「王は化石堀り鰐の夢を見るか?」
注意:漫画版GX7巻のネタバレ前提のSSです。









見覚えのある男の夢だった。
テンガロンハットに包帯という特徴的な男だ。
…だけど彼の家族だというワニがそばにいなかった。
デュエルに負けた男がぽんぽんと埃を振り払いながら立ち上がる。

「…くくく、なるほど…」
ずるりと包帯が外れる。
解けた包帯の向こうには、オリハルコンの眼は無く、邪悪な闇色の意思を秘めた石
…あの瞳の奥に何かがいる、そんな闇の気配がするモノを嵌めている。
去り行く対戦相手を見据えながら、彼の意思じゃない何かが言葉を発する。

『キングの名を持つデュエリスト…新たなカードに相応しい!!』





はっとして瞳を見開く。
見覚えの無い天井、薄い壁から隣の誰かの流しっぱなしの外国語のニュース。
短く息を吐く。
「…夢、か?」
『おはよう……アレ?今日は覇王なの?』
「…十代は…まだ寝ているようだ。」
『そう…ところで覇王大丈夫?悪夢でも見たの?』
そんな顔をしていると心配そうに覗き込むユベルに返事はしないまま、少しだけぼやけた頭で窓を見る。
…らしくない表情をした金色の瞳の自分の顔が写る。

あの男のらしくない夢を見たからだとでも言うのか、
馬鹿馬鹿しい、あの男はこの俺に負けたような男だ。
何を気にすることがある?

そうこう考えている間に体の本当の主である十代が目を覚ます。
「…十代が目を覚ました。寝る」
『ちょ、ちょっと覇王!!』
久しぶりに声が聞けたと思ったのに!!とかユベルが文句を言うがどうでもいいことなので無視をして、
十代の中でもう一度眠りにつく。


今度はあの男の夢は見なかったが、何故か気持ちが悪かった。





炎天下の中、発掘現場で慎重に化石を掘り起こしていく。
地味で、延々と続く長い作業だけど苦しくない、楽しい。
だけどそろそろお昼時だった。
俺はいいけれど家族であるカレンはおなかがすいたのかちょっとだけ不満そうな顔をしている。
「うーんそろそろランチにしようか、カレン」
ぐあう!と鳴くファミリーを軽く撫でて、他のメンバーに声をかけ…発掘現場から二人でベースに向かう。
その道の途中で…自分に向かってズンズンと…無表情に、殺気を振りまきながらやってくる一人の男がいる。
赤いジャケット、黒いインナー、茶色の髪をツンツンと跳ねさせた…とても見知った友人だった。

「…十代…いや…」
鳶色の瞳は金色に変わっている。
俺は、その瞳を知っている。イヤになるほど知っている。
覇王なのか?と呟きながらその姿を見ている間にどんどん距離が縮まる。
「ジム・クロコダイル・クック…!!」
がっと頭を掴まれる。
「w,what!?は、覇王!?」
どうしたんだと聞く前にぐるぐると巻かれた包帯を強引に解かれる。
そうして現れる…もう奇跡の力も何もなくなって、ただ瞳に嵌っただけのオリハルコンの眼を恐る恐る触れて、
金色の瞳にほんの少し、本当よく見ないと気がつかないほどに小さく安堵の表情を浮かべ、
…ぽふんと軽い音をたてて俺の胸に倒れ掛かってきた。
何が何だかさっぱりわからない。
「…覇王?どうしたんだ!!どこかケガでもして…」
「…あーごめん、今は俺…俺だよ、ジム〜〜」
「ああ、十代!!…卒業以来だな、元気そうでよかった…けど、今のは…」
困り果てた顔の十代がもそりと俺の胸から起き上がる。
「とりあえず、ハラヘッタ〜メシにしないかー?ジム」
話はその後で、という十代に頷いて…ベースに戻って昼食にすることにした。





「nightmare?それが原因?」
「そうなんだよなあ…別に心配するようなモンじゃないと思うんだけどさー、
実際、ジムはこうやって無事だったんだしさ」
なあー聞いてるのかよー覇王―と十代がぼやく。

なんだかよくわからないまま、
とりあえずここ2,3日マトモに食事を取っていなかったという十代に食事を取らせた後、事情を聞くと

…ぜんぜん俺自身には心当たりの無い夢の出来事が原因だった。
それは、俺が何かしら悪いモノにとりつかれ、闇に落ちてしまったというモノで…
何かよくないものが、オリハルコンの眼の代わりに…この片目に嵌っていたらしい。

