「プリンセスプリンセス?」
いろいろカオス、それでも晴波さんお誕生日記念贈呈SS









事の始まりは、剣山とレイの会話からだった。
「文化祭ザウルスかー、文化祭といえばコスプレデュエルドン!!コスプレデュエルがしたいドン!!」
「レッド寮名物コスプレデュエルよね!!…十代様が…えっと、すっごくかっこよかった!!」
「へえー…あの十代が仮装でデュエルか」
着ぐるみでも着たのか?なんてエドが言うと、
レイが「じゃーん明日香先輩から貰った文化祭の十代様―!!」
とかなんとか、言っているうちに、
剣山と空野の二人で衣装はレッド寮に残されたもの以外も用意しようだの相談しだして、

「じゃあ、やるドン!!レッド寮はもう無いけれど伝統は俺達が受け継ぐドーン!!」

という剣山の号令の元、文化祭に有志によるコスプレデュエル大会が開かれることになった。
まあ、そこまでは普通にいい話だし、
…ちょっとコスプレは恥ずかしいけれど、俺としては文化祭に参加するなんて数年ぶりの話だし、
連絡したら、亮や吹雪も来てくれる、なんて話になって凄く楽しみにしていた。


楽しみだったのだけどなあ…。





みゃーみゃーと海鳥が鳴いて、南国特有のスカイブルーを映した海、
「んーーこの風を感じているとアカデミアに帰ってきたーなんて思うね、亮」
「…そうだな、というか、俺達はもう卒業した身だから帰ってきたはおかしいと思うが…」
「いいじゃないか」
「ま、そうだな」
ふっ、と穏やかに亮が笑う。
ヘルカイザー時代よりも、…学生時代よりも、なんだか随分と穏やかになったなあー。
なんて思いながら僕も笑って、他愛も無い話を続ける。
「いやそれにしても、この船、午後についちゃうから…コスプレデュエル大会終わっちゃたらどうしようねぇ」
せっかく自前のコスプレ衣装持ってきたのになーと、足元のバッグを見ながらぼやくと、
「仕方無いだろう、お互い昨日までアメリカで大会に出ていたのだし…、
午後にはつくだけマシだろう?」
「そうだけどさー…あ、そういえば、亮は何のコスプレするの?」
「…いや、別にいつもの服だが」
「…ってことは、あの黒服かあ…うーん、ちょっと普通すぎるよ、亮」
ぶーぶー!と文句を言うと、
僕の反応にふむ、と考え込んでしまう亮。
「普通か、すっかりあの黒服が普通になった上に、周囲にも浸透しているな…」
なんとなく、あの格好の亮に慣れてしまったからそう言ったのだけど、
実は、ヘルカイザー時代のことを亮も色々思うところがあったりするのかな、なんて考えていたのだけど、

「…まあ、そう言われると思って、というか、エドにも言われたのだが…
初心に帰って学生時代の制服も持ってきている。これならば問題はないぐらい完璧な仮装だろう?」
キリッとした顔でそんな事言わないでよ!!
というか、エド君は何を亮に吹き込んでるんだよ!!

「…どうした?吹雪」
どこか問題でもあるか?とか困った顔しないでよ!!

「…いや、なんでもないよ?…うん、そうだね…仮装には違いないよね。
しまったなーこんなことなら僕も制服持ってくればよかったよ」
「ところで、吹雪は何を持ってきた?」
「ふふふー実はねー…」

いやあ、本当随分丸い性格になったなあー。いや、元に戻ったのかな?どうなんだろう。
藤原にその事を教えてあげたり、そんな亮を見せたら喜ぶかな、なんて事を思いながら
船が到着するのを待った。





「コスプレデュエル大会は大成功、のはずだったドン。
おかしいドン、どうしてこうなったドーン!!」
と、剣山がなんだか叫んでいるけれど、正直それどころじゃない。
っていうか、オマエが余計なことをしたからだろうが!!
と怒り狂いたいのを我慢してデュエルに集中することにする。

「僕のターン!!ドロー!!」
とか、かっこよく決めても様にならない。
もこもこした可愛らしい衣装が揺れるのが気になってたまらない。
僕はプロだ、どんな状況でもプロらしく戦わなくてはいけない。そう、僕はプロなんだ!!
自分に言い聞かせないとやってられるか!!
僕はプロだ僕はプロだ僕はプロだ「僕はプロだ僕はプロだ…」

「エド!!エド!!…声が漏れてる、もれてる!!」
隣でデュエルをしている青い顔の藤原優介の声が現実(嫌な現実だ)に引き戻す。
ビキビキとこめかみを引き攣らせながら自分のターンを進める。

ああもう!!
どうして僕が!!白魔道師ピケルのコスプレなんかしなきゃいけないんだ!!


