作ってあげます」
フフフ、とかメガネをキラリを光らせながらアモンが台所に下りていったのを呆然と見送ってしまった。





どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。
自己嫌悪に陥りながら布団を引き上げるとかすかにジムの匂いがするような気がした。
…それはとても好きな匂いのはずなのに、
今はジムの事を思い出すだけで落ち込んだ気持ちになる。
だけど、体がだるくて上手く動かなくて屋根裏部屋に戻ることも出来ない。

そうやってしばらく悶々と一人、ジムの寝室で天井を睨んでいると、
コンコンと、ドアがノックされる。
ジムだろうか?

…さきほど玄関のベルが鳴っていたから、今日の客人であるアモンが来ているのはわかっていたが、もう帰ったのだろうか。
とか思いながら掠れた声で「どうぞ」と言うと、アモンがドアを開けて部屋に入ってきた。

「…アモン、様」
「アモンでいいですよ。お久しぶりです、覇王…ところで、ジムから君が風邪を引いていると聞きまして、
ちょうどいいスパイスを土産にと持ってきていたので、チャイを作りました。どうですか?」
にこりと微笑んでトレイの上に乗ったコップを指し示す。

「…ありがとう」

お礼を言いながら、コップを受け取りにおいを嗅ぐと、
スパイスのいい香りが漂ってくる。
飲んでみればとても甘い、でも嫌な甘さではない。美味しい。

「…おいしい」
「よかった、気に入ってもらえて。まだスパイスも残りがありますからおかわりも作れますよ?」
「いや、いい」
「では、残ったスパイスはジムに作り方を教えておきますから、またジムにでも作ってもらってください」

そうして、しばらくスパイスの香りと甘い紅茶を楽しんでいると、
いつの間にかベッドの隣に置いてあった椅子に座ったアモンが俺を見つめている。
おちつかない。

「なんだろうか」
なんだか居心地の悪いものを感じながらアモンに問いかけると、
「いえ、覇王は相変わらず美しいと思いまして。
…前にも言いましたが、インドに来ませんか?
エコーも君の事を話したら会ってみたいという事を言っていましたし」

…またその話か、とかちょっとげんなりした気分になる。
アモン・ガラム…インドでも有数の商家であるガラム家の長男(ただし養子らしい)で、
何故だか知らないが、初めて会ったときからジムの目を盗んで、こうやって俺を口説いてくる。
どうも、エコーという恋人がいるらしいのだが…一夫多妻制のインド人だから気にしていないようだ。

「悪いが、今の生活も気に入っているし…俺は…」
「ジムの事が好き?ですか。…失礼ですが、貴方の気持ちは報われませんよ」
「…知っている」

暖炉の上に写真が何枚も飾ってある。
その一枚に…笑顔の少女がジムと一緒に映っている。
それに視線をやりながら、アモンに返事をする。

…どれだけ思っていても、雇い主と使用人という関係を抜きにしても、
死んだ人にはどうやっても勝てはしない。

勝てない、そんなことは知っている。
所詮、『彼女』の身代わりで、ジムが『彼女』を失った痛みを紛らわせるための存在でも、
でも、それでも、

…瞳を閉じれば、
『…覇王』
にこにこと緩んだ笑顔を見せるジムの顔が浮かぶ。

…それでも、ジムが好きだ。

「…まあ、いつでも僕のところに来てください、貴方でしたら歓迎ですから」
「エコーの次に?」
「ええ、エコーの次にですよ」
「…お断りする」
まったく、エコーという女性がいるくせに、こいつはなんで俺を口説くのだろう。
理解できない精神だ。

「それは残念です、…ではお大事に」
アモンが苦笑をしながら空になったカップを回収して立ち上がり、部屋を出て行った。


アモンが去って、部屋が静かになるけれど、
…なんとなく、気分が楽になった。
アモンが淹れてくれたチャイのおかげなのか、
奴と話していて…報われないとわかっていてもやはりジムが好きだという気持ちに変わりは無いと改めてそう思ったからなのか、

