「賢者は天馬が導く」
いろいろ捏造炸裂注意
「…以上が、今回の件の顛末です」
校長室によく通る少年の声が淡々と自分の身に降りかかった災厄の結末を紡ぎ、そして終わった。
2日前、遊城十代は轟音と共に空…宇宙から落ちてきて異世界から帰還した。
…それで、ヨハン・アンデルセンが託した彼の家族、宝玉獣とレインボードラゴンのカードや、
彼が異世界で手に入れたというカードの検分や調査をするために自分が呼ばれたわけなのだが。
(隼人ボーイを連れてこなくて正解だったようデース)
元ルームメイトのあまりの変貌に彼がどれだけ衝撃を受けるだろう?
密やかに心の中でだけ溜息を零しながら、そんなことを思う。
天真爛漫な性格で、太陽のようにいつも誰かを照らすようだった少年の姿はそこに無い。
残念ながら彼の身になにがあったのかは…左目にあった心を読む千年アイテムの一つである千年眼は無いので、
異世界に十代と共に行っていた面々の話や十代本人の話から想像するしかない。
「それで、これらのカードはどうするのかね?幸いペガサス会長がここにおられることだし、
海馬コーポレーションの協力も得ることが出来るだろう
しかるべき処理をして封印ということも」
鮫島校長が机の上に置かれたカードから三枚のカードを抜き出し、提案する。
それは、ユベルとその進化系の2体、この事件の引き金ともなった精霊の宿るカード。
「え?」
十代がこっちじゃないのかと、ちらりと超融合のカードを一瞥する。
「十代君?」
「いえ、なんでもないです…それに、封印なんかしなくてももう大丈夫ですよ。
こいつは、もう絶対何もしませんから」
少しだけ困ったように、だけど優しい微笑みを浮かべながらそっとユベルのカードに触れながら断言した。
「しかしだね…」
鮫島校長が渋るのは仕方無いだろう。
大丈夫だなんて言われても、この学園を守る校長として、
はいそうですかと納得できるわけがない。
「ミスター鮫島、このカードは十代ボーイが持っているのが一番いいと私も思いマース」
「ペガサス会長」
安心させるように鮫島校長に笑いかけると、
ペガサス会長が仰るなら、と鮫島校長が溜息を零してそれ以上は何も言わなくなる。
「ありがとうございます」
ぺこりと十代が私に頭を下げる。
「…少しこのカード達を見てもいいデスか、十代ボーイ」
「あ、はい」
そう言って、机の上に並べられた3枚のユベルを手に取る。
確かに彼の言うとおり…それらからは何の気配も感じない。
…数年前、このカードが原因で十代とデュエルした子供達が昏睡状態に陥り、
そして、複数の人間がこのカードによってさまざまな災厄に見舞われ、この学園を異世界に吹き飛ばした。
…そんなカードには思えない。
カードの効果などは凶悪かもしれないが、
何度も不思議な力を持つカード達を見てきたが、それらに感じたモノをこれからは感じない。
このカードが危ないのなら、異世界で十代が手に入れたのだというあの超融合のカードのほうがよほど危険なものを感じる。
「………」
なんだか不安げなのか、落ち着かないのか、十代がじーっと見ている。
その視線に気が付いて、私が視線を合わすと慌てて表情を取り繕っている。
「ありがとうございマース、これは十代ボーイに返しまショウ」
「はい」
なんだか、取られた大事なおもちゃを返してもらった子供のような顔だ。
…大人びた風になってしまったけれど、まだまだ子供なのだろう。
すこしだけその事に安心して、三枚のカードを大事そうに手に持つ十代を微笑ましく思いながら見ていたのだが、
「…恋人の写真でも見ているような表情デース」
「ええ…って、ええええ!?」
自分の言葉に頷いてから、自分が何を言ったのか気が付いてかあっと顔を赤くする十代。
「いや、恋人とか違うっ…ってまてまて!!違わなくないけど!!…泣くまねすんな!!
嘘泣きってわかってるんだからな!!
…だあああ!!とりあえず後!!その話は後!!バカ!!今大事な話をしているんだからっ!!」
あたふたと、見えない誰か…精霊が傍にいるのだろうけれど、
…まさかだが、ユベルなのだろうか?