「…疲れた…」
「お、お、おつかれですエド様、ジュースどうぞ!!」
「ありがとう…」
どよよよんと白いケープに羊の角がついたもこもこ帽子を被った、
…というよりも女装したエドが項垂れながらジュースを受け取って飲みながらデュエル会場を見る。

「ク、クリアバイスドラゴンで攻撃っ!!」
自身のエースモンスターを場に出し、圧倒的に藤原が優位に立っている、
そんな状況にいるはずなのに藤原の表情は今にも泣きそうだった。

というか、泣きたくもなるだろう。

藤原の頭にはぽわぽわの黒いウサミミがついていて、何かするたびにぴよぴよんと動く。
そして勿論格好は女装だ。黒魔道師クランだ。
恥ずかしい、自分の格好も恥ずかしいけれど同じぐらいに恥ずかしい。

「…くそう、どうしてこんな屈辱的な格好を…!!」
「それは、エド様が衣装を決めるときのくじでピケルの衣装を引いたからですけど…」
レイが言いにくそうに苦笑しながらそう言うとぐうの音も出ない。

『せっかくだから、自分で衣装を決めるんじゃなくてくじで決めたらどうドーン?』
『それは面白そうだな』
『いいねーやろうー!!』
なんて乗ってしまった以上仕方無いのだが!!
だがよりにもよってコレは無いだろう!?

「…凄く可愛いと思うんですけどねー、似合ってますよ?エド様も優介様も」
「……そ、それでも流石にこの年で女装は辛いよ…うう…もう棄権したいようぅ」
ぐすぐすと半泣きというよりも泣きながら藤原が戻ってくる。
綺麗な顔をしているから確かに似合うといえば似合うのだけど、身長が高い彼が女装しているとギャグにしか見えない。
「泣くな、藤原…っ!! それに僕を残して棄権なんて許さないからなっ!!」
「じゃあ、エドも一緒に棄権しようようぅぅ」
ひーんと自分よりも身長が高い藤原が抱きついてくるのを受け止めて、背中を撫でてやる。
棄権、したい。が、
「…僕は棄権しない。僕はプロだからな…どんな状況でもデュエルを続ける!!
それに、こんな格好をしているからという事でわざと負けるなんて僕のプライドが許さない」
「エド…」
「エド様さすがです…感動しちゃいましたっ!!」
キラキラキラと藤原とレイが眩しい視線を送ってくる。

「それに!!…どうせあの二人が来るのは次の次の便だろう?
計算したが、一つのデュエルにつき5ターンぐらいで終わらせればあいつらがつく前に終わるからな」
フフフフフ、ハハハハハーと笑うと、
「エド流石だよ!!…お、俺もがんばる!!」
「ああ、頑張ろう藤原。…決勝で戦えるのを楽しみにしている」
「うん!!…俺もエドと戦うのは凄く楽しみ!!」
ガシっと握手を熱く交し合い、ふたたび出番になったのでデュエル用のスペースに二人で出て行く。

それからはもう怒涛のようなデュエルだった。
鬼気迫るデュエルに1ターン目でサレンダーしたいですと泣き出す者もいたりして、
(そいつにはサレンダーなど許さないでボコボコにしてやった)
予定の時間よりも早く決勝戦にたどり着いた。

「…やはりお前が決勝戦の相手だったようだな」
ふっと笑うと目の前の藤原が綺麗な笑みを浮かべて頷く。
「…俺も、絶対エドが決勝戦に残るって思っていたよ」
「だが、勝つのは僕だ」
「それはどうかな?」

ガシャリとデュエルディスクをピケルとクランが構える。
最初はあまりのすごい可憐過ぎて笑える格好で笑いを堪える連中が多かったのだが、
真面目な顔をしてその対決を見守っている。
というか、真面目な顔にもなるだろう。
かたや学校に通う傍らプロデュエリストとして世界中のプロと互角に戦う僕と、
この学園に在籍中の丸藤亮、天上院吹雪と並ぶ孤高の天才と呼ばれた藤原優介の戦いなのだ。
ギャラリーも固唾を呑んでその対戦の行方を見守っている。
びゅおおおおおおーーーーと激しい風の音が聞こえる。

そして、
「それでは元レッド寮名物コスプレデュエル大会決勝戦!!始まりザウルスー!!」
「「デュエル!!!!」」


「先行は僕だ!!…ド「やあやあよかったねえ亮、決勝戦には間に合ったみたいだよ?」ローー…」
「ひっふ、ふふ、ふぶきっ!りょう!!」
ガタガタと藤原が震える。何故かウサミミまでべしょりと潰れて動揺を伝えている。
「…藤原、か?…エド、か?」
大きなカバンをかかえ、社会人らしくスーツ姿の亮が藤原を見た後、僕を見て首を傾げる。
そして、一言。
「かわいいな、エド」
とか言って微笑んだ。

かああああっと顔が真っ赤になる、突然すごく恥ずかしくなる。
「エ「バカ!!見るな!!」
そう叫んで慌てて更衣室になっているレッド寮の一室に駆け込む。

「ああああっエ、エドーーー!!って吹雪いいいはなしてえええええ!!」
「かわいいいいいよおおおお藤原ああああ」
藤原が慌ててエドを止めようとしたけれど、
藤原の格好にムネキュンポイント100だよ!!とか言いながら興奮した吹雪に抱きつかれて、止められなかった。