…まあ、アモンに礼を言うのはなんとなく嫌だから言わないけれど。
今度また来ることがあるならば、料理はいつもよりも力を入れて作ろう、
そんなことを思いながらベッドに潜りなおして、もう一度眠ることにした。





きい、と遠慮がちに扉が開く音がする。
その音に意識が覚醒する。

「…ジム?」
「あ、ごめん…起こしちゃったね、sorry」
「…いや、いい、そろそろ起きて屋根裏部屋に戻ろうと思っていたから…こちらこそ、今日は一日すまなかった…」
そう言うと、
「…俺こそ、sorry覇王…君は君なのに、俺は」
「…ああ、その事は俺も悪かった…ジムには悪いことをした、すまない」

…眠って少し体が楽になったからなのか、そんな風に素直に謝ることができた。

なんとなくその後は二人とも沈黙してしまったけれど、
俺が微笑むと、ジムもいつもみたいに微笑んでくれた。

…よかった。
ジムに嫌な気分をさせたままではいたくなかったから、
そんなことを思っていると、

「あ、そうだ…dinner用意したのだけど、食べれるかい?
俺が作ったモノだから…なんだかシチューみたいな、何かになったのだけど」
「…ああ、ジムが作ったものならばなんでも食べる」
「…あまり、味は期待しないでね…ちょっと微妙、いや、凄く微妙だから…
…うーん、アモンからもらったスパイス入れたらマシになるかなあ…、まあ、いっか」
とりあえず、持ってくるよ!!
とか言いながらジムが再び部屋を出ようとするのを、

「ジム」

なぜか、引き止めてしまった。

「なんだい?覇王」
「あ、いや…」
何を言おうとしたのだろうか、今日は一日面倒をかけてすまない、は言った。
…昼間のあれは気にしていないから、というのも…もう言った。

…ジムが好きだ、なんてことは…今、ここで言う言葉じゃないはずなのに、
どうして頭にそんなことが浮かぶのだろう。

「…覇王?」
「……せっかくだから、一緒に…食べてくれる、か?」
いつもは給仕や洗い物があったりとかして、食事は別に取っているのだが、
一度ぐらいは、そんな風に過ごしてみたかった。
…多分きっと、まだ熱が残っているのだ、だからそんな出来ないことをジムに頼んでしまったのだ。
…使用人と夕食を共にするなんて、3時のオヤツを一緒に食べることとは違うのに、

「…すまん、忘れて「うん、わかったよ」…え、いいのか?」

自分で頼んだこととはいえ、あっさり承諾されて吃驚していると、
「こういう機会でもないと、覇王と一緒に食事なんて出来そうにないからね。
…いつも、俺が食べている間にも覇王は仕事をしているだろう?
本当は、一緒に夕食も食べたいなーとか思っていたけれど、
それを言うと覇王困ると思って言わなかったのだけど、嬉しいなあ」
じゃあ、準備してくるから少し待っていてね、と笑ってジムが寝室を出て行った。

…自分も、嬉しかった。とかは流石に言えなかった。

顔がなんだか熱い。
…熱があがってしまったみたいだ。

今日は一日体調も悪くて、散々だったけれど、
本当に他愛も無い、日常の会話なのに、
どうしても埋まらないはずの溝が、すこしだけ埋まったような気がした。
そんな風に感じられたのなら、
…こんな風に一日の最後を過ごせるなら、悪くない。


ああまったく、こんな些細なことで落ち込んだことも忘れて舞い上がれるなんて、
随分と安い人間だ、と他人事のように苦笑を浮かべながら
ベッドから起き上がって上着を羽織ってジムの後を追った。






おわり



ブラウザバックでお戻りください。







メイド覇王様とご主人様ジムは萌える萌えるー!!というわけで第2弾です。
今回はどんなカンジのがいいですか?という風にリクエストを聞いて、書いてみたのですが
リクエスト通りのシロモノになったのやら(笑)
あと、アモンの口調が僕なのか俺なのかどっちなのか…たまに俺とか言ってるときあったような、
とりあえず、僕で統一しておきました。