ちょっとしたジョークのつもりだったのだが、随分と面白いことになっている。
その表情豊かで手振り身振りでばたばたと動き回って見えない誰かと会話している十代の姿は、
自分にも見覚えがある十代少年の姿なのだが、
…鮫島校長は呆然としている。
…いやまあ、それは仕方無いだろう。
「…すみません、…あ、あの…もうこれで俺は寮に戻っていいですか?」
「…あ、ああ。構わないよ十代君。ご苦労だったね」
ぷすぷすと頭から湯気でも出そうなぐらい恥ずかしそうな顔をした十代が「失礼します」と言って慌てて校長室から出て行く。
そうしてしばらく十代が去っていったドアをお互いに見ていたのだが、
「…これでいいのでしょうか、ね」
疲れたように鮫島校長が呟く。
鮫島校長もわかっているだろう、おそらくユベルは今、十代の傍にいる。
それで、何かまた事件が起こるかもしれないということを心配しているのだ。
だけど、
「信じましょう、十代ボーイを」
「…ですね…それにしても、私は意外でしたよ…十代君があのカードを手放さないことに」
「まあ、色々あったのでショウ。今はそっとしておくのが一番だとおもいマース。
鮫島校長は大変でしょうが、もう少し頑張ってくだサーイ」
生徒の指導は教師の務めだ。鮫島校長以下教師の面々にはがんばってもらうことにしよう。
それよりも、
「…それにしても、本当にデュエルモンスターズは奥が深いデース。改めてそう思いました。
しまったデスね、もう少し十代ボーイに詳しい話を聞けばよかったデショウか」
「ははは、また機会でもあれば彼に話を聞いてみたらいいでしょう」
むくむくと湧き上がった好奇心が思わずそんなことを呟いてしまうが、残念ながら十代はもういない。
また次の機会があれば話を、なんて思っていたのだが、
意外と早くその機会は訪れた。
*
ヨハン・アンデルセンのデッキの検分も終わり、
特に異常も無いことからここでの仕事は終わったわけなのだが、
随分と時間が経っていて、夜になろうとしていた。
今日はこのアカデミアに泊まることになり、用意された校舎の一部にある客人用の宿泊施設に向かう途中、
誰もいない廊下で再び十代に出会った。
…というよりも、彼が待っていたようだった。
「十代ボーイ?どうかしたのデスカ?」
「いえ、そうじゃないんですけど…あの、ペガサス会長。
ユベルの事…俺が持っているようにって鮫島校長に言ってもらってありがとうございました」
そういってペコリと丁寧におじぎをする。
「私もそのカードは十代ボーイが持っておくほうがいいと思っただけデース。
それに、そのカードを持っていることを最初に選択したのはアナタですから」
「…はい。もう絶対…俺の元から手放しません」
決意に満ちた瞳だった。
その瞳を見ていたら、異世界で最後…何があったのか
…それに関しては十代以外は誰も知らないことだから、気になってはいたのだが。
何を彼が選んだとしても、その選択に迷いは無いのなら、きっと大丈夫なのだろう。
もう、きっとユベルは事件を起こすことは無い。
少なくともそれだけは確実だった。
…色々詳しく聞こうかと思っていたけれど、やめておこう。
そう思って、違う話題を彼に振ることにする。
「ユベルはこれからは十代ボーイのデッキに?」
「…一応はそう考えているんですけど…調整はするつもりです」
でも、それは随分と難しい話だろう。
十代のデッキはネオスを中心としたヒーローデッキだし、サポートカードも勿論ヒーロー関係ばかりで、
そこにユベルが入るとなれば、随分と調整が難航しそうだった。
ユベル一枚だけならまだしも、ユベルの進化系まで入るとなれば相当辛いだろう。
「俺が知らないだけでヒーローの中に悪魔族とか、闇属性モンスターを素材にするヤツももしかしたらあるかもしれないし、
まあ、なんとかなると思います。せっかくだし、使ってやりたいし…」
そんなカードはあっただろうか…後で調べようか、なんて思っていたのだけど。
自分の立場を不意に思い出す。
…無いならば作ってしまえばいいのだ。
彼とその大事なカードのために相応しい一枚を
我ながらいい考えだった。
「ペガサス会長?」
「なんでもないデース。十代ボーイ、今日はもう遅いデース。
ここに戻ってからまだ日も経ってないでショウ。ゆっくり休むのデース」
「はい」
優しく笑いかけながら十代のぽんぽんと肩を叩いてあげて、もう一度ぺこりと私に向かって頭を下げる十代と別れる。
今回の件で大人は誰も彼らを、十代を助けてやることは出来なかった。
その償いには多分足りないのだろうけれど、
これからも何かあればきっと事件に自分から巻き込まれていきそうな少年のために、
一枚のカードを作ろう。
…まあ、それを抜きにしてもデュエルモンスターズの創始者、カードデザイナーとしての創作意欲もあるのだが。
それに、出来上がったカードを受け取って彼がどんな風に反応するのか、
それを思うとなんだか楽しくなってきた。
「さて、どんなカードにしますか…難しいデース。明日から忙しいデース!!」
まだ見ぬヒーローを使いこなす十代を夢想して、楽しげに笑いながら用意された部屋に自分も向かうことにした。
おわり
10/05/21 up
ネオスワイズマンはアレはいつどこで手に入れたってか、3期後じゃないとムリだよなあ
とかいろいろ考えて、3期中盤でペガサス会長大活躍だったわけですが、
十代の事も結構気に入っていたみたいだし、ペガサス会長が作ったとかはありそうだよなあと
製作者だからやっちまった強すぎるアニメワイズマンなんだよ!!
とか妄想がカっとなってやっちまいました。
書いてて大変楽しかったのですが、ですが…
ペガサス会長の口調難しいデース!!なんかギャグに見えマース!!
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