…ああ、それでオリハルコンの眼が嵌っているのを確認して覇王が安心したのか。
とか一応の納得はした。

納得はしたのだが
「…どうして覇王が俺の心配を?why?」
カレンに聞いてみるがさっぱり心当たりが無い。
カレンもぐわ〜と鳴くだけだ。
「…んー言っていいのかなあ…」

十代が少しだけ迷ってから、覇王も言うなとか言わないしいいや、と理由を話してくれた。
「ジムってさ、覇王にとって闇に落ちるってイメージがまったく無いみたいなんだよな」

俺が心の奥に引き篭もって、覇王が産まれて、非道の限りを尽くしていたあの時。
どれほど痛めつけても、最後の瞬間までその心は折れなかった。
…最終的に覇王を倒したオブライエンですら一度はその心が折れていたのに、
ジムはいつまでもまっすぐ覇王を見ていた。



「いや、それは…覇王も買いかぶり過ぎだと思う」

ぽりぽりと頬をかく。

「…実際、ダークネスの件の時…俺もあっさり闇に飲み込まれていたんだぞ?」
どうなっていたかおぼろげでさっぱり覚えていないけれど。
「まあでもジムならあの闇から這い出してきそうとは思うな、俺も」
「…十代までそんなことを言う…」
その話はそこまでになって、
十代もしばらくヒマということで数日一緒に発掘の手伝いをしてくれることになった。
その発掘の話になって、俺が闇に落ちるという不吉な夢の事をすっかり頭のどこかにやっていた。

2日後の夜、覇王が再び俺の前に現れるまで。





「…覇王?」
「よくわかるな」
「わかるよ、君と十代は全然違うからね」
Eyeの色がじゃないよ。雰囲気とかそういうモノの話だからねと注釈しておく。

「…でも、少し雰囲気丸くなった…かな?」
野生の生物が、本当にほんの少しだけ近づける距離を縮めてくれた、そんな雰囲気だけど。
「そうかもしれない」
金色の瞳がそっと伏せられる。
覇王は多くは語らない人物だと十代が言っていた。
俺でもアイツの事よくわかんない時あるぐらいだからなあ、
万丈目とかヨハンとかユベルのほうがわかりやすいよ、と笑う十代の姿を思い出して
…そうかな、俺にはすごくわかりやすいヤツだと思うけど。なんて思ったのはヘンなのだろうか。
「…心配しなくても大丈夫さ」
「誰が心配など?」
「…心配してくれているのだろ?覇王は」
まっすぐに覇王を見ながらにこりと笑うと、覇王が気持ち悪そうにフンと視線を逸らす。
「近くに来てはいたけれど、俺のいる場所はわからなかったから
…本当は俺のところに寄る予定はなかったってmy friendは言っていたからね」

それきり二人の間で沈黙が落ちる。
でも、まあ、嫌な沈黙じゃない。
空を見上げれば吸い込まれそうな闇色の空に宝石を散りばめたような星達。
…少しだけ、ほんの少しだけだけど、
あの異世界で…オリハルコンの眼の力で垣間見た十代の、覇王の心の中に似ていると思った。

十代と十代の大事な宝物のような思い出という光を抱いた闇。

…まあ、あの時の覇王は十代以外の相手には、まったくもって優しくない存在だったけれど。
その闇に触れたとき、不思議と暖かいなんて場違いな事を感じた事を思い出す。

「何か面白いのか、楽しそうだな」
「うん、この夜空は覇王に似ていると思って」
「そうか」
今は彼の事を少しは理解できたからなのか、
…あの時もそれほど恐ろしい存在だと思ってはいなかったのだけど。
あの星空と君が同じものならば、
「そうだね、だから…闇は怖くないかもしれない」
「…それが貴様の命取りになるぞ」
「大丈夫、その時には十代が…覇王が助けてくれるだろう?」
My soul friendと覇王の事を見ながら言うと、驚いたように金色の瞳が見開かれる。


「what?」
「…なんでもない。
…いや、十代が貴様の事を心配する必要が無いと言った理由がわかった」
少しだけ考えながらそんな事を覇王は呟いた。
「そう」

そうして夜が更けるまで二人で煌く夜空を見続けた。











おわり





10/05/31 up

漫画版ジェームズことジェムがえらいことになっていてギョエー!!とVジャンを前に目玉飛び出る。
そんな状態のまま、覇王様!!覇王様はやくジムを!!とかわけのわからない衝動に任せて書いたSS。
ようやく漫画版ネタバレもいいだろうという時期になったので掘り起こしてみた。

ちょっと前すぎでSSをまとめたワードファイルのどこにあるかわからなくて
捜索することのほうに手間取ったのは秘密。何はなくともジムと覇王様の組み合わせはモエモエである。


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