「時には母親のように」
「いやもう、一人旅って言ってもさ、大徳寺先生もいるし、ユベルもいるから、
なんだか一人旅ってカンジじゃないぜ…?
それにさあ、聞いてくれよ!!この頃だけどユベルが事あるごとに俺のやることにいちいち口を挟んでくるんだよ…
『十代、朝ごはんはしっかり食べないと駄目だよ』『十代!!寝る前に歯磨き!!』
『十代〜何度言ったらわかるんだい!?あれだけ危ないことに首を突っ込まないでって言ったでしょう!?』
とかさあ、そんな感じで…」
久しぶりにあった級友達に溜まっている不満をぶちまけると、
「なんだか、ユベルってアニキのお母さんみたいだね」
とか言って翔が苦笑する。
「え、おかあさん?」
「うん、そうだよねえ?…そういう小言をさ、お母さんとかいつも言うでしょ?」
だよね?と翔が周りの皆に同意を求めると、半分が頷き、半分が首をかしげる。
「…俺の母は父や兄の補佐をしていてあまり、そういう事は言われたことが無いな
…怒られるのは、兄達や家庭教師とかにだな」
と言うのはお金持ちの息子な万丈目。
「俺の両親は…物心つく頃には亡くなっていたからね…
傍で面倒を見てくれた人はそういう事は言わなかったよ…」
面倒を見ていた人、というのはオネストの事だろう。
ちらりと後ろに控える精霊を見てそういうのは藤原。
「俺のとこもさー両親がいないからなあ。
あ、でも姉ちゃんがけっこうユベルみたいな事言うかも、もーっとすげえ棘があるけどな!!」
というのは、ヨハン。
あまり家族の事は聞いた事が無かったので、ヨハンの姉さんというのを想像しようとしたが、
フリルまみれでよくわからないことになった。
でも、それでも小さいときには見守ってくれていたり、そういう小言を言う人が傍に皆はいたということだ。
「…俺は、俺のところは、…いつも両親は留守ばっかりでさ…なんか、ちょっと羨ましいかも」
思い出すのは、誰もいない部屋に一人きりの自分。
ユベルの事を忘れた後も、両親とあまり一緒に過ごした記憶が無かった。
少し寂しくなってそんなことを零すと、
「何言っているんだよ、ユベルが今はいるんだろ?十代にはさ!!」
そう言ってヨハンがバシバシと背中を叩いてきた。
「あ…」
どんなときでも一緒に傍にいてくれるユベル。…まあ、この頃は文句ばかりなのだけど、
「…そうだな、ユベルがいるから寂しくないな」
そう言うと、なんだか胸の中がほわっと暖かくなる。
「いや、それにしても…なんかこう、ユベルには色々されたッスからね…」
「あのユベルがおかあさんとか…理解できん、あんな凶悪な母親がいるか!!」
「…あら、実物を見たら…十代の言うとおり『おかあさん』しているかもしれないわよ?
ん〜見たかったわね…私には精霊は見えないし」
明日香にそういわれるとますますなんだかほわほわと暖かい気持ちになってくる。
っていうか、なんだか凄く照れる。
「ええい十代その気色悪い顔やめんか!!」
「えー、なんでだよー!!」
万丈目が俺の頬を掴んでぐにににと引っ張ったりして、
あんまり痛くないけれど理不尽だから万丈目の顔をぶににににと潰したりして遊んでいると、
「うーん、でも…俺もちょっとユベルがお母さんってのは違う気が…」
「そうなのかい?僕は会った事無いけれど」
藤原がアハハと苦笑しながら見ている。
吹雪さんは見えないけれど、きっとあそこにユベルがいるんだろう、どんな会話をしているんだろう
なんて思っているのだろう。
で、ちなみに肝心のユベルなのだが。
『僕が十代の母親なんていやいやいやーーー!!』
「えへへーユーベールー」
むぎゅーと体を摺り寄せると、ユベルが余計にイヤーーと叫ぶ。
「…なんだよう、嫌なのか?」
『…いや、まあ、十代にそういう風に甘えられるのは、嫌じゃない…けど
…僕は母親になんてなれないし…』
「いやわかんねーぞ、俺の覇王の力を舐めんな…俺がユベルを母親にしてやるって…」
キラーンと瞳を金色に輝かせながらユベルの手をきゅっと握っていると
「バカ十代!! ひ、ひ、昼間から何を、を、ををを…馬鹿野郎ぉぉがああああ!!」
とか万丈目がオジャマトリオを投げてくる。
まあ、攻撃力0だから痛くないんだけど、なんだよ邪魔すんなよとか睨みつけていたら、
「先に結婚が先じゃねえの?あ、出来ちゃった結婚すりゃいいのか!!
さっすが十代―!!万丈目―結婚祝いとかかんがえよーぜー!!」
とかなんとか言いながらヨハンが万丈目を俺の傍から引き剥がす。
「…ナイスヨハン」
親指をがっと立てて、ヨハンに笑う。
『……良くない!!良くないってば!!ってか、僕は母親になんかなりたくないって!!
…今のままで十分だよ』
もごもごと後半はなんだか消え入りそうな声だったけど、そんなことをユベルが呟く。
…前のことを思うと、随分と丸くなったものだ。
もうちょっとわがままを言ってもいいのだけどな、なんてことを思っていると、
『だってさ、母親だったら十代に甘えられないじゃないか。
僕も…十代に甘えさせてよ、僕ばっかり十代の面倒を見るなんて不公平だよ』
もう、こんなことはっきり言わないとダメなんて酷いんだから、とユベルがむくれる。
ああ、なるほど、だから母親扱いが嫌だったのか?
まあ、よくわからないけど。
「…後で、たーっぷりな?ここじゃ恥ずかしいし」
そう言ってユベルに笑いかけた。
「ああ、うん、なんとなくわかったよ」
あれは母親に対する顔じゃないね、と吹雪が笑う。
「…だろ?」
藤原がはにかみながら吹雪の顔を見て笑って十代達を見ていた。
「っていうか!!見えないけど!!見えないッスけど!!
アニキやめてーー!!桃色の空間繰り広げるのやめてほしいっすうううう!!」
「…こういう時には、ごちそうさまとでも言えばいいのかしらね」
頬を赤らめながら明日香が呟いていると
「万丈目君もヨハンも早く戻ってきてアニキをとめてえええーーーー!!」
うわーんと翔が叫んでいる。
『十代、だーいすき、愛しているよ』
「…馬鹿、知っているって」
外野の悲鳴やらなにやらを無視して、俺達は延々とそんなことを言い続けていた。
fin
10/09/22up
ユベルと十代って、カップリング要素抜きにして考えると、
なんかこうオカンみたいになるんじゃないかなー、とか思いつつ書いたのですが、
ここは十ユベサイトだからいちゃいちゃになるのです!!
もしも結婚して子供とか生まれても延々いちゃいちゃするにちがいない!!
母親で恋人とか、まあ、ちょっとアレですけど十ユベならばいいのだ!!
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