「菓子か死か」
「ジム・クロコダイル・クック。菓子を渡して死ぬか、渡さずにして死ぬか、
好きなほうを選ぶがいい」
風も出てきてとても寒いし、夜も更けてきたから…
そろそろ寝ようかな、なんて思っていた時に、突然ドアをけり破ってその人はやってきた。
「………覇王?why…」
「ハロウィンだからだ」
「…あー、少し意味がわからない、かな」
覇王が俺の前に来る理由がわからない。
「菓子を貰えなければ何をしてもかまわないのだろう?」
「あー正確には…違うのだけど…十代はジャパニーズだったね…」
仮装大会か何かぐらいにしか考えていないのだろう。
Japanで言うところのお盆というイベントに近いのだけどなあ。
もっとも、十代はお盆のほうも理解しているか怪しい。
「そのことはどうでもいい。さあ菓子をよこすか、よこさないか、どちらだ」
俺の葛藤は知らぬ顔をして、覇王がずいっと手を出してくる。
「うーん、チョコバーでいいかい?…っていうかHalloweenは2days ago…」
そう指摘すると、むっとした顔をするが、あわててチョコバーを差し出しご機嫌を取る。
「貴様がこんなところにいるからだろう。ずいぶんと探した。
こんな孤島ではわかりにくいぞ」
チョコバーを毟り取り、ガリガリ齧りながら、覇王が抗議してくる。
そうは言うけれどここは自分にとってとても思い出のある場所なのだ。
「辺鄙な場所だけどね、俺はここで恐竜の骨の発掘をしていて…丸ごと一頭分の恐竜の化石を見つけたのさ。
あのダイノソーボーイの親戚というか、先祖にあたるのかな彼は」
「…ああ、あれか。博物館のフロア一角を大きく取った…」
「覇王、見に行ってくれたのかい!」
ぱあっと嬉しくなって覇王に感激のハグをしようとしたら、腕を捕まれて全力で拒絶される。
…片手でチョコバーをゴリゴリ齧りながらなのに、すごい力だ。
「俺は見たいとは言っていないが、十代が…な。
それに…見つけたのは新種で貴様が名付けの権利があるのはわかるがな…っ!!」
「え、ダメかい?君をイメージして付けたのだけど…wait!!wait覇王!!ギブッ!!ギブッ!!」
腕が折れるっ!!と叫んだところで乱暴に覇王が俺の手を振り払う。
「まったく、つけるならば自分の名前をつければいいだろう」
「…んー俺の名前なんてありふれたnameだからね、
それに、きっと彼は過去の世界で我が物顔で大暴れしていただろうって思ったら…
君のことを思い出して。
…それに」
続く言葉に首をかしげる覇王を見て、ずいぶんと人間らしい表情をするようになったと、
そんなことを思う。
…初めて出会った時は無表情、無感情、無機質なモノのようだった。
そんな彼に俺は殺されて、
彼は彼で俺の遺したオリハルコンの眼の力で殺されて、そのまま消えると思っていたのに、
ユベルに十代が打ち勝つために、覇王は戻ってきた。
…覇王が生まれて消えた原因の一因ということもあって、
十代に会うときには気にかけていたのだけど。
会うたびに少しずつ変化していく覇王を見ていると、なんだか自然と笑みが浮かんでしまう。
…俺には子供はいないけれど、子供の成長を見守る父親のような気持ちかもしれない。
「…ジム?」
不機嫌そうに眉を顰めて覇王がこちらを覗き込むのを見て、少し自分の気持ちを訂正する。
少々やましい気持ちもある。という風に。
「No problem、なんでもないさ」
…自分の見つけた恐竜に名前をつけることが出来るとなった時、覇王の名を冠したモノにしたのは、
そうしたら、これからどこかでその恐竜の名前を聞くたびに、
…もう少し先の未来で、俺が今度こそこの世からいなくなった後でも、
覇王が俺のことを思い出してくれるんじゃないか、なんて期待してるとか、
そんな事は言えるわけがない。
…言ったらつまらない。
まあ、そんな自分がいなくなった後の楽しみはさておき、
遅くなったHalloweenの贈り物をこちらも貰うことにしよう。
「まあ、この話はいいよ。ハロウィンの話に戻ろう…というわけで、覇王 Trick or Treat」
「……俺が菓子を持っていると思うか?」
「持っているとは思ってないよ、勿論」
そっと逃がさないように捕まえて、唇を重ねても今度は抵抗されなかった。
ほんのり口の中にチョコの味がする。
それを味わいながら、
ほんの少し、いいのかなあとは思っていたのだけど、
「…好きに、しろ」
キスの合間に、はぁ、と熱い吐息をこぼしながら覇王がそう言うので遠慮なく続きをすることにする。
ちょっと遅いHalloweenのお菓子は、大変美味しかったです。
fin
10/11/03up
ハッピーハロウィンーうーうー!!お菓子をくれなきゃ悪戯するよーうーうー★
とかいうと妹に「そのうーうーというのをやめなさいッ!!」とかバシバシしてくれるれーかさん家です。
っていうか、もうハロウィン過ぎてるよハッハー!!
なんかこう、10月31日ハロウィン→11月2日死者の日(死者に祈りをささげる日)とか何それカッコイー!!
とか思ったので小難しい話ねじりこもうと思いましたがやめました。
実はジムがすでに死んでいてあの世に帰りそびれているのを覇王様が送りに来たとかそういう話だったらしいです。
途中で「おい、いちゃいちゃしろよ」という電波受信してばっさりカットしてすっきりしました。
らぶらぶはいいものです、ラブラブ万歳ー!!甘いのはいいものだーッ!!
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