「仕方無いな」
ふっ、と笑い、亮がエドが駆け込んだ部屋に向かった。



「え、えーと、この場合はどうしたらいいドン?」
「…ちょ、ちょっと休憩ってことにしたらいいんじゃないかな…?」





「エド、入るぞ」
「も、もう入っているじゃないか!!」
「そうだな」
ベッドで毛布に包まって団子のようになっていたエドがむすーっとした声で返事をしてきた。

「…どういうことだ、早かったじゃないか」
「ああ、上手い事乗り継ぎが出来たから、一本はやい便に乗れたのだが…
おかげで可愛いエドが見れたな」
ベッドの縁に座って毛布の塊を亮が撫でる。
「…可愛くなんかない」
「可愛いさ…だが」
ひょいっと毛布を剥ぎ取ると真っ赤な顔をしたエドが出てくる。
「…だが、なんだ?」
「そんな格好は俺の前だけにしてほしいな」
「……ば、ばかだろう!!そんなことできるか!!お前にだけは見せたくなかったのに!!」
もごもごと恥ずかしかったとか、でもプロとしてとか、
言い訳をするエドに持ってきていたカバンを手渡す。

「?」
「コスプレデュエルと聞いていたからな、俺も仮装を用意していたのだが、
吹雪には不評でな。少し大きいとは思うが、お前も随分背が伸びたし…」
お前が着てくれ、と、言われてエドがカバンを開ければ、
デュエルアカデミア在校中、亮が着ていた制服が出てくる。
「……お前、仮装の意味…わかっているのか?」
「?…はやく着ないのか?皆待っているぞ?」
もう一つのカバンに入っているヘルカイザーの衣装を着ながら亮が首をかしげている。
「…ああ、わかっている」
亮にわかってもらうのは無理そうだ。と溜息を零して制服に手を伸ばした。


で、着替え終わって、亮に連れられて部屋を出ると。
おおおおおおーーー!!制服姿のエドだーーー!!とか嬉しそうな声が聞こえてくる。
「…待たせてすまなかった…って?」
下を見れば、オジャ万丈目、じゃなくて、オジャマイエローのきぐるみを着た吹雪がいる。
多分、万丈目から借りたのだろう、物好きなものだ。
隣にはもう俺疲れたよという顔をした藤原だったのだが、
「わあ!!エド…すごく似合ってるよ!!っていうか、それ亮の制服だよね!?…懐かしいなあ」
ぱあああっと嬉しそうな顔をする。

「えーと!では、エドが戻ってきたドンので!!決勝戦再開してもいいかドン?」
「あー剣山君、ちょっといいかな?」
「吹雪先輩何ザウルス?」
にこにことしながら吹雪が剣山のところにいって提案をする。
「せっかくだし、僕と藤原、エド君と亮とのタッグデュエルなんてどうかな?」
「吹雪様それ、すっごく面白い考えです!!」
レイが嬉しそうな顔をした後、こちらを見る。

「俺は別に構わないよ、吹雪と一緒にデュエル、しかもタッグデュエルなんて…多分初めてだし」
「俺も構わない。というよりも…吹雪と来るまでに話していたが、元々この大会に参加する予定だったからな」
そして、僕に視線が集まる。

まあ、僕としてはあの忌まわしい女装をやめれたわけだし、
藤原と一緒で亮とタッグなんてなかなか機会が無い。
それに、
「僕も構わないさ、今までの分楽しいデュエルもしたいからな。…僕の足を引っ張るなよ?亮」
「お前こそ」
隣にいる亮に不敵に笑うと、ようやくお前らしい表情をしたな、と亮が言いながら、デュエルディスクを腕につける。


「えーでは、そういうことなので!!
コスプレデュエル大会決勝戦!!藤原優介、天上院吹雪VSエド・フェニックス、丸藤亮のタッグデュエルで再開だザウルス!!」


マイクを構えて剣山がそう叫ぶと、ギャラリーからわああああああと歓声があがる。
悪くない気分だ。いい感じに気持ちも高揚してくる。

デュエルが終われば自由になる、
そうしたら、久しぶりに亮と二人で過ごすのも悪くないだろう。
文化祭を回るとか、いいかもしれない。
…僕がしたいわけじゃないからな。
あの忌まわしい女装から解放してもらったお礼なのだから、と自分に言い聞かせながら
デュエルディスクをもう一度構える。


「デュエル開始――――!!」
「「「「デュエル!!!!」」」」












おわり





10/06/20 up


晴波さんお誕生日おめでとうございます!!

なんかお誕生日プレゼントはムリだからSSを書くなりーということでリクをいただきました。
吹藤で亮エドでキャッキャウフフダブルデート、だったはずなんですが

なぜ女装したし。

なんとなく思いついたのが悪いんですが(笑)
魔法のプリンセスな藤原とエドが書けて嬉しかったです。

というか、吹雪と藤原ちょっと出番少なめでごめんネ!!
どっちかというと亮エドだよねこれ!!


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