「触れることに理由なんて」
『ねえ、十代。そんなに僕に触れるのって、楽しい?』
「ん」
こくりと首を縦に振って、猫みたいにすりっとユベルの体に抱きつくと
ハア、となんだか呆れたような声が聞こえる。
俺はユベルに触れるのが好きだ。
機会があれば、理由をつけて実体化させてべたべたと触る。
ちなみに理由とは、寒いとか暑いとか、人肌恋しいとか、抱きしめたいとか、とにかく触りたいとか、
…理由になってない!とか文句を言われたりしてるけど、触りたいのだから仕方無い。
「…もしかして、触られるの嫌とか?」
現在は押し倒している状態なので翼が痛いとか?
『いやね、そういう事じゃなくて…僕の体は醜いだろう?人間の感覚からしたら気持ち悪いと思うのだけど』
悪魔だから、人の悪意を、心の闇を喰らう魔物だからそれでいいのだけど。
逆に好意を持って触れられるなんて、あまり無いから。
「あれ?前世の俺もこんな風にユベルに触れたりしてなかったのか?」
『触れていたよ、でも』
ユベルが言いたいのはなんとなくわかる。
むしろ、前世の俺が考えていたことよりもわかりやすい。
本当に自分の事を愛していてくれていたのか、とか
同情とか負い目が無かったなんて言えるのか、とか。
そういうことだ。
でも、前世の俺だってそんなこと考えているわけないと思うけどなあ。
あんまり覚えてないけど、というかほとんど別人みたいなものだから、
前世の俺が何を考えていたのかは、細かいところはわからない。
わからないけれど、ユベルを愛していたのは確かだ、これだけははっきりしている。
ユベルを溺愛していたみたいなんだけどなあ。伝わっていなかったようで少々可哀想だ。
自分の事なんだけど。
それはさておき、俺の返事は決まっている。
「なんで?ユベルの体凄く綺麗だと思うけどな、俺は好きだぜ?」
二色に綺麗にわかれた髪の毛も、青いルージュを引いたような唇も、
雌雄同体のちぐはぐの体も、俺も包み込めそうな大きな翼も、
鱗の生えた鋭い爪や角もある手足も、オレンジと緑の瞳も、額にある第3の瞳も、
そう言うと、…ユベルが凄く動揺している。
きょろきょろと落ち着き無く額の瞳が動いている。
俺が言っているのが本心であるのはユベルもしっかり伝わっているはずだけど、
ほんの少し、…本当に信じていいのか悩むように、怯えたように
本当に?と首を傾げるユベルは凄く可愛い。
『前の、人間だった頃ならわかるよ、でも…』
「俺は前のお前の事知らない、いやまあ、今は知っているけどさ。
俺は、今のお前が好きなの、その姿のユベルを俺は好きになったの」
ごもごもとまだ何か言おうとするユベルの言葉を塞ぐように宣言する。
「リッターやドラッヘの姿でも同じこと言ってやるよ」
『ふうん、それは本当なのかい?』
「ああ」
名残惜しいけれど、起き上がってユベルの瞳をまっすぐ見つめてそう言う。
いつもだったら、馬鹿だのなんだの言ってユベルが流されてくれるのに、
今回はなんだかちょっとムキになっているようだった。
屋外で野宿だったし、もう夜だから人も通ることはなさそうだったのもあったのも原因だろう。
『…本当にこの姿でも僕の事を愛してくれる?』
ざわりと木々が揺れる。ごう、と嫌な音を立てて風が鳴る。
みしみしとかぎしりとかベキボキとか体を鳴らしながらユベルの体が膨らんでいく。
『ねえ、十代』
この姿じゃ声が出しにくいのか、いつもよりも低い低いくぐもった声でユベルが囁く。
ぎょろりと大きな瞳と、上部にある二つの竜の首が俺を見つめる。
ああもう、ほんとう全然信じてもらってないなあ。
軽く呆れた溜息を零して竜の首のうち一つ触れる。
うーん、ユベル・ダス・アプシェリッヒ・リッターの状態だとでかいよなあ。
普通に立たれると首を下げてもらわないと触れない。
「好きに、愛しているに決まっているだろ?…バカ」
艶やかな毛皮の感触がまたいいよなあとか思いながら竜の首に体をこすり付けて、
もう一つの首を抱き寄せて、唇のあたりに口付けを落とす。
『ば、馬鹿とか!!十代に言われたくないよっ!!』
「こんな当たり前の事をお前が聞くから悪いんだろ?」
あーこのまま毛皮に埋もれて寝たらすげえ気持ちいいだろうなあ。
なんて思いながら瞳を閉じてぎゅうと抱きしめると、
慌てたようにユベルが身じろぎをしたと思ったら、突然毛皮の感触が消えてしまう。
後に残るのはいつものユベルの体の感触で、
あれ?と思って瞳を開ければ、真っ赤な顔をしたユベルが俺を抱きしめている。
「ユベル?」
『…ふん!あの姿のままじゃ十代を潰しちゃうじゃないか、寝るならちゃんと寝袋で寝るんだね』
「ちぇ、けち」
潰すようなことなんかしないくせに、そんなことを思いながらユベルを恨めしげに見上げる。
「………」
ふと、ある意味どうでもいい。
ほんとう他人からしたら、ユベルからしたら何を言っているのとか思われそうな
ユベルのここだけはちょっと駄目かもしれない、というところを自覚してしまう。
『何か不満なの?』
「ああ、ユベルの身長すげえ高いよな…そこが不満」
抱きしめたって、抱きしめられているようにしか見えないじゃないか。
「でかくなれるなら小さくなれねえ?」
『…あの、あのねえ…そんなこと、言われても…』
はああああ、とユベルが大きな、それはもう大きな溜息を零す。
なんだよ、俺はいたって真剣に提案しているんだけどなあ。
むすーっとちょっとだけ不機嫌になりながら、ユベルを離して寝ることにする。
「…おやすみ」
『はいはい、ゆっくり休んで頂戴』
不機嫌になった俺を慰めるようにぽんぽんとユベルが俺の頭を撫でる。
それって逆効果…って、わかっていてやっているのか。
ああ、
目が覚めたら、ちっこいユベルいないかなあ。
おわり
10/06/11up
いちゃいちゃラブラブを気が付けば量産しております、モフモフプレイです。
ドラッヘはなんかこう、ドラゴンっていうよりもデビルマンとかソッチ方面ですが、
リッターはもふっとしていて顔を埋めたら気持ち良さそうじゃないですか?
ただし、でかいですが。
確実に十代が上に乗ってモフンモフンと飛び跳ねても大丈夫!!
いかん、それはそれでかわいい。
SSではほんの少し小さめにユベルがリッターになったというカンジです。
小さいからモフモフしやすいよ!!
以上、いちゃいちゃプレイでした